著者
三澤 江里子 田中 美順 阿部 文明 山内 恒治 齊藤 万里江 鍋島 かずみ
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.141-145, 2019 (Released:2019-08-22)
参考文献数
13

アロエベラ葉肉から機能性成分として同定した植物ステロール類 (以下, アロエステロール) について, 生体の恒常性維持に重要な役割を果たす皮膚機能に着目し, 経口摂取による効果を検討した。ヒト皮膚由来線維芽細胞をアロエステロール存在下で培養する in vitro 試験により, コラーゲンとヒアルロン酸の合成と産生が促進されることを明らかにした。また, in vivo での検討において, 紫外線による皮膚の水分量や弾力の低下が予防され, コラーゲン量の低下とマトリックスメタロプロテアーゼ (MMP) 過剰産生が抑制されたことから, ヒトでの効果を検証するため無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を行った。その結果, アロエステロール含有食品の12週間摂取が, 皮膚の保湿力を高めて肌の潤いを保つとともに, 真皮コラーゲンを増やして皮膚弾力性を維持することを確認した。細胞からヒトまでの試験結果から, アロエステロールが皮膚の健康の維持, 増進に役立つ機能性食品素材として有用であることが明らかとなった。
著者
佐藤 隆一郎
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.279-285, 2013 (Released:2013-12-20)
参考文献数
37

脂質代謝異常に起因すると考えられる生活習慣病の予防, 改善に寄与する食品成分の探索を行った。脂質代謝制御において重要な働きをする生体内機能分子を定め, これら分子の機能, 活性を変動させ得る食品成分を, 分子細胞生物学的手法を駆使して樹立した評価系を用いて評価した。その際に機能分子として, 核内受容体, 転写因子, 受容体を設定し解析を行った。また, 入手可能な市販食品由来化合物を多数集めた食品成分ライブラリーを構築し, これらの活性を追跡した。結果として, 機能性食品化合物の作用点が標的分子を介したことを明確にする特徴を持つ。筆者らが見いだした機能性食品成分を列挙して解説した。
著者
金子 一郎
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.3-7, 2020 (Released:2020-02-17)
参考文献数
18

これまで謎のベールに包まれていたリン代謝調節系は, その詳細が解明されるにつれ, 寿命や加齢に関して非常に重要な役割を演じていることが明らかにされた。特に老化抑制遺伝子Klothoの研究により, 「リンが老化を加速する」という概念が確立され, 線維芽細胞増殖因子 (FGF23) /Klotho/ビタミンD調節シグナルを介したリン代謝異常と各種疾患との関連が重要視されている。本研究では, 遺伝子改変動物や培養細胞を用いた基礎研究からFGF23/Klotho/ビタミンD調節シグナルが成長期から加齢におけるミネラル代謝の中核として機能していることを明らかにした。これらの研究成果は, 各種慢性疾患におけるビタミンDの栄養状態を維持することが老化を制御している可能性も示唆している。さらに, 現代高齢化社会で問題となる慢性腎臓病重症化予防や脳機能障害改善におけるリン・ビタミンD代謝を介する老化抑制機構の解明は, 栄養学的アプローチを可能とするために, より一層の健康長寿への応用が期待できるものと予想された。
著者
堀尾 文彦
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.267-274, 2018 (Released:2018-12-17)
参考文献数
32
被引用文献数
1

糖・脂質代謝異常症の原因遺伝子の同定と, 発症抑制する食事因子の探求とを目的とした。遺伝因子に関しては, マウス SMXA 組換え近交系統の中に高脂肪食誘発性2型糖尿病と脂肪肝を呈する SMXA5 系統を見出した。SMXA5 の原因遺伝子を同定するために高脂肪食摂取下で遺伝解析を行って, 糖尿病遺伝子座を第2番染色体に, 脂肪肝遺伝子座を第12番染色体に検出することに成功した。これらの遺伝子座を含む染色体部分置換マウスを作出して原因遺伝子の染色体上の存在領域を限局して, 糖尿病遺伝子については4つの候補遺伝子を, 脂肪肝遺伝子については1つの候補遺伝子を選抜した。食餌因子に関しては, コーヒー, 植物性タンパク質, キノコ由来ペプチドなどの糖尿病の発症抑制効果を見出した。コーヒーは, 2型糖尿病でのインスリン抵抗性を改善させて高血糖の発症を抑制すること, また膵臓β細胞の保護作用により1型糖尿病も抑制することを見出した。これらの成果は糖尿病・脂肪肝の新規の発症機構の発見と, 疾患を予防する食生活の構築に寄与するものである。
著者
永井 亜矢子 久保田 優 東山 幸恵
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.249-254, 2013 (Released:2013-10-21)
参考文献数
34
被引用文献数
1

