著者
藤田 有理香 前川 武雄 レパヴー アンドレ 村田 哲 大槻 マミ太郎
出版者
日本皮膚悪性腫瘍学会
雑誌
Skin Cancer (ISSN:09153535)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.181-188, 2015 (Released:2015-02-04)
参考文献数
4

症例1:59歳,女性。6年前に肛囲SCC切除後,陰部皮膚転移を繰り返す。両側会陰~膣,肛門までの病変を一塊にして切除,両側の大伏在静脈でのV-NAF flapで再建した。症例2:90歳,女性。陰部に生じた8 cm大のSCC。陰核から左右小陰唇にかけて切除し,両側の大伏在静脈でのV-NAF flapで再建した。症例3:89歳,男性。左膝外側に生じた3 cm大のmyxofibrosarcoma。筋腱膜を含めて切除,左大伏在静脈での逆行性V-NAF flapで再建した。症例4:80歳,男性。右鼠径部に生じた4 cm大の基底細胞癌。鼠径管から剥離し切除,右大伏在静脈でのV-NAF flapで再建した。V-NAF flapは動脈の穿通枝を栄養血管とする従来の筋皮弁と異なり,皮静脈と皮神経の伴行血管を栄養血管としているため,遠位茎でも近位茎でも作成できて適応範囲が広く,特に大伏在静脈でのV-NAF flapは手技が簡便であるという特徴がある。皮弁採取部位が原発巣からのリンパ流を受けることに注意する必要があるが,適応を選べば有用な再建方法であると思われる。
著者
前川 武雄

論文内容の要旨1 研究目的隆起性皮膚線維肉腫は緩徐に増大する真皮内の間葉系細胞腫瘍で、局所再発率が低いことや、転移が稀であることから中間型の悪性腫瘍として取り扱われている。病理組織学的には、車軸状構造(cartwheel pattern)や花むしろ状構造(storiform pattern)を形成し、真皮結合組織や下床の脂肪組織に向けて浸潤性の増殖を示す。一方、皮膚線維腫は良性の線維性組織球腫として知られる比較的頻度の高い腫瘍であるが、時に紡錘形細胞が束状や花むしろ状に増生し、時に皮下組織にまで進展することがある。皮膚線維腫と隆起性皮膚線維肉腫の間には臨床的、病理組織学的にいくつかの鑑別点が知られているが、時にその鑑別が困難な症例を経験する。皮膚線維腫及び隆起性皮膚線維肉腫における線維化の原因としてtransforming growth factor-β(TGF-β)の関与が重要とされており、そのTGF-β活性化のメカニズムの1つにthrombospondin-1(TSP-1)が極めて重要であることが報告されている。本研究では、両腫瘍におけるTSP-1の発現を比較することで、TGF-β活性化とTSP-1との関連性を明らかにし、両腫瘍の鑑別の一助になる可能性について検討を行った。2 研究方法皮膚病理組織標本は東京大学皮膚科を受診した同意の得られた皮膚線維腫患者7名及び隆起性皮膚線維肉腫患者4名の計11名より採取した。全ての患者は臨床的、病理組織学的に診断した。健常人コントロールとして、5名の基礎疾患を有しない健常人ボランティアより皮膚を採取した。皮膚線維腫及び隆起性皮膚線維肉腫の鑑別のため病理組織学的検討を全例で施行した。標本は20%ホルマリン液で固定し、パラフィン切片を作成の上ヘマトキシリンエオジン染色を行った。また、全例で抗CD34抗体を用いた免疫組織化学的染色を行った。免疫組織化学染色はVectastain ABC kitを使用し、パラフィン切片を用いて行った。抗TSP-1抗体は、Santa Cruz Biotechnologyのものを使用した。免疫反応性はVector Redを用いて可視化した。その後、切片はヘマトキシリンで対比染色した。染色の度合いは、弱陽性: +、中等度陽性: ++、強陽性: +++と判定した。免疫ブロット法において、TSP-1の検出は、蛋白濃度測定試薬を用いて補正を行った上で電気泳動し、ニトロセルロース膜に転写した。ニトロセルロース膜を抗TSP-1抗体を用いて一晩4℃でincubateし、二次抗体と反応後、enhanced chemiluminescenceで発光しX線フィルムに感光させた。コントロールとして、2000倍希釈した抗β-actin抗体を用いて免疫ブロットを行った。3 研究成果(1) 免疫組織化学染色によるTSP-1発現の比較正常皮膚では線維芽細胞にTSP-1の発現はみられなかった。皮膚線維腫では、病変内の紡錘形細胞に中等度のTSP-1の発現を認めた。これとは対照的に隆起性皮膚線維肉腫においては、TSP-1が腫瘍細胞に強くびまん性に発現していた。また、隆起性皮膚線維肉腫では皮膚線維腫と比較して腫瘍辺縁でのTSP-1の発現が強くみられた。隆起性皮膚線維肉腫において、腫瘍中央部と比較して腫瘍辺縁部においてTSP-1の発現が強くみられた。(2) 免疫ブロット法によるTSP-1発現量の比較免疫組織化学染色の結果とは異なり、皮膚線維腫、正常コントロールと比較した隆起性皮膚線維肉腫におけるTSP-1の過剰発現は認めなかった。