著者
遠藤 邦彦 石綿 しげ子 堀 伸三郎 上杉 陽 杉中 佑輔 須貝 俊彦 鈴木 毅彦 中山 俊雄 大里 重人 野口 真利江 近藤 玲介 竹村 貴人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

近年誰でも使うことができる地下データ(=ボーリング柱状図)が多数公開されるようになった.そのデータの密度は数年前とは比較にならない.またそれらを解析するツールも整っている.本研究は,東京23区内を中心に数万本余のボーリングデータを活用しつつ,その上に多くの地形・地質データなどアナログのデータを重ね合わせ,従来の点の情報を線,面に発展させることを目指す.地形の解析についても,国土地理院の5mのDEMを活用してQ-GISによって解析し,1mコンターのレベルで地形区分を見直した.こうした様々な情報を総合して,主に東京の台地部の中・後期更新世以降の地下構造を解明し,従来の諸知見(貝塚,1964;植木・酒井,2007ほか)を発展させることを目的とする.ボーリング資料の解析は,一定の深度を持つボーリング地点が集中する主要道路路線沿いに検討を進めた.環状路線:環八(笹目通り)・中杉通りと延長・環七・環六(山手通り)・環五(明治通り)・不忍通り、王子-中野通り,外苑西・東通り.放射状路線:桜田通り・目黒通り・首都高3号線(玉川通り)・青梅街道・新青梅街道・甲州街道(晴海通り)・川越街道・春日通り17号・小田急線-千代田線・世田谷通り・舎人ライナー・新幹線・ほかの合計30路線余について断面図を作成した.さらに,東京港地区(オールコア検討地区),中央区-港区沿岸低地,多摩川河口-羽田周辺,板橋区北部,赤羽台地~上野-本郷に伏在する化石谷などは短い多数の断面図を作成して,詳細な検討を加えた.以上の検討から見えてくるものは以下の通りである.遠藤(2017)は東京の台地部の従来の武蔵野面の範囲に,淀橋台と同様の残丘が存在するため、板橋区南部に大山面の存在を提唱した.その後の検討では大山面以外にも同様の残丘が和光市(加藤,1993)など各所に存在する.東京層は淀橋台や荏原台をはじめとし上記残丘のS面全域と,武蔵野扇状地面(M1,M2,M3面) の地下全域に存在し,基底部に東京礫層を持ちN値4~10程度の海成泥層が卓越する谷埋め状の下部層と,海成砂層を主体に泥質部を挟む上部層からなり,その中間付近に中間礫層を持つ.中間礫層は北部ほど発達がよい.さらに,埋積谷の周辺では広い波食面を形成し,貝殻混じりの砂礫層が波食面を覆うことが少なくない.基底礫と波食礫では年代を異にすると考えられるが,谷底か波食面上かに関わらず便宜的に基底部に存在する礫・砂礫層を東京礫層と呼ぶ.東京層はMIS6からMIS5.5に至るものと考えている.また,沿岸部の築地一帯~皇居・六本木周辺には東京層の1つ前のサイクルの築地層が高まりをなしており,東京層の谷はこれを挟んで、北側(神田~春日)と南側(品川~大井町)に分かれる.これらはほぼ現在の神田川の谷や目黒川の谷に沿う傾向がある.なお,大山面の地下に伏在する埋積谷は池袋付近から北に向かい,荒川低地付近では-20m以下となる.荏原台など,東京の南部では上総層群の泥岩が東京礫層の直下にみられることが多い.礫層は薄くなる傾向がある.東京最南部の東京層に相当する世田谷層(東京都,1999;村田ほか,2007)の谷は多摩川の低地に続く.東京層の泥層の分布はMIS5.5の時代にどこまで海進が達したかの参考になる.甲州街道沿いでは桜上水~八幡山あたりで武蔵野礫層によって切られて不明となる.青梅街道沿いでは荻窪のやや東方で武蔵野礫層によって切られているが,ともに旧汀線に近いものと予想できる.淀橋台相当面やその残丘の分布は,武蔵野扇状地の発達過程で重要な役割を果たしてきた.武蔵野扇状地の本体をなすM1a(小平)面(岡ほか,1971;植木・酒井,2007)は淀橋台と大山残丘群の間を抜けて東に向かった.目黒台(M1b面)は以前から指摘されている通り,淀橋台と荏原台の間を通り抜けた.