正常な味覚閾値は健康な食生活に大切である。味覚閾値に影響を及ぼす因子の一つとして疲労やストレスが挙げられるが, それらが味覚閾値にどのような影響を与えるかを検討した研究は特に小児において殆どみられない。そこで, 健常な小学生男女58名を対象に, 疲労やストレスが味覚閾値とどのように関連するのかを検討した。味覚閾値は濾紙ディスク法を用いて4基本味を測定した。ストレスは唾液α-アミラーゼ活性を, 疲労はチャルダー疲労スケールを指標として評価した。唾液α-アミラーゼ活性によるストレス度別に4群で比較したところ, 味覚低下者数に違いはなかった。チャルダー疲労スケールでは, 非疲労群に比べ疲労群で有意に味覚低下者数が多かった (身体的疲労:酸味p=0.02, 精神的疲労:塩味p=0.03, 総合的疲労:酸味p<0.01, 苦味p=0.02) 。以上より, 小児において疲労は特定の味覚閾値を上昇させる可能性が示唆された。
著者
高瀬 幸子 合田 敏尚
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.133-138, 1990
被引用文献数
1

十二指腸粘膜膜酵素活性の誘導機構の解明を目的とし, ふ化前のふ卵14日目のニワトリ胚にヒドロコーチゾンならびにビタミンD<SUB>3</SUB>を投与して (ヒドロコーチゾンは17日目に2回目の投与) 十二指腸粘膜刷子縁の膜脂質の脂肪酸組成に及ぼす影響を観察し, 同時に膜酵素としてスクラーゼとアルカリホスファターゼ活性を測定した。これら膜酵素活性の誘導と刷子縁膜脂肪酸組成の変動との関連について比較検討した。<BR>1) ヒドロコーチゾン投与によりふ卵20日胚の十二指腸粘膜重量, 粘膜DNAおよび粘膜刷子縁の膜タンパク質量が増大したが, DNA当りのタンパク質量は増加せず対照群と同じであった。ビタミンD<SUB>3</SUB>投与ではそのような効果はみられなかった。<BR>2) 十二指腸刷子縁膜脂質の脂肪酸組成は, ヒドロコーチゾンならびにビタミンD<SUB>3</SUB>投与のいずれの場合にも18: 2 (ω6) と20: 4 (ω6) のω6系の長鎖多価不飽和脂肪酸が著明に増加した。<BR>3) ヒドロコーチゾンの投与により, スクラーゼ活性とアルカリホスファターゼ活性が増大した。ビタミンD3投与によりアルカリホスファターゼ活性が増大したが, スクラーゼ活性の誘導は起こらなかった。
著者
松本 暁子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.99-104, 2004-04-10
被引用文献数
1

地上から400kmの宇宙空間に日本を含む世界15カ国が共同で建設を進めている国際宇宙ステーション: ISSがある。ISSは微少重力の宇宙空間に長期間滞在しながら未知の可能性に望む「宇宙研究所」として, 新薬や新しい素材などの開発を行う。そして, この実現のために国や人種を超えた取り組みが行われており, 宇宙飛行士は今も宇宙でISS建設を進めている。しかし, 特殊な宇宙環境下での滞在によって, 人間の身体は, 循環器系・骨代謝・筋肉系・血液免疫系の変化や放射線被曝などさまざまな宇宙医学生理学的影響を受けるため, 宇宙で活動するためには適切な栄養摂取が重要である。人間が宇宙空間に到達してから40年以上が経過しているが, その間に宇宙での栄養についても研究が進み, ISS長期滞在時の栄養摂取基準が定められている。現時点の宇宙食は米国かロシア製のみであるが, 今後は栄養学的に優れた日本食の特色を生かした宇宙日本食の導入によるISS計画への貢献が期待される。
著者
寺田 喜己男 吉田 景畝
出版者
JAPAN SOCIETY OF NUTRITION AND FOOD SCIENCE
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.216-220, 1960

