著者
工藤 洋
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.175-183, 2017 (Released:2018-01-30)
参考文献数
47
被引用文献数
2 5

アブラナ科のタネツケバナ属(Cardamine)は約200種からなる。日本の農耕地に見られるのがタネツケバナ,オオバタネツケバナ,ミチタネツケバナの3種である。これらの種を対象に,生活史,生態,進化,系統地理,外来植物,形態形成,ゲノムといった様々な観点の研究がなされてきた。本総説では,これまでの研究を概観し以下の点を論じる。①タネツケバナはC. flexuosaとは別種である。②タネツケバナの学名はC. occulta Hornem.である。③タネツケバナは外来種として世界の温帯圏に広がっている。④オオバタネツケバナの学名はC. scutata Thunb.である。⑤オオバタネツケバナは倍数化によるタネツケバナ属多様化の典型例である。⑥日本のオオバタネツケバナ集団には地理的遺伝構造がある。⑦ミチタネツケバナはヨーロッパ原産の外来植物である。⑧ミチタネツケバナのゲノムが決定し,モデル植物としての基盤が整備されている。⑨ミチタネツケバナの雄しべ数は温度に依存して変わる。これらの研究は,近縁種の分類と同定,農耕地への適応,外来雑草の侵入といった,雑草学研究にとって重要な課題を含み,研究の展開が期待される。
著者
山口 正樹 杉阪 次郎 工藤 洋
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.111-119, 2010-05-30

アブラナ科の越年生草本タチスズシロソウArabidopsis kamchatica subsp.kawasakianaは環境省のレッドリストに絶滅危惧IB類として記載されている。生育地が減少しており、その多くが数百株以下の小さな個体群である。著者らは、2006年春に、琵琶湖東岸において3万株以上からなるタチスズシロソウの大群落が成立していることを発見した。この場所では2004年から毎年夏期にビーチバレーボール大会が行われており、砂浜が耕起されるようになった。この場所の群落は埋土種子から出現したものと考えられ、耕起により種子が地表に移動したことと、競合する多年草が排除されたごとが群落の出現を促した可能性があった。2006年には、この群落を保全するため、ビーチバレーボール大会関係者の協力のもと、位置と時期を調整して耕起を行った。その結果、3年連続で耕起した場所、2年連続で耕起後に1年間耕起しなかった場所、全く耕起しなかった場所、初めて耕起し左場所を設けることができた。この耕起履歴の差を利用し、翌2007年に個体密度と面積あたりの果実生産数を調査することで、タチスズシロソウ群落の成立と維持に重要な要因を推定した。2006年に初めて耕起した場所では、耕起しなかった場所に比べて、翌年の個体密度、面積当たりの果実生産ともに高くなった。2年連続耕起後に1年間耕起を休んだ場所では、3年連続で耕起した場所に比べて、翌年の個体数は増えたが果実生産数は増加しなかった。また、結実期間中(6月)に耕起した場所では、結実終了後に耕起した場所に比べて、翌年の個体密度と果実生産数が低下した。これらのことから、秋から春にかけてのタチスズシロソウの生育期間中には耕起を行わないことと、結実後に耕起を行うことがタチスズシロソウ個体群の保全に有効であると結論した。このことは、ビーチバレーボール大会のための耕起を適切な時期に行うことにより、砂浜の利用と絶滅危惧植物の保全とが両立可能であることを示している。
著者
工藤 洋
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.175-183, 2017
被引用文献数
5

<p>アブラナ科のタネツケバナ属(<i>Cardamine</i>)は約200種からなる。日本の農耕地に見られるのがタネツケバナ,オオバタネツケバナ,ミチタネツケバナの3種である。これらの種を対象に,生活史,生態,進化,系統地理,外来植物,形態形成,ゲノムといった様々な観点の研究がなされてきた。本総説では,これまでの研究を概観し以下の点を論じる。①タネツケバナは<i>C. flexuosa</i>とは別種である。②タネツケバナの学名は<i>C. occulta</i> Hornem.である。③タネツケバナは外来種として世界の温帯圏に広がっている。④オオバタネツケバナの学名は<i>C. scutata</i> Thunb.である。⑤オオバタネツケバナは倍数化によるタネツケバナ属多様化の典型例である。⑥日本のオオバタネツケバナ集団には地理的遺伝構造がある。⑦ミチタネツケバナはヨーロッパ原産の外来植物である。⑧ミチタネツケバナのゲノムが決定し,モデル植物としての基盤が整備されている。⑨ミチタネツケバナの雄しべ数は温度に依存して変わる。これらの研究は,近縁種の分類と同定,農耕地への適応,外来雑草の侵入といった,雑草学研究にとって重要な課題を含み,研究の展開が期待される。</p>
著者
根岸 雅史 投野 由紀夫 長沼 君主 工藤 洋路 和泉 絵美
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

