著者
山口 修平
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.222-230, 2007-09-30 (Released:2008-10-01)
参考文献数
25
被引用文献数
2

エピソード記憶の記銘と想起,意味記憶の想起,そして作業記憶における前頭葉の役割を神経機能画像研究の成果を中心に概説した。エピソード記憶の記銘の際には左の前頭前野が関与し,想起に際しては両側の前頭前野が関与している。記憶内容の言語化の程度も半球差に影響している。新奇な刺激の自動的な記銘には後方連合野の関与が強いが,前頭葉の情動(前頭眼窩面)や注意のネットワーク(前帯状回)も関与している。意味記憶そのものは側頭葉を主体とするネットワークに存在するが,その随意的な想起には左腹外側前頭前野の役割が重要である。作業記憶は前頭葉の実行機能の中で中心的な役割を果たしており,その際に主に活動する前頭葉内部位は中および下前頭回であり,頭頂葉とのネットワークが重要である。
著者
梶原 千世里 藤本 寛子 山口 嘉一 水田 菜々子 伊藤 純子 山田 宏 山口 修
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.43-46, 2013-01-01 (Released:2013-04-23)
参考文献数
6

症例は,54歳,男性。1型糖尿病,慢性腎不全で腹膜透析を導入していた。入院当日,自宅前で倒れているところを発見され,当院に救急搬送となった。来院時は軽度の意識障害があり,血液検査上,血糖値1,452 mg/dl,血清Na濃度 107 mmol/lと高血糖,低Na血症があり,代謝性アシドーシスと炎症反応マーカーの上昇を認めたことから,感染を伴う糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis, DKA)と診断し,全身管理目的でICU入室となった。透析中の無尿症例であるため,一般的な初期治療として推奨される輸液負荷は危険と考え,心臓前負荷の評価を行い,維持輸液量で治療を開始した。また,1時間毎に血液ガス分析で,電解質,血糖値を測定し,緩徐に電解質,血糖値の是正を行い,第3病日から血液透析に移行した。慢性腎不全患者のDKAに対し,初期治療の結果を頻回に評価して電解質および血糖値を緩徐に補正することで,神経学的合併症なく軽快退院できた。
著者
小林 祥泰 小出 博己 山下 一也 卜蔵 浩和 山口 修平
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.189-195, 1993-06-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
13
被引用文献数
2 3

脳ドックを受診した脳卒中の既往がなく神経学的に異常のない健常成人124名 (40~79歳) を対象に自覚症状を物忘れ, 意欲低下などの精神的症状と頭痛, めまいなどの身体的症状に分けてMRI上の潜在性脳梗塞様病変および脳血流, 認知機能, 心理状態との関連を検討した.物忘れの自覚は54%に見られ, 加齢と共に増加した.物忘れ単独群 (A-II群 : 46名) では潜在性脳梗塞様病変の頻度は自覚症状のない群 (A-1群 : 57名) と差を認めなかったが, 意欲低下などを伴う群 (A-III群 : 21名) では潜在性脳梗塞様病変が47.6%とA-I群の10.5%, A-II群の10.9%に比して有意に高率に認められ, 脳血流, 言語性認知機能も低下を示した.またSelfrating Depression Scaleでも有意に高値であった.身体的症状についてはこれらの関係は認められなかった.軽度のうつ状態と潜在性脳梗塞様病変が関連していることが示唆された.
著者
井川 房夫 日高 敏和 吉山 道貫 松田 真伍 大園 伊織 道端 伸明 康永 秀生 山口 修平 小林 祥泰 栗栖 薫
出版者
特定非営利活動法人 日本脳神経外科救急学会 Neurosurgical Emergency
雑誌
NEUROSURGICAL EMERGENCY (ISSN:13426214)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-6, 2020 (Released:2020-04-08)
参考文献数
18