現在の石神井川に沿ってM1a面の北側に分布するM2a(石神井)面は大山面と,赤塚~成増~和光付近の残丘群の間をぬけて東に流れた.M1a面の南側に分布するM2a(仙川)面は荏原台と田園調布台の間を通りぬけ流下した.北側の黒目川沿いのM2c, d面は,赤塚~成増~和光の残丘群を避けるように北向きに流れた.さらにM3面が多摩川下流部や赤羽台付近に形成された.M2,M3面は海水準の低下に応答したものと思われる.引用文献:貝塚(1964)東京の自然史.;植木・酒井(2007)青梅図幅;遠藤(2017)日本の沖積層:改訂版,冨山房インターナショナル;加藤(1993)関東の四紀18;東京都(1999)大深度地下地盤図;村田ほか(2007)地学雑誌,116;岡・ほか(1971)地質ニュース,206
著者
吉本 広平 増山 純二 土井 研人 中島 勧 橘田 要一 森村 尚登
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】2016年にSepsis-3 criteria(以下Sepsis-3)が提案され、救急外来(以下ER)においては敗血症患者のスクリーニングにquick SOFA score(以下qSOFA)の測定が推奨されている。しかしながら医療システムや患者分布の異なる本邦でのqSOFAの有用性は明らかでなく、またqSOFAは予後予測に対する感度に劣るとの問題点も指摘されている。【目的】細菌感染症が疑われるER受診患者におけるSepsis-3の臨床的妥当性を評価する【研究デザイン】単施設後方視的コホート研究【対象】2017年1~12月に地方基幹病院ERを受診した患者のうち細菌感染症として治療された者【方法】対象患者を後方視的に抽出後、トリアージ時点のバイタルサインおよびER受診時の血液データからqSOFA、SOFA、SIRSスコアを算出し、ROC曲線下面積(AUC)用いてprimary outcomeを院内死亡とした診断能を比較した。また臓器障害(SOFA2点以上の増加)を認める場合qSOFAに+1点を加えたqSOFA+(4点満点)を定義し、同様にしてqSOFAと比較した。【結果】対象はn=668(男351)、年齢中央値77、院内死亡率6.7%であり、罹患疾患は呼吸器(n=227)、消化器(n=164)、肝胆膵(n=106)の順であった。99名がqSOFA≧2を満たし、その死亡率は24.2%であった。qSOFAは院内死亡予測に対してSIRSより有意に優れ[AUC 0.75 (95%CI, 0.66-0.83) vs 0.60 (95%CI,0.51-0.68), P<0.001]、SOFAと同等であった[AUC 0.76 (95%CI 0.68-0.84), P=0.67]。qSOFA+はAUC 0.78(95%CI, 0.70-0.85)であり、各2点をカットオフポイントとした場合、予後予測に関してqSOFAの感度53%、特異度88%に対し、qSOFA+は感度76%、特異度70%であった。【結論】本邦ERにおいてもqSOFAはSIRSより明らかに予後予測に優れ、来院時に短時間で計算できるにも関わらず、SOFA scoreと同等の予後予測能を有する。また本邦外での報告と同様にqSOFAは特異度が高く感度に劣るが、来院時の臓器障害を加味することで感度向上が得られることが示唆された。
著者
前原 都有子 藤森 功
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【背景】肺炎の日本人の死因の第5位であり、肺組織への好中球浸潤や肺浮腫を伴う肺機能の低下を特徴とする。中でも、誤嚥や敗血症を起因とする急性肺障害は、40%の死亡率を示すが、有効な治療法はない。肺炎患者の気管支肺胞洗浄液中でプロスタグランジンF2α(PGF2α)の産生量が増加することが報告されているが、その機能は分かっていない。本研究では、急性肺障害におけるPGF2αの機能解析を目的とした。【方法】野生型マウスに塩酸(2 µl/g)を気管内に投与することで肺炎モデルを作製した。