著者
平井 知香子
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.91-109, 2013-03

ジョルジュ・サンドはイタリアの修道院を舞台にした作品『スピリディオン』の後、再びヴェネツィアから物語が始まる『コンシュエロ』とその続編『ルードルシュタット伯爵夫人』を書いた。これらは、いずれも神秘主義的傾向があり、幻想文学の影響を強く受けた作品である。その上ヴェネツィア出身のピラネージの≪カルチェリ=幻想の牢獄≫のイメージが物語の重要な場面に用いられている。深夜、主人公は螺旋階段を下って、閉鎖的な広大な空間をさまよう。オロール版『コンシュエロ』にはピラネージの挿絵が2か所にわたって使用されている。『ルードルシュタット伯爵夫人』にも同様に梯子を下る場面がある。少女時代から魅せられていたピラネージ幻想を使って描かれた場面は、神とサタンの和解を物語り、それはサンドの「レリヤの悩み」(精神と肉体の葛藤)の解決へと導かれる。
著者
田村 直樹
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.285-303, 2013-03

本稿では、非営利組織が地域ブランドを確立するための戦略的提携として、地域メディアの捉え方について検討する。従来のマーケティング研究では、即物的な利己的発想をベースとしたパートナーシップとして捉えられる しかし、本稿では、そういった利己的発想のパートナーシップのフレームでは捉えきれない戦略的提携の可能性を探りたいと考えている。本稿の構成は次の通りである。II節では、代表的な先行研究を取り上げて従来のマーケティング論による戦略的提携のフレームを確認する。III節では、先行研究のフレームでは捉えきれないと思われる事例を検討する。IV節では事例についての考察を行い、地域ブランドの確立には「交換概念」だけではなく「関係性概念」を取り入れた議論の必要性を示唆する。結論として、本事例を成功に導いた決定的なポイントは、消費者間のコミュニケーションを活発にするような話題性(質)と消費者との接点数(量)のシナジー効果が発揮されたことを明らかにする。
著者
久保田 美佳
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.71-87, 2016-03

視覚動詞 look/see、「みる」/「みえる」には、物理的に視覚で知覚する意味と、心理的なイメージを伴う心的に知覚する意味の両方があるが、本稿では、主に物理的な視覚による知覚について認知言語学的に比較・分析する。一般的には look at が「みる」、see が「みえる」であると考えられているが、これら日英の視覚動詞のそれぞれが独自の意味範疇を有し、このような単純な対訳では不十分であると思われる。このことを考察するために、これまで意味特定の基準として広く用いられて来た「動作主の有無」の妥当性を問うとともに、生態学および認知科学的な視覚情報の処理プロセスに関する知見を基に look/see、「みる」/「みえる」によって喚起される概念や機能の顕在化または希薄化の傾向を示し、言葉自体の意味が文脈によって変化する可能性を検討する。
著者
高屋敷 真人
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.21-41, 2012-09

中上健次(1946-1992)は、自己形成において他者との同一化と自己同一化を廻る自己矛盾を感じ、それが自らの書くという行為の永続化の要因であると感じていた。書くという行為においては相反するものが同時に存在し複雑に絡み合いながら反復し続けることを「無間地獄」と名付け、敢えてそれを志向するために書くのだと宣言した。本稿では、中上健次が考えた、このような終わりのない「永続化する二項対立構造」と宮沢賢治(1896-1933)の「四次元芸術」の創作術、すなわち、唯一の決定稿を持ちえない今ここにしかない決定の連続の中で行う創作行為を比較し、賢治が「第四次元」の時間軸に沿って常に移動変遷していく世界から物事のすべてを眺め自覚的に確立したものと、中上健次が相対するものとは対立の果てに和合するのではなく、反復しながら永遠に終わりを引き伸ばすものであると考えたこととの相似について検討する。
著者
藤田 弘之
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.105-121, 2014-03

本論文は、生徒指導にあたって、不可欠な場合に、児童生徒を統御あるいは抑制するために、必要な限りで教師が体罰とは異なる適正な物理力を行使できること、またその行使のあり方について、イギリスにおける問題を考察しつつ明らかにしようとするものである。イギリスにおいては、1986年第2教育法によって体罰が禁止されたが、その過程で、やむを得ない場合における教師の合理的な有形力の行使を認めた。この有形力の行使については、その後行使の形態やあり方について明確化、詳細化され今日に至っている。我が国においても体罰関係の裁判の判例、また文部科学省の通達において、こうした有形力の行使について言及されてはいるが、その内容やあり方については不明確であり、具体的ではない。本稿ではこうしたことを踏まえて、児童生徒への他の懲戒のあり方の検討とともに、こうした有形力行使のあり方について明確化、具体化すべきことを指摘した。
著者
日木 くるみ 田村 知子
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.57-76, 2007-09

本稿の目的は、「人に物を渡すとき」に使用できる4表現(Here you are / Here you go / There you are / There you go)の機能を明らかにすることである。 4表現の機能は、here / there で表される「促し(start)/ 達成(goal)」対立と、are / go で表される「状態(state)/ 行為(action)」対立の組み合わせによって、規則的に生み出される。 その結果、4表現はそれぞれ以下のような機能を持つ。Here you are 「you が"ready"な状態になるように、話者が you を促す」Here you go 「you が次の行為をするように、話者が you を促す」There you are 「you が話者の期待する状態に達したことを、話者が表明する」There you go 「you が話者の期待する行為を遂げたことを、話者が表明する」 この考え方に基づけば、映画から集めた実例を説明できるだけでなく、なぜ4表現がいずれも「人に物を渡すとき」に使用できるのか、などの疑問に対しても説明を与えることができる。 本稿では、4表現の機能に関する考察を通じて、イディオムと呼ばれるものの中にも、個々の語彙の意味を組み合わせて説明できる表現があり得ることを示唆した。
著者
Kenney E.R
出版者
関西外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

