- 著者
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小川 剛生
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2017-04-01
2019年度は今川義元の生誕500年に当たる。そこで黒田基樹によって企画された論文集『今川義元』に、「今川文化の特質-和漢聯句を視座として」と題して論文を執筆した。この論文は、当該研究の成果をもとに、義元が主催したり、あるいは参加した和漢聯句・漢和聯句の催し四度を取り上げて、その開催事情・句意・連衆などを整理し、その意義を述べたものである。これによって、和漢聯句が、たんに文化のみならず、朝廷・幕府との交渉や領国支配といった政治的な活動においても、極めて重要な役割を果たしていることを実証できたと考えられる。それはまた戦国国家を構成する人々、すなわち国衆、内衆、さらに在国する公家衆、また五山・妙心寺派の禅僧とが教養も階層も異にしながら、同座しての交歓や交渉がしばしば和漢聯句・漢和聯句によって可能となり、彩られていた事情を強く示唆するのである。こうした和漢聯句の流行の前提には、中国宋元版の韻書の将来、五山版などの刊行が深く関係する。これらを活用した事例がいつまで遡るか、調査研究を進めた。とりわけ宋末に成立した分類体通俗韻書である、分門纂類唐宋時賢千家詩選に着目し、南北朝中期、頓阿が開催した句題百首が、その源泉をこれに仰いでいる事実を明らかにした。これは論文「頓阿句題百首の源泉-宋末元初刊の詩選・詩話・類書との関係を中心に」(藝文研究117)として公表した。さらに7月12日から14日にかけては、国文学研究資料館の教員と合同で、九州国立博物館での「室町将軍」の展示見学、および九州大学附属図書館の雅俗文庫、祐徳稲荷神社(鍋島直朝の蔵書)、福源寺(佐賀県鹿島市)の滴水文庫(梅嶺道雪の蔵書)における室町期漢文学文献の調査を行って、多くの知見を得ることができた。また10月1日は川越市立中央図書館・遠山記念館の調査を行い、11月23日は京都大学文学部における和漢聯句研究会に参加した。