著者
伊藤 貴昭
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.237-251, 2009 (Released:2012-02-22)
参考文献数
71
被引用文献数
5 7

学習者に言語化を促すと学習効果が促進されることがある。本稿では, そのような学習方略として言語化を活用することの効果を検討するため, 関連する3つの研究アプローチ(自己説明研究, Tutoring研究, 協同学習研究)を取り上げ, その理論と問題点を概観した。その結果, (1) 自己説明研究では言語化の目的が不明確であるため, 方法論の多様性という問題を抱えており, (2) Tutoring研究では, 知識陳述の言語化に留まってしまう学習者の存在が指摘され, (3) 協同学習研究では言語化の効果ではなく認知的葛藤の源泉としての他者の存在を指摘していること, の3点が明らかとなった。これらの問題を解決するため, 本稿ではTutoring研究において指摘された知識構築の言語化を取り上げ, 認知的葛藤を設定することで, 関連する研究アプローチを統合するモデル(目標達成モデル)を提案した。このモデルによって, これまでの研究によって拡散した理論を一定の方向へと収束可能となることが示唆された。
著者
伊藤 貴昭 垣花 真一郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.86-98, 2009-03-30 (Released:2012-02-22)
参考文献数
19
被引用文献数
14 5

説明を生成することが理解を促進することはこれまでの研究でも数多く示されてきた。本研究では, 他者へ向けた説明生成によって, なぜ理解が促されるかを検討するため, 統計学の「散布度」を学習材料として, 大学生を対象に, 実際に対面で説明する群(対面群 : 13名), ビデオを通して説明する群(ビデオ群 : 14名), 上記2群の説明準備に相当する学習のみを行わせる群(統制群 : 14名)を設定し, 学習効果を比較した。その結果, 事後テストにおいて対面群が他の2群を上回っており, 対面で説明することが理解を促すことが示唆された。一方, ビデオ群と統制群には有意差は見られず, 単に説明を生成することのみの効果は見られないことが示された。プロトコル分析の結果, 「意味付与的説明」, またその「繰り返し」の発話頻度と事後テストの成績との間に有意な相関が見られ, 対面群ではビデオ群よりこの種の発話が多く生成されていた。対面群でそれらが生成された箇所に着目すると, これらの少なくとも一部は, 聞き手の頷きの有無や返事などの否定的フィードバックを契機に生成されていることが明らかとなった。本研究の結果は, 他者に説明すると理解が促されるという現象は, 聞き手がいる状況で生じやすい「意味付与的説明」, またそうした発話を繰り返すことに起因することを示唆している。
著者
泉 信人 伊藤貴康
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.3510-3523, 1999-09-15
参考文献数
8
被引用文献数
2

ISLISPはLisp言語のISO標準言語である. ISLISPのインタプリ夕とコンパイラを試作し TISLと名付けた. TISLシステムとそのベンチマークプログラムによる評価結果について報告する. ISLISPはScheme並みにコンパクトなCommon Lisp系の言語でオブジェクト指向機能を備えている. TISLインタプリ夕は入力されたプログラムを評価形式ごとに一度中間コードに変換しながら解釈実行を行う. TISLコンパイラは中間コードをC言語のプログラムに変換し インタプリ夕よりも高速に動作する1つの実行ファイルを作成するために使用される. また TISL処理系全体がC言語で記述されており パソコンやワークステーションへの移植性にも優れている. ISLISPインタプリ夕としてはOpenLispが存在するが TISLインタプリ夕はOpenLispよりも1.3?3.3倍高速であり TISLコンパイラはTISLインタプリ夕よりも1.0?5.5倍高速である.ISLISP is the ISO standard Lisp language. We implemented its interpreter and compiler, called the TISL system. In this paper, after explaining an outline of the TISL system, we report its experimental results, using Gabriel benchmark programs. The TISL system is implemented in the C language so as to allow TISL portable for various PCs and workstations. The TISL interpreter first transforms a form into intermediate codes, and the resultant intermediate codes will be actually interpreted and executed. The TISL compiler is realized as a compiling function that can be invoked under the interpreter and it compiles intermediate codes into C programs. For efficient implementations of object-oriented features of ISLisp we introduce "type inference" in implementing generic functions. Compared to OpenLisp (an ISLISP interpreter), the TISL interpreter is 1.3縲鰀3.3 times faster than OpenLisp and the TISL compiler is 1.O縲鰀5.5 times faster than the TISL interpreter.
著者
吉川 慎一 伊藤 貴章 細田 悟 鮫島 剛 大鶴 礼彦 松本 太郎 山本 豊 野田 賢治郎 松本 哲夫 相澤 卓
出版者
泌尿器科紀要刊行会
雑誌
泌尿器科紀要 (ISSN:00181994)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.337-341, 2006-05