(1) クリームサンドの剥れ現象測定のため, 剥れ試験器を試作し適用した。<BR>(2) 測定値と感応評価による結果, クリームアイシングの剥れ接着力限界は80~90g/cm<SUP>2</SUP>にして, 70g 3cm<SUP>2</SUP>以下の接着力では容易に剥れ易い事が判った。<BR>(3) 剥れ現象にはBodyであるビスケットあるいはクラッカーの塗布面状態および使用ショートニングに特に影響を受ける事が判明した。<BR>(4) ショートニング, 粉糖の比が1:2なるクリームァイシングでは, 使用ショートニングのミクロペネトレーションが40~50mm/10をもって限界とし, 30mm/10以下では完全密着, 50mm/10以上では剥れ現象を呈し易い。<BR>(5) ショートニングのS. C. I. からは接着の限界点は40前後で, S. C. I. 30以下では危険であRる。
著者
山中 聖敬 亀高 正夫
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.141-144, 1987

マウスの消化管内に存在する微生物とその関連物質由来の純タンパク質が, 糞乾物中にどの程度含まれているかを調べた。窒素源として精製全卵タンパク質または精製全卵タンパク質と同じアミノ酸組成をもつ結晶アミノ酸混合物を用い, 両者が同じ窒素含有量になるように飼料を調製した。これら2種類の飼料を5週齢でオスのICR系普通および無菌マウスに3週間摂取させた。最後の1週間分の糞について, その乾物中に占ある純タンパク質 (糞中のタンパク態窒素量×6.25) の割合に基づき, 普通と無菌マウスとの間ならびに飼料間での比較を行なった。その結果, 消化管内微生物とこれの関連物質由来の純タンパク質量は精製全卵タンパク質飼料群で糞乾物中の0.94%, 結晶アミノ酸混合物飼料群では2.18%, はく離した消化管上皮および消化液由来のタンパク質量は5.1%, 未消化の飼料残渣由来のタンパク質量は1.23%の成績を得た。
著者
山下 広美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 = Eiyo To Shokuryo (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.171-176, 2014

酢酸は, 生体において空腹時に脂肪酸からβ酸化により生成される内因性の成分であり, 骨格筋などで生体燃料として利用される。一方, 外因性に酢酸を摂取すると酢酸は容易に血中に移行し組織に速やかに取り込まれた後, その代謝過程でAMPを生成し細胞内のAMP/ATP比を増加させてAMPキナーゼ (AMPK) を活性化させる。2型糖尿病の病態モデル動物に酢酸を継続的に摂取させると, 肥満が抑制され耐糖能を改善させる。また肝臓において脂肪合成関連遺伝子の転写量を低下させることから, 酢酸は脂肪合成を抑制するように作用すると示唆される。その他エネルギー消費割合の増加, 白色および褐色脂肪組織においては脂肪滴肥大化の抑制が見られる。以上より酢酸は空腹時には内因性の成分として生成され生体燃料として利用されるが, 摂食時に酢酸を摂取すると脂肪合成の抑制による肥満の抑制, さらに肥満に起因した2型糖尿病予防効果をもたらすと示唆される。
著者
山田 田村 千佳子 鈴木 綾乃 根岸 千絵 岩崎 泰史 吉田 企世子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.139-144, 2005-06-10
参考文献数
11
被引用文献数
5 1

秋期栽培においてホウレンソウ3品種 (パレード, リードおよびマジック) を栽培時期および施肥を同一条件で栽培し, 収穫適期以降の還元糖, アスコルビン酸, シュウ酸, 硝酸の変動を解析した。また, ゆでたホウレンソウを用いて官能評価を行った。いずれの品種も生育とともに, 還元糖およびアスコルビン酸は増加し, シュウ酸は減少した。硝酸はパレードおよびリードでは減少し, マジックでは増加した。官能評価は, 還元糖の多いパレードおよびリードでは甘味の評価が高かった。シュウ酸の多いマジックではアクが強く, 少ないリードではアクが弱いと評価される傾向にあった。従来の出荷基準よりもさらに生育させることにより, 内容成分の充実したホウレンソウが得られることが示唆された。
著者
鈴木 継美 今井 秀樹 小林 香苗 本郷 哲郎 柏崎 浩 大塚 柳太郎 鈴木 久乃 石田 裕美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.91-102, 1988
被引用文献数
5 10

