著者
中塚 武 阿部 理
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

年輪に含まれるセルロースの酸素同位体比が、樹種の違いに依らず、降水同位体比と相対湿度と言う2つの気象因子のみに支配されて変化することに着目し、日本全国の多様な樹種からなる考古木質遺物の年輪年代決定に利用できる普遍的な年輪セルロース酸素同位体比の標準変動曲線を、過去数千年間に亘って日本各地で作成した。そのために、全国から得られた縄文時代以来のさまざまな年代の長樹齢の年輪試料(自然埋没木、考古木質遺物、古建築物、現生木などのさまざまな檜や杉の木材)の年輪セルロース酸素同位体比を測定すると共に、その成果を縄文時代以降の東海、北陸、近畿などのさまざまな地域の考古遺跡の年代決定に利用することに成功した。
著者
細谷 葵 佐藤 洋一郎 槙林 啓介 田中 克典 石川 隆二 趙 志軍 楊 春 DORIAN Qfuller MICHELE Wollstonecroft
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

昨今再考がうながされている、中国におけるイネの栽培化とそれに基づく農耕社会の形成過程について、考古学(植物遺存体・人工遺物)と遺伝学の共同研究による解明をめざした。イネ栽培化期における野生植物利用の実態解明、農耕具・加工具の体系化、栽培イネの伝播経路について新しい見解を得ることができ、複数の英語・日本語論文や国際学会で発表した。また、国際シンポジウム2件(1件は共催)を開催し、国際的な研究者の意見・情報交換の場を提供するとともに、その成果の出版も行った。
著者
福士 由紀
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、1950年代から70年代における中国における日本住血吸虫症対策に関する歴史資料の分析およびインタビュー調査などを通して、現代中国における農村医療・衛生事業の歴史的展開を実証的に把握することを目的とするものである。本研究では、(1)中国農村医療制度の歴史的展開と雲南省におけるその実態の把握,(2)中国農村医療システムの同時代における国際的評価の変遷、(3)雲南省における日本住血吸虫症対策の実態について検討した。
著者
田中 樹 真常 仁志 三浦 励一
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

西アフリカの砂漠化地域において、「危機の年」と対処行動の特定、在来の情報技術伝播経路の解明、対処技術の開発を行なった。その技術は、風食抑制と収量向上を可能とする「耕地内休閑システム」、生計向上と水食抑制に有効な「ザイ+アンドロボゴン草列」および従来の普及法の大幅な改善と社会的弱者層の可視化を可能とする「社会ネットワーク手法を用いる技術普及法」である。一部の技術は、ニジェール国内で普及段階に至った。
著者
蔡 国喜
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

疫学調査により、中国雲南省国境地域における女性セックスワーカーの経済-社会人口学属性、エイズ・性感染症に関する知識、態度、sex behaviorの現状、及びHIV/AIDS,gonorrhea, syphilis, Chlamydiaの有病率及びリスクファクター等を明らかにした。この結果は日本のエイズ・性病感染症の予防策、研究方法に以下の提示ができる:1、感染症予防のためにhard-to-reach-populationに対する有効なapproach方法Respondent Driven Sampling(RDS)方法の実用方法と有効性を提示;2、東南アジア国境地域のhigh-risk-population及び流動人口に対する感染症予防の健康教育や介入が不足しているため、このpopulationがリスク行為を行いやすく、エイズ・性病などの感染症を感染される・させるリスクが高い、これはこれから経済活力で注目される東南アジア・メコン流域において、国際保健(国の壁を越えて感染症連携)の重要性を提示する。
著者
白岩 孝行 的場 澄人 山縣 耕太郎 杉山 慎 飯塚 芳徳 YOSHIKAWA Kenji 佐々木 央岳 福田 武博 對馬 あかね
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

北部北太平で知られている気候レジームシフトと生物基礎生産量変動との関係について調べるために、アラスカ山脈オーロラピーク近傍に発達する氷河において氷コアを採取し、鉄濃度の分析を行った。その結果、10年間の平均鉄沈着量は8.8mg m^<-2>・yr^<-1>で、2001年2002年は、それぞれ、29、19mg m^<-2>・yr^<-1>だった。30m深の海洋表面混合層への鉄の供給は、10年間の平均値では、植物プランクトンを増殖させるほどの影響がないが、2001年、2002年の大規模黄砂時には影響を与えうることが推測された。
著者
白岩 孝行 中塚 武 立花 義裕 山縣 耕太郎 的場 澄人
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

ランゲル山のコアについて、表層から深度100mまでの解析・分析を実施した。内容は、水素同位体比(0-50m)、主要イオン(0-50m)、ダスト濃度(0-80m)、X線精密密度(0-100m)、トリチウム(0-50m)である。微量金属濃度については、ローガン山のコアについて測定した。以下、上記の解析・分析から明らかになったことを箇条書きでまとめる;1.ランゲル山コアの0-50mの深度では、水素同位体比、ダスト濃度、トリチウム濃度に明瞭な季節変動が見出された。濃度のピークは水素同位体比が夏、ダスト濃度とトリチウムが春と判断された。2.ランゲル山のX線精密密度の深度方向への偏差値は、水素同位体比の変動と良く一致し、水素同位体比の重いピークに偏差の小さいピークが重なる。このことは、春から夏にかけて生じる間欠的な降雪が密度変動を大きくしていると考えられ、密度のような物理シグナルでも季節変動を記録していることが明らかとなった。3.ランゲル山コアのダスト濃度は春に高く、その他の季節に低い季節変動を示す。ダストフラックスは2000年以降増加傾向にあり、これは日本で観測された黄砂現象の増加傾向と一致する。4.ランゲル山コアのトリチウム濃度は明瞭な季節変動を示し、濃度のピークが晩春に現れる。この変動は対流圏と成層圏の物質交換に起因すると考えられ、春の低気圧性擾乱の指標になる可能性が見出された。5.ランゲル山のNaの年フラックスは冬のPDOインデックスと良い相関があり、長周期気候振動の指標となることが示された。6.微量金属分析はローガンコアの1980-2000年にかけて実施された。年間の鉄フラックスは数μg/平方mから80μg/平方m程度で変動しており、その原因として黄砂と火山噴出物があることが示された。7.ローガン山と北部北太平洋の西側に位置するウシュコフスキー山の両方で得られコアの涵養速度を比較したところ、逆相関の関係が認められ、これがPDOと連動していることが明らかとなった。
著者
谷田貝 亜紀代
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

