著者
大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、参加者全員がある一定割合以上の度合い、能動的に参加することを目指す共想法形式の会話セッションを司会する、会話支援ロボットを開発し、双方向の活発な会話が安定して実現するかどうかを、実験的に検証することである。参加者毎の発話量をリアルタイムで計測しながら、口数の少ない参加者に発話を促し、長く話しすぎる参加者の発話は、時間により終了するようフィードバックをかけることに挑戦する。本年度は、以下の三つの項目について研究を行った。1.人間の司会者の発言を登録した遠隔操作型会話支援ロボットの製作と実験による評価共想法形式のグループ会話の中で、人間の司会者が自然に発した発言を集め、汎用性の高いものを登録し、選択可能とした遠隔操作型会話支援ロボットを開発した。参加者の発話を補助するための発言を、本人へのあいづち、内容へのあいづち、フォロー、質問に分類し、これらを登録したロボットを用いてグループ会話を支援し、実際に用いられる発言を調べた。2.発話量と笑顔度に基づいて司会する自律型会話支援ロボットの製作と実験による評価前年度までに、発話量に基づいて発話者を切り替える機能を持つ自律型会話支援ロボットを製作した。会話が盛り上がっている時でも、発言の間が空いた時に発話者を切り替えようとする問題を解決するため、笑顔度に基づいて切り替えるタイミングを計る機能を実装した。発話量のみでフィードバックする場合よりも、発話量と笑顔度に基づいてフィードバックする時の方が、全体の発話量が増え、ばらつきが減ることを実験的に確かめた。3.高齢者による会話支援ロボットの遠隔操作実験人と人との交流を支援する会話支援ロボットを、グループ会話を司会した経験のある高齢者が遠隔操作することができるかどうかを確かめる実験を行った。具体的には、共想法形式のグループ会話の司会と対談の司会を、高齢者が会話支援ロボットを遠隔操作することにより実現した。特に発言が長い人への発言の制止と切り替えなど、人間の司会がやりにくいことを、ロボットを介することで円滑かつなごやかに行うことができることを確かめた。
著者
大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度に得られた研究成果は以下の三点に整理される。1、マルチスケールシミュレーション並列計算基盤の開発マクロスケールのヒトの運動の特徴量を高速、高精度に抽出する手法を開発した。具体的には、並列計算ツールであるGXP, MPICH, SCALAPACKを用い、リング状にネットワークしたクラスタでパイプライン処理するシステムや、大規模な行列計算を高速に行うシステムを構築した。2、データベースに登録されたミクロスケールモデルの統合化手法の開発運動系全体の状態をシミュレーションするためには、部位により異なるミクロスケールの細胞の性質をモデル化する必要がある。生命科学者により記述された細胞モデルや、解剖学的生理学的知識が、レビューされ、データベースに多数登録されている。これらを活用することができれば、信頼性の高い要素で構成されるシミュレータを構築することができる。データベースに登録されたミクロスケールモデルは、本来単体で動かすように作成されたものであるため、他のモデルと連携が困難である。そこで、これらのモデルを再構築し、統合化するシステム構成法を提案した。即ち、入出力をモデルの中で整理し、再構成したモデルを異なるサーバに分散配置し、計算機毎に計算エンジンがモデルを読み込んで実行する。複数サーバで実行されるモデルの計算を一箇所でモニタリングし、互いに入出力を送受信する。計算エンジンの種類によらず、細胞複合体モデルを構成できるようになった。3、マクロモデルとミクロモデルのインタフェース手法の開発マクロスケールで観測される運動データに基づいてミクロスケールの現象を予測するために、マクロスケールの解剖学モデルにミクロスケールの生理学モデルをインタフェースする手法を開発した。これにより、マクロスケールの運動を外部から観測して、ミクロスケールの内部状態を予測できるようになった。
著者
大武 美保子
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、個別に開発してきた二種類の会話支援ロボットの要素技術を統合し、場の雰囲気を読み取り、適切な発言を選択可能な会話支援ロボットを開発することである。発話時間や表情など非言語情報の認識技術に基づいて場の雰囲気を読み取り、会話中の人間の発言など言語情報の利活用に基づいて適切な発言を選択可能とし、人と人との会話をより円滑に支援できるよい聞き手となるロボットが実現するかどうかを、実験的に検証する。平均年齢94歳の健康長寿姉妹の会話をヒントに、面白い話をする機能、面白い話で笑う機能等を開発することに成功した。非言語情報の認識に基づいて場の雰囲気を読み取る技術の開発に関連して、以下の成果が得られた。顔画像から笑顔度を計測するソフトウエアを用いて、会話時の笑顔度の変化を計測し、参加者の笑顔度が閾値を超えた時にロボットが笑うアルゴリズムを考案した。このアルゴリズムを実装した、笑うロボットをグループ会話に参加させたところ、参加者の笑いが増え、モデルとなった健康長寿姉妹からも高評価を得た。また、東京工業大学中臺研究室、(株)システムインフロンティアと共同で、パッケージ化、無線化したくらげ型マイクロホンアレイ「くらげ君2号」を開発し、グループ会話において参加者の発話量を計測できることを確かめた。言語情報の利活用に基づいて適切な発言を選択可能とする技術の開発に関連して、以下の成果が得られた。共想法形式のグループ会話の中で、参加者が提供した、笑いが多く取れた話題を、ロボットが再利用する実験を行った。健常高齢者による話題を、ロボットが提供したところ、健常高齢者の参加者を笑わせることができた。即ち、参加者が提供した話題の利活用により、グループ会話を盛り上げることができることを確かめた。
著者
大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

