著者
河合 光久 加藤 豪人 高田 麻衣 星 亮太郎 西田 憲生
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.75-78, 2021 (Released:2021-04-14)
参考文献数
11

我々は弊社独自のプロバイオティクスLactobacillus casei Shirota株 (LcS) の腸内環境改善作用に着目し, 脳腸軸を介する機能に関する研究を進めてきた。これと並行して, 脳腸軸に対するLcSの効果を最大限に引き出す発酵乳飲料を開発するため, 使用原料や培養技術等の改良を行い, これまでの飲料に含まれるLcSの菌数・菌密度をさらに向上させることに成功した。そこで, 学術試験の受験による心理的ストレスを感じている健常な医学部生を対象とした二重盲検並行群間比較試験にて, 高菌数および高密度化したLcS発酵乳飲料の効果を検証した。その結果, LcS飲料はプラセボ飲料に比べ, 学術試験が近づくにつれ増加するストレスの体感を軽減し, 唾液コルチゾール濃度上昇を有意に抑制した。また, LcS飲料の摂取は, 睡眠の質を向上させることにより学術試験ストレスに伴う睡眠状態の悪化を軽減することを見出した。以上の成果を活用し, 「機能性表示食品」として届出を行い, 商品の保健機能表示が可能となった。
著者
金子 真紀子 三宅 正起
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.255-259, 2013 (Released:2013-10-21)
参考文献数
15

キュウリに含まれるギ酸の分布および味覚特性を明らかにするため, まず, HPLC法による分析法とキュウリ試料調製法について検討を行った。設定したHPLC分析法のギ酸定量限界は0.5 mg/Lであり, 再現性も良好であった。キュウリは, 果皮, 維管束, 果肉および種子, それぞれの部位に分け, HPLC分析試料を調製した。HPLC分析の結果, ギ酸は果肉と種子では検出されず, 果皮と維管束に局在することが示された。ギ酸標準水溶液の味覚特性を調べた結果, 低濃度 (<10 mg/L) では渋味を感じ, 濃度が高くなるに伴って渋味とともに苦味と酸味も強くなった。キュウリの渋味とギ酸濃度との関係については, 特に果皮を食したときに感じられる渋味は, ギ酸によるものと推察された。さらに, ギ酸を各種濃度に調整したキュウリの官能結果からも, ギ酸がキュウリの渋味の主な要因であることが示唆された。
著者
森滝 望 井上 和生 山崎 英恵
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.133-139, 2018 (Released:2018-06-15)
参考文献数
22
被引用文献数
5 4

日本食の風味を支える出汁は, 心身への健康機能を有することが最近の研究により明らかにされてきているが, いずれの報告も長期摂取による効果に着目しており, 短期的な影響については知見が乏しい。本研究では, 出汁の単回摂取による効果を明らかにすることを目的とし, 鰹と昆布の合わせ出汁の摂取および香気の吸入が自律神経活動および精神的疲労に及ぼす影響について検討を行った。24名の健康で非喫煙のボランティアが本研究に参加した。被験者は, 9: 00に指定の朝食を摂取し, 10: 30—11: 30に実験を実施した。自律神経活動は心拍変動解析により評価し, 疲労の評価では, 一定の疲労負荷として単純な計算タスク (内田クレペリンテスト) を30分間課し, その前後でフリッカー試験を実施した。加えて, Visual Analogue Scale (VAS) を用い, 主観的な疲労度および試料に対する嗜好度を評価した。出汁の単回摂取では, 対照の水と比べて, 心拍数低下と副交感神経活動の一過性上昇が認められた。また, 出汁の香気吸入でも同様の効果がみられた。さらに, 出汁の単回摂取により, 計算タスク後のフリッカー値低下が抑制され, VASの結果より主観的な疲労度も軽減されていることが示された。これらの結果から, 出汁の摂取は副交感神経活動を上昇させる作用を介して, リラックスと抗疲労の効果を誘起する可能性が示唆され, その作用における香気成分の重要性が示された。
著者
野田 聖子 山田 麻子 中岡 加奈絵 五関‐曽根 正江
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.21-29, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
38
被引用文献数
1