PGF2αの阻害剤であるAL8810は塩酸投与の1時間前に腹腔内に投与した。塩酸投与6時間後に、肺機能および炎症の評価を行った。【結果・考察】生食投与群に比べ塩酸投与群では、肺機能の低下を伴い、気管支肺胞洗浄液中への好中球の浸潤および浮腫形成が促進した。また、TNF-αやIL-1β、IL-6の遺伝子発現量が顕著に増加した。AL8810の前処置は、肺機能の低下および好中球の浸潤をさらに促進させたが、炎症性サイトカインの遺伝子発現量には影響を与えなかった。免疫組織化学染色によりPGF2αの受容体が気管支上皮細胞および肺胞マクロファージに発現していることが明らかになった。さらに、肺の伸展能を制御するサーファクタントプロテインBの遺伝子発現量がAL8810投与により顕著に低下した。これらの結果から、PGF2α受容体の阻害は、肺の伸展能を制御するサーファクタントの産生を減少させ、血管透過性を促進させることで、肺機能の低下および肺浮腫を促進させ、急性肺炎を悪化させることが示唆された。
著者
大戸 智絵 栗田 拓朗 瀧沢 裕輔 中島 孝則
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】アトルバスタチン錠とエゼチミブ錠は脂質異常症に対して処方される薬剤であり、二剤を配合したアトーゼット®配合錠も処方される。しかし、それぞれ単剤については一包化調剤が可能であるが、配合錠では光及び酸化を避けるため服用直前にPTP シートから取り出すこととの指示があり、一包化調剤することができない。そこでアトルバスタチン錠5mg(アトルバスタチン錠)とアトーゼット®配合錠LD(配合錠)を一包化調剤し、曝光条件で保存した際の主薬安定性について比較検討した。【方法】5銘柄のアトルバスタチン錠ならびに配合錠をPTPシートから取り出し、無包装品、セロポリ分包品、遮光品をそれぞれ用意し、25℃、60%RHの条件下にて総照度が120万、240万lux・hrになるまで曝光した。保存後の錠剤より主薬を抽出し、HPLCにより含量測定を行った。【結果】アトルバスタチン錠について、無包装品ならびセロポリ分包品ともに曝光後の主薬の平均含量残存率は、銘柄間で若干の差違はあるものの95%以上であった。また、配合錠に含まれるアトルバスタチンの含量残存率も、無包装品およびセロポリ分包品ともに95%以上であった。各遮光保存品について、含量低下は認められなかった。同条件で保存した配合錠中のエゼチミブについても、含量低下は認められなかった。【考察】光安定性について、アトルバスタチン錠ならびに配合錠の両製剤間で差異は認められず、一包化後も同様の安定性を保っていると考えられた。今後、溶出性についても検討する予定である。
著者
庄司 義則
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

最終氷期の北米大陸北部に、厚さ3,000m以上にも及ぶ巨大なローレンタイド氷床が形成されていた。そこにアガシー湖という巨大な氷床湖が形成され、その決壊が地球環境へ重大な影響を与えたという説が存在する。しかし、決壊の実態ははっきりしていなかった。そこで、NOAAから公開されている地形データを使い、自作ソフトを使って分析した。その結果、アガシー湖の水量は、これまでの説より遥かに少ない事が分かった。さらに、周辺の地形から見てアガシー湖は、大規模決壊するような湖ではない事も判明した。そこで、北米大陸の傾斜地図を作成したところ、アガシー湖付近に大規模決壊の侵食の痕とみられる地形が発見された。これにより、アガシー湖決壊は、別のさらに巨大な氷床湖決壊により引き起こされた事が判明した。本研究は、ローレンタイド氷床に存在した巨大氷床湖の決壊メカニズムと規模を考察したものである
著者
小沢一仁
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