実環境で頑健に動作する情報システムを構築するために, 多岐にわたる情報科学技術の諸分野を融合する必要性が高まっている. 本研究の目的は, 実世界情報並列計算フレームワークを構築し, 異なる種類のデータを扱える新しいシステムを開発することを通じて, 汎用の計算基盤の構築と応用例を示すことである. 具体的には, 情報爆発で開発されているInTrigger上で動作するシステムを開発した. 標準の並列計算用ライブラリMPIは, クラスタには対応していても, 複数のクラスタで構成されるグリッドには必ずしも対応していない. そこで, A02支援班で開発されているグリッド用のMPIライブラリMC-MPI(Multi-cluster MPI Librarv)を用いて,グリッド上で動作するリング状にネットワークした計算ノードでパイプライン処理するシステムや, 異なる条件の計算を同時並列に行い, 結果を集約するシステムを開発した. その上で, 多数の生物学的神経モデルを同時並列に計算し, シミュレーションを行った. また, 任意の実世界情報を扱えるシステムを開発することを目的として, 運動学習支援システムを開発した. 従来ネットワークに対応していなかった運動計測データを扱うソフトウエアをサーバとクライアントに分け, クライアント側にハードウエアを接続し, サーバは任意の計算機上に配置できるように構成した. 運動学習支援システムは, 運動の特徴量をリアルタイムに学習者にフィードバックすることができる. この他, 会話支援システムなどの認知活動支援システム, マルチスケール神経モデルで構成され. 計測装置と接続可能なオープンブレインシミュレータ, 脳活動, 認知活動計測装置などを開発し, 評価実験を行った. 以上を通じ, 汎用の実世界情報並列基盤フレームワークと, それを用いたアプリケーションの開発に成功した.
著者
大武 美保子
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は,これまで数値化が困難であったこころの現在時刻や,こころの時間の流れを計数し,可視化する,新たな計測評価システムを提供し,新学術領域「こころの時間学」の推進に貢献することである.平成27年度は,研究項目1, 2, 3について研究を進めた.1) 平成26年度までに,会話中の発話から,時制と語彙に基づいて,発話者のこころの時間を推定する手法を開発した.平成27年度はさらに,出来事が起こった時刻とその出来事を参照する時刻,発話する時刻を考慮し,こころの時間を推定する手法を開発した.発話内容だけでなく,それらが語られる視点が,過去,現在,未来のいずれかを評価することが可能となった.2) 会話のテーマ設定に基づく話題や,参加者の属性と,過去がこころの時間に占める割合との関係を分析した.街歩きを行った後,共想法を行った際の会話データを分析対象として,以下のことを明らかにした.即ち,古い街並みや築年数が経った建物を話題にすると,話題と共に持ち寄られた写真に写っている対象そのものではなく,その対象から想起される過去の出来事や気持ちが語られる傾向にある.街歩きをした地域の在住者と外来者のこころの時間を比較すると,在住者の方が,話題に占める過去の割合が高い傾向にある.3) 会話のテーマ設定をそろえた上で,健常高齢者,認知症高齢者,介護施設利用者の会話データを対象にこころの時間を推定し,認知機能とこころの時間との相関を調べた.認知機能が低下した高齢者は,健常高齢者と比べ,話題に占める過去の割合が高い傾向が見られ,それを数値化することができた.
著者
大武 美保子
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29 年度は,研究項目1, 2, 3について研究を進めた.1. 共想法支援システムに基づく主体価値発展支援システムの開発:共想法支援システムを発展させ,異なるテーマに対する話題探し,および,同じテーマに対する他者の話題の閲覧を通じ,利用者の主体価値発展を支援するシステムを設計した.2. 認知行動療法の理論と会話データの分析に基づくテーマの設定とプログラムの考案:共想法形式の会話データから主体価値を推定する手法を,思春期を対象に実施した共想法における会話データを分析することを通じて検討した.好きなおやつをテーマに,高校一年生を対象として,共想法形式の会話を体験する演習を実施した際の,話題提供の発言を文字起こししたデータを分析対象とし,主体価値が反映していると考えられる内容の項目を探索した.値段や食欲,体重といった制約条件の中での葛藤を反映し,本人の自由裁量があると考えられるおやつというテーマ設定は,特に思春期における主体価値を推定する上で有効である可能性が示唆された.3. 認知行動療法と会話支援技術における評価指標に基づく主体価値発展評価指標の選定:引きこもりの若者が集うサポートステーションの運営者に,共想法を体験頂いた上でヒアリングを行った.また,精神科デイケアにおいて利用者を対象に,共想法を試行した上で,リハビリプログラムを考案した.主体価値発展評価指標を,総括班との議論を通じて選定し,実験計画を策定した.
著者
大武 美保子 瀬戸 文美 本間 敬子
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp."2A2-I07(1)"-"2A2-I07(2)", 2007-05-11