アルカリホスファターゼ (ALP) はリン酸モノエステルを加水分解する酵素であり, 小腸に局在する小腸型ALPは食事性因子との関わりが大きいが, その生理機能は未だ不明な点が多い。本研究では, ヒト結腸癌由来細胞で, 培養後に小腸上皮様細胞に分化するCaco-2細胞を用いて, ビタミンDがALP発現および腸の分化マーカーである加水分解酵素の発現に及ぼす影響について検討を行った。コンフルエント後14日間培養し, Caco-2細胞にビタミンDを添加した結果, 添加後3, 5, 7日目において1,25-ジヒドロキシビタミンD3濃度100 nMのALP活性およびヒト小腸型ALP遺伝子のmRNA発現量が0 nMと比べて有意に高値を示した。一方, スクラーゼ・イソマルターゼの遺伝子発現はビタミンDにより増強されなかった。本研究において, ヒト小腸上皮様細胞でのビタミンDによる小腸型ALP発現の増強作用を示すことができ, 小腸型ALP発現調節を介したビタミンDの新たな生理機能の解明につながることが期待された。
著者
藤林 真美 神谷 智康 高垣 欣也 森谷 敏夫
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.129-133, 2008-06-10
被引用文献数
3 21

現代人の多忙な生活の中で,簡便で即効性のある栄養補助食品が求められている。本研究では,GABAを30 mg含有したカプセルの経口摂取によるリラクセーション効果を,自律神経活動の観点から評価することを試みた。12名の健康な若年男性(21.7±0.8歳)を対象に,GABAとプラセボカプセルを摂取させ,摂取前(安静時),摂取30分および60分後の心電図を胸部CM<SUB>5</SUB> 誘導より測定した。自律神経活動は,心拍のゆらぎ(心電図R-R間隔)をパワースペクトル解析し,非観血的に交感神経活動と副交感神経活動を弁別定量化した。その結果,GABA摂取前と比較して,総自律神経活動は摂取30分後 (<I>p</I><0.01) および 60分後 (<I>p</I><0.05)に,副交感神経活動も摂取30分後 (<I>p</I><0.05)に顕著な上昇を示した。これらの結果から,30 mgのGABA経口摂取は,自律神経系に作用しリラクセーション効果を有する可能性が示唆された。
著者
桒原 晶子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.257-262, 2017 (Released:2017-12-26)
参考文献数
37

脂溶性ビタミンの栄養状態と疾患との関係について, これまで欧米を中心に報告されており, ヒトを対象とした栄養研究において, 摂取量と生体指標を同時に調査することが当然のように行われていた。しかし, わが国においてはそのような研究が限られている。著者らは, 脂溶性ビタミン摂取必要量を検討するための摂取量と血中濃度を同時に測定した横断研究, またビタミンDについてはヒトを対象とした介入研究も行った。その結果, 日本人の食事摂取基準 (2015年版) のビタミンD目安量が, 少なくとも日照の限られた集団では不足を招くこと, また不足の回避のためには現行の目安量の3倍程度は摂取すべきことを明らかにした。また, 効率良く脂溶性ビタミンを摂取するためには, 脂質摂取についても考慮すべきであることも示した。その他, ビタミンKの骨での作用に対する必要量や, ビタミンE摂取量と高血圧症との関係についても報告し, 脂溶性ビタミン類のヒトの健康に対する臨床的意義を示した。
著者
野田 聖子 山田 麻子 中岡 加奈絵 五関‐曽根 正江
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.101-108, 2017 (Released:2017-06-23)
参考文献数
36

アルカリホスファターゼ (ALP) はリン酸モノエステルを加水分解する酵素であり, 小腸に局在する小腸型ALPは脂質代謝との関係が示唆されているが, その生理機能は未だ不明な点が多い。本研究では, ヒト結腸癌由来細胞で, 培養後に小腸上皮様細胞に分化するCaco-2細胞を用いて, ビタミンK2の1種であるメナキノン-4 (MK-4) がALP発現へ及ぼす影響について検討を行った。コンフルエント後14日間培養し, Caco-2細胞にMK-4を添加 (MK-4濃度: 0, 1, 10 μM) した結果, MK-4濃度が1または10 μMのALP活性が0 μMと比べて, 有意に高値を示した。さらに, ヒト小腸型ALP遺伝子のmRNA発現量も, MK-4濃度1 μMで0 μMと比較し有意に高値を示した。本研究において, ヒト小腸上皮様細胞でのMK-4による小腸型ALP発現の増強作用について初めて示すことができた。今回の結果は, 小腸型ALP発現調節を介したビタミンK2の新たな生理機能の解明につながることが期待された。
著者
水野谷 航
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.3-9, 2016 (Released:2016-02-29)
参考文献数
38

