- 著者
-
青野 幸平
- 出版者
- Research Center for Price Dynamics, Institute of Economic Research, Hitotsubashi University
- 巻号頁・発行日
- 2009-03-30
2009年3月27日
本論文では,日本における金融政策の株式市場,債券市場への影響を明らかにする為に,4つの分析を行っている.1つ目は,日本における株式収益率や債券収益率に予測可能性があるかどうかについての分析である.青野(2008)では,株式市場のみを対象にしていたが,本論文では,Campbell and Ammer(1993)の分析手法に倣い,株式市場に関連する変数と債券市場に関連する双方の変数を含むVAR体系を利用し,株式市場と債券市場を分析している.その結果,株式収益率には,青野(2008)と同様に,予測可能性が存在する事を確認するとともに,債券収益率にも予測可能性が存在する事を確認した.2つ目は,Kuttner(1996)やBernanke and Kuttner(2005)で利用されている,先物金利を利用した「Surprise」変数に対応する変数を,日本のデータを用いて作成した上での時系列分析である.本論文では,日本における先物金利として,Honda and Kuroki(2006)と同様に,「先物ユーロ円3ヶ月もの」を利用した.その結果,株式収益率・債券収益率に対して,「Surprise」変数だけが有意に説明能力を持つ事が確認出来た.この結果より,本論文で作成した金融政策変数が「予期されない」金融政策の代替変数として,一定程度有効に機能していると判断出来る.3つ目は,「Surprise」変数を用いて,産業別の株式収益率に対する金融政策の影響を分析した.この結果,「非鉄金属・機械・小売業」などの業種では「Surprise」変数が有意に説明能力を持つが,公共性の高い「電気・ガス」や,「水産・農林業」などの第1次産業,政府の規制が強い「保険業」・「空運業」などの業種では,「Surprise」変数が有意な説明能力を持たず,金融政策の影響を受けにくい事を確認した.4つ目は,これまでの分析を踏まえた上で,アメリカでのBernanke and Kuttner(2005)における分析に倣った,「Surprise」変数を用いた金融政策に対する株式市場と債券市場への影響についての分析である.結果は,短期において,金融政策が株式市場に影響を与えるものの,その効果は減少していく事が確認された.株式市場における「Campbell型分散分解」の各要因の反応係数を確認すると,配当と実質利子率の係数が正となった.これは,予期しない金融政策に対して,配当と実質利子率が正の方向に反応することを通じて株式収益率へ影響していることを示している.配当の反応はアメリカにおける結果とは異なっている.このことから,ショックの影響の源泉が日本とアメリカにおいて異なる可能性が推察された.債券市場における「Campbell型分散分解」の各要因の反応係数を確認すると,実質利子率とインフレ率の係数がとなった.これは,予期しない金融政策に対して,実質利子率とインフレ率が正の方向に反応することを通じて株式収益率へ影響していることを示している.
日本学術振興会・科学研究費補助金(学術創成研究費) = JSPS Grant-in-Aid for Creative Scientific Research
4th draft version