著者
青木 雄大 吉田 和敬 信田 幸大 砂堀 諭 西田 由香 加藤 秀夫 菅沼 大行
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.147-155, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
35
被引用文献数
3 1

リコピンはトマトに豊富に含まれるカロテノイドであり, 強い抗酸化作用を有することが知られている。これまでに, 様々な栄養素の吸収に概日リズムが影響を与えることが示唆されてきているが, リコピンの吸収について, 摂取時間帯による影響を検証した報告はなされていない。そこで我々は, 摂取時間帯がリコピンの吸収に与える影響を, ラットを用いた動物試験および健常な成人男女を対象としたヒト試験で検証した。ラットおよびヒトに対し, リコピンを含む食品を, 時間帯を変えて摂取させ, 血中リコピン濃度を測定したところ, ラットでは活動期初期, ヒトでは朝に摂取した際に血中リコピン濃度が最も上昇した。また, リコピンを摂取するまでの絶食時間が長くなるほど, 血中リコピン濃度の上昇が大きくなることが示された。以上から, リコピンの吸収は絶食時間の長さの影響を受け, そのため朝に摂取した際に最も吸収率が高くなることが推測された。
著者
宮崎 さおり 松本 友希 岡田 知佳 岸田 太郎 西岡 信治 三好 規子 友岡 清秀 谷川 武 斉藤 功 丸山 広達
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.93-101, 2021 (Released:2021-04-14)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本研究では, トランス脂肪酸摂取量を推定するための食品成分表を作成することを目的とした。さらにこの成分表を用い, 実際の摂取食品についてトランス脂肪酸量を推定し得るか, 食事記録調査結果を対象に確認を行った。23文献に報告のある280食品のトランス脂肪酸量は平均値を求め, 食品成分表記載の各食品の脂質を乗じ可食部100 g当たりに含まれるトランス脂肪酸量を算出した。文献に報告のない食品の内, 312食品は置き換え法にて対応, 計592食品のトランス脂肪酸含有量を決定した。その食品成分表を用い, 糖尿病境界型の男女35名が実施した食事記録から1日平均のトランス脂肪酸摂取量を算出した。本対象集団が摂取していた可食部100 g当たりの脂質量が1 g以上の食品延べ4,539食品の内, 4,535食品 (99.9%) のトランス脂肪酸量が算出し得, 1日当たりの平均トランス脂肪酸摂取量は0.66 g (エネルギー比率: 0.33%) であった。本成分表は, 置き換え法による食品数の占める割合が高いこと等の限界に留意する必要があるものの, 多数の食品に対して数値を求めていることから, 異なる日本人集団や食事記録以外の食事調査法での応用も可能なものと考える。
著者
逸見 隼 牧野 聖也 狩野 宏 浅見 幸夫
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.99-102, 2018 (Released:2018-04-16)
参考文献数
15

我が国では高齢化の進展に伴い, 健康寿命の延伸が課題となっている。この課題解決において健康機能を有する食品が果たすべき役割は大きい。我々は, 日常的に気軽に摂取できるヨーグルトを介した健康増進を目指し, 免疫賦活作用を有する菌体外多糖体を高産生する乳酸菌としてOLL1073R-1株を選抜した。本株で発酵したヨーグルトの摂取はマウスの脾臓細胞のインターフェロン-γ (IFN-γ) 産生を誘導し, ナチュラルキラー (NK) 活性増強効果や抗インフルエンザウイルス活性を発揮した。またヒトでは健常高齢者の風邪症候群の罹患リスクの低減効果や健常成人のインフルエンザワクチン接種後の抗体産生の増強効果を見出し, 自然免疫, 獲得免疫の両面から免疫機能を高め, 感染症に対する防御効果を増強することが示唆された。一方で, 気温変化の大きい季節の変わり目時期における疲労感を軽減することも示され, 体調管理に広く有用であることが明らかとなった。
著者
菅原 達也
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.177-183, 2013 (Released:2013-08-16)
参考文献数
40
被引用文献数
3 2