食材料 (生鮮67種, 加工・調理済70種) を一般市場より購入し, 某女子大生の食事記録に基づき83種の料理を作成した。これらの食材料と料理のセレン含量をWatkinsonの方法によって測定し, その値を文献値と比較した。これらの値に基づき, 食品群別セレン含量を定め, 国民栄養調査の結果 (昭和60年) を用い, 日本人1人1日あたりセレン摂取量を推定した。<BR>1) 生鮮食材料のうち高値を示したものは, 魚介類, 肉類, 卵類であった。文献値と比較すると, 生鮮, 加工両食材料ともにかなり食い違うものがみられた。<BR>2) 1人1回分の料理のセレン含量の大きかったものは, めん類, 卵料理, 肉料理, 魚介類の料理であったが, 料理のエネルギー含量100kcalあたりでみると, もっとも大きいものは魚料理であった。なお, 調理によるセレンの損失の可能性が一部の料理に認められた。<BR>3) 日本人1人1日あたりの推定摂取量は, 調理損失を考慮しないと, 104.2μgであった。
著者
緒方 幸代 藤田 孝輝 石神 博 原 耕三 寺田 厚 原 宏佳 藤森 勲 光岡 知足
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.317-323, 1993
被引用文献数
16 21

健常成人8名に4<SUP>G</SUP>-β-D-Galactosylsucrose (ラクトスクロース: LS) をはじめの1週間1g/日, 次いで1週間は2g/日, さらに, 2週後の1週間は3g/日を摂取させ, 少量LS摂取の腸内フローラおよび糞便の性状に及ぼす影響について検討した。その結果, LSの1g/日, 2g/日および3g/日の摂取のいずれにおいても, <I>Bifidobacterium</I>が有意に増加し, <I>C. perfringens</I>を含むレシチナーゼ陽性<I>Clostridium</I>およびBacteroidaceaeの減少が認められた。糞便中のアンモニアおよび硫化物はLS 2g/日, 3g/日摂取で有意に減少した。糞便pHはLS 3g/摂取で低下し, 糞便重量および水分量はわずかな増加をした。<BR>以上の成績から, LSの最小有効摂取量は健康成人において1日当り1~2gと判断された。
著者
山田 千佳子 岩崎 泰史 吉田 企世子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.167-173, 2003-06-10
被引用文献数
4 6

ホウレンソウ7品種 (パレード, 豊葉, 次郎丸, オーライ, おかめ, オリオン, オラクル) を栽培時期 (秋播き) および施肥を同一条件で栽培し, 還元糖, アスコルビン酸, シュウ酸, 硝酸の違いについて比較した。収穫は, 播種後41日目 (すべての品種), 48日目 (豊葉, 次郎丸, オーライ), 60日目 (オラクル, おかめ, オリオン) である。生育の早いパレードはアスコルビン酸, 還元糖の含有量が少なかった。豊葉, 次郎丸, オーライは生育途上から収穫適期までの生育でアスコルビン酸が増加したが, 豊葉は硝酸含量も増加した。オラクル, おかめ, オリオンは生育途上でもアスコルビン酸含量は多かったが, 収穫適期まで生育させても成分は増加しなかった。
著者
河合 美香
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiy◆U014D◆ shokury◆U014D◆ gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.361-365, 2002-12-10
被引用文献数
1 2

一流競技者は, 科学的なトレーニングに加え, 栄養面 (食事の量・質などの内容や摂取タイミング) にも気を配るようになっている。また, 選手の身体組成, 体力, 疲労からの回復, トレーニングや食事に対する代謝的応答, 食事の摂取パターン, 嗜好などに個人差があり, これらは同一個人であっても日々変化している。2000年シドニーオリンピック女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子選手は, 競技を開始した当初, 栄養に対して興味や関心はなく, 食欲や気分に任せて食事を摂ることの多い選手であった。しかし, マラソンのトレーニングを実施する上で, 食事に対して興味・関心をもつようになり, これに伴って意識が変わってきている。それまで提供される食事を摂っていたのが, 自分自身の体調やトレーニングに合わせて摂る成分を考え, 選択するようになった。また, 同選手の指導者も食事の内容について配慮している。トレーニングの効果を高めるために栄養のサポートをする場合, 選手の様々な環境や段階を熟慮する必要がある。
著者
中川 靖枝 岡松 洋 藤井 康弘
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.95-101, 1990
被引用文献数
8 17

ポリデキストロースR (PD) は人の消化酵素により加水分解を受けることの少ない水溶性多糖の一種である。PDの生理作用を調べる目的で青年期女性ボランティア22名にPDを5~10g摂取させ, 排便回数ならびに便通感に及ぼす影響を検討した。試験はラテン方格による交差試験法に準じて実施した。被験者のPD摂取を容易にするためPDは飲料の形態とし, PDをそれぞれ0, 5, 7, 10g/100ml含む飲料を調製した。被験者は同一種類の飲料を毎日1本ずつ5日間連続摂取し, それを4種類の飲料について繰返し行った。試験期間を通し, PD摂取量を除く食物繊維摂取量は8.0gから8.8gまでの値であり, 各試験期間の摂取量に差は認められなかった。PD摂取量の増加に伴い便が柔らかくなり, PD 7gあるいは10g摂取期間時の便の硬度はPD無摂取時に比べ危険率5%で有意に高値を示した。便の硬度はPD摂取量と有意に負の相関 (r=-0.387) を示した。しかし, 便の硬度以外の便通感と排便回数には影響を与えなかった。以上の結果ならびに考察はPDが排便に対する食物繊維様の作用を有していることを示唆した。
著者
河村 亜希 杉田 正明
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.199-205, 2020 (Released:2020-10-19)
参考文献数
32