小児包茎36例に対し,吉草酸ベタメタゾン軟膏を用いた非手術療法を施行し,早期治療成績を検討した.1)評価可能であったのは34例で,0.3~12歳,観察期間は1~52ヵ月であった.2)治療効果は全体で,著効22例,有効10例,奏功率は94.1%であった.3)包茎型別および用手的亀頭露出度別の奏功率には有意差がなかった.4)治療開始2週間目で58.8%が有効以上の治療効果が得られており,飜転指導のみで亀頭完全露出までの期間が約2ヵ月との報告と比較して,早期に治療効果が得られると考えられた.5)無効例は2例であったが,1例は4週間の塗布で外尿道口は十分露出可能となり,経過観察中である.1例は露出度・包皮口狭小部は不変で,手術施行となった.6)薬剤における副作用はなかったが,1例で治療開始1週間後に亀頭還納不可となった.容易に用手整復は可能で,その後は問題なく経過している.経過観察中に1例で再発を認めたが,本療法再開2週間で軽快した
著者
伊藤 貴之 山田 敦 井上 恵介 古畑 智武 嶋田 憲司
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.252-253, 1997-09-24

CADなどで生成された形状を細かい要素の集合に分割するメッシュ生成技術は、計算力学、形状表現、画像生成などの各分野に広く用いられている。もっとも有名なメッシュ生成手法の一つに、Delaunay三角メッシュ生成法がある。この方法は、平面中に与えられた多数の節点(ノード)を連結して三角形要素の集合を生成する方法であり、三角形要素の最小角度が最大になるようにメッシュを生成する。特に、形状の外周(Outside loop)、穴(Inside hole)、内部線分(Inside wire)などを制約条件にして(図1(a)参照)、制約条件を破損しないように三角メッシュを生成する、制約つきDelaunay三角メッシュ生成法が広く実用されている。ここでいう「制約条件を破損しない」とは、制約条件を構成するすベての線分(制約線分)が1個または2個の要素の辺となるように三角メッシュを生成することを意味する。制約つきDelaunay三角メッシュ生成法の典型的なアルゴリズム[1]では、制約線分がない状態で三角メッシュを生成し、そのメッシュに制約線分を追加し、制約線分と交差する要素を除去し、その領域におけるメッシュを再生成する(図1(b)参照)。しかしこの手法では、非常に多数のノードや制約線分をもつ場合に、要素と制約線分の交差判定処理、および再メッシュ生成処理の処理時間が大きくなる。本報告では、要素と制約線分との交差判定などの処理時間を低減する、制約つきDelaunay三角メッシュ生成法の効率的な実装方法(図1(c)参照)を提案する。本手法では、まず制約線分に接するノードを処理し、2辺が同一制約線分と文差する三角形がある場合には、メッシュをそのノードの処理前の状態に戻し、別のノードを先に処理する。この処理を終えた時点で、すべての制約線分は1個または2個の三角形要素に共有された状態となる。その後に、制約線分に接しないノードを処理して三角メッシュを完成する。この時、制約線分に接しないノードの処理において、新しい三角形要素と制約線分の交差判定をすることなく、制約線分の破損を防ぐことができる。よって、従来の手法よりも、制約線分との交差判定を少なくすることができる。
著者
長澤 槙子 渡辺 知恵美 伊藤 貴之 増永良文
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告エンタテインメントコンピューティング(EC) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.37, pp.69-76, 2007-05-11