スフィンゴ脂質は, 真核生物の細胞膜構成成分の一つであり, 細胞の分化やアポトーシスなどの生命現象に深く関わっていることが知られている。近年, 食品機能成分としても注目されつつあり, とくに皮膚バリア向上作用が期待されている。したがって, 経口摂取されたスフィンゴ脂質の消化と吸収の機構を明らかにすることは, その食品機能性を理解する上でも重要といえる。グルコシルセラミドやスフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質は, 小腸内で消化を受け, その構成要素であるスフィンゴイド塩基にまで加水分解された後に小腸上皮細胞に取り込まれる。しかし, その分解効率は低く, 吸収率も低い。スフィンゴシンと比べて, それ以外の化学構造のスフィンゴイド塩基はP-糖タンパク質による排出を受けやすいため, 吸収はさらに低いことが示唆されている。スフィンゴ脂質の有効利用のためにも, その選択的吸収機構の詳細について, 今後明らかにされる必要がある。
著者
中本 真理子 酒井 徹 首藤 恵泉 安藝 菜奈子 小杉 知里 秦 明子 篠田 香織 桑村 由美 南川 貴子 市原 多香子 田村 綾子 船木 真理
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.185-193, 2013 (Released:2013-08-16)
参考文献数
31
被引用文献数
4 4

近年, 生活習慣病や精神疾患などを抱える勤労者が増加している。一方, 朝食欠食, 過食, 身体活動の不足, 短時間睡眠など, 生活習慣の乱れが疾病の発症に関連することが報告されている。我々は, 徳島県勤労者において, 夕食終了から就寝までの間隔と生活習慣病の有病状況との関係について横断研究を行った。20歳以上の勤労者735名を対象に, 食物摂取頻度調査, 生活に関する質問票調査, 採血, 身体計測を実施した。夕食終了から就寝までの間隔が2時間未満の対象者を対照群とし, ロジスティック回帰分析を用いて解析を行った。高血圧に関して, 対照群に比し3-4時間, 4時間以上の群で, 有意に調整オッズ比が低下した。さらに21時以降の食事摂取者で, 高血圧の調整オッズ比は3-4時間空ける群で有意に低下し, 量反応性の関係が認められた。これらのことより, 夕食終了から就寝までの間隔を空けることが, 高血圧の予防につながる可能性が示唆された。
著者
好田 裕史 淡路 友香子 内田 雅昭 永井 成美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.243-250, 2018 (Released:2018-10-19)
参考文献数
21
被引用文献数
2

ウイスキーの香り刺激後の眠気感覚を体温や自律神経活動と共に評価することを目的とした。若年女性12名に, 異なる2日間の午前9時に, ウイスキー (8倍希釈) もしくはブランク (水) 10 mLを染み込ませた角綿をマスクに挟んで65分間連続で香りを負荷し, 主観的眠気・覚醒感覚, および深部 (鼓膜温) ・末梢 (足先) 体温, 自律神経活動 (心拍変動) を経時測定した。その結果, 1) 主観的な眠気スコア (絶対値) には両試行間で有意な差はみられなかった, 2) 深部体温は, ブランクでは負荷後65分まで緩やかに上昇を続けた (約0.05℃上昇) が, ウイスキー試行では負荷後30分まで上昇 (約0.15℃) した後低下する変化を示した。3) ウイスキー試行では, 負荷後の深部体温 (最大値からの低下量) と眠気スコア増加に有意な相関が認められた。本研究で用いたウイスキーの香りには, 深部体温を変化させる作用を有することが示唆された。主観的眠気に関しては, 評価方法を改善した検討が必要である。
著者
佐々木 敏
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.53-59, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
6
被引用文献数
2

『日本人の食事摂取基準』は, 厚生労働省から出されているガイドラインのひとつであり, 食事・栄養に関するわが国で唯一の包括的ガイドラインである。「日本人の食事摂取基準 (2015年版) 」は, 全344ページからなり, 巻末に添えられた2つの参考資料まで含めると440ページにも及ぶ。食事摂取基準は, 栄養と食事に関するわが国で唯一の包括的なガイドラインである。今回の改定では数値の変更は比較的に少ない。一方, ガイドラインとしての位置づけをより明確にし, 活用方法について特にその理論的視点が詳述されている点が特徴である。本稿では, 日本人の食事摂取基準 (2015年版) の概要を紹介するとともに, 食事摂取基準の学問的および実務的意義について, ガイドラインという観点から簡単な考察を加える。
著者
渡邉 純子 渡辺 満利子 山岡 和枝 安達 美佐 根本 明日香 丹後 俊郎
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.167-178, 2018 (Released:2018-08-21)
参考文献数
31