骨格筋を構成する筋線維には遅筋タイプと速筋タイプが存在し, タイプ組成により筋組織全体の代謝能力や運動能力が決まる。我々は, まず筋線維タイプの指標分子であるミオシン重鎖 (MyHC) アイソフォームを明瞭に分離する電気泳動プロトコルを開発し, 食品栄養学的な処理, 具体的には脂肪代謝が促進される生理条件が筋線維タイプを変化させるか調べた。その結果48時間絶食させたラット骨格筋では, MyHC組成は変化せず, 4週間寒冷環境下 (4℃) で飼育したラット骨格筋では, 遅筋主体の筋組織で遅筋タイプのMyHCが増加することを明らかにした。また, 魚油を配合した飼料を4週間ラットに給餌した結果, 大豆油摂取群に比べ, MyHC組成が有意に遅筋タイプ側へ変化することを明らかにした。筋線維タイプは, これまで運動によってのみ変化すると考えられていたが, 我々の研究から, 食品栄養学的処理でも筋線維タイプを制御できることが分かった。
著者
長澤 孝志
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.3-10, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
29

食品成分による筋萎縮抑制機構を明らかにするためには, 合成や分解に関わる因子の活性を測定するだけではなく, 合成・分解速度を直接測定することが重要である。骨格筋 (筋原線維) タンパク質の分解速度を測定するために, 3-メチルヒスチジンを用いた方法を尿だけではなく血中, 動静脈差, 後肢筋灌流, 単離筋肉切片, 培養筋細胞においても応用し, 正確かつ短期間の骨格筋タンパク質の分解速度を評価する方法を確立した。この方法を用いて, ラットにおいてロイシンやリシンの摂取により骨格筋タンパク質の分解を抑制できることが示され, その機構としてAktを介したオートファジー形成のダウンレギュレーションであることが明らかになった。リシンの筋萎縮抑制効果は, 加齢に伴う筋肉量の減少 (サルコペニア) のモデルであるSAMP8マウスにおいても認められた。このように, アミノ酸の摂取は骨格筋タンパク質の合成だけでなく, 分解も調節することで, 低栄養, 加齢, 疾病時の筋萎縮を抑制できることが期待される。
著者
青江 誠一郎 小前 幸三 井上 裕 村田 勇 峰岸 悠生 金本 郁男 神山 紀子 一ノ瀬 靖則 吉岡 藤治 柳沢 貴司
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.283-288, 2018 (Released:2018-12-17)
参考文献数
24
被引用文献数
1 2

本研究は, 異なる配合率のモチ性の大麦品種「キラリモチ」混合米飯の摂取が米飯と比較して食後血糖値の上昇を配合率依存的に抑制するかとGlycemic Index (GI) が配合率依存的に低下するか検証するため実施した。対象は健常な成人10名 (男性6名, 女性4名) とした。糖質50 g分の米飯 (基準食) とモチ性大麦の配合率が30, 50, 100%の大麦混合米飯 (試験食) のそれぞれを摂取し, 摂取前および摂取開始から15, 30, 45, 60, 90, 120分後の血糖値を測定した。血糖値, 血糖値上昇曲線下面積 (IAUC) , Glycemic Index (GI) について解析した。大麦の配合率が増加するほど血糖値とIAUC0-120が低下した。GIは, 基準食を100とした場合, 大麦配合率30, 50, 100%でそれぞれ, 79.7, 67.5, 48.3であった。モチ性大麦混合米飯には, β-グルカン量に依存して米飯と比較して血糖値の上昇を抑制する効果が示唆された。
著者
高木 絢加 谷口 彩子 駒居 南保 村 絵美 永井 元 森谷 敏夫 永井 成美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.19-25, 2014 (Released:2014-03-03)
参考文献数
30
被引用文献数
2 1