最近フィンランドから,くも膜下出血頻度はそれほど高くなく,他のヨーロッパ諸国と同程度と報告されている.最近のくも膜下出血頻度に関するメタ解析では,日本のみ増加しているが,我々の推測では軽度減少している.また,日本のくも膜下出血の治療成績は,退院時転帰不良率はクリッピングとコイリングで差がなく,死亡率はコイリングで有意に少なかった.全国的データのメタ解析ではどちらも差がなかった.日本でなぜくも膜下出血頻度が高いのか,その理由を突き詰めることが今度の動脈瘤研究にとって重要と考えられる.
著者
山口 修平
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.119-123, 2015 (Released:2015-08-07)
参考文献数
14
被引用文献数
3 1

要旨 我が国には600 カ所以上の脳ドック施設があり,未破裂脳動脈瘤や無症候性脳梗塞およびその危険因子の早期発見に貢献している.脳ドックの受診者は中高齢者が多く,近年は脳卒中に加え物忘れの精査を希望する例も増加している.脳ドック学会ではT2*強調画像による脳内微小出血(CMB)の検出が新たに施設認定条件に加えられた.CMB は無症候性脳梗塞や白質病変と同様,将来の脳出血および脳梗塞の重要な危険因子である.皮質に多発する場合はアミロイド血管症も考慮する必要がある.また脳ドック学会は認知機能検査実施も施設認定の条件に加えた.現在約3 割の施設で認知機能検査が実施されているが,人員と時間が必要なためiPadを用いた簡易なスクリーニング検査(Cognitive Assessment for Dementia, iPad version: CADi)などが推奨される.MRI では脳小血管病変の検討とともに,海馬萎縮の検討も勧められる.さらに認知症の早期発見のために,安静時機能的MRI も将来有力な検査項目と考えられる.
著者
山口 修平 小野田 慶一
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.9-16, 2014-03-31 (Released:2015-04-01)
参考文献数
37
被引用文献数
2 2

安静時機能的MRI (rs-fMRI) は脳全体の機能的結合性を簡便かつ鋭敏に解析できる方法として注目されている。被験者の負担が低く,短時間で測定が可能であり,認知症を始めとする精神神経障害を有する患者での測定に適している。安静時に最も強い機能的結合を示す神経ネットワークにデフォルトモードネットワーク(DMN) がある。DMN に含まれる部位はアルツハイマー型認知症でアミロイド沈着が出現する部位に一致し,認知機能障害の出現する前の段階からその結合性が低下することが明らかとなっており,早期診断に利用が可能である。また前頭側頭型認知症など他の認知症疾患の鑑別にも有用である。最近,グラフ理論を用いたネットワーク解析も有用性が明らかとなっている。今後,解析法の標準化,簡便化を行うことで rs-fMRI の臨床応用が進展し,認知症の早期診断に貢献することが期待される。
著者
小黒 浩明 山口 修平
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.20-25, 2017 (Released:2017-08-09)
参考文献数
22

【要旨】アルツハイマー型認知症の治療早期に抗コリンエステラーゼ阻害剤の2剤、塩酸ドネペジルおよびガランタミンを投与した。ドネペジル投与群ではアパシーの改善、ガランタミン投与群では前頭葉機能の改善効果が得られた。記憶検査については改善をみなかった。これらの抗認知症薬は投与初期からアパシーと前頭葉機能賦活効果をもたらす可能性があり、同じ抗コリンエステラーゼ阻害作用でもそれぞれの使い分けができるかもしれない。
著者
山口 修平
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3-4, pp.284-289, 2008 (Released:2011-07-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

【要旨】遂行機能は目的を効果的に達成するための一連の認知活動を指し、目標設定、行動計画、実行、作業記憶、モニター、修正といった内容を含んでいる。背外側前頭前野がその機能の主体を担っている。そして前頭眼窩部や前帯状回を中心とする前頭葉内側部も遂行機能に関与している。さらに頭頂葉、側頭葉、線条体、視床などとの神経ネットワークも重要である。遂行機能障害はこれら背外側前頭前野を中心とする病巣で出現するが、病巣の拡がりが重要である。日常生活、特に計画性、持続性、柔軟性を要するような仕事に関わる場面でより明らかになる。様々な遂行機能検査を用いることで、正確な病態を把握することが重要である。
著者
山口 修平 小野田 慶一 高吉 宏幸 川越 敏和
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.60-66, 2019 (Released:2020-05-22)
参考文献数
29