M市域中学生 (12-14歳, 1,625名) を対象に, 体格, 食事 (FFQW82) , ライフスタイル・心身の健康問題 (SPS) に関する横断調査を実施した。男子・女子ともエネルギー (E) 摂取量における朝昼夕の3食配分比は2 : 3 : 4で, 朝食摂取不足, 夕食摂取量多過が考えられた。食品群別 (E) 摂取量は肉類が魚介類の2倍以上と多く, 野菜類は対象の摂取目標値 (350 g/1日) に比べ少なかった。ライフスタイル (男子%, 女子%) では朝食に主菜 (34.3, 29.9) ・野菜 (25.1, 24.2) を食べる, 油の多い料理をとり過ぎない (34.9, 34.8) がそれぞれ半数に満たなかった。重回帰分析によりSPSスコア低値と男子・女子の食物繊維摂取量 (p=0.011, p<0.001) , 夜12時には熟睡 (p=0.006, p<0.001) , 睡眠6時間以上 (p<0.001, p=0.018) , 同高値と嗜好品類摂取量の多さ (p<0.001, p=0.001) が関連していた。中学生の食事摂取・ライフスタイルとSPSとの関連性が示唆された。
著者
川端 晶子 澤山 茂
出版者
JAPAN SOCIETY OF NUTRITION AND FOOD SCIENCE
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.55-63, 1974

1) 標準的なババロアについて嗜好意欲尺度を用いて, 嗜好度検査を行ない, 男女2群の比較によるt検定の結果有意差は認められなかったが, 男子よりも女子のほうがやや高い平均値を示した。<BR>2) ババロアの基本的ゼリーについて, LMPゼリーは1%濃度, ゼラチンゼリーは, 2.0および2.5%濃度のものが好まれる結果を得た。レオロメーター特性値では, LMPゼリーは, ゼラチンゼリーにくらべて, 付着性が大きいところに特徴があり, 2点嗜好試験法の結果, LMPゼリーは若い人々に, ゼラチンゼリーは中年以上の人々に好まれる傾向が認められた。<BR>3) LMPのゲル形成には, 多価金属イオンが必要だとされているが, 牛乳中のカルシウムイオンの利用によって好ましいゲルが形成され, 牛乳濃度30~40%のものが適当であると考えられるが, LMPのゲル形成と金属イオンの関係については, 今後, 検討を加えたい。<BR>4) ババロアの甘味度については, 糖度20%ついで25%のものが好まれ, 蔗糖, 果糖およびマルチトールの3種の甘味剤については, LMPゼリーの甘味間には, 有意の差は認められなかったが, ゼラチンゼリーの甘味では, マルチトールを用いたゼリーの甘味に対する平均評点は低く, やや好ましくないことが示された。<BR>5) 4種のババロアのレオロメーター特性値のうち, LMPババロアは, ゼラチンババロアにくらべて, 硬さの値は小さいが, 付着性は大であり, 卵白を加えたものは, 卵黄のみ用いたものよりも, いずれも, 硬さの値は, やや小さいが付着性は大きい。しかし, 好みについては, 有意差は認められなかった。<BR>嗜好特性値間の相関行列を求めたところ, 総合評価とすべての嗜好特性値間に有意の相関が認められた。また, 総合評価に対する嗜好特性の相関の高いものから, 逐次, 重相関係数を求めてF検定の結果, いずれも, 有意の相関が認められた。さらに, 逐次, 回帰方程式を求めたところ, 総合評価に対し, 凝集性, ついで口あたり, 付着性といったテクスチャーの影響が大きいことが認められた。<BR>6) フルーツババロアと, ゼラチンフルーツババロアの間に, 前者は, 硬さの値は小さく, 付着性は大であるが, 官能検査の総合評価には有意差は認められなかった。
著者
鈴木 麻希子 山下 成実
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.115-120, 2019 (Released:2019-06-14)
参考文献数
21

