著者
武居 渡 四日市 章 Takei Wataru Yokkaichi Akira
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.147-157, 1999-03

聾児の言語獲得に関する研究の多くは、音声言語に関するものであった。そこで、本研究では、音声言語だけでなく、手話言語の側面から聾児の言語獲得について文献的な資料をもとに考察した。その結果、手話言語環境にある聾児の手話言語獲得過程は、聴児の音声言語獲得過程ときわめて類似していることが示された。また、手指モダリティにも喃語が存在し、手指喃語が手話の初語表出の基礎となっていることも明らかになった。聴児において、音声喃語表出の直前に身体運動が観察され、それがモダリティを越えて音声喃語表出を促すことが報告されているが、聾児の手指喃語は、聴児にも見られる身体運動が、持続的に発展したものだと推測された。以上の結果から、聴児が音声言語を発達させるのと同じように、聾児は手話言語を発達させることが明らかになり、聾児の言語獲得を考える際、手話と音声言語の両方を考える必要性が示された。
著者
園山 繁樹 Sonoyama Shigeki
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.187-199, 2004-03

様々な行動問題を示したダウン症候群(モザイク型)の女性1名に対し、母親面接と本人面接において自己記録法を活用した援助アプローチを行った。対象者は18歳で、養護学校高等部3年時に急激退行といわれるような様々な行動問題を示した。行動問題は、昼夜逆転、入浴拒否、外出拒否など、様々な場面で生じていた。援助の結果、2年6ヶ月間の援助アプローチによって、退行以前の適応状態までは改善していないものの、主な行動問題の改善がもたらされた。対象者の生活史、不適応行動の変化、母親の変化、自己記録法の効果、今後の研究課題などについて考察した。そして、急激退行の改善には時間がかかること、様々な要因の検討が必要であること、援助アプローチに関する継続的な事例研究の必要性を指摘した。
著者
松岡 勝彦 野呂 文行
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.1-12, 2001-03

本研究では、2名の発達障害者(S1,S2)を対象に、援助行動の形成という文脈の中で、以前の被援助経験が対象者の反応にどのような影響を与えるのかについて検討した。研究1では、S1が作業中であるとき、常に援助してくれた他者(他者A)、あるいは援助をしてくれなかった他者(他者B)に対して、逆に他者が作業中であるときに、S1がどういう反応を示すかを測定し、他者Aを援助する反応が生起するための環境条件を検討した。その結果、2名の他者がS1の目前で同時に作業をしている条件においては、明確な援助要請がなくても、S1は他者Aを援助した。研究2では、2名の他者が同時に作業をしている条件においても、いわゆる位置への「こだわり」によって、援助する他者を選択していたS2を対象とした。そして、常にS2を援助してくれた他者Aを選択する反応が生起するために必要な訓練変数について検討した。その結果、S2に自分を援助してくれた人は誰であったかを尋ね、応答させることにより、このことは可能となった。
著者
佐々木 順二
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.1-16, 2005-03

大正期の和歌山県立盲唖学校において和歌山聾唖興業界が設立される経緯と理由を、学校支援組織が果たした役割、卒業後問題、初代校長辻本與次郎の教育理念との関係の観点から解明した。和歌山県立盲唖学校は、小学校教育の目的・内容を準用した教育と、障害に応じた職業教育を提供することで、生徒には、精神面での自発性、身体面での健康、そして社会生活を営むための常識と職業的技能の装備を期待した。しかし、学校の財政的基盤は脆弱であり、教育力不足、教員への過重負担、自校校舎の不在という教育的課題に直面していた。これらの教育的課題には、和歌山市周辺の有志による人的・財政的支援を受けた学校後援会及び新築期成同盟会が対処していった。この過程で、和歌山聾唖興業界が比較的裕福な家族を中心に設立されたが、同会は卒業生の就労困難と社会的孤立への対処を目指しており、聾唖者の自活と国民としての人格の向上という辻本の教育理念を反映するものであった。
著者
加藤 靖佳
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.227-235, 2001-03

本研究では、聾教育に多大な影響を与えた西川はま子(1916-1957)の発語について、講演録音された連続音声資料から単音節明瞭度、単語了解度および文章了解度を推定した。検査語音は、連続音声資料から単音節(40音節)、単語(50単語)、文(20文)をそれぞれ切り出した。デジタルソナグラフによって波形編集をおこない、ノイズ除去された後、デジタル録音された。評価者28名によって西川はま子の音声が評価され、その結果、単音節明瞭度は29.6%、単語了解度は42.1%、文章了解度は69.8%であることが推定され、特に母音発語明瞭度が高く、92.9%であった。西川はま子の発語の明瞭度、了解度はかなり高く、日常生活で音声言語を用いたコミュニケーションが十分可能であったことが示唆された。
著者
名川 勝 堀江 まゆみ 於保 真理 Nagawa Masaru Horie Mayumi Oho Mari
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究
巻号頁・発行日
vol.27, pp.135-146, 2003-03

