著者
大串 和雄
出版者
一般財団法人 日本国際政治学会
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.207, pp.207_49-207_64, 2022-03-30 (Released:2022-03-31)
参考文献数
40

This article identifies the characteristics of transitional justice (TJ) in Latin America compared to other world regions and explores the causes of such characteristics. The author highlights seven discernible aspects in TJ as practiced in Latin America. First, Latin America pioneered the current wave of TJ in the mid-1980s. Consequently, the Latin American experience inspired and contributed to the development of the TJ “field” at the global level. Truth commissions and “the right to the truth” may be counted among such contributions. Further, numerous perpetrators were successfully prosecuted in Latin America, perhaps on par with the Western Balkans. Second, the “post-authoritarian type” predominates in Latin America’s TJ, as opposed to the “post-conflict type.” Only four countries, i.e., El Salvador, Guatemala, Peru, and Colombia, had “post-conflict TJ.” Third, the punishments of the perpetrators were almost exclusively assumed by the national courts rather than international or hybrid courts. Nevertheless, prosecutions in the national courts of foreign countries had some significance. Fourth, regional human rights institutions, i.e., the Inter-American Commission on Human Rights and the Inter-American Court of Human Rights, were instrumental in advancing victims’ rights. Fifth, domestic factors were far more important than international factors in Latin America’s TJ. The limited international involvement may be explained by the pioneering character of Latin America’s TJ (as the international community only began to involve itself in TJ in the 1990s). More importantly, it may be attributable to the predominance of the “post-authoritarian type” (because the international community often serves as a mediator in internal armed conflict, but not in democratization settings). Sixth, the driving force of TJ in Latin America has been victims and their supporters, especially domestic human rights NGOs, which were far more instrumental than international and foreign NGOs in advancing TJ in their countries. Seventh, in Latin America, the principal demands of victims were the punishment of the perpetrators and the truth, although this conclusion should be qualified by several important caveats provided in the article. The truth can be divided between the “micro truth” (what happened to the particular victims) and the “macro truth” (the overall pattern of human rights violations and war crimes in the country). The victims were eager to discover the micro truth and, although most knew the macro truth, they demanded that it be recognized by the state and society. The article advocates for considering the Latin American experience to obtain a less skewed and more diversified representation of TJ around the world.
著者
藤原 帰一 久保 文明 加藤 淳子 苅部 直 飯田 敬輔 平野 聡 川人 貞史 川出 良枝 田邊 國昭 金井 利之 城山 英明 谷口 将紀 塩川 伸明 高原 明生 大串 和雄 中山 洋平
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-10-31

危機管理の政策決定と、それが政治社会にもたらす効果について、多角的な実地調査とデータ収集を行うとともに、三つの理論的視点、すなわちセキュリタイゼーション研究、危機管理研究、そして平和構築から分析を進めた。本作業の国際的パートナーがオレ・ウィーバー、イークワン・ヘン、そして、ジョンアイケンベリーであり、この三名を含む内外の研究者と共に2015年1月30日に大規模な国際研究集会を東京にて開催し研究成果の報告を行った。本会議においては理論研究とより具体的国際動向の分析を行う研究者との間の連絡に注意し、実務家との意見交換にも留意した。
著者
大串 和雄 月村 太郎 本名 純 SHANI Giorgiandr 狐崎 知己 千葉 眞 武内 進一 元田 結花 SHANI Giorgiandrea 酒井 啓子 竹中 千春
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、現代世界の武力紛争と犯罪について、グローバル化、アイデンティティ、デモクラシーという3つのテーマを軸にしてその実態を解明するとともに、実態に即した平和政策を検討した。武力紛争はアイデンティティとの絡みを中心に研究し、犯罪については東南アジアの人身取引をめぐる取り組みと、中央アメリカの暴力的犯罪を中心に取り上げた。平和政策では平和構築概念の軌跡、「多極共存型パワー・シェアリング」、移行期正義における加害者処罰の是非を中心に検討し、それぞれについて新たな知見を生み出した。
著者
大串 和雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