"針聞書"は大阪地域に住んでいた医師によって作成された1568年の日付の日本の原稿です。 原稿には、それぞれ独自の名前を持つ63個の虫の絵が含まれています。 これらのワームは人体に住んでいて寄生虫のようです。 しかし、ワームの名前は空想的であり、ほとんどの名前は他の医学書には載っていません。 63の虫のそれぞれについて、患者の症状と病気の治療法についての簡単な説明があります。"針聞書"について真剣に研究した外国人研究者は他にいません。 私の研究の第一段階は"針聞書"を翻訳することです。 さらなる研究には、"針聞書"と同様の期間の他の日本の医学書との関係の調査が含まれます。
著者
安川 慶治
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.207-225, 2008-09

エズラ・パウンドは、1910年代のイギリスに自由詩の革新を謳うイマジズム運動を展開し、また後には独特のスタイルで長大な叙事詩『詩篇』The Cantos を綴ったことで知られるアメリカの詩人である。彼はまた、1933年にムッソリーニと面会し、イタリア・ファシズムを新しい時代の可能性ととらえ、その協力者とみなされる立場を取ったことでも知られる。第2次世界大戦後、パウンドはアメリカで13年間にわたって精神病院に拘禁されるが、その拘禁中に彼は、日本の能の形式での上演を夢見て、ソポクレスの悲劇『トラキスの女たち』を翻案・翻訳した作品を残した。自作への懐疑にとらわれ、ついに沈黙へといたる戦後のパウンドは『トラキスの女たち』に何を託したのか。本稿はパウンド版『トラキスの女たち』に、パウンドが自分自身の「悲劇」とどう向き合おうとしたのか、それを知る手掛かりを求める試みである。
著者
藤田 弘之 Hiroyuki Fujita
出版者
関西外国語大学
雑誌
人権を考える = Thinking about human rights : 関西外国語大学人権教育思想研究所紀要 (ISSN:2189177X)
巻号頁・発行日
no.23, pp.41-66, 2020-03

我が国において、いわゆる教師の不祥事は教育に関わる大きな問題の1つである。教師の不祥事は正確には、教師による不法行為、あるいは服務義務違反を指している。こうした行為が行われた場合、任命権者により懲戒処分がなされ、最も重い場合は免職処分が課される。懲戒免職処分を受けた教師の免許状は失効し、教師を続け、または教師になることができない。しかし、3年を経過すると、免許状を再取得でき、再び教職に復帰することも可能になる。イギリス、特にイングランドの場合、教師が不法行為を行った場合は、任命権者により懲戒処分が行われるが、重大な不法行為の場合は、教育省の執行機関である教職規制機構(Teaching Regulation Agency)に通告され、必要と認めた場合は審査会により教職禁止命令が決定され教育大臣に勧告される。本稿は、現在イングランドにおいて、この教職規制機構が、教師の不法行為についてどのような権限に基づき、どのような対応措置をとっているかに関して明らかにするとともに、この機構が取り扱った事案を分析し、教師がどのような不法行為を行い、それがどう対処したのかについて明らかにした。
著者
大川 英明
出版者
関西外国語大学
雑誌
関西外国語大学留学生別科日本語教育論集 (ISSN:24324574)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.37-70, 2011

本稿では大川(2008)に続き、日本語教師のための日本事情の知識のうち、日本の歴史、経済・財政、法律、政治・行政にかかわる情報を扱う。まず、これらの領域に関する基本的な情報をまとめ、次に日本語の教科書でこれらの情報を扱う例を調査し、分析を加える。社会科学の話題を扱う日本語教科書を分析すると、ここで扱う社会科学的な領域のうち、経済・金融や政治・行政が扱われる場合が多く、また歴史の話題はある程度扱われているが、法律関係の話題は少ないことがわかった。また、扱われている内容を分析すると、一時的な事象をニュース的に扱う内容、包括的・総合的に扱う内容、個別的な問題を扱う内容、啓蒙的内容、専門的内容、等、いくつかのカテゴリーがあることを示した。最後に教科書で扱われている話題の具体例をまとめた。
著者
渡嘉敷 恭子
出版者
関西外国語大学
雑誌
関西外国語大学留学生別科日本語教育論集
巻号頁・発行日
vol.16, pp.47-60, 2006

多くの日本語教師が文法書やテキストの文法説明に違和感を持った経験があるのではないだろうか。実際に日本語教育の文法説明と日本語の母語話者の認識との間にずれがあることも多い。本稿ではその一例として自動詞使役の被使役者を示す助詞の選択に焦点を当てた。(1) 文法書、テキストでの文法説明について調査してみると、「を」をとるとしか説明していないもの、「を」または「に」をとり、その意味の違いについて説明がないもの、自動詞使役では「を」または「に」をとり、「を」の場合は被使役者の意思に関わらず被使役者がその行為を行い、「に」の場合は被使役者の意思が尊重されて行為が行われるという解釈のものと、大きく分けて三種類の説明があることがわかった。日本語の母語話者を対象に行ったアンケート調査の結果、「に」と「を」の持つ「強制」「許容」のニュアンスの違いについて認識し、使い分けている日本語母語話者は少なく、助詞が重複しないように感覚的に助詞を選択していることがわかった。