"Women in Robotics" is the international community whose scope includes but not be limited to: students, engineers and researchers in robotics, human science and technology; who are interested in research and development activities conducted by women in these fields; who would like to explore technical and social needs of women for marketing; and who have interests in our activities. Our mission is to provide a venue for discussion and collaboration for technical development that creates enjoyable and efficient style of work and life. In this paper, we introduce our activities, and discuss aims and scope of the technical session at Robotics and Mechatronics Conference in 2007.
著者
大武 美保子
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.295-302, 2009 (Released:2009-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
3 4

This paper proposes multiscale service design method through the development of support service for prevention and recovery from dementia towards science of lethe. Proposed multiscale service model consists of tool, event, human, network, style and rule. Service elements at different scales are developed according to the model. Firstly, the author proposes and practices coimagination method as an ``event'', which is expected to prevent the progress of cognitive impairment. Coimagination support system was developed as a ``tool''. Experimental results suggest the effective activation of episodic memory, division of attention, and planning function of participants by the measurement of cognitive activities during the coimagination. Then, Fonobono Research Institute was established as a ''network'' for ``human'' who studies coimagination, which is a multisector research organization including elderly people living around Kashiwa city, companies including instrument and welfare companies, Kashiwa city and Chiba prefecture, researchers of the University of Tokyo. The institute proposes and realizes lifelong research as a novel life ``style'' for elderly people, and discusses life with two rounds as an innovative ``rule'' for social system of aged society.
著者
大武 美保子
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.56, no.02, pp.145-151, 2015-01-15