炭酸水の口腔内刺激 (清涼感) に着目し, 炭酸水の飲水が実体温をどの程度変化させるのか, その反応は炭酸の口腔内刺激のみでも起こるのかどうかを明らかにするために, 等温・等量の炭酸水と水を用いた飲用試験と偽飲 (Sham-feeding;SF) による口腔内刺激のみの試験を行った。炭酸水の飲水 (炭酸水) , 水の飲水 (水) , 炭酸水の偽飲 (炭酸水SF) , 水の偽飲 (水SF) の4試行をrandomized crossover designで実施した。前夜10時より絶食した若年女性13名に, 室温を26℃に保持した実験室で異なる日の朝9時にサンプル (15℃, 250 mL) を負荷した。心電図 (心拍数, 心拍変動) をサンプル負荷前20分間および負荷後40分間測定し, 深部体温 (鼓膜温) , 末梢体温 (足先温) を高感度サーモセンサーで連続測定した。鼓膜温は水・炭酸水ともにSFでは変化せず, 飲水で一過性に低下した。足先温は, 飲水 (水, 炭酸水) で約2.5-3℃低下し, 水SFでは約1℃の低下であったのに対し炭酸水SFでは約2.5℃の低下を認めた。心拍数は, 炭酸水, 炭酸水SFで負荷直後に一過性に上昇した。結果より, 炭酸水の口腔内刺激 (味, 炭酸刺激) のみでも足先温や心拍数を変化させることが示された。
著者
松村 成暢
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.231-235, 2018 (Released:2018-10-19)
参考文献数
11

油脂を多く含む食品は魅力的なおいしさ (嗜好性) を持つ。我々はこれまでの研究により脂肪酸結合タンパク質CD36が舌の味細胞に発現していることを見出し, 油脂が受容体を介して味細胞を刺激することを示してきた。本研究ではGタンパク共役型の脂肪酸受容体GPR120が舌の味細胞に発現していることを新たに発見した。次に油脂の嗜好性の脳内メカニズムについて検討を行った。嗜好性の高い食品の摂取は脳内でβエンドルフィン分泌を促進することが知られている。そこで, マウスに油脂を摂取させ検討したところ, 脳内でβエンドルフィンニューロンが活性化されることが明らかとなった。βエンドルフィンは快感を生み出す神経ペプチドであることから, 油脂はCD36とGPR120を介して味細胞を刺激し, 味覚神経を介して脳内でβエンドルフィン分泌を引き起こす。これが快感を生み出し, 油脂の高い嗜好性の発生に関与する可能性を示した。
著者
伴野 太平 小森 ゆみ子 鈴木 聡美 田辺 可奈 笠岡 誠一 辨野 義己
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.229-235, 2016 (Released:2016-10-21)
参考文献数
32
被引用文献数
1

さつまいもの一種である紅天使を健康な女子大学生22人に摂取させた。加熱後皮をむいた紅天使の食物繊維は2.9 g/100 gだった。摂取開始前1週間を対照期とし, その後1週間単位で紅天使を1日300 g, 0 g, 100 gとそれぞれ摂取させた。排便のたびに手元にある直方体の木片 (37 cm3) と糞便を見比べ便量を目測した。その結果, 対照期には1.8±0.2 (個分/1日平均) だった排便量が, 300 gの紅天使摂取により約1.6倍に, 100 g摂取により約1.5倍に増加した。排便回数も紅天使摂取量の増加に伴い増加した。300 g摂取でお腹の調子は良くなり便が柔らかくなったと評価されたが, 膨満感に有意な変化はなかった。各期の最終日には便の一部を採取し, 腸内常在菌構成を16S rRNA遺伝子を用いたT-RFLP法により解析した結果, 紅天使摂取により酪酸産生菌として知られるFaecalibacterium属を含む分類単位の占有率が有意に増加した。
著者
岡崎 由佳子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.9-14, 2021 (Released:2021-02-27)
参考文献数
22

本研究では, 大腸内の細菌叢, 発酵産物, ムチン, 免疫グロブリンA (IgA) およびアルカリホスファターゼ (ALP) 等の因子を調節する食品因子について検討を行った。著者らは, 北海道産食品のユリネの研究をもとに, ユリネに含まれるグルコマンナン等の水溶性食物繊維や難消化性オリゴ糖が共通して, 大腸特異的にラットALP活性を増加させ, この作用に腸型ALP遺伝子 (IAP-I) の発現誘導が関与することを見出した。また, 難消化性糖質摂取による大腸ALP増加と栄養条件との関連性について検討を加え, オリゴ糖摂取による大腸ALP活性と遺伝子発現上昇作用は, 摂取する脂質の種類により異なることを見出した。さらに, 難消化性糖質摂取による大腸ALP活性上昇は, これまでその増加作用が報告されていた糞中ムチン含量, Bifidobacterium spp.の割合および酪酸含量といった, 腸内環境の機能維持に関わる因子と正の相関関係にあることを明らかにし, 大腸ALP活性増加の大腸内環境機能維持への関与について考察した。
著者
武本 智嗣 舟場 正幸 松井 徹
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.157-163, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
32