4 考察皮膚線維腫及び隆起性皮膚線維肉腫における線維化の中心的役割を担っていると考えられているのがTGF-βである。TGF-βは多くの生体システムの中で、細胞外マトリックスの構成、成長、分化における重要な役割を果たす多機能のサイトカインである。TGF-βの活性化メカニズムの1つがlatent TGF-βとthrombospondin-1(TSP-1)との結合によるものである。そして、このTSP-1による活性化メカニズムはin vivoにおいてTGF-βの作用を発揮させる上で極めて重要であることが報告されている。したがって、TSP-1の過剰発現は皮膚線維腫と隆起性皮膚線維肉腫における線維化を引き起こしている可能性が考えられる。 本研究では、皮膚線維腫と隆起性皮膚線維肉腫におけるTSP-1の発現パターンに明白な違いが確認された。皮膚線維腫では、各腫瘍細胞においてTSP-1がびまん性に弱く散在性であり、一方で隆起性皮膚線維肉腫においては腫瘍の辺縁においてTSP-1が顕著に強く発現していた。この結果からは、TSP-1の発現パターンは皮膚線維腫と隆起性皮膚線維肉腫の鑑別に有用と考えられた。 TGF-βやTSP-1と悪性腫瘍との関わりは多数報告されている。TGF-βやTSP-1の過剰発現により癌の進展が抑制されるという報告もあるが、逆に悪性化や浸潤・転移を促進する因子であるとの報告もあり、その作用については未だ明らかにはなっていない。本研究で確認された隆起性皮膚線維肉腫におけるTSP-1の強い発現は、転移を抑制している可能性が示唆され、隆起性皮膚線維肉腫が局所性の悪性腫瘍であり、転移が稀であることを現していると考えられた。 本研究において、TSP-1は皮膚線維腫と比較して隆起性皮膚線維肉腫において強く発現していた。一方で過去の報告では、TGF-βレセプターが皮膚線維腫において隆起性皮膚線維肉腫よりも強く発現したとされる。TSP-1はTGF-βの主な活性化因子であるため、TSP-1も同様に皮膚線維腫において強く発現すると考えられたが、結果は逆のものとなった。この結果に関しては3つの仮説を考えた。①TGF-βの過剰発現によりnegative feedbackが働きTSP-1が抑制される可能性。②線維化に重要なのはligandの量ではなく、receptorの発現量が重要である可能性。③隆起性皮膚線維肉腫においては、TSP-1の産生が増加しているわけではなく分解能が低下している可能性。また免疫ブロット法において、皮膚線維腫、隆起性皮膚線維肉腫の腫瘍細胞と正常皮膚の真皮内線維芽細胞におけるTSP-1の発現量に有意な差は確認できなかった。これは免疫染色の結果と大きく異なるため、この結果を説明できる2つの仮説を考えた。①in vivo(免疫染色)では隆起性皮膚線維肉腫の細胞密度が高いためにTSP-1が過剰発現するが、in vitro(免疫ブロット)ではin vivoと異なり細胞と細胞外マトリックスのinteractionが異なるため、必ずしも実際の腫瘍の状態を反映していない可能性。②免疫ブロットにおいては、腫瘍からの培養線維芽細胞を用いているために、TSP-1の活性が減少してしまった可能性。3群において同じ発現量と言うことは考えにくく、本研究においてはin vivoでの結果を尊重すべきと考えた。5 結論①免疫染色では皮膚線維腫、隆起性皮膚線維肉腫ともにコントロールと比較して、TSP-1の過剰発現がみられた。 ②免疫染色では、隆起性皮膚線維肉腫においてTSP-1は皮膚線維腫と比較して強く発現しており、特に腫瘍辺縁で強く発現しており、鑑別に有用な可能性が考えられた。 ③免疫ブロット法では皮膚線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、コントロール間における線維芽細胞内のTSP-1の発現量に有意な差は確認できなかった。論文審査の結果の要旨悪性軟部組織腫瘍の診断は難しく、しばしば病理診断の専門家でも意見もわかれるところである。このうち、隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)は、低悪性度の皮膚悪性腫瘍に分類されるが、良性の皮膚線維腫(DF)との鑑別が容易ではないこともある。DFなら腫瘍マージンぎりぎりで切除しても再発はないが、DFSPであれば、広範囲の病巣切除が必要である。したがって、両者の鑑別は重要である。DFSPではしばしば良性として誤診されて、小切除、再発を繰り返しているうちに、悪性度が強くなり、局所破壊、転移をきたすこともある。現在までDFSPでは、免疫染色で腫瘍細胞がCD34染色陽性、factor XIIIa染色陰性であることが特徴のひとつで、良性のDFとDFSPの鑑別に役立つとされている。しかしながら、これらを用いても両者の鑑別にとまどう症例もあり、DFとDFSPのより、精度の高い鑑別法が求められている。皮膚の線維化および線維性皮膚腫瘍の病態にはtransforming growth factor (TGFβ)が関与しているとされ、トロンボスポンジン1は、TGFβの活性化を促す上で重要な物質である。