近年MP3プレーヤの流行により,多くの人がたくさんの楽曲を聞く機会が増えてきている.楽曲には様々な音楽的特徴があり,楽器の種類,ハーモニーの変化,コード進行,リズムパターン,モチーフなどが挙げられる.そこで我々は,これらの音楽的特徴と作曲者,年代,ヒットチャートとの関係や,あるユーザの好みの楽曲の音楽的特徴の関係やユーザ同士の好みの楽曲の音楽的特徴の関係といったマイニングを行う.本稿では,以上に述べたことのマイニングを行うために,ポピュラー音楽を対象としたコード進行に着目した楽曲クラスタリングシステムを提案する.コード進行の類似度に関して,我々は音楽理論にて定義されている近親調をもとに定義した.Recently we have more chances to listen to a lot of music due to the spread of MP3 players. There are various features in music, including musical instruments, harmony, chord progression, ryhthm patterns, and motifs. Target of our study is mining of relativity among various features of music and their attributes, such as composers, date of release, ranking of hit charts, and among features of listeners' favorite music. In this paper we propose a music clustering system focusing on the chord progression of popular music for mining of the above relativity. We define similarity of chord progression according to relative keys defined by music theory.
著者
岩科 智彩 吉田 光男 伊藤 貴之
雑誌
研究報告ユビキタスコンピューティングシステム(UBI) (ISSN:21888698)
巻号頁・発行日
vol.2018-UBI-60, no.24, pp.1-7, 2018-11-27

情報発信ツールとして利用されている SNS (Social Networking Service) は,現在でも団体や個人による情報拡散を目的とした利用例が増加している.SNS の中でも特に Twitter は気軽に拡散 (リツイート) できることで知られ,その日本国内での利用は著しい.本研究では,Twitter 上で影響力のあるユーザ (キーパーソン) のリツイートユーザ (リツイーター) に焦点を絞り,時間データを使用して情報拡散におけるリツイーターの行動パターンを可視化する.また,その可視化画像から観察されるキーパーソンごとの情報拡散の性質について,ツイート内容とリツイーターの側面から考察する.
著者
渡辺 佳友 伊藤 貴康
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. 記号処理研究会報告
巻号頁・発行日
vol.94, no.79, pp.7-14, 1994-09-16

SchemeはLispの方言であり,コンティニュエーションをファーストクラスのオブジェクトとして扱うcall/ccを備えた関数型プログラミング言語である.この論文では,SchemeのサブセットであるCore Schemeに対してcall/ccを用いた繰返し的Schemeプログラムに基づくコンパイル法を提案する.call/ccを用いた繰返し的Schemeプログラムとは,再帰的な関数呼出しをlet文とcall/ccを用いて末尾再帰風に記述したプログラムである.この論文では,call/ccを用いた繰返し的プログラムによるコンパイルとCPS法によるコンパイルが,Core Schemeプログラムに対して同じコードを生成することを示す.
著者
斉藤 優理 伊藤 貴之
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.25, 2011

本報告では,タイトルなどのメタデータに依存せず,楽曲の雰囲気に基づいた楽曲提示インタフェース「MusiCube」を提案する.MusiCube とは,楽曲を立方体内部に散りばめ,サイコロを転がすようにして,さまざまな角度からユーザの嗜好の傾向を眺めることができるインタフェースである.ユーザの嗜好を考慮した楽曲提示の仕組みとして,人間の評価に基づいて嗜好を学習し,提示へ反映する対話型進化計算を用いる.
著者
酒井 えりか 伊藤 彰教 伊藤 貴之
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 映像表現&コンピュータグラフィックス (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
pp.189-192, 2021 (Released:2021-07-07)
参考文献数
7

毎年たくさんのアニメやゲームが制作され,数多くのキャラクタが生み出される.その声を担当する声優のキャスティングは,キャラクタの印象を決定づける重要な要因となる.本報告では,キャラクタと声質の関 係について分析する諸手法を提案する.セリフから得られた音響特徴量と印象値の関係を学習させる.この学習結 果を活用することで,新しいキャラクタに関する任意の印象値を与えることで適切な音響特徴量を推定できる.こ の音響特徴量の推定結果をカバーできると思われる声優を選出し,声優候補リストとして生成する.一方で,ゲー ム作品に関するウェブ上の文書から自然言語処理を用いてキャラクタ間の距離を算出し,可視化する.これらを用 いることで本研究では,声優候補リストとキャラクタ間距離から声優をキャスティングするシステムの開発を目指 す.このシステムは例えば,声優をゲームキャラクタに割り当てる際の議論に有用であると考えられる.
著者
新 大軌 吉田 亮佑 伊藤 貴康 大崎 雅史
出版者
一般社団法人 セメント協会
雑誌
セメント・コンクリート論文集 (ISSN:09163182)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.101-107, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
7