現代的な食生活は脂肪とスクロースの過剰摂取を特徴としており, 低いマグネシウム (Mg) 摂取量もしばしば認められている。本試験では, 脂肪およびスクロースの過剰摂取がMgの生体利用性に及ぼす影響を検討した。5週齢のWistar系雄ラットに, 対照飼料, 脂肪とスクロース過剰 (HFS) 飼料, Mg欠乏 (MD) 飼料, 脂肪とスクロース過剰およびMg欠乏 (HFS + MD) 飼料を4週間給与した。Mg欠乏飼料を給与したMD区およびHFS + MD区で典型的なMg欠乏症である皮膚の炎症が認められ, HFS + MD区ではMD区より早期に皮膚の炎症が生じた。MD区およびHFS + MD区で骨中Mg濃度が低下し, 骨中Mg濃度はMD区よりHFS + MD区で低かった。一方, Mgが充足している場合, 脂肪とスクロース過剰摂取は骨中Mg濃度に影響を及ぼさず, 皮膚の炎症も引き起こさなかった。以上の結果から, 脂肪およびスクロースの過剰摂取は, Mg充足時にはその栄養状態に影響しないが, Mg欠乏飼料給与時にはMg欠乏を増悪することが明らかになった。
著者
山田 貴子 新谷 知也 飯田 哲郎 岸本 由香 大隈 一裕
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.271-278, 2017 (Released:2017-12-26)
参考文献数
39
被引用文献数
1 8

ブドウ糖果糖液糖のアルカリ異性化である希少糖含有シロップ摂取による血糖応答に及ぼす影響をヒト試験で評価した。グリセミック・インデックス (GI) 試験を行った結果, 希少糖含有シロップのGI値は49であった。次に, 空腹時血糖値126 mg/dL未満の成人50名を対象にランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバーによる低用量単回試験を行った。ショ糖6 gまたは希少糖含有シロップ8.8 g (同量のブドウ糖含有量) をコーヒーに溶解し摂取させ, 120分までの血糖値およびインスリン値を観察した。希少糖含有シロップはショ糖に比べて血糖AUC (曲線下面積) およびインスリンAUCが有意に低下し, 低下率は血糖1.8% (p<0.01) , インスリン6.1% (p<0.05) であった。以上の結果, 希少糖含有シロップはショ糖に比べ血糖応答およびインスリン値の上昇が低い低GI甘味料であることが示された。低用量単回試験は倫理委員会の承認後, 臨床試験登録システムUMIN-CTRに登録し実施した (UMIN000018120) 。
著者
大力 一雄 梁原 智晶 河津 祐子 牧野 聖也 狩野 宏 逸見 隼 浅見 幸夫
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.61-66, 2020 (Released:2020-04-15)
参考文献数
20

ストレスを感じているタクシードライバー100名をランダムに2群に割り付け, 一方にブルガリア菌 OLL1073R-1 株で発酵したヨーグルトを夏期に1日1本 (112 mL) , 12週間摂取してもらい, ヨーグルト非摂取群と比較した。ストレスの度合いは簡易ストレス度チェックリスト (以下, SCL) のスコアで, SCLの主な項目は個別にVisual Analogue Scaleで, 便性は日本語版便秘評価尺度により評価した。その結果, ブルガリア菌 OLL1073R-1 株で発酵したヨーグルト摂取群 (n=39) は非摂取群 (n=47) と比較して12週間後に 1) SCLのスコアが有意に改善し, 2) 「めまい・ふらつき」と「疲労感」が有意に改善し「頭のスッキリ感」および「睡眠の満足感」が有意に高まり, 3) 「便の排泄状態」と「下痢または水様便」が有意に改善した。以上からストレスを感じているタクシードライバーはブルガリア菌 OLL1073R-1 株で発酵したヨーグルトを摂取することにより夏場の体調が改善する可能性が明らかとなった。
著者
久保田 真敏
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.283-288, 2016 (Released:2016-12-28)
参考文献数
20
被引用文献数
1