近年, 加工食品は多様化し, その利用も増加しているため, 食品添加物として使用されている無機リンの過剰摂取が懸念されている。また, 無機リンの吸収率は有機リンよりも高いことが知られている。しかしながら, 国民健康・栄養調査では, そのリン量が考慮されている加工食品は一部に限られ, 無機リンとしての摂取量は不明である。そこで, 本研究においては, 加工食品における添加無機リンおよび総リンの定量を行った。小スケールの陰イオン交換カラムでも直線濃度勾配法により, オルトリン酸, ピロリン酸, トリポリリン酸を効率よく分離し, 90%以上回収することができた。測定した食品の中には, トリポリリン酸を含むものもあり, 総リン量に占める無機リンの割合が50%を超えるものが複数あった。また, 一般に, 食品のリン/たんぱく質比は15 mg/gとされているが, それを超えるものも複数見られた。これらの情報は慢性腎臓病患者にとって有用な情報となると考えられる。
著者
森藤 雅史 伊藤 恭子 市川 聡美 大庭 知慧 北出 晶美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.19-22, 2022 (Released:2022-02-23)
参考文献数
12

皮膚は, 水分の喪失を防ぐ, 微生物や物理化学的な刺激から生体を守るなど, 生命を維持するためになくてはならない様々な機能をもっている。それゆえ, 常に皮膚機能を高めておくことが必要であり, その方法として日々の食生活の改善や機能性を有する食品素材の継続的な摂取が効果的である。我々は, 様々な食品素材の中から, 「SC-2乳酸菌」「コラーゲンペプチド」「スフィンゴミエリン」の3成分に着目し, 吸収動態, 有効性評価, メカニズム解析をすすめた。また, これら3成分を配合した新たな食品を開発した。臨床試験において, 3成分を配合した被験食品を摂取することにより, 対照食品を摂取したときと比べ, 紫外線刺激から肌を保護するのを助けること, 肌の潤いを保ち, 肌の乾燥を緩和することが示された。本技術により, 食べることによって人において皮膚機能を高めることが可能となり, 人々の健康の維持・増進に貢献できると考える。
著者
田中 清 上西 一弘
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.231-236, 2020 (Released:2020-12-26)
参考文献数
4

日本人の食事摂取基準2020年版におけるビタミン・ミネラルにつき, 変更点を中心に述べる。脂溶性ビタミンでは, ビタミンDの目安量の根拠は従来健康人摂取の中央値だったが, 近年ビタミンD欠乏/不足者の割合が非常に高いことが明らかとなり, 「骨折予防に必要な量-日照による産生量」に変更された。水溶性ビタミンでは, 葉酸に関して, 食事性葉酸と狭義の葉酸の区別が明記された。多量ミネラルでは, ナトリウム (食塩相当量) の目標量 (上限) は, 高血圧・慢性腎臓病の発症予防のため, 望ましい摂取量 (5 g/日) と日本人の摂取量の中間値に基づき, 男性 < 7.5 g/日, 女性 < 6.5 g/日とされ, 今回その重症化予防のための量 (< 6 g/日) も定められた。カリウムは目標量 (下限) が定められ, ナトリウム・カリウム比の重要性も記載された。微量ミネラルでは, 妊娠中期・後期での鉄の付加量が引き下げられた。策定栄養素には変更なく, クロムについてのみは必須性に関して再検討されているが, これらの必須性は既に確立され, 食品成分表と合わせた活用が重要である。ヒト対象のエビデンスは少なく, 日本人での研究が必要である。
著者
佐々木 敏
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.291-296, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
7
被引用文献数
3

『日本人の食事摂取基準』は, 厚生労働省が公開しているガイドラインのひとつであり, 食事・栄養に関するわが国で唯一の包括的ガイドラインである。本稿では, 総論のなかで今回の改定 (2020年版) で特に強調された点を紹介するとともに, 今後の食事摂取基準の策定も見据えて, 栄養学研究の役割や食事摂取基準との関係性について, 考察を加えることにする。今回の改定では, 数値の改定は最小限に留まっているものの, 指標の定義が再整理され, その詳細が説明されている。また, 食事摂取基準活用時に必要となる食事アセスメントに関する知識や知見などについても詳述されている。さらに, 食事摂取基準の策定方法に関する課題, 特に系統的レビューならびにメタ・アナリシスの利用における課題についても触れられている。総論の中でもっとも注視すべき記述は, 「我が国における当該分野の研究者の数と質が食事摂取基準の策定に要求される能力に対応できておらず, 近い将来, 食事摂取基準の策定に支障を来すおそれが危惧される。」という一文であろう。栄養学研究に携われる者がこの問題を真摯に取り上げ, 積極的に対応することを期待したいところである。なお, 本稿は政府の公式見解を述べたものではない。
著者
溝口 亨 加藤 葉子 久保田 仁志 竹腰 英夫 豊吉 亨 山崎 則之
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.257-263, 2004-12-10
被引用文献数
2