スポーツ現場におけるn-3系脂肪酸摂取の有用性が示唆されているが, スポーツ選手を対象とした先行報告は極めて少ない。本研究は, n-3系脂肪酸であるエイコサペンタエン酸 (EPA) およびドコサヘキサエン酸 (DHA) の24か月間の摂取が女子長距離選手における血中脂肪酸濃度の変化に及ぼす影響を知ることを目的とした。12名の選手に対してEPA 664 mg, DHA 284 mgを24か月間毎日摂取させ, 1か月に1回の血液検査を実施した。その結果, 血中EPA濃度は介入前と比較し3か月後に126% (p<0.01) 増加し, 血中アラキドン酸 (AA) 濃度は1か月後に17% (p<0.05) 減少した。EPA/AA比は介入前 (0.41±0.04) と比較し3か月後 (0.86±0.05) に110% (p<0.01) 増加し, その後0.67‐0.98の範囲で推移した (p<0.05, p<0.01) 。一方, DHAの血中濃度に変化は見られなかった。従って, 女子長距離選手におけるEPAおよびDHAの日常的な摂取は, 血中EPA濃度を増加させ, 血中AA濃度を低下させることで長期的にEPA/AA比を高めることが確認された。
著者
嶋本 康広 佐藤 孝義 花形 吾朗 池内 義弘 西田 元之 松野 一郎
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.147-160, 2022 (Released:2022-08-24)
参考文献数
37

ビタミンKは血液の凝固や骨代謝に関与している脂溶性の機能性分子である。植物油にはフィロキノン (ビタミンK1) のみが含まれるが, 乳類には極性がフィロキノンより高く, トリグリセリド等の夾雑物に性質が近いメナキノン-4 (ビタミンK2) が含まれるため分析法を開発する上で夾雑物除去の前処理条件が重要なポイントとなる。われわれはエコフレンドリーな分析法の開発を目的として前報では手作業で検討を行い, シリカゲルカラムによる夾雑物除去工程においてシリカゲルと環境負荷に影響を与える有機溶媒の使用量を従来法よりも大幅に削減した効率的分析法を報告した。本報では自動固相抽出装置を導入したことによりシリカゲル処理に張り付く拘束時間を大幅に削減することができた。装置を用いてさらなる効率化を検討し, 脂質量に応じてカラムをスケールアップ/ダウンする際にシリカゲルと溶出液の量を最適化できる式を導出した。式に基いて設定した条件を用いると装置を用いず手作業でも同等の精度で分析可能だった。本分析法を用いればこれまでよりも少ない量のシリカゲルと有機溶媒を用いてさらに効率的にビタミンKの分析を行うことが可能になる。
著者
今井 具子 加藤 友紀 下方 浩史 大塚 礼
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.161-173, 2022 (Released:2022-08-24)
参考文献数
40

一般住民の食事データを用いて日本食品標準成分表2015年版 (七訂), 及び2020年版 (八訂) で算出した栄養素等摂取量についてデータベース切り替えによる影響を検討した。対象は老化に関する長期縦断疫学調査の第1次から第7次調査参加者のうち秤量法による3日間食事調査を完了した累計男性7,596名, 女性7,566名とした。男女別に検討したところ, 有意な相関はあるものの, 七訂と八訂の差は測定法が変更されたエネルギー (5.1%), 炭水化物 (5.8%), アミノ酸組成によるたんぱく質 (6.0%) や, 成分値の収載数が大きく変わった有機酸などの栄養成分項目の算出値に差が生じ, 系統誤差が生じる可能性が明らかとなった。またこれらの差には性差が見られ, 対象者の食事内容により影響を受ける程度が異なる可能性も考えられた。栄養アセスメントの側面では, データベースの切り替えを慎重に行う必要があることが示唆されたが, 対象者をランク付けする等の疫学研究ではデータベース改訂の影響が比較的小さい可能性も示唆された。