著者
森藤 雅史 市川 聡美 高橋 沙織 北出 晶美 木村 勝紀
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.103-112, 2022 (Released:2022-06-17)
参考文献数
26

野菜と異なる用量の発酵乳 (乳タンパク質, 乳酸菌代謝物, 植物油脂などを含む) を同時摂取した後のカロテノイドの血中濃度の違いを比較することを目的に, 18名の健常男性を対象として, 3群3期のランダム化クロスオーバー試験を実施した。野菜 (235 g), 野菜と低用量の発酵乳 (7.5 g), 野菜と高用量の発酵乳 (15 g) のいずれかを摂取し, 摂取前, 摂取2, 4, 6, 8時間後に採血を行い, 全画分, triacylglycerol rich lipoprotein (TRL) 画分の血漿カロテノイドを測定した。TRL画分血漿α-カロテン, β-カロテン, リコペンの上昇曲線下面積 (iAUC) は, 野菜摂取とくらべ, 野菜と発酵乳の摂取により低, 高用量ともに有意に高値となった。全画分血漿ルテインのiAUCは, 野菜摂取とくらべ, 野菜と高用量発酵乳の摂取により有意に高値となった。これらの結果から, 野菜と発酵乳の摂取は, 野菜のみ摂取したときとくらべ, カロテノイドの吸収を促進させる可能性が示唆された。
著者
高橋 純一
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.113-118, 2022 (Released:2022-06-17)
参考文献数
23
被引用文献数
1

ニホンミツバチApis cerana japonicaのハチミツは, 自然発酵することが知られている。しかし, 発酵したハチミツは, 販売されることがほとんどない未利用資源となっている。本研究では, 発酵したニホンミツバチのハチミツを食品として利用するため一般成分と25種の遊離アミノ酸を分析した。発酵したハチミツは, グルタミンやGABA, シスチン, フェニルアラニン, プロリンの5種で大幅な含有量の増加が確認された。さらに, 未発酵のハチミツでは未検出であったヒスチジンやシトルリン, テアニン, シスチン, メチオニン, トリプトファンの6種が発酵したハチミツのみに確認された。一方で, 一般栄養成分には大きな相違は見られなかった。発酵したハチミツのみで増加していた遊離アミノ酸の存在が, 今回はじめて確認された。これらのアミノ酸は, ヒトやミツバチにとって有用であることから, 未利用資源である発酵ハチミツの利用が期待できる。
著者
鈴木 麻希 泉 杏奈 村 絵美 林 育代 森谷 敏夫 永井 成美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.163-171, 2016 (Released:2016-08-26)
参考文献数
26

エネルギーを有さない人工甘味料のスクラロースが食欲感覚や胃運動に及ぼす影響を, スクロースとの比較により明らかにすることを目的とした。15℃で150 mLのスクラロース溶液 (SR) , 等温・等量・同程度の甘さのスクロース溶液 (S) , コントロール (軟水, W) を, 異なる日の朝9時に前夜22時より絶食した若年女性に負荷した。30 mLずつ分注したサンプルを口に含み口腔内に十分に行き渡らせてから飲み込む方法で甘味刺激を5回繰り返し, 0・1・5杯目の甘味の感じ方を調べた。胃電図, 心電図 (心拍数) , 体温は, サンプル摂取20分前から摂取65分後まで測定し食欲感覚は15分毎に評価した。SとSRともに摂取直後の食欲を一過性に抑制しSRで低下が顕著だった。その後の食欲は溶液の甘味を強く感じるほど高まった。胃電図の応答はSとSRで異なり, 心拍数増加はSでのみ認められた。本結果よりSRは心拍数や体温は上昇させないが, 一過性に食欲を抑制し異なる胃運動を示すことがSとの比較において示唆された。
著者
山下 陽子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.77-82, 2022 (Released:2022-04-19)
参考文献数
23

