著者
坂元 章 箕浦 康子 菅原 ますみ 鈴木 佳苗 内藤 まゆみ 小林 久美子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、テレビ番組の暴力描写、向社会的行為描写の内容分析、これらの描写の視聴が攻撃性、向社会性に及ぼす影響を検討する縦断調査を行い、テレビ番組の暴力描写に対する評価システムを提案することであった。平成15年度には、暴力の文脈的特徴を詳細に検討した米国テレビ暴力研究のコードブックを翻訳し、平成17年度までは身体的攻撃について、平成18年度には、言語的攻撃、間接的攻撃を加えて分析を行った。その結果、フィクション番組では、視聴者の暴力の学習、恐怖世界観、脱感作を高める要素は全般的に少なかったが、暴力行為後の被害・苦痛や罰の描写が少ない、多量の暴力が多い、現実性が高いなどの特徴が見られた。言語的攻撃、間接的攻撃の描写は多くはなかったが、身体的攻撃と共通する特徴が多く見られた。向社会的行為描写については、行為の成功描写は多かったが、報酬の描写は少なく、学習を促進する要素はあまり含まれていなかった。報道番組の暴力描写では、視聴者の恐怖世界観を高める要素である正当化されない暴力や被害結果の描写がある程度見られた。CMの暴力描写では、被害・苦痛描写が少ない、現実性が高いといった暴力の学習、恐怖世界観を促進する特徴が見られた。また、報道番組、CMの向社会的行為描写では、行為の成功や魅力的な行為者が多く描かれており、学習を促進する要素がある程度見られた。縦断調査では、平成16〜17年度の2回の調査への協力を得た首都圏、地方の小学校13校、中学校15校のデータを分析した。攻撃性への影響については、小学生では身体的手段による暴力や魅力的な行為者による暴力の描写が間接的攻撃性を高めること、中学生では間接的攻撃の描写が攻撃性全体を高めることなどが示された。最後に、以上の内容分析、縦断調査の結果に基づいて、暴力描写の出現頻度、影響の強さを組み合わせた暴力描写の評価システムを提案した。
著者
内藤 まゆみ 鈴木 佳苗 坂元 章
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.67-78, 2004 (Released:2004-11-25)
参考文献数
20
被引用文献数
5 18

本研究は,合理的処理および直観的処理における個人差(Pacini & Epstein, 1999)を測定する情報処理スタイル尺度(IPSI)の作成を目的とした.調査1(回答者290名)ではIPSI38項目の内容的妥当性を検討するため,確認的因子分析を行った.分析の結果,IPSIが合理性と直観性の2因子から構成されることが確認された.また,IPSIは十分な内的一貫性および再テスト信頼性を持つことが示された.他の尺度(曖昧さへの耐性と理論志向性,自尊心,社会的望ましさ)との相関はIPSIの収束的・弁別的妥当性を示すものであった.調査2(回答者237名)では,構成概念妥当性の検討のため,確率推論課題の回答とIPSIの関連を調べた.その結果,直観性および合理性が推論エラーの頻度と関連することが示された.加えて,調査2ではIPSI短縮版24項目を作成し,その信頼性と妥当性が確認された.
著者
高比良 美詠子 安藤 玲子 坂元 章
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.87-102, 2006 (Released:2006-10-07)
参考文献数
44
被引用文献数
17 15

本稿は,パーソナリティの形成・発達研究において変数間の因果関係を推定したい場合に,縦断調査を利用する方法について概説したものである。まず,因果関係を推定するための研究方法として,実験,横断調査,縦断調査の3つを取り上げ,それぞれの特徴と限界について述べた。次に,縦断調査の一形態であり,変数間の因果関係を双方向的に検討できるパネル調査に焦点をあて,交差遅れ効果モデルによって因果関係の分析を行う方法を説明した。そして,変数間の因果関係について推定するためにパネル調査を行った実例として,インターネット使用と攻撃性の関係を検討した筆者らの研究について紹介した。なお,この研究では,インターネット使用から攻撃性への因果関係と,攻撃性からインターネット使用への因果関係が,双方向的に検討された。そして,最後に,より精度の高い因果関係の推定を行うために注意すべき点についてまとめた。
著者
長谷川 真里 堀内 由樹子 佐渡 真紀子 鈴木 佳苗 坂元 章
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.105-108, 2006

本稿は,日本のテレビ番組の内容分析によって現在のメディア状況を明らかにし,メディア・リテラシー教育に必要な情報を得ることを目的としている.米国のNational Television Violence Study(1996-1998)をもとにコード化マニュアルとコード票を作成し,2003年と2004年の2時点,各1週間の中からフィクション番組を抽出し,向社会的行為にかかわるキャラクターの特徴について内容分析を行った.その結果,向社会的行為実行者はあまり魅力的なキャラクターとして描写されておらず,観察学習の促進要因は乏しかった.また,おおむね女性よりも男性の描写数が多く,現実との乖離も示唆された.最後に,悪人キャラクター,善悪複合キャラクターに対する報酬はほとんどなかった.
著者
荘厳 舜哉 山本 登志哉 亀島 信也 河合 優年 竹内 伸宜 坂元 章 藤永 保 上原 明子
出版者
大阪学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

全部で6つの大きな課題が,4つの研究集団の手によっておこなわれた。最初の3つは研究代表者を中心としたグループの,条件統制観察研究,乳児保育所の自然観察研究,それに河北と上海における感情意識構造の質問紙研究である。それぞれの結果は報告書にまとめられているが,全体を通じて,日本の母親や保育者が受け身姿勢であるのに対して,中国の母親や保育者の,指導をすることに対する強い姿勢が描き出された。坂元のグループは,最近日本でも話題になっている青少年の暴力犯罪に関する調査研究をおこなった。結果は多岐にわたるが,日中両国共,青少年犯罪の原因は家族内コミュニケーション不足といった後天的要因が作り出しているという見解において共通であった。日本ではメディアによる悪影響が問題にされるが,実際にはそれは青少年犯罪の本質ではないということも明らかにされた。山本のグループは,子どもが小遣いをどのように使うかということに視点を当て,日本民族,吉林省延辺に居住する朝鮮族,同じく延辺に居住する漢民族,上海市の漢民族とい4集団の比較研究をおこなった。その結果,民族間というよりも,居住地域において小遣いの使い方に違いが認められた。また,小遣いの使途に関する親子間の認識のずれは,これも当然のことながら,年代が上昇するにつれて拡大する。しかしながら,小遣いで購入する物品の価値判断については文化・地域において違いが認められなかった。河合のグループは,内モンゴル自治区の満州族を対象として,据え付けカメラを固定して日常を撮影するという手法,及び日記の分析を通じて,民族に特異的な養育観の研究をおこなった。幼稚園教育自体においては日中間に大きな違いはないが,集団の中での役割や行動規範の獲得において,中国側に強い強制力が働いていることが明らかになった。