知的障害者の地域生活において遭遇する消費生活トラブルについて、質問紙調査及び事例によって検討した。一地域の親の会を対象とした調査では、他の種類と比べて消費生活に関するトラブル報告数はかなり少なかった。そのため、トラブルの種類や被害対象者の特徴などについて示唆を得ることが出来なかった。事例調査では、支援者からの聞き取りにより27例を収集した。トラブルは生活形態、被害内容(額)、経緯、事態確認と本人の意識、行われた対処、他相談機関の有無などによって整理され、それぞれの項目に添って事例を検討した。また被害意識の持たれ方について、若干の事例を検討した。最後に今後の研究課題として、基礎資料の整備、セイフティネットの在り方、支援方法の検討などを指摘した。
著者
王 一令 鷲尾 純一 Wang Yi-Ling Washio Junichi
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.7-19, 2002-03
被引用文献数
1

本研究の目的は、日本語を母語とする聴覚障害児の韻律知覚能力を調べることである。そこで、2モーラ単語アクセントと2語文イントネーション(肯定/疑問)を用いて、弁別テストと識別テストを含む検査用バッテリを新たに開発した。これらの検査を東京都と千葉市にある小学校きこえの教室に通級する児童16名を対象に実施した。主な結果は、以下の通りである。1)アクセント、およびイントネーションの知覚能力と平均聴力レベルとの相関に関しては、中程度から高い負の相関(r=-0.494~-0.778)が認められた。平均聴力レベルが91dB以上(WHO の分類による最重度)であれば、アクセントとイントネーションの知覚は困難になることが示唆された。2)アクセント、およびイントネーションの知覚能力と語音明瞭度との相関に関しては、高い正の相関(r=0.694~0.966)が認められた。語音明瞭度が80%以上であれば、アクセントとイントネーションの知覚はより高いレベルになることが示唆された。
著者
武居渡 四日市 章
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
no.23, pp.147-157, 1999-03
被引用文献数
2

聾児の言語獲得に関する研究の多くは、音声言語に関するものであった。そこで、本研究では、音声言語だけでなく、手話言語の側面から聾児の言語獲得について文献的な資料をもとに考察した。その結果、手話言語環境にある聾児の手話言語獲得過程は、聴児の音声言語獲得過程ときわめて類似していることが示された。また、手指モダリティにも喃語が存在し、手指喃語が手話の初語表出の基礎となっていることも明らかになった。聴児において、音声喃語表出の直前に身体運動が観察され、それがモダリティを越えて音声喃語表出を促すことが報告されているが、聾児の手指喃語は、聴児にも見られる身体運動が、持続的に発展したものだと推測された。以上の結果から、聴児が音声言語を発達させるのと同じように、聾児は手話言語を発達させることが明らかになり、聾児の言語獲得を考える際、手話と音声言語の両方を考える必要性が示された。
著者
米田 宏樹
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
no.25, pp.211-225, 2001-03

米国では1920年代までに、コミュニティにおける精神薄弱者のケアと監督の必要性が、彼らの隔離収容を唱えていた精神薄弱者施設長たちによって主張されるようになる。本稿では、早くからコミュニティ生活支援策を施設運営に導入したマサチューセッツ州二番目の州立施設、レンサム精神薄弱者使節と施設長ウォリスを検討の対象として、ウォリスが隔離収容の理論と相反する精神薄弱者のコミュニティ生活を容認し、積極的な支援策をとるようになる理由と背景について検討した。レンサム施設を対象とした理由は、この施設が精神薄弱者の「総収容化」政策が破綻する時期に設立・展開された施設であり、当時の政策破綻状況を把握する上で適切な対象であると考えられたからである。ウォリスが打ち出した仮退所の試みは新たに始められたものではなく、家庭への一時復帰や就職にともなう家庭への退所という形で、マサチューセッツ州の二つの施設で以前から行われていたものであった。施設を精神薄弱者の単なる収容先とみなす州議会に対し施設の教育機能を強調するために、彼は施設での訓練後にコミュニティで自活可能になったケースへの支援策を前面に出し始めたのである。施設で全ての精神薄弱者を収容できないとコミュニティで認識されたとき、総合的な機能を持つ施設が精神薄弱者にとって最良であると考えていたウォリスは、保護収容の次善の策として、施設同様に精神薄弱者が好ましい社会的反応を表出できる環境を仮退所受け入れ先の家庭と近隣に整えることを考えた。
著者
名川 勝 堀江 まゆみ 於保 真理
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.135-146, 2003-03