本研究では、炭酸ナトリウムを添加した高炉スラグの反応に及ぼす水酸化カルシウムの影響について検討を加えた。水酸化カルシウムの添加によって高炉スラグと炭酸ナトリウムの反応は著しく促進された。また、高炉スラグの反応促進により、ペーストの流動性が低下することも明らかとなった。これは水酸化カルシウムと炭酸ナトリウムが液相で反応することで、炭酸カルシウムと水酸化ナトリウムが生成し、生成した水酸化ナトリウムによって液相のpHが大きく増加することによって生じているものであると推察した。さらに、モルタルの圧縮強度とペーストの積算発熱量の間にはある程度の相関関係が認められることを確認した。
著者
伊藤 貴昭
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S46018, (Released:2022-09-09)
参考文献数
8

本研究では対象指示コミュニケーション課題を用いて,図形を伝達するための説明とその正答数ならびに共感性との関連を検討した.大学生29名に対象指示コミュニケーション課題を実施し,同時に共感性尺度に回答させた.その結果,大学生の正答数はそれほど高くないことが示された.また,共感性については自己指向的な認知傾向である「想像性」と正答数との間に負の相関関係が見られた.本研究の結果は,情報を伝達するための説明を促す際の留意点を示唆している.
著者
古矢 志帆 伊藤 貴之
出版者
芸術科学会
雑誌
芸術科学会論文誌 (ISSN:13472267)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.120-129, 2009 (Released:2009-10-09)
参考文献数
19
被引用文献数
4 5

スカラ場とベクタ場を同時に,かつ三次元的に可視化する試みは,さまざまな観点から研究の余地があると思われる.例えば気象シミュレーションの分野では現在でも,スカラ場(気温・気圧など)とベクタ場(風向)を二次元的な手法(断面上の等高線や矢印など)で可視化する事例が多い.しかし二次元的な可視化結果からは,気象現象の立体的なメカニズムを理解するのが難しい場合が多い.本論文では,等値面と流線を用いてスカラ場とベクタ場を同時可視化するための,流線自動選択手法を提案する.本手法ではまず,複数の等値面を選択表示する.続いて本手法では,多数の流線を一時的に生成し,それらの見かけを評価し,上位に評価された流線を選択表示する.その際に本手法は,等値面による遮蔽を低減すること,流れ場の特徴を示す渦などの現象を効果的に表現すること,を考慮して流線を選択する.結果として本手法は,視点に依存せずに等値面を選択し,視点に依存して流線を選択する.
著者
酒井 温子 岩本 頼子 伊藤 貴文 佐藤 敬之
出版者
公益社団法人 日本木材保存協会
雑誌
木材保存 (ISSN:02879255)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.69-79, 2008 (Released:2011-08-01)
参考文献数
16
被引用文献数
6 4

窒素雰囲気下で熱処理されたスギ辺材およびアカマツ辺材の耐朽性, 耐蟻性および吸湿性を検討した。熱処理の温度は140~240℃で, 熱処理の時間は24時間とした。スギ辺材の熱処理木材から木口断面20mm×20mm, 繊維方向10mm の試験片を切り出して, オオウズラタケおよびカワラタケによる12週間の強制腐朽試験を実施したところ, 処理温度が高いほど腐朽による質量減少率は低下し, 220℃および240℃の処理で質量減少率は1%以下となった。また, ファンガスセラー試験においても, 12カ月経過時点で, 無処理試験体の腐朽度が5となっても, 220℃および240℃処理試験体の腐朽度は0のままであった。一方, 室内耐蟻性試験では, 240℃処理試験体のイエシロアリ食害による質量減少率は11%であり, 耐蟻性は十分ではなかった。JIS K 1571: 2004に準拠した野外試験の結果, 奈良県森林技術センター明日香実験林におけるスギ辺材熱処理材の腐朽とヤマトシロアリによる被害も, また鹿児島県日置市吹上浜におけるアカマツ辺材熱処理材のイエシロアリによる被害も, 処理温度が高いほど軽減されることが明らかになった。高い生物劣化抵抗性を示す熱処理木材は, 吸湿性も大きく低下しており, 両者に密接な関係があることが示唆された。