- 著者
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塩谷 隆
桑江 一洋
藤原 耕二
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2005
近年,測度距離空間の幾何解析の研究が非常に盛んである.研究代表者は測度距離空間の曲率と収束,特にアレクサンドロフ空間,測度距離空間のリッチ曲率,測度距離空間の列の収束などに絡む幾何解析に焦点を当てて研究してきた.一方で,ディリクレ形式の収束を関数解析的に調べる変分収束理論がMoscoによって研究されたが,これを応用・拡張することは,測度距離空間の列の収束を調べる上で,統一的な視点を与えることとなる.この様な動機により,研究代表者の塩谷と分担者の桑江は,幾何学的な視点から変分収束理論を拡張したが,本研究費の研究において一応の完成を見た.我々はこれを「幾何学的変分収束理論」と呼んでいる.この理論で現れる収束概念は,現在,「Mosco-桑江-塩谷収束」と呼ばれ,確率論の有限次元近似やhomogenizationの研究などにおいて広く応用されつつある.まだ研究途上ではあるが,もう一つの成果として,アレクサンドロフ空間上で「リッチ曲率が非負」に相当する条件の下で,ラプラシアンの比較定理および分割定理を証明した.リーマン多様体に対しては、リッチ曲率がある定数以上になることは,ビショップ・グロモフの不等式の無限小バージョンと同値である.アレクサンドロフ空間上ではリッチ曲率テンソルは定義されないので,リッチ曲率条件の替わりにこのビショップ・グロモフの不等式を仮定した.リーマン多様体の場合と決定的に異なるのは,カットローカスの状況である.リーマン多様体ではカットローカスは閉集合であるのに対して,アレクサンドロフ空間では一般に閉集合にならず稠密になるような例もある.このことから,ラプラシアンの比較定理の証明ではリーマン多様体と同じ方法は通用せず,新しい方法を開発した.