近年, 食品の三次機能である生体調節機能を持つ食品成分に注目が集まっている。筆者は, 多様な機能性を有することが明らかにされているポリフェノールのうち, プロシアニジンやテアフラビンなどの縮合型タンニンの生体調節機能の検証を行ってきた。これらのポリフェノールは, ほとんど体内に吸収されない難吸収性であり, 生体利用性が低いと考えられている。本稿では, 難吸収性のポリフェノールの特性に着目して, 消化管を起点とする新規な生体調節機能として, 消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1 (GLP-1) の分泌促進を介した肥満・高血糖予防作用とその作用機構について解説する。また, 難吸収性ポリフェノールによるGLP-1分泌促進作用は, 血管内皮型一酸化窒素合成酵素の活性化を介した血管機能の向上にも寄与することも紹介する。さらに, プロシアニジンの生体調節能と体内時計の関係についても触れる。これらのことから, 難吸収性のポリフェノールは多臓器間のシグナルネットワークを介してさまざまな生体調節機能を発揮しうることと, 機能を発揮するのに適したタイミングがあることがわかった。
著者
森田 達也
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.63-69, 2022 (Released:2022-04-19)
参考文献数
27

従来, 小腸における食物繊維の生理作用は, 同時に摂取した栄養素と食物繊維との消化管内における相互作用を反映した結果から論じられ, 食物繊維の消化管自体に対する作用を研究した例は限られていた。本総説では, 食物繊維摂取時の小腸杯細胞応答とムチン分泌量について, 主に食物繊維の嵩と粘性から解析した結果について紹介し, 小腸由来ムチンが発酵代謝産物である短鎖脂肪酸を介して宿主‐腸内細菌の相利共生関係を下支えする内因性食物繊維として機能することについても言及する。さらに, 植物細胞壁由来の古典的食物繊維にくわえ, 近年, 新しい食物繊維素材として注目されている消化抵抗性デンプンや難消化性デキストリン類の消化管内動態を推定する上で, 現行のProsky消化を基本とする食物繊維定量法を用いることの妥当性を議論した。
著者
田中 照佳
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.71-76, 2022 (Released:2022-04-19)
参考文献数
8

腹部大動脈瘤は, 腹部大動脈の進行的な拡張を特徴とする疾患である。腹部大動脈瘤の詳細な発症メカニズムは不明であるため, 有効な治療薬の開発には至っていない。我々は, ヒトおよび腹部大動脈モデルマウスに破骨細胞が存在することを世界で初めて発見し, この破骨細胞が動脈瘤の発症に関与することを明らかにした。また, 高血糖は動脈瘤発症のネガティブリスクファクターであることが知られているが, 本研究ではその詳細な解析を明らかにした。糖尿病モデルマウスに動脈瘤形成を誘導化したところ, 高血糖によりマクロファージ活性化が抑制されたことにより, 動脈瘤形成は有意に抑制され, これらのメカニズムにLiver x receptorが関与することを明らかにした。さらに, 破骨細胞の分化を抑制するクズイソフラボンであるプエラリンを動脈瘤モデルマウスに投与すると動脈瘤形成は有意に抑制された。これらの知見により, 今後は破骨細胞を標的とした腹部大動脈瘤の治療のための臨床研究や食品・栄養成分による予防法の確立が期待される。
著者
吉田 博
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.3-10, 2022 (Released:2022-02-23)
参考文献数
38

動脈硬化性心血管疾患の予防には, 脂質異常症をはじめとする多様な危険因子の包括的管理が重要である。代表的な危険因子である脂質異常症の治療は, 薬物療法に先んじて食事療法が基本であり, そのなかで機能性食品等の役割も期待される。また, LDLコレステロール (LDL-C), HDLコレステロール (HDL-C), トリグリセライド (TG) などの血清脂質の量的評価のなかで, LDL-Cの高値は主要な動脈硬化リスク因子として位置付けられているが, 高TG血症やHDL-Cの低値はリスク因子として未解決の課題がある。我々は動脈硬化危険因子に対するより優れた包括的な管理の確立を目指し, ビタミンEやカロテノイドなどの抗酸化物質により脂質代謝関連バイオマーカーの改善, 血清脂質の量的精密分析および質的評価の開発などをはじめ, 一貫して代謝栄養学的な研究を展開してきた。これらの成果が人々の健康寿命の延伸に役立つことを期待する。
著者
上原 万里子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.281-289, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
31