乾燥地域の水資源への温暖化の影響を評価することは、重要な課題となっている。乾燥地域の水資源は近接する(流域の)山岳地域への降水が重要な役割を占める。そのため、対象地域には物理モデルによるダウンスケーリングだけでなく、山岳地域への降水を適切に評価した上で、統計的なダウンスケーリング手法を適用することが、期待される。そこで本研究は、山岳降水を衛星データを利用して評価し、統計的な手法により温暖化影響のダウンスケーリングを行うことを目的としている。対象地域は中国北部とトルコの乾燥地域である。平成17年度は、平成16年度に作成した、山岳の効果(山の上の方で雨が多く降るなど)を考慮した日降水グリッドデータを用いて、ダウンスケーリング手法を開発した。衛星データについては、熱帯降雨観測衛星(TRMM)と、NOAA/CPCで作成されたCMORPHという、マイクロ波による推定降水量と静止気象衛星による雲風ベクトルを組み合わせて算出される降水量データセットを利用した。TRMM/PRデータは雨量計データから作成されたデータセットに対し、強い雨に対して系統的な誤差がみられることがわかった。また、GPCP1DDなど他のいくつかの衛星による降水プロダクトと比較してCMORPHの降水量や、TRMM3B42プロダクト(マイクロ波TMIとSSMIによる)は量的にも経年変動の点でもよい見積もりを示していることがわかった。これらのことから、ECMWFによる1.125度解像度の客観解析データと、TRMM/PRおよびCMORPH降水量により、対象地域についての、水蒸気輸送場・大気循環場と降水分布について比較研究を行った。また気象庁気象研究所の温暖化実験結果と本研究により作成されたデータセットやこれら衛星データを比較することにより、ダウンスケーリング手法を開発した。
著者
中尾 正義 CHENG. Z. CHENG Z
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度は、主に清代の古文書を中心に研究してきた。満洲語や漢語の古文書により、清代全国に行われた国家規模な雪、雨、穀物の価格などの報告システムが明らかになった。それはこれまでの予想以上に、完全な文書システムによって広大な帝国領域を支配するために不可欠な手段であった。とくにこの研究を通して雨量の測定に関する具体的な文書が発見し、これまで朝鮮で発見された「測雨器」をもって雨を測量したという論説を根底から否定することになった。当時、雨に関する具体的な測量方法は、基本的に測量具を用いず、雨が降ったあと、地方の役人が地面を掘って、そのしみこんだ土を測り、寸、分という単位で記録して、中央政府に報告するという事実が明らかになった。時代が変わってもこのようなシステムが現在にいたるまで受け継がれ、測量器具や観察方法が進歩してきたと思われる現代にとって、清代という一つ前の時代にもこのような制度や見方が存在していたことから、当時の社会や自然に対する人間の営みが見えてきた。現在、これまで見つかった資料を中心に、歴史的な観点から自然環境と人間活動の相互作用に関する論文を鋭意執筆中である。
著者
早坂 忠裕 河本 和明 谷田貝 亜紀代 久芳 奈遠美
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、主に衛星データを用いて、低層雲を対象に、その雲量、光学的厚さ、鉛直積算雲水量、雲粒有効半径の日変化の実態を明らかにし、変化のメカニズムを解明した。まず、静止衛星GOESデータを用いて雲特性の日変化を調べた。1997年7月のGOESデータに前述の雲解析手法(太陽反射法)を適用し、カリフォルニア沖の雲の様子を解析した。その結果、雲の光学的厚さは午前中から正午にかけて減少、その後夕方にかけて増加すること、一方雲粒有効半径は逆に午前中から正午にかけて増加、その後夕方にかけて減少することがわかった。雲の光学的厚さの日変化は一日の中で日射量の変化による大気加熱の時間変化などの要因に依るものと考えられる。また雲粒有効半径の日変化は粒子が時間とともに成長し、大きな粒子が重力沈降で落下し雲1頂付近には比較的小さな粒子が存在することも考えられる。また蒸発などの熱力学過程や衝突併合などの微物理過程など複雑な機構が関与しているであろう。太陽反射法では近赤外チャンネルによる水の吸収率の関係から雲頂付近の様子を見ているため、このような現象を捉えている可能性が示唆される。次に、NOAA/AVHRRデータを用いて、衛星の赤道通過時刻のずれを利用して日変化を調べた。全球平均した雲粒有効半径の変化は、昼から夕方になるにつれて海陸ともに粒径が小さくなっていることがわかった。この傾向は前節で述べたGOESデータを用いたカリフォルニア沖の雲の解析例とも一致する結果である。雲の日変化の地上観測については同じくカリフォルニア西部において行われた例があり、この研究では地上からマイクロ波放射計と日射計を用いて雲の光学的厚さと雲粒有効半径を推定しており、午後から夕方にかけて雲粒有効半径が徐々に減少していることがわかった。これも本研究と整合性のある結果である。