【要旨】アパシーは動機づけが欠如し目的指向活動の減少した状態とみなされ、臨床的には意欲低下あるいは自発性低下として観察される。アパシーでは、報酬獲得のための行動オプションの生起、オプションの選択、動機づけに関連した覚醒反応、負荷と報酬の関連の評価など、認知モデルのさまざまな段階において障害が生じている可能性がある。近年、コンピューターによるそのモデル解析も可能となってきた。脳卒中、軽度認知障害、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病などで、アパシーは高頻度に出現する症状である。その病巣部位、脳血流、脳機能画像等による解析から、内側および外側前頭前野、腹側線条体、辺縁系、中脳腹側被蓋野を含む神経ネットワークの破綻がアパシーに関与することが推定されている。アパシーの評価には主観的あるいは他者による評価スケールが使用される事が多いが、脳活動を直接記録する事象関連電位による評価も適切な認知課題を設定することで可能となってきた。アパシーはうつと合併する事があるが、臨床的に区別をする事が必要であり、その両者は基盤となる神経機構に相違があることが、機能的MRIや拡散テンソル画像などの手法によって明らかにされている。アパシーの治療に関しては神経薬理学的な研究が進展している。神経伝達物質との関連では、動機づけあるいは報酬志向性にドパミンとセロトニンの交互作用が重要であり、その研究成果が薬物治療の確立に貢献することが期待される。
著者
山口修 [著]
出版者
ぎょうせい
巻号頁・発行日
1985
著者
小林 祥泰 山口 修平 小出 博巳 木谷 光博 岡田 和悟
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.106-110, 1988-04-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
18

我々が以前より脳循環を追跡調査している健常老人66名 (男31名, 女35名, 平均75.6歳) を対象として133Xe吸入法による脳血流量, 知能, 心理的因子と毛髪中のマグネシウム, カルシウムおよび関連ミネラルの関係について検討した.毛髪中のミネラルの分析はICP法でおこなった.結果 : 1) 年齢, 血圧と毛髪中マグネシウム, および関連ミネラルとの間には, 相関は認めなかった.2) 全脳平均血流量と毛髪中マグネシウム, カルシウムは各々r=0.428, r=0.35と有意の相関を示した.また燐は負相関を示した.3) 言語性, 動作性知能およびSDSによるうつ状態度はこれら毛髪中ミネラルと相関を示さなかった.4) 毛髪中マグネシウム, カルシウムは男性で女性に比し有意に低値であった.またナトリウム, カリウムについても同様であった.5) 脳血流量は男性で有意に低値であったが, 知能については性差を認めなかった.
著者
松井 龍吉 小林 祥泰 山口 拓也 長井 篤 山口 修平
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.565-569, 2011 (Released:2011-10-21)
参考文献数
7

多系統萎縮症とは以前よりオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA),線状体黒質変性症(SND),Shy-Drager(SDS)と呼ばれてきた3疾患を包括した病理学的疾患概念の総称である。今回我々は本疾患患者に対し,八味地黄丸を投与したところ,起立時の血圧変動に著明な改善を認めた症例を経験したので報告する。症例は79歳男性。緩徐進行性に動作緩慢,すくみ足,手指振戦を認め,その後立ちくらみ症状が出現。起立性低血圧が見られ各種薬剤の投与を行うが効果は不十分であった。このため八味地黄丸を追加投与したところ,体位変換時の血圧変動が小さくなり,さらに諸症状の改善も認めた。八味地黄丸は自律神経機能の改善に効果を示す方剤とされており,本症例においても多系統萎縮症に伴う起立性低血圧の改善に寄与したと考えられた。