食品の成分には, ミネラル, ビタミンおよび植物性機能物質などが含まれている。これらは微量ではあるが, 糖・脂質・タンパク質代謝, 骨代謝, あるいは複数の代謝系を調節する重要な作用を有している。著者らは, 植物エストロゲンの臨床研究応用を目指した時間分解蛍光免疫測定法 (TR-FIA) を開発し, 自身の基礎研究にも応用した。フラボノイドの代謝には腸内環境が影響することから, プレバイオティクスとの併用摂取による代謝変動と骨粗鬆症モデルに対する効果を検討した。イソフラボン代謝産物のequolには鏡像異性体が存在し, (S) 体の方が (R) 体よりも生体利用率が高く, 骨量減少抑制作用も強いことが示唆された。柑橘系フラボノイドのhesperidinは, コレステロール合成経路を介して骨量減少抑制することが推察された。抗炎症作用を有する含硫化合物のsulforaphaneは, 従来の破骨細胞分化因子の抑制に加え, 破骨細胞融合分子の抑制を介し, 破骨細胞分化を制御することを明らかにした。鉄欠乏状態では脂質過酸化は起こりにくいとされて来たが, これまでの定説とは逆の鉄欠乏が惹起する生体内酸化メカニズムの一端を明らかにした。さらに, 鉄欠乏時のβ-カロテンおよびα-トコフェロールの代謝変動は, これらビタミン代謝に関与する鉄含有酵素により引き起こされる可能性を示唆した。
著者
矢島 由佳 髙澤 まき子 鈴木 裕一
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.297-305, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
44

味覚は, 栄養素を感知する機能を介してエネルギーや栄養素の摂取量の調節に大きな役割を果たしている。本研究の目的は, 味覚感受性が季節変動を示すかどうかを明らかにすることである。女子大学生を対象に, 夏期 (7月下旬‐8月上旬) と冬期 (1月下旬‐2月上旬) の2回にわたって, 塩味, 酸味, 甘味, うま味, 苦味の基本5味の刺激閾値と認知閾値について測定した。その結果, 刺激閾値は塩味と甘味について夏期よりも冬期の方が有意に上昇していた。認知閾値についても, うま味以外の4つの味 (塩味, 酸味, 甘味, 苦味) について夏期より冬期の方が有意に上昇していた。以上より, 冬期には味覚感受性が全般的に低下していることが示唆された。
著者
福田 ひとみ 小宮 ますみ 安田 弘子 入谷 信子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.69-72, 1997-02-10

合成飼料の基本食にキャベツ, ニンジン, ダイコンを"生", "ゆで", "おろし"として添加し, ラットに2週間投与した。その結果, キャベツやニンジンなどの野菜の摂取により血漿, 肝臓中のChol低下作用は認められなかったが, キャベツやニンジンの投与で一連の脂肪酸合成系酵素の活性が低下し, 肝臓TGもまた低下した。そして, これらの低下作用は"生"で効果的であった。ダイコンではその低下作用が認められなかった。その機構は未解決であるが, 野菜の摂取と同時にその調理方法もまた脂質低下作用に影響することが示唆された。
著者
大森 平野 玲子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiy◆U014D◆ shokury◆U014D◆ gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.3-9, 2007-02-10

