著者
滝沢 優子 Yuko Takizawa
出版者
同志社大学国文学会
雑誌
同志社国文学 = Doshisha Kokubungaku (ISSN:03898717)
巻号頁・発行日
no.83, pp.15-25, 2015-12-20

小野宮実資の日記『小右記』の内容が、これを編集した養子の資平の意図による影響を受けていることを指摘する。「記録」「資(史)料」として扱われてきた漢文日記であるが、編集者の介在により『小右記』は、家の継承の過程を語る「物語」の性格を備えることとなった。有職故実書には不要な記述が、「物語」としての『小右記』の中で果たす役割を考察する。
著者
悪原 至
出版者
国立音楽大学大学院
雑誌
音楽研究 : 大学院研究年報 = Ongaku Kenkyu (ISSN:02894807)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.51-64, 2017-03-31

本論文は、ヤニス・クセナキス作曲の打楽器独奏曲《Rebonds》の音型構造を、群論の概念を用いて分析を行ったものである。《Rebonds》は“a”、“b”と異なる特徴を持つ2つの部分から構成されているが、“a”にはクラインの四元群、“b”には正六面体群の概念を分析に使用した。《Rebonds》の先行研究としては、グレッグ・ベイヤーによる黄金比の概念を用いたものがある。それは曲全体がどのようなプロポーションで構成されているのかを明らかにする試みであり、それに対して本論文での分析は、群論の概念から音型の構成方法を探るという細部に目を向けた独自の視点である。“a”に用いたクラインの四元群は、ある図形に左右反転、上下反転、180°回転の操作を加えるといった方法で表現できる。“a”では、冒頭に現れる核となる音型に、前述の3つの操作が適宜加えられ、音型の形が変化していく。3つの回転操作のうち、ある一定の手順を繰り返し行うことにより、もとの音型が様々な形に変わり、それがまた元の音型に戻るというサイクルが形成されている。サイクルが終わった後は、それまでに現れた音型を組み合わせたり、縮小したりといった変形を加えられながら曲が発展していく。その音型の配置はサイクルのように規則的なものではなく、直感的に自由に配置されている。一方“b”では正六面体群の概念が用いられている。それは立方体の回転に基づくものであり、その回転により現れる4つの数字の組み合わせが音型を構成する基となっている。この立方体の回転の操作にも、“a”と同様に一定のサイクルがあり、“b”においては3つのサイクルが確認できる。サイクルにより音型が変遷していくが、曲が進むにつれて音型の変化する頻度が高まり、秩序が崩壊してゆく様が演出されている。規則性がだんだんと感じにくくなり、サイクルによる音型変化が終了した後は、“a”と同じく直感的に音型が扱われてゆく。“a”、“b”それぞれ基となる群の構造は違うものの、その活用法は似通ったものがある。両者とも曲の前半部分では、群論に基づくサイクルを使用することにより、核となる音型を変形させ新たな音型を生み出し、曲の後半では、計算というより、それらの音型をより直感的な形で組み合わせたり、回転、変形させたりして扱っている。クセナキスは作曲の行為を計算に委ねたというイメージが強いが、《Rebonds》作曲前後のクセナキスの発言を顧みると、計算による作曲の息詰まりから、直感も重視していることが分かる。クセナキスは《Rebonds》 において、まず群論の演算をもとにサイクルを決め、音型を半自動的に生成した。それに直感に基づく操作を加えることにより、計算の息詰まりから音楽を解放し、生命力や躍動感をもらしたと言えよう。
著者
岩波 保則 池田 哲夫
出版者
Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子通信学会論文誌. A (ISSN:03736091)
巻号頁・発行日
vol.J60-A, no.6, pp.505-512, 1977-06-20

従来の研究により,各種のデータ伝送システムに対する誤り率特性の解析は,広範になされてきており,多くの雑音に強い最適受信システムが考えられてきている.ただその際,妨害雑音のモデルとしては,ガウス雑音を対象にしたものが非常に多く,ガウス雑音に対する誤り率の算定は,現在ほぼなされたといえる.しかし,無線回線を用いた実際のディジタル通信システムにおいては,ガウス雑音よりもむしろインパルス雑音の影響が大きいことは経験上良く知られている.インパルス雑音に対する誤り率特性の解析についてもPSK,DPSKなどのベースバンド信号に対しては行われてきているが,無線回線用の周波数変調方式であるPSK-FM方式などについては,まだ行われていない.誤りを起す原因となる雑音には,インパルス雑音やガウス雑音のほかにも考えられるが,ここでは,インパルス雑音とガウス雑音のみを仮定し,それらを別々にPSK-FM信号に相加したときの誤り率特性を求め,更にそれらから,PSK-FM方式のインパルス雑音とガウス雑音に対する誤り率特性を2つの誤り率の重ね合せという方法により評価する.
著者
川津 茂生
出版者
国際基督教大学 International Christian University
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.64, pp.107-115, 2022-03-31