当初の計画通り、平成30年度は現地調査を実施せず、前年度の現地調査のインタビューを整理するとともに、文献資料に基づいて研究を進めた。平成30年度は、コロンビアの動きを追うことにやや多めに時間を割いた。コロンビアでは、国内最大のゲリラ勢力FARCと政府との2016年の和平合意に基づき、移行期正義のシステムが設置された。中でも、ゲリラ及び治安部隊の人権犯罪を修復的正義のアプローチで裁き、加害者が真実の解明と賠償に協力すれば服役を免れるという「特別和平司法」(JEP)の仕組みは、国論を二分し、2018年の大統領選挙の争点となった。大統領選挙ではJEPが「ゲリラに甘い」として反対する勢力が勝利し、現在では、国際社会を含むJEPを支持する勢力と、JEPを骨抜きにしようとする政府及び与党との綱引きが続いている。このような流動的状況を背景として、コロンビアでは全国レベルでは和解どころかJEPをめぐってヘイトスピーチが飛び交う状況が続いている。ただその一方で、ミクロなレベルでは、旧武装勢力と犠牲者との和解の実践も観察される。コロンビアとともに本研究が重点を置くペルーでは、移行期正義は多くの国民の関心事ではない。人権侵害等の罪で収監されていたアルベルト・フジモリ元大統領が、当時の大統領とフジモリ派との政治的駆け引きの結果として2017年末に特赦を受けた際には、犠牲者たちと彼らを支援するNGOが米州人権裁判所にアピールし、結果的にペルーの最高裁が特赦を無効とした。この件に見られるように、ペルーでは移行期正義は、犠牲者を含む一部の活動的なアクターにおおむね限定された関心事となっている。また、ミクロなレベルにおける和解の実践もペルーではあまり観察されない。農村では元ゲリラが出身の共同体に再び受容されていることがあるが、和解というよりは緊張を孕む共存として描写されている。
著者
大串 和雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、1973年9月11日のクーデターに至るチリの民軍関係を、軍の側に焦点を当てて考察したものである。本研究の一つの焦点は、アジェンデ政権(1970~73年)に先立つフレイ政権期(1964~70年)に現れた、軍の規律逸脱行動である。チリの伝統的民軍関係では、立憲秩序の尊重(文民統制)と、軍内での規律の厳守(上官の命令への絶対服従)という二重の規律が機能していた。しかしフレイ政権の後半に、主として低給与と装備・補給品不足の不満を原因として、中堅・下級将校の抗議行動が現れた。この抗議行動はこれまで充分に研究されてこなかったが、非常に大きな拡がりを持っていたことが確認された。フレイ期の抗議行動の動機は非政治的で利益集団的なものであったが、いったん、二重の規律が破られると、それが政治的規律逸脱行動に発展するのも容易になった。また、抗議行動によって軍人と文民の双方が軍が持っている力を再認識することになり、文民から軍への働きかけも増加した。フレイ政権後半から始まるチリ政治の両極化と暴力の増大はアジェンデ政権期に加速化し、軍を政治化させるとともに、もともと軍が持っていた反共意識を先鋭化させた。人民連合の革命を支援する軍内秘密組織も結成されたが、圧倒的多数の将校は反政府感情に煮えたぎった。クーデター派が海・空軍で優位を確立した後も、陸軍総司令官がクーデターに反対であるため、なかなかクーデターには踏み切れなかった。上官への服従の伝統がまだ強く残っていたため、クーデターを強行すれば少なからぬ陸軍の部隊が総司令官の命令に従い、クーデター派と政府派の軍の間で内戦になる恐れがあったからである。結局、1973年8月下旬に陸軍総司令官が辞任し、クーデターに道が開かれた。
著者
大串 和雄 千葉 眞 本名 純 月村 太郎 根本 敬 狐崎 知己 木村 正俊 武内 進一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、複雑化を増す現代世界における政治的暴力の力学解明を試みた。取り上げた課題は主として以下の通りである。(1)グローバル化時代の暴力に関する政治理論的考察、(2)民族浄化の概念とメカニズム、(3)パレスチナ解放闘争におけるアラブ・ナショナリズムと個別国家利害の相克、(4)犯罪対策と治安セクター改革におけるインドネシア軍の利益の維持・拡大、(5)グアテマラにおける政治的暴力、(6)アフリカ諸国における民兵、(7)ビルマ難民の民主化闘争における非暴力の位置づけ、(8)ラテンアメリカの移行期正義。