動脈硬化を発症および進展させる要因として, 低比重リポタンパク (LDL) が質的変化を受けた酸化LDLの関与が指摘されている。著者らは<i>in vitro</i> においてLDL酸化過程でビタミンCのほか, カテキン類にもビタミンEラジカル再生力が備わっていること, 野菜や豆類における検討から, ポリフェノールは食品のLDL酸化抑制効果と高い関連性をもつことを明らかにした。また, 健常人を対象とした試験から, カカオならびに緑茶は効果的な抗動脈硬化作用食品であることを確認した。次に, 冠動脈造影を施行した症例を対象に, 動脈硬化性疾患の予防に効果的な食品の調査を行った結果, 緑茶の飲用習慣をもつ人はもたない人に比べ, 心筋梗塞の発症頻度が低いことを明らかにし, さらに冠動脈疾患に繋がりやすい遺伝子多型をもつ場合, 緑茶の飲用習慣によって心筋梗塞を予防できる可能性を示した。以上の結果は, 動脈硬化性疾患を予防する上で, 抗酸化物質を有する食品摂取の重要性を示唆するものと考えられる。
著者
中出 麻紀子 木林 悦子 諸岡 歩
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.265-271, 2021 (Released:2021-10-18)
参考文献数
12
被引用文献数
3

本研究では若年成人における主食・主菜・副菜の揃った食事と関連する食習慣について明らかにすることを目的とし, 平成28年度ひょうご食生活実態調査に参加し, 回答に欠損のない20, 30歳代の男女343名のデータを解析した。主食・主菜・副菜の揃った食事 (1日2回以上) の頻度により, 高頻度群 (週4日以上) と低頻度群 (週3日以下) に分け, 食習慣項目をカイ二乗検定で比較した後, 属性項目で調整した二項ロジスティック回帰分析を行った。その結果, 高頻度群, 低頻度群の人数と割合はそれぞれ227 (66.2%), 116 (33.8%) であった。二項ロジスティック回帰分析の結果, 朝食摂取頻度 (週4日以上), 外食頻度 (週3回以下), 米飯の食事摂取頻度 (朝食, 昼食, 夕食) (5日以上) の人は, そうでない人と比較して高頻度群の割合が有意に多かった。以上より, 朝食摂取頻度や米飯の摂取頻度が高いこと, 外食頻度が低いことは主食・主菜・副菜の揃った食事頻度が高いことと関連することが示唆された。
著者
勝川 史憲
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.255-263, 2021 (Released:2021-10-18)
参考文献数
28

「日本人の食事摂取基準2020年版」は, 健康の保持・増進, 生活習慣病 (高血圧, 脂質異常症, 糖尿病, 慢性腎臓病) の発症予防および重症化予防に加えて, とくに高齢者の低栄養予防やフレイル予防も視野に入れた策定が行われた。エネルギーについては, 摂取量と消費量の出納バランスが適切なレベルで維持されている状態を示す指標としてBMIを採用した。目標とするBMIの範囲は, 観察疫学研究で最低死亡率を呈するBMIをもとに4つの年齢階級別に設定し, 高齢者 (65歳以上) では, 実際のBMIの分布や肥満に伴うdisabilityのリスク等も考慮した。本稿では, エネルギーに関する概要とともに今後の課題をまとめた。
著者
坂本 元子 杉浦 加奈子 香川 芳子 池上 幸江 江指 隆年 倉田 忠男 斎藤 衛郎 鈴木 久乃 八尋 政利 吉池 信男
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.311-317, 2001-10-10
被引用文献数
5 1

