- 著者
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清水 大地
- 出版者
- 日本認知科学会
- 雑誌
- 認知科学 (ISSN:13417924)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, no.2, pp.283-290, 2019-06-01 (Released:2019-12-01)
- 被引用文献数
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1
1950 年のAPA 会長就任講演において,知能に関する研究者であるGuilford は創造性研究の必要性に関する重要な指摘を行った.その指摘に伴い,数多くの創造性に関する研究がこれまで心理学や認知科学において蓄積されてきた.特に,近年は情報技術やAI の発展に伴い,ヒトの有する新奇なモノを生成するcreativity という概念に再び大きな着目が集まりつつある.例えば2018 年度には,アメリカのオレゴン州において第1 回のCreativity Conference が開催され,Csikszentmihalyi やSternberg といった名だたる研究者を含む数多くの研究者・実践者が集まり活発な議論が繰り広げられた.また2019 年度には,Cognitive Science Society のAnnual Conference(Cog Sci 2019) においてcreativity がテーマとして掲げられている. このような興味・関心の高まりと並行して,近年の創造性研究においては,対象とする創造性の定義や枠組みを見直そうとする機運が高まっている.紹介する各論文が主張する通り,creativity という曖昧で抽象的な存在を対象にした研究を行う際には,その対象をどのようなものと理解するのか,という定義や枠組みに関する問題が常に付随する.例えばRhodes (1961) による創造性を捉える観点を整理したFour P’s Approach (Person, Process,Product, Press) がその代表として挙げられるだろう.特にこれまでの心理学や認知科学では,主に個人の高次認知過程や特性に焦点を当てたアプローチが営まれてきた.一方近年では,Csikszentmihalyi (1991) のSystems model のように,創造性を個人・環境・社会との関係性の中から生じるものと捉えて検証する試みも徐々に営まれつつある.以上を踏まえ,本稿ではcreativity に関する定義・枠組み・測定手法に関する包括的な整理や問い直しを試みた論文を3 本紹介する. 以上の論文を参照することにより,暗黙的な背景設定の下で行われる傾向の強い創造性という概念を今一度考え直すことを本稿は目的とする.とはいえ定義・枠組みに関する一部の論文を取り上げたにとどまっており,あくまで最近の動向としてご確認いただければ幸いである.