エゾウコギ根抽出物 (EUE) の機能性を探索することを目的とし, 動物試験を実施した。EUEの安全性評価において, 最大用量6,000mg/kgの単回投与毒性試験および最大用量3,000mg/kg/dayの2週間反復投与毒性試験では, 異常は認められなかった。ビタミンC欠乏飼料で飼育したモルモットを対照群, ビタミンC欠乏飼料にEUEを0.25%の割合で配合した飼料で飼育した群をEUE投与群とし, 30日間飼育し, 飼育28日目に除毛して背部皮膚に紫外線照射を行い, 30日目に紫外線照射部位の過酸化脂質含量および紫外線非照射部位のコラーゲン含量を測定した。その結果, EUE摂取により皮膚の過酸化脂質生成およびコラーゲン含量低下が有意に抑制されることが認められた。冷水に15分間浸漬したラットの体温低下状態からの回復時間を測定した試験では, EUE 500mg/kgの2週間投与により対照群と比較して体温回復時間が有意に短縮され, その作用は末梢血液循環改善によるものと考えられた。マウスを用いた強制水泳負荷後の水泳耐久時間測定試験では, EUE 500mg/kgの2週間投与により対照群と比較して水泳耐久時間の有意な延長がみられ, この作用はEUEの抗疲労作用による可能性が示唆された。以上の結果, EUEは皮膚過酸化脂質生成抑制作用およびコラーゲン減少抑制作用, 末梢血液循環改善作用, 抗疲労作用を有する可能性が示唆された。
著者
松本 万里 渡邊 智子 松本 信二 安井 明美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.255-264, 2020 (Released:2020-12-26)
参考文献数
21

目的: 組成に基づく成分値を基礎とした食品のエネルギー値 (アミノ酸組成, 脂肪酸組成, 炭水化物組成などを用いたFAOが提唱する方法, 組成エネルギー値) と従来法によるエネルギー値の相違を明らかにすることを目的とした。方法: 日本食品標準成分表2015年版 (七訂) の収載食品を対象に可食部100 g当たりの組成エネルギー値を算出し, 既収載のエネルギー値 (既収載値) と比較した。さらに, 平成26年国民健康・栄養調査の食品別摂取量から, 組成エネルギー値および既収載値を用いてエネルギー摂取量を算出し, 両者を比較した。結果: 可食部100 g当たりの組成エネルギー値 (a) と既収載値 (b) との一致率 (a/b×100) は, 126±24% (藻類) から76±20% (野菜類) の範囲であった。一致率が100%未満の食品群は14群であり, 全食品の一致率は91±17%であった。一致率80‐100%の範囲に対象食品の68%が含まれ, 一致率60‐80%に対象食品の13%が, 一致率100‐120%に対象食品の12%が含まれていた。国民健康・栄養調査の食品別摂取量を基に, 組成エネルギー値を用いて算出した総エネルギー摂取量と, 既収載値を用いて算出した総エネルギー摂取量との一致率は, 92%であった。
著者
久米 大祐 喬 穎 中山 珠里 保川 清 島尻 佳典 伊東 昌章
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.15-20, 2021 (Released:2021-02-27)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本研究では, シマグワ (Morus australis) 葉から製造したパウダーを配合したパン (シマグワパン) の血糖値上昇抑制効果を検証することを目的とした。実験1では, シマグワパンの機能性解析として, 1-デオキシノジリマイシン (1-DNJ) 含有量, α-アミラーゼ[3.2.1.1]およびマルターゼ[3.2.1.20]阻害活性を評価した。実験2では, 健常成人を対象として同パンの食後血糖値上昇に対する抑制効果を検証した。実験1の結果, 製パン時に1-DNJ含有量は減少するものの, シマグワパンには1-DNJが残存していることが示された。シマグワ葉パウダーにα-アミラーゼ阻害活性は認められなかった。シマグワパンは, シマグワ葉パウダーそのものよりもマルターゼに対する50%阻害濃度は高値を示すものの, マルターゼ阻害活性を保持していた。実験2の結果, シマグワパンを摂取した後は, 通常のパンを摂取した後よりも, 血糖値およびインスリン値の上昇が抑制された。本研究の結果から, シマグワパンの血糖値上昇抑制効果が明らかとなった。
著者
江崎 秀男 小野崎 博通
出版者
JAPAN SOCIETY OF NUTRITION AND FOOD SCIENCE
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.161-167, 1980
被引用文献数
1 8