食品に含有する栄養成分についての表示が国際的な流れの中で, 急速に, また複雑な形で市場に出回ってきている。そのため, 厚生労働省では「栄養成分表示基準制度」を平成8年に発足し, 国民の普及啓発がすすめられている。食品表示制度の発足と市場にあふれる食品表示情報に対し, 消費者はどのような対応をし, どのように活用しているのか, さらに表示の内容, 方法, それに対する意識について調査をし, 消費者の現状について検討した。表示があることは約70%の人が認知しているが, 毎日の使用はまだ低率である。表示栄養素のニーズは, 主要栄養素を中心に女子ではエネルギー, 脂肪が多く, 男子ではミネラル類が多い。しかし, 日本人に不足している栄養素, カルシウムや鉄分, 過剰なもの, 脂肪やコレステロールについては表示へのニーズが高く見られた。表示の活用目的では男女, 年齢を問わず, 健康上の理由や食べ物に注意が必要なときが多く, 健康意識の高まりや健康維持のために使用を目指す人が多く, とくに高齢者層に多く見られている。栄養成分表示の利用について主要なポイントは,「自分の必要量がわからない」ために, どれくらいとっていいかが不明であるという指摘が見られた。今後の表示内容・方法の検討に重要な示唆となるであろう。
著者
大嶋 萌永 鈴木 絵莉花 井原 勇人 永井 宏平 岸田 邦博
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.155-169, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
51

フルクトースの過剰摂取は, メタボリックシンドローム発症との関連が指摘されている。油脂は, 構成する脂肪酸により生理作用が大きく異なる。本研究は, 高フルクトース食に含まれる油脂の違いがラット脂質代謝に与える影響を比較した。ラードを対照として魚油, 大豆油または中鎖脂肪酸油を含む高フルクトース食をラットに4週間給餌したところ, 魚油群は, 著しい脂質代謝改善作用が認められた。大豆油群は, 肝臓脂質の低下が認められたが, 魚油群と比較してその作用は小さかった。中鎖脂肪酸油群は, 腸間膜脂肪における脂肪酸合成関連遺伝子の発現が著しく高く, 脂質代謝改善作用は観察されなかった。肝臓タンパク質発現プロファイルは, 魚油群が特徴的であり, 脂肪酸酸化や酸化ストレス応答に関連するタンパク質発現の上昇が認められた。これらの結果から, 高フルクトース食給餌下における油脂の生理作用の違いが明らかになった。
著者
安井 健 松本 万里 渡邊 智子 安井 明美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.171-180, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
7

日本食品標準成分表2020年版 (八訂) (以下, 2020年版) では, 日本食品標準成分表2015年版 (七訂) (以下, 2015年版) で利用していたエネルギーの計算方法を変更している。本講座では, 2020年版のエネルギー計算方法, 特に, 2020年版で利用している収載値の不確かさの程度によって, 利用可能炭水化物 (単糖当量) あるいは差引き法による利用可能炭水化物のいずれかを用いるかを決定する方法について解説する。次いで, 2020年版に収載している食品のエネルギー値について, 2015年版のエネルギー換算係数とエネルギー計算方法によるエネルギー値とを比較し, 食品群別, 2015年版でエネルギー計算に利用したエネルギー換算係数の由来別および2020年版でエネルギー計算に利用した主なエネルギー産生成分の成分項目の組み合わせ別のエネルギー値の違いを説明する。さらに国民健康・栄養調査の基礎データを用いて, 摂取エネルギーへのエネルギー値の変更の影響を見る。
著者
松岡 亮輔 木村 守 有満 和人 兒嶋 高志
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.147-154, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
29
被引用文献数
1

卵白タンパク質は, 栄養機能は高いことは知られているものの, 健康機能についてはほとんど研究されていなかった。そこで, 卵白タンパク質が良質なタンパク源という特徴に着目し, 基礎的な研究を行ったところ, カゼインと比較して, 体タンパク質量, 筋肉量を増加させるとともに, 体脂肪量および内臓脂肪量を減少させることが示された。しかし, ヒトが卵白を多量に継続摂取することは比較的困難であったため, 卵白を乳酸発酵させることで, 風味を良くした「乳酸発酵卵白」を開発した。内臓脂肪が多めのヒトを対象とした試験を実施したところ, 「乳酸発酵卵白」は内臓脂肪型肥満を改善し, その効果は, 主にオボアルブミンによる脂質の吸収抑制によって引き起こされている可能性が示された。この「乳酸発酵卵白」は血清LDL-コレステロール濃度が高めの被験者で, 血清LDL-コレステロール濃度を低下することもわかった。卵白「乳酸発酵卵白」は, 生活習慣病の予防に活用できるタンパク源として, 人々の健康維持・増進に貢献することが期待された。
著者
奥田 輝雄 川北 兵蔵
出版者
JAPAN SOCIETY OF NUTRITION AND FOOD SCIENCE
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.16, no.5, pp.420-424, 1964

