著者
山縣 耕太郎 町田 洋 新井 房夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.195-207, 1989-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
22
被引用文献数
4 4

北海道南部の函館付近には後期更新世に噴出したと考えられる数枚のテフラ層が分布し,別個のテフラ層として銭亀沢火砕流堆積物・女那川火山灰という名称が与えられていた.本稿は従来明らかでなかったこれらのテフラの対比を行なうとともに給源火山,分布,層序を解明することを目的とした. まず層序,岩石記載的性質を調べた結果,上記の名称をもつテフラは,同一の給源火山から降下軽石の噴出に始まり火砕流の噴出で終わる一連の噴火によって堆積したことがわかった.この一連のテフラを銭亀一女那川テフラ(Z-M)と呼ぶ.このテフラ層の岩石記載的性質は垂直方向に顕著な変化を示す.これは分帯構造をもつマグマ溜りが存在していたことを示唆し,かつテフラの同定に役立った.次にその給源火口は,降下軽石と火砕流堆積物の層厚・粒径分布をもとに,函館東方の津軽海峡浅海底にある火口状凹地と推定された.またZ-Mのうち降下テフラは亀田半島から日高,十勝まで分布することがわかった.Z-Mテフラの噴出年代は,既存の14C年代やテフラと河成段丘堆積物の層位関係などから総合して, 3.3万年前と 4.5万年前との間と考えられる.
著者
長谷川 裕彦 高橋 伸幸 山縣 耕太郎 水野 一晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

ボリビアアンデス,チャルキニ峰西カールにおいて地形調査を実施した。その結果,先行研究により明らかにされていたM1~M10の小氷期堆石の分布を追認し,M10以降に形成されたM11・M12・M13の分布を確認した。M13の形成期は,構成層の特徴などから1980年代の初頭であると考えられる。
著者
長谷川 裕彦 山縣 耕太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

ボリビアアンデス,チャルキニ峰(5392m)西カールに分布する小氷期堆石群は,構成物質の特徴,堆積構造,微地形等の観察結果から,その大部分がプッシュモレーンとして形成されたことが明らかとなった。
著者
山縣 耕太郎 長谷川 裕彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

本研究では,ボリビアアンデス,チャルキニ峰において,完新世以降の温暖化に伴い縮小した氷河前面における土壌の生成過程を検討する.氷河前面では,氷河から解放された時点から土壌の生成が開始する.このため異なる時代に解放された地点の土壌を比較することによって,土壌の発達過程を検討することができる.また,土壌は,その生成過程において,気候ばかりではなく,地形や地質,植生,水分条件など,様々な環境因子の影響を受ける.こうした地表面環境と土壌発達過程の関係について検討する.<br> チャルキニ峰(5392m)は,東コルディレラ山系レアル山脈の南部に位置し,山頂周辺には5つの小規模な氷河とカール地形が確認される.このうち,西カールを調査対象地とした.調査地域の年降水量は800~1000mmで,植生は,高山草原から高山荒原となっている. 西カールは,長さ約5㎞,幅約3㎞の広がりを持ち,カール底には,複数列のモレーン群が発達している.これらのモレーンは,完新世初頭のモレーン(OM),小氷期のモレーン(M1~M10)および,1980年代初頭に形成されたモレーン(M11)に区分される(Rabatel&nbsp;<i>et.al.</i><i>,</i>2005;長谷川ほか,2013).&nbsp;<br> チャルキニ峰西氷河の前面において,地形単位ごとにピットを作成して,土壌断面の観察を行った.モレーン間の平坦部分は,地表面の形態と構成物から,さらに氷河底ティル堆積面,氷河上ティル堆積面,氷河底流路,氷河前面アウトウォッシュに区分し,各地形単位毎に断面を観察した.&nbsp;<br>その結果,ほぼ同じ時代に形成されたと考えられる隣接した地形単位間でも土壌発達の違いが認められた.特に,凸状の部分に比べて,凹状の部分で土壌の発達が良い.その要因として,凸状地においては,より物質移動が活発で浸食が生じていることが考えられる.浸食作用としては,霜柱の影響が大きいようである.また,リャマおよびアルパカの放牧も影響していると予想される.一方で凹部では,物質移動で細粒物が集積して土壌の成長が進んでいるものと思われる.<br> 各地形単位について,異なる時代に形成された地点の土壌断面を比較すると,完新世初頭に形成された地点と小氷期の地点の間では明瞭な土壌層厚の違いが認められる.小氷期モレーンの中でも,モレーン間の平坦部では,時代とともに土壌層厚が厚くなる傾向が認められた.一方で,ターミナルモレーンの頂部ではこうした傾向が認められない.これは,先述したように凸部では侵食の影響が大きいからであろう.
著者
白岩 孝行 的場 澄人 山縣 耕太郎 杉山 慎 飯塚 芳徳 YOSHIKAWA Kenji 佐々木 央岳 福田 武博 對馬 あかね
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