1) 青首宮重大根 (2.5kg) から, その辛味成分であるトランス-4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアナートをチオウレア誘導体として結晶100mgを単離, 同定した。<BR>2) チオウレア化合物の呈色試薬であるグロート試薬組成中の各種試薬の濃度を検討し, 原液を水で25倍希釈して改良グロート試薬とした。<BR>3) 比色定量のための標準物質として市販アリルイソチオシアナートより調製したアリルチオウレアおよび前記トランス-4-メチルチオ-3-ブテニルチオウレアを用いて改良グロート試薬による呈色の条件を検討し, 37℃で45分間インキュベートした後, 600nmにおける吸光度を測定した。これによってトランス-4-メチルチオ-3-ブテニルチオウレアの場合, 20μg/mlから200μg/ml範囲にわたって濃度と吸光度との間に直線関係が認められた。<BR>4) ここに新しく提案された大根辛味成分イソチオシアナートの定量法は次のとおりである。大根磨砕搾汁液5mlを30℃で30分間放置した後, これにエタノール: アンモニア水混液20mlを加え, 60分後, 50%酢酸1mlを加え, 濾過を行なう。濾液1mlに改良グロート試薬4mlを加え, 37℃で45分間インキュベートした後, 600nmにおける吸光度を測定し, あらかじめ作成した標準曲線よりトランス-4-メチルチオ-3-ブテニルチオウレア量を求め, これからトランス-4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアナート量に換算する。<BR>5) 前記定量法により大根の品種, 部位および生長時期と辛味成分量との関係をしらべた. 品種別においては, 同じ秋大根でも品種によって辛味成分量に差がみられた。部位別においては, 根部の先端に近くなるほど辛味成分量の増加が認められた. 生長時期との関係については, 大根中の辛味成分含量は生長とともに減少し, 収穫時期の大根100gより得られた磨砕搾汁液中には12mgのイソチオシアナート量が測定された。
著者
上西 薫 坂本 貞人
出版者
JAPAN SOCIETY OF NUTRITION AND FOOD SCIENCE
雑誌
榮養・食糧學會誌 (ISSN:18838871)
巻号頁・発行日
vol.1, no.5, pp.179-182, 1949