学校給食パンの品質改善のためには, まず, その現状を知る必要があるので各小学校から採取した試料につきパンの脂肪量を測定し, 同時に学校給食パン加工指定工場から採取した原料小麦粉およびショートニングの品質を検討し, 次の結果をえた。<BR>1) パンの脂肪量は昭和35年においては推定平均値の範囲が1こ取りコッペパンで<I>x</I>=3.29±0.293%, 2こ取りコッペパンで<I>x</I>=2.98±0.426%, 食パンで<I>x</I>=3.32±0.258%と偏りが大きかったが, 昭和36年には, 1こ取りコッペパン<I>x</I>=3.24±0.088%, 2こ取りコッペパン<I>x</I>=3.43±0.211%, 食パン<I>x</I>=3.37±0.145%というところまで改善された。<BR>2) ショートニングはほぼJASに合格し, 品質管理が比較的よく行なわれていた。<BR>3) 小麦粉の主な成分量は個々については製粉会社別に差がみられ, 検収規格に合格しないものもあったが, おおむねそれらに近かった。ただ, 蛋白, 灰分量に差が認められたことは品質管理上, 今後検討を要するものと考えた。<BR>4) エクステンソグラムにおいて製粉会社別に明らかな差がみられ, この物理的性質の相違が主要工程に大きな影響があるものと推測した。
著者
岸本 良美
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.121-126, 2021 (Released:2021-06-14)
参考文献数
14

食品に含まれる機能性成分の疾病予防効果を解明するためには, 基礎研究, 臨床研究, 疫学研究を含めた多面的な検討が必要である。筆者は主にポリフェノールとカロテノイドに着目し, 低比重リポタンパク質 (LDL) の酸化や炎症の抑制, 血管機能改善など多様な機能により動脈硬化性疾患の予防につながる可能性を検討してきた。また, 日本におけるこれらの摂取量や摂取源についてはほとんど知見がなかったことから, 日本でよく食される食品の総ポリフェノール量を測定, データベースを構築し, いくつかの集団においてポリフェノール摂取量を推定した。さらに, 健康診断受診者や冠動脈造影検査受診者を対象にした横断研究や, 地域住民を対象とした前向きコホート研究において, ポリフェノール摂取量が酸化ストレス指標や, 冠動脈疾患リスクと負に関連することを報告した。これらの知見は, 機能性食品成分による動脈硬化予防作用の解明に資するとともに, 日本人における食と健康に関するエビデンスとしても重要であると考えられる。
著者
芦田 均
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.213-223, 2017 (Released:2017-10-23)
参考文献数
43

ポリフェノールは生活習慣病をはじめとする様々な疾病の予防・改善に関わる機能性を発揮することが期待されている。本稿では, フラボノイドによる薬物代謝系調節作用機構と肥満・高血糖予防作用機構について, われわれの知見を中心に解説する。薬物代謝系調節作用機構の鍵分子であるアリール炭化水素受容体 (AhR) に対して, フラボノイドは, そのサブクラスの構造に依存した抑制効果を示す。特に, フラボンとフラボノールは, AhRのアンタゴニストとして作用することで, 化学発がん物質による薬物代謝酵素の発現誘導を抑制する。肥満予防効果の鍵分子は, さまざまな組織でエネルギーセンサーとして働くAMP活性化プロテインキナーゼ (AMPK) であり, 一方で, 高血糖予防効果の鍵分子はグルコース輸送担体4型 (GLUT4) である。また, 筋肉細胞においてはAMPKがGLUT4の細胞膜移行を促進する。これらの鍵分子に対するポリフェノールの作用例を紹介する。