日本語では,その述語性と場面性の優位によって,表現が曖昧になる傾向があり,曖昧さをなくし,普遍的な表現を追求することが推奨されている。言語に普遍性を求めることは,情報処理心理学を基盤とする科学的言語学が,言語の本質を普遍文法に見ることと同調的である。しかし述語性と場面性に包まれることで主語が定まり,そこに初めて主語・述語形式の文が発生するのだとすれば,文,命題,論理を出発点とする考え方は,言語の本来の姿を捉え損なっている。生体情報処理においても,論理的な計算の手前に,生理学的媒体としての脳が,まず述語性また場面性の働きを持ち,主語的なことがそれに包まれることとして成立してくる働きをしていると想定することができる。言語の発生史的な視点を取り入れることにより,生体情報処理をも含めて,あらゆる存在することが,言語に懐かれてあることとなったと理解することが可能である。 In Japanese, the expression tends to be ambiguous by the superiority of the predicate and the scene, and it is generally recommended to eliminate ambiguity and pursue universal expression. The search for universality in language is attuned to the fact that scientific linguistics based on information processing psychology considers the essence of language to be in universal grammar. However, if the subject is established by being embraced in the predicate and the scene, and the sentence with the subject-predicate form is generated for the first time there only, the idea which makes the sentence, the proposition, and logic a starting point for research fails to catch the original essence of the language. It can be assumed that the brain as a physiological medium first has the work of the predicate and the scene before a logical processing, and then the work of approving the subject’s being embraced in the predicate and the scene is carried out in the biological information processing. By taking in the historical point of view of language emergence, it is possible to understand that all beings, including biological information processing, have come to existence by being embraced in language.
著者
平山 雅之 中本 幸一
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.890-863, 2013-08-15

さまざまな領域で利用される組込みソフトウェア分野では,規模や複雑さをはじめ多くの技術的な課題が指摘されている.これらの技術課題やその解決策を論じる場合,具体的な組込みソフトウェアの題材が必要となる.特に組込みソフトウェアの開発技術についてはハードウェア依存性,実時間制約,要求の不確定性,非機能要求,信頼性・安全性への要求などさまざまな特徴への対応を考慮することが求められる.本稿では,これらの特徴を考慮したうえで,組込みソフトウェア分野の課題検討や解決策を論ずるのに適した共通例題について,その方向性を示すともに,具体的な例題の案として自転車事故防止システムを取り上げ紹介する.
著者
野澤 真伸 今村 智史 河野 健二
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2022-OS-155, no.7, pp.1-8, 2022-05-19

異種プログラミング言語を併用することで,それぞれの長所を活かしてアプリを実装する場合がある.その際,異種プログラミング言語間でデータ構造を共有する処理が必要となる.データ共有を行うためには,データ構造を特定のプログラミング言語やマシンアーキテクチャに依存しない中立なフォーマットを経由してやりとりすることが一般的である.中立なフォーマットへの/からの変換をシリアライズ/デシリアライズといい,特に不揮発性メモリのような高速ストレージを媒介してデータ共有を行う場合,そのオーバーヘッドは無視できない.本論文では異言語間でのデータ共有高速化の手法を提案する.異言語間でのデータ共有を行う場合,あらかじめデータ共有を行う言語やアーキテクチャが特定できる場合も多く,そのような状況に特化した方式を示す.例えば,数値計算の前処理を Julia で行い,その後の計算処理を Python で行う場合などがある.このような状況では,1) 汎用性の高い中立なフォーマットを用いる必要がないため,シリアライズ/デシリアライズが簡略化できることに加え,2) ランダムアクセスが高速であるという永続メモリの特性を活かしたシリアライズ/デシリアライズ処理が可能となる.提案手法を Python と Julia 間のデータ共有に用い,Python と Julia に実装された従来のシリアライズ/デシリアライズ処理と比較したところ,Python から Julia にデータを送信する場合は,配列のシリアライズとデシリアライズがそれぞれ 1.57 倍と 3.03×106 倍,辞書のシリアライズとデシリアライズが最大でそれぞれ 2.38 倍と 1.23 倍の高速化が可能であることがことが確認できた.また Julia から Python にデータを送信する場合は,配列のシリアライズとデシリアライズはそれぞれ 3.26 倍と 4.06×105 倍,辞書のシリアライズとデシリアライズは最大でそれぞれ 1.78 倍と 14.4 倍の高速化が可能であることが確認できた.