北部北太平で知られている気候レジームシフトと生物基礎生産量変動との関係について調べるために、アラスカ山脈オーロラピーク近傍に発達する氷河において氷コアを採取し、鉄濃度の分析を行った。その結果、10年間の平均鉄沈着量は8.8mg m^<-2>・yr^<-1>で、2001年2002年は、それぞれ、29、19mg m^<-2>・yr^<-1>だった。30m深の海洋表面混合層への鉄の供給は、10年間の平均値では、植物プランクトンを増殖させるほどの影響がないが、2001年、2002年の大規模黄砂時には影響を与えうることが推測された。
著者
白岩 孝行 中塚 武 立花 義裕 山縣 耕太郎 的場 澄人
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

ランゲル山のコアについて、表層から深度100mまでの解析・分析を実施した。内容は、水素同位体比(0-50m)、主要イオン(0-50m)、ダスト濃度(0-80m)、X線精密密度(0-100m)、トリチウム(0-50m)である。微量金属濃度については、ローガン山のコアについて測定した。以下、上記の解析・分析から明らかになったことを箇条書きでまとめる;1.ランゲル山コアの0-50mの深度では、水素同位体比、ダスト濃度、トリチウム濃度に明瞭な季節変動が見出された。濃度のピークは水素同位体比が夏、ダスト濃度とトリチウムが春と判断された。2.ランゲル山のX線精密密度の深度方向への偏差値は、水素同位体比の変動と良く一致し、水素同位体比の重いピークに偏差の小さいピークが重なる。このことは、春から夏にかけて生じる間欠的な降雪が密度変動を大きくしていると考えられ、密度のような物理シグナルでも季節変動を記録していることが明らかとなった。3.ランゲル山コアのダスト濃度は春に高く、その他の季節に低い季節変動を示す。ダストフラックスは2000年以降増加傾向にあり、これは日本で観測された黄砂現象の増加傾向と一致する。4.ランゲル山コアのトリチウム濃度は明瞭な季節変動を示し、濃度のピークが晩春に現れる。この変動は対流圏と成層圏の物質交換に起因すると考えられ、春の低気圧性擾乱の指標になる可能性が見出された。5.ランゲル山のNaの年フラックスは冬のPDOインデックスと良い相関があり、長周期気候振動の指標となることが示された。6.微量金属分析はローガンコアの1980-2000年にかけて実施された。年間の鉄フラックスは数μg/平方mから80μg/平方m程度で変動しており、その原因として黄砂と火山噴出物があることが示された。7.ローガン山と北部北太平洋の西側に位置するウシュコフスキー山の両方で得られコアの涵養速度を比較したところ、逆相関の関係が認められ、これがPDOと連動していることが明らかとなった。
著者
山崎 晴雄 長岡 信治 山縣 耕太郎 須貝 清秀 植木 岳雪 水野 清秀
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

鮮新・更新世に噴出した火山灰層の対比・編年を通じて、日本各地の後期新生代堆積盆地の層序・編年を行った。これを利用して、関東平野や北陸地域、宮崎平野などの古地理変遷を明らかにした。また、洞爺火山や浅間火山などの活動史や地形変化を示した。これらにより以下の成果を得た。1.中央日本(大阪〜関東)において1.3Maの敷戸-イエロ-1テフラの存在確認を初めとして、4〜1Ma(百万年)の間に少なくとも12枚の広域指標テフラの層序及び分布を明らかにした。これにより、10〜50万年ほどの間隔で時間指標が設定でき、本州に分布する鮮新・更新世盆地堆積物編年の時間分解能や対比精度が著しく向上した。2.本研究で発見した坂井火山灰層(4.1Ma)は現在日本で知られている最古の広域テフラである。アルカリ岩質の細粒ガラス質火山灰で、その岩石記載学的特徴から同定対比が比較的容易であり、今後、日本列島の古環境復元に活用できる重要な指標テフラとなろう。3.関東平野の地下についてボーリングコア中の火山灰と房総半島や多摩丘陵に分布する火山灰の対比が進み、平野の地下構造、深谷断層-綾瀬川断層の活動史、テフラ降下時の古地理などが判明した。4.関東平野の地下構造とテフラ編年から、この地域の活断層の一部は15Maの日本海開裂時に形成された古い基盤構造が、1Ma以降の前〜中期更新世頃に新しい応力場で再活動を始めたものであることが明らかになった。5.北海道各地のテフラ情報が集積され、洞爺火山の活動史などが明らかになった。6.九州の火山活動史がとりまとめられると共に、テフラを用いて宮崎平野の地質層序、地形面の編年が詳細に調査され、鮮新・更新統の層序が明らかになった。7.テフラを利用して浅間火山の更新世活動史、泥流流下機構、周辺の地形発達との関係が明らかになった。8.本研究で改良した広域テフラを用いた地層の編年・対比技術はエチオピアの人類遺跡の調査・研究にも活用された。