本学位論文の研究はDFとDFSPの鑑別方法に関するもので、その中でトロンボスポンジン1に注目している。研究は(1)両腫瘍のトロンボスポンジン1染色による免疫組織化学的解析、(2)免疫ブロットによる腫瘍内のトロンボスポンジン1発現量の解析から成っている。まず、免疫組織学的に、DFでは中等度にトロンボスポンジン1に染色されるが、DFSPでは細胞質がかなり強く染色されること、また、DFSPの染色性が腫瘍辺縁に強くなる傾向を見いだした。なお、正常皮膚組織線維芽細胞はトロンボスポンジン1に染色されない。また、免疫ブロットでトロンボスポンジン1発現量をみるとDFとDFSPでは有意な差がみられなかった。これらの結果から、DFSPではトロンボスポンジン1の分解が低下している可能性を想定している。本学位論文の結果はDFとDFSPの両者の鑑別法のみならず、線維性皮膚腫瘍や皮膚線維化の病態の理解に役立つ知見を包含している。しかしながら、論文審査では免疫染色による手法、抗体の選択、判定法の限界、今までのCD34染色と比較した有用性、実用性が問題点として取り上げられた。また、免疫ブロットにより、DF、DFSPではトロンボスポンジン1の過剰発現がみられないことの解釈にはいくつかの可能性があるのではないかという疑義も出された。それらについては後に、加筆訂正された論文が提出された。研究内容はすでに欧州の権威ある英文学術雑誌European Journal of Dermatologyに掲載されていることを評価し、審査員全員一致で合格と判定した。試問の結果の要旨申請者の紹介に引き続き、本研究内容ついての発表がおこなわれた。まずDFとDFSPの解説、その鑑別を行うことの重要性について説明がなされた。次いでDFとDFSPの線維化にTGFβとレセプターの結合が関与していること、TGFβが活性化してレセプターに結合するにはトロンボスポンジン1が必要であることなどの基礎的な事項の発表が行われた。その後、本題であるトロンボスポンジン1の免疫染色、免疫ブロットについてプレゼンテーションがあった。質問では(1)本当にDFSPとDF鑑別に有用なのか?(2)トロンボスポンジン1の発現が悪性所見とどう関係するのか?(3)悪性度よりも腫瘍の大きさと関係するのではないか?(4)DFで陽性、DFSPではさらに陽性、辺縁部ではもっと陽性である意味と過去の報告例にあるTGFβ染色の結果の整合性はどうか?(5)免疫染色の結果(DF<<DFSP) と免疫ブロット結果(DF=DFSP)の解離はどう説明されるか?(6)免疫ブロットでは腫瘍細胞を培養系に移しており、混在する腫瘍内の培養線維芽細胞のロンボスポンジン1を反映しているのではないか?となどの質問がなされた。(1)については検索症例も限られており、従来の方法に比べた有用性は現時点では見いだせていないが、腫瘍の発症や病態にトロンボスポンジン1が関わっているという結果は意義のある結果であるとされた。(2)については文献的には癌の進展、抑制など両論あるが不明(3)については小さいDFSPも症例に含まれており、大きさよりもDF、DFSP本質的な差であろうという答えであった。また、(5)についてはいくつかのspeculationのあることが述べられた。(6)については本実験の限界について説明が行われた。なお、これらは修正した博士学位論文にも反映された。申請者の研究領域周辺の知識、研究目的、結果やその意義についての理解、質疑に対する応答の内容、態度は満足すべきものであり、学位授与に価する十分な学識、研究資質、能力を有すると評価した。よって、審査員全員一致で博士学位を授与するにふさわしいと判定した。
著者
柳下 有理香 前川 武雄
出版者
日本皮膚悪性腫瘍学会
雑誌
Skin Cancer (ISSN:09153535)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.367-371, 2010 (Released:2011-05-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

76歳女性。2年前に外陰部の紅斑を自覚,半年前から急速に増大した。初診時,中央部に結節を伴う紅色局面が左大陰唇から肛門にかけて存在し,両側鼠径リンパ節を触知した。生検にてPaget細胞が真皮全層に浸潤していることを確認した。CT上,両側鼠径から大動脈周囲リンパ節までのリンパ節転移がみられ,stage IV(T4N2M1)と診断した。特殊染色にてHER2強陽性であったため,原発巣切除後,weekly docetaxel,trastuzumabによる化学療法を行った。7クール終了時点から8週後の評価でCRと判定した。経過中みられた副作用はいずれもgrade1の軽度のものであり,QOLを保ちながら,非常に奏効した。Trastuzumabとdocetaxelの併用療法は,HER2陽性乳房外Paget病において,少ない副作用と高い治療効果を併せ持った,非常に有用な治療法になり得ると考え報告する。