○パームチツトを用いるビタミソ定量法 (藤田秋治, 日新醫學。35巻, 10號, 473. 昭23. 10月)<BR>パームチツトを使期してビタミソ定量を行う從來のHennessyの方法に多少の改良を加えた定量法を考案した。改良の主鮎は赤血懸とNaOHの母を適當に濃度を加減する事により螢光の影響が著しく減ずる事, メタ燐酸を適當に用いる除蛋白法によわ盲螢光物質の除去が容易となる。盲螢光の除去の完全に出來ぬ時, 亜硫酸ソーダによってB<SUB>1</SUB>を壊し, 盲螢光を残して赤血璽の影響を主實驗と盲驗とで同一ならしめ測定を精確に行ら事が出來る。コカルボキシラーゼの水解を高濃度の酵素を用い短時間に完了させ得ること等によって血液, 動植物組織中のビタミン定量を容易に行う事が出來る。(原)<BR>○體質について (大里俊吾, 日本臨床, 6巻, 6號, 1, 昭23, 6月) 日本人の體格, 體型と機能 (肺活量, 體力檢定) 體格及體型の成生等に關し縷述説明し, 著者の體質観として, 體質とは遺傅的に生れ, 環境に育れた「人」の形態的 (解剖的) 機能的 (生理學的, 生化學的, 心理學的) 要素よりなる有機的全體であって, 固體を特徴づけ固體生活史において一貫せる底流をなせるものであると結論する。(原)<BR>○ゼラチン溶液によるネフロ一ゼ (Skimsnes, O, K, Surg. etc. 85 (5) 553~571, 1947, Nov, 日本臨床, 海外文献, 6巻2號, 昭23, 2月)<BR>失血の補給用としてゼラチン溶液の注射が行われているが, 之によってネフーゼが起った例が21例あつた。<BR>悪性腫蕩手術後ゼラチソ8%の生理食監水通常8ccを用いている。臨床的には症状に變りなく血液及び尿の所見に異常はなかつた。解剖により曲細尿管主部の糸毬體に近い部分に水様腫脹が認められた。恐らく此變化はゼラチソ溶液が, 細尿管で滲透作用によつて細尿管上皮細胞の水を吸出すためであろうと思われる。心臓及び腎臓に疾患のある者にはゼラチソ溶液を用いる事を警戒せねばならない。(原)<BR>〇葉酸の臨床懸用 (醫學のあゆみ, 6巻3號167, 昭和23, 9月)<BR>葉酸 (テロィルトグルタミン酸) が有効な疾患として血液病 (悪性貧血の血液症状, 小兒のメガロプラスト性貧血, 不應牲のメガ費プラスト性貧血, 熱帯性大細胞性貧血, 榮養性中性好性細胞減少症及び榮養性大細胞性貧血) 胃腸管碍害 (熱帯性又は非熱帯性スプルー, セリアツク病, 慢性下痴を含む) がある。
著者
北野 泰奈 本間 太郎 畠山 雄有 治部 祐里 川上 祐生 都築 毅 仲川 清隆 宮澤 陽夫
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.73-85, 2014 (Released:2014-04-21)
参考文献数
52
被引用文献数
26 26

日本人の食事 (日本食) は健康食として世界中に認知されている。しかし, 日本では食の欧米化が進行し, 現代日本食が本当に有益か疑わしい。そこで本研究では, 時代とともに変化した日本食の有益性を明らかにするため, 2005年, 1990年, 1975年, 1960年の日本食を調理・再現し, これをマウスに4週間与えたところ, 1975年日本食を与えたマウスで白色脂肪組織重量が減少した。肝臓のDNAマイクロアレイ解析より, 1975年日本食を与えたマウスは糖・脂質代謝に関する遺伝子発現が増加しており, 代謝の活性化が認められた。次に, 各日本食のPFCバランス (タンパク質・脂質・炭水化物のエネルギー比率) を精製飼料で再現し, 上記と同様な試験を行ったところ, 群間で白色脂肪組織重量に大きな差は認められなかった。以上より, 1975年頃の日本食は肥満発症リスクが低く, これは食事のPFCバランスに依存しないことが明らかとなった。
著者
門岡 幸男 小川 哲弘 高野 義彦 守屋 智博 酒井 史彦 西平 順 宮崎 忠昭 土田 隆 佐藤 匡央
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.79-83, 2019 (Released:2019-04-23)
参考文献数
19

Lactobacillus gasseri SBT2055株 (LG2055) の摂取による消化管を介した保健機能に関する研究を行った。内臓脂肪蓄積抑制作用については, はじめに, LG2055を含む高脂肪飼料を摂取したラットで腸間膜脂肪の脂肪細胞の肥大化が抑制されることを見出した。さらに, この知見を基にヒト介入試験を実施し, 有効性探索, 用量設定および最終製品での確認という一連の試験において, LG2055の摂取による内臓脂肪蓄積抑制作用を確認した。免疫調節作用については, マウスにおける小腸免疫グロブリンA産生促進作用およびインフルエンザウイルス感染防御作用を確認し, さらに, ヒト介入試験においてインフルエンザワクチン特異的抗体価およびナチュラルキラー細胞活性の亢進を確かめた。以上の成果の活用例として, 内臓脂肪蓄積低減作用に関する知見に基づいた特定保健用食品の許可取得および機能性表示食品としての届出があげられ, 実際の商品への保健機能表示が可能となった。