認知症とは,一度発達した認知機能が,後天的な障害によって持続的に低下し,日常生活や社会生活に支障を来すようになった状態を指す.認知症は,人間の情報処理能力が低下する病であることから,情報技術がその予防や支援,治療に役立つと考えられる.筆者は,2006年より,認知症の予防を目的として,会話を支援する技術の開発に取り組んでいる.本稿では,高齢者の代表的な疾患として認知症を取り上げ,認知症とその前段階である軽度認知障害の定義について紹介し,その予防に有効と考えられる方法と,予防に役立つICTについて紹介する.むすびに,防ぎうる認知症にかからない社会の実現に向けた展望を述べる.
著者
大武 美保子
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第22回全国大会(2008)
巻号頁・発行日
pp.233, 2008 (Released:2009-07-31)

高齢化社会が急速に進む今日、認知症の発症を防ぎ進行を抑制する科学的手法と、これを少ないコストで効果的に実施する社会システムの双方が求められている。そこで、2007年7月に、東京大学と柏市、柏市民、企業の民産官学連携により、認知症予防回復支援サービスを開発し、高齢者を中心とするヒトの認知脳機能を解明する研究拠点「ほのぼの研究所」を開設した。会話支援システムを用いて認知症予防回復を目指す「ふれあい共想法」プログラムを開催し、記憶課題や会話計測、脳活動計測などにより、その有効性を実証している。本稿では、研究拠点の開設と、共想法における記憶課題の解析結果について報告する。
著者
中村 仁彦 山根 克 杉原 知道 岡田 昌史 関口 暁宣 大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2003

1.力学的情報処理理論力学敵情報処理を行うメカニズムの設計法として,多項式および物理的力学系を用いた手法を確立した.また,力学系の可塑性パラメータを導入し,その可塑性に基づく学習と発達のモデルを構築するとともに,力学的引き込み現象としてのコミュニケーションモデルを実現した.2.ミラーニューロンの数学モデル隠れマルコフモデル(HMM)を用いたミラーニューロン数学モデルとその計算法を確立し,HMMの多重階層化による行為の抽象化を実現した.また,常識データベースをもつ言語解析システムと多重階層化ミラーニューロンモデルとの結合を行った.3.ヒューマノイドロボットによる行為の受容と生成の実験従外力運動をするヒューマノイドロボットの試作を行い,人間動作計測に基づいて動作パターンを獲得して制御系を設計する手法を開発した.また,ヒューマノイドロボットと力学情報処理および言語解析システム,行動受容生成システムの結合実験を行った.4.人間の筋・骨格詳細モデルによる大規模センサリ・モータ系のシミュレーションモーションキャプチャデータに基づく筋張力の推定と動力学シミュレーションを行う手法を開発した.また,人間詳細モデルの動力学計算の並列計算による高速化を実現した.大規模センサリ・モータ系としてのヒューマンキデルシミュレータを開発し,力学的情報処理モデルとの結合を実現した.
著者
大武 美保子 前田 貴記 加藤 元一郎 淺間 一 高木 利久
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
インテリジェントシステム・シンポジウム講演論文集
巻号頁・発行日
vol.16, pp.323-324, 2006-09-25

Schizophrenic patients have abnormal sense of agency. The patients experiencing passivity phenomena believe their thoughts and actions to be those of external or alien entities. In this study, the authors propose method for simulating the cognitive deficit in schizophrenia whose data are comparable to the experimental data. We proposed the efferent copy activation and comparator inhibition model describes under-attribution and over-attribution in schizophrenic subjects. The output of this functional model is mapped onto the corresponding brain area based on Talairach atlas. The simulation results of this study well describe the experimental results of a schizophrenic cerebral pattern of activation.