1.問題と目的 エリクソンのアイデンティティ概念は,青年理解や人間理解,自己理解に寄与している反面,日本語への翻訳者による小此木(1973)や西平直(2011)においてその難解さが指摘されている。本発表では,エリクソンの記述の中で,斉一性と連続性に着目する。エリクソンは,アイデンティティ危機(以下ID危機)において斉一性と連続性が問題になるとしている(Erikson,1959)。しかし,主観的視点で意識において捉えると,斉一性と連続性が完全に断絶してしまうと,記憶喪失及び多重人格となる。このことから,ID危機においても,喪失されない斉一性と連続性と,ID危機で喪失される斉一性と連続性のふたつのレベルが考えられる。本発表では,前者の斉一性と連続性について概念検討を行うことを目的とする。2.概念検討に現象学的方法を用いる 竹田(1989)は,現象学的方法について確信成立の条件を明らかにすると述べている。この捉え方をもとに,主観的視点で意識において確信・体験・意味という3つのステップを設定し,ID危機においても喪失されない斉一性と連続性に適用していくことを試みる。3.ID危機でも喪失されない斉一性と連続性を現象学的方法で捉える(1)斉一性①社会の中で自分は生きているという確信 客観的視点では,根本的には現在ここいる個人が他の空間に移動しても同じ人間であることが斉一性である。主観的視点においては,斉一性と連続性とは,様々な空間で社会の中で自分が生きているという確信であるといえる。②様々な空間における身体的及び心理的体験 社会の中で自分が生きているという確信の根拠として,様々な空間で自分及び他者との間の活動で,五感における身体的体験と,感情や思考などの心理的体験を見出すことができる。③社会の中で自分が生きているという意味 社会とは他者と共に生きている空間であるという意味づけが根底にあるからこそ,様々な空間における他者との間の活動における身体的及び心理的体験が根拠となり,社会の中で自分は生きているという確信が成立していると考えられる。(2)連続性①生涯の中で自分は生きているという確信 客観的視点では,根本的には過去と現在,そして,将来の個人は同じ人間であることが連続性といえる。主観的視点においては,過去から現在そして未来へと自分が生きているという確信であると捉えることができる。さらに,時間の中で起点と終点を考えると,誕生から死までの生涯の中で自分が生きているという確信であるといえる。②過去の想起及び将来の予期という体験と伝聞情報を受け取る体験 竹田(1989)は現象学において,記憶を思い出すことを想起といい,将来の予想を予期といい,共に確信の根拠である体験となるとする。また,伝聞情報を受け取る体験も確信の根拠となるという。このことから,過去の自分を想起する体験,将来の自分を予期する体験が時間の中で自分が生きているという確信の根拠となっている。さらに,記憶がなく想起できない過去については,親などの養育者から誕生時の様子を伝聞情報として受け取る体験も,誕生から自分は生きているとい確信の根拠となっているといえる。③誕生から死までの生涯を生きるという意味 自分が生きていることは,誕生から死までの間の生涯である意味づけがあるとえる。つまり,生涯の中で自分が生きているという確信において,すべての時間の流れの中での記憶は想起されず断片的な想起でも,また充分な予期がなくても,自分は生涯を生きていると意味づけているといえる。(3)斉一性と連続性 以上より,主観的視点においては,斉一性と連続性とは社会及び生涯の中で自分が生きていること捉えることができる。この確信はID危機においても失われることはないものである。この捉え方を元に,鑪(1990)による斉一性と連続性の二つの図式をひとつにまとめると,誕生という起点から,時間的経緯の中で,社会の中という空間的円環において,死という終点まで生涯の中で自分は生きているという図式を描くことができる。4.課題 本発表で,斉一性と連続性をまず根底のレベルで捉えたことは,アイデンティティ概念を検討する上での基盤となったといえる。この基礎をもとに,ID危機において喪失される斉一性と連続性とは何かを検討していくことが今後の課題である。