米は日本において主食であり, エネルギー供給源としてだけでなくタンパク質の供給源としても重要な食品である。それにもかかわらず, 米タンパク質の生理学的機能性に関する研究は非常に限られている。著者らはこの米タンパク質に着目し, 栄養生理学的に基礎となる消化性ならびに機能性に関する研究を行った。その結果, 我々が摂取している精白米のタンパク質の1つであるプロラミンの消化性は炊飯処理で低下することを明らかにし, 逆にアルカリ抽出により精製した米胚乳タンパク質 (AE-REP) 中のプロラミンの消化性が高いことを in vivo レベルで証明した。さらに AE-REP を用いて機能性に関する検討を行ったところ, AE-REP は血漿総コレステロール, 肝臓中総コレステロールおよび中性脂肪の低下作用を有し, 糖尿病モデルラットでは AE-REP の摂取が糖尿病性腎症の進行を遅延させることを明らかにした。
著者
友竹 浩之 安富 和子 富口 由紀子 山下 紗也加 郡 俊之
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.207-213, 2020 (Released:2020-10-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

約2カ月間の健康増進教室参加者28名 (75±5歳 女性) の咀嚼能力, 握力, 食意識などを教室前後で比較し, 咀嚼, 栄養, 運動の指導の有効性について調べた。教室前後の調査項目は, 体重, 上腕周囲長, 下腿周囲長, 握力, 咀嚼能力 (チューインガム・グミゼリーを使用) , 食意識調査 (質問紙) , 栄養状態評価 (質問紙) とした。教室はテーマにそって, 講義と実習を行った (第2回「噛むことの大切さ」, 第3回「低栄養を予防する食べ方」, 第4回「運動の大切さと筋肉を鍛えるコツ」) 。教室実施期間中は, 咀嚼および栄養強化食品として高野豆腐を参加者全員に提供し, 摂取状況や噛むことの意識を毎日記録してもらった。参加者の教室前後の咀嚼能力を比較した結果, 有意に高くなっていた (チューインガム判定p=0.004, グミゼリー判定p=0.009) 。握力 (p=0.049) , 上腕周囲長 (p=0.012) も有意に増加していた。咀嚼の意識についての得点は, 教室前と比較して有意に高かった (p=0.016) 。
著者
二川 健
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.3-8, 2017 (Released:2017-02-17)
参考文献数
11
被引用文献数
1

Unloading環境ではタンパク質のユビキチン化が促進されるので, Unloading環境に暴露したラットの腓腹筋の遺伝子を網羅的に解析し, そのユビキチン化の原因遺伝子を探索した。その結果, 増殖因子のレセプターやその関連タンパク質を特異的にユビキチン化させるユビキチンリガーゼCbl-b (Casitus B-ligeage lymphoma-b) の発現が宇宙フライトにより増大していることを発見した。Cbl-bは, インスリン受容体基質タンパク質 (IRS-1) をユビキチン化し分解へと導くユビキチンリガーゼとして働き, 骨格筋におけるインスリン様増殖因子のシグナル伝達を負に調整していた。また, Cbl-bノックアウトマウスではUnloadingによる筋萎縮がほとんど起こらなかった。これらの所見より, Cbl-bが筋細胞の増殖因子受容体シグナル系を負に調節し, 筋萎縮を引き起こす重要な筋萎縮関連遺伝子の一つであることがわかった。この分子をターゲットにして, そのユビキチン化を阻害できる栄養素材も発見した (2件の特許取得) 。それは, Cbl-bとIRS-1の結合に対する阻害活性を有するDG (p) YMPペプチド (Cblinペプチドと名付けた) とその類似配列を持つ大豆グリシニンタンパク質である。これらはin vitroやin vivo実験においてCbl-bによるIRS-1のユビキチン化を抑制し筋量を増大させた。また, 大豆タンパク質添加食は寝たきり患者の筋力減少の抑制にも有効であった。以上の知見から, リハビリテーション以外に治療法のないUnloadingによる筋萎縮に対する新しい栄養学的治療法の概念も提唱する。