知的障害者の地域生活において遭遇する消費生活トラブルについて、質問紙調査及び事例によって検討した。一地域の親の会を対象とした調査では、他の種類と比べて消費生活に関するトラブル報告数はかなり少なかった。そのため、トラブルの種類や被害対象者の特徴などについて示唆を得ることが出来なかった。事例調査では、支援者からの聞き取りにより27例を収集した。トラブルは生活形態、被害内容(額)、経緯、事態確認と本人の意識、行われた対処、他相談機関の有無などによって整理され、それぞれの項目に添って事例を検討した。また被害意識の持たれ方について、若干の事例を検討した。最後に今後の研究課題として、基礎資料の整備、セイフティネットの在り方、支援方法の検討などを指摘した。
著者
室谷 直子 前川 久男
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.51-59, 2005-03

本研究では、読み障害児においてワーキングメモリ(WM)と読みプロセスとの関連性を明らかにすることを目的とした。読み障害児10名、生活年齢対照群26名、読みレベル対照群20名にWM課題としてリーディングスパンテスト(RST)とリスニングスパンテスト(LST)、および5つの下位項目から成る読み検査を実施し、各々の相関係数を算出した。その結果、両対照群においては各々RSTとLSTとが有意な相関を示した項目はほぼ同じであったのに対し、読み障害児ではRSTは文理解と、LSTは推論と有意な相関を示した。このことから、健常児ではWM課題の実施手続きの違いが読みとの関係性にあまり影響しないのに対し、読み障害児では能動的な音読を伴う条件(RST)ではWMを介して統語的な処理が促進され、受動的な聞き事態(LST)ではWMを介して推論といった意味内容の統合・調整の関わる処理が促進される可能性が示唆された。
著者
中村 満紀男
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-17, 1998-03 (Released:2013-12-18)

世紀転換期に、婚姻制限よりも有効な要保護者の発生防止策として登場するのが、去勢と断種(精管切除術)である。まず去勢が、性犯罪・累犯に対する懲罰と抑止、精神薄弱者等の生殖防止と性的抑制を目的として全国的に医師により提起され、少数ながら実施される。しかし、提唱者以外賛成はなかった。H.シャープは、精管切除術を生殖防止を目的として初めて非行者に実施した。去勢論者と類似したその目的は、コミュニティの保護および社会改良、性行動の抑制等の心身の改善、コミュニティでの結婚と家庭の維持であった。精管切除術は、第二次性徴の喪失がなく、簡便で安全であるゆえに、支持層は医師や矯正事業中心から社会事業へ、男性のみから男女両性へ、全国的に拡大し、施行もされる。その拡大は、精管切除術の対象を精神薄弱者とし、精神薄弱者の種族と国家に対する脅威説の支持に対応していた。20世紀初頭のアメリカでは精管切除術に対しては、法手続き論と感情論以外に強い反対論はなかった。
著者
中村 満紀男
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.49-65, 2001-03

障害者の教育と生活は、諸科学の知見により規定される側面がある。歴史上、諸科学によりその生活と教育が最も翻弄されたのは精神薄弱の範疇に位置づけられた人々であった。本研究では、1910年代のアメリカ合衆国における優生学運動を発展させた諸科学のうち、自然科学的知見に依拠した新興諸科学であり、精神薄弱者の生活の在り方に関係した領域である社会学・社会事業、心理学、精神医学が提起した社会的不適論およびその典型としての精神薄弱の範疇化と優生学との関係について、その理由と動機、精神薄弱と対極にあった理想的人間像、社会的認識を中心に検討した。1910年代のアメリカの精神薄弱学説は基本的には家系説と社会的脅威論から構成されたが、生活実態としてはそれに反する事実が明示され始める時期であった。新興諸科学は、20世紀初頭には精神薄弱問題の社会的重要性を高めることに貢献したが、同時に、相互には共存・拮抗関係をもちつつ、科学としての自律性の確立と社会的認知を緊要な課題としてもいた。それゆえ、新しい技術を開発し、それを実地化して、各領域の社会的存在意義をアピールした。また、諸科学は、アメリカの国家としての国際的競争という社会的現実を意識して、それに勝利するためのアメリカ民主制社会の理想的市民像とそれを阻害する対極として精神薄弱を設定したのである。かくして精神薄弱は発生を防止されるべき存在となった。この時期に展開しはじめた新しい人間観や専門技術は普遍化されず、社会的効用の違いによって二元的に利用され、精神薄弱はその適用から除外されることになった。
著者
白澤 麻弓 斉藤 佐和
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.197-209, 2001-03

手話通訳に関する研究の多くは、通訳の結果、つまり手話の特徴や受け手の反応を研究対象としてきた。本研究では、手話通訳の過程に焦点をあて、音声同時通訳における研究と対比しながら、手話通訳中に行われている作業について文献的に考察した。この結果、手話通訳においても、言い換えや付加などの作業や、日本語から手話へ翻訳する際の処理単位の違いといった音声同時通訳に類似した特徴が指摘され、同様の手法を用いて研究ができることが推察された。しかしながら、日本語対応手話の存在や空間モダリティーの活用といった手話独自の特徴については未だ十分な研究が行われておらず、こうした特徴を視野に入れた研究の必要性が示唆された。