従来の言語テストは、専ら「宣言的知識」を測定してきたと思われる。そこで、本研究では、「手続き的知識」を測定することのできるテストの開発を試みた。このために、大規模英語学習コーパスのテキスト分析を自動で行うことにより、学習者の習得段階を明らかにし、これを反映するようなテスト方法を模索した。「テスト」という手法自体は必ずしもうまく機能しなかったものの、作文の「チェックリスト式採点」はある程度の信頼性のある結果を得ることができることわかった。
著者
山口 正樹 杉阪 次郎 工藤 洋
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.111-119, 2010-05-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
21

アブラナ科の越年生草本タチスズシロソウArabidopsis kamchatica subsp.kawasakianaは環境省のレッドリストに絶滅危惧IB類として記載されている。生育地が減少しており、その多くが数百株以下の小さな個体群である。著者らは、2006年春に、琵琶湖東岸において3万株以上からなるタチスズシロソウの大群落が成立していることを発見した。この場所では2004年から毎年夏期にビーチバレーボール大会が行われており、砂浜が耕起されるようになった。この場所の群落は埋土種子から出現したものと考えられ、耕起により種子が地表に移動したことと、競合する多年草が排除されたごとが群落の出現を促した可能性があった。2006年には、この群落を保全するため、ビーチバレーボール大会関係者の協力のもと、位置と時期を調整して耕起を行った。その結果、3年連続で耕起した場所、2年連続で耕起後に1年間耕起しなかった場所、全く耕起しなかった場所、初めて耕起し左場所を設けることができた。この耕起履歴の差を利用し、翌2007年に個体密度と面積あたりの果実生産数を調査することで、タチスズシロソウ群落の成立と維持に重要な要因を推定した。2006年に初めて耕起した場所では、耕起しなかった場所に比べて、翌年の個体密度、面積当たりの果実生産ともに高くなった。2年連続耕起後に1年間耕起を休んだ場所では、3年連続で耕起した場所に比べて、翌年の個体数は増えたが果実生産数は増加しなかった。また、結実期間中(6月)に耕起した場所では、結実終了後に耕起した場所に比べて、翌年の個体密度と果実生産数が低下した。これらのことから、秋から春にかけてのタチスズシロソウの生育期間中には耕起を行わないことと、結実後に耕起を行うことがタチスズシロソウ個体群の保全に有効であると結論した。このことは、ビーチバレーボール大会のための耕起を適切な時期に行うことにより、砂浜の利用と絶滅危惧植物の保全とが両立可能であることを示している。
著者
工藤 洋
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.66-70, 2007-03-31 (Released:2016-09-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1

ハビタットの環境が大きく変わると、適応度が大幅に低下する可能性がある。適応的な表現型可塑性は、環境変動に際して適応度の低下を防ぐ働きがある。本稿では、適応的な表現型可塑性の機能として、複数ハビタット利用とハビタット選択とがあることを指摘した。複数ハビタット利用では、それぞれのハビタットでの適応度を高めるような表現型を可塑性によって実現する。ハビタット選択では、不適な環境を回避し好適な環境を利用するような形質変化が可塑性によってもたらされる。複数ハビタット利用の例としては、両生類の対捕食者誘導防御・昆虫の季節多型・水生植物の陸生型形成などがある。また、ハビタット選択の例としては、昆虫の相変異に伴う飛翔多型・休眠による季節適応・植物の被陰回避反応・開花調節などがある。
著者
根岸 雅史 投野 由紀夫 酒井 英樹 長沼 君主 高田 智子 内田 諭 金子 恵美子 村越 亮治 奥村 学 工藤 洋路 能登原 祥之 小泉 利恵 石井 康毅 篠崎 隆宏 和泉 絵美 印南 洋 中谷 安男
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

まず、指導タスクとテスト・タスクのうち、CEFR-Jの各CAN-DOディスクリプタに基づくテスト・タスクの開発およびその困難度の検証を優先することを決定した。各CAN-DOディスクリプタに基づく評価タスクの開発としては、2017年度はPre-A1からA2.2を作成したが、2018年度はB1.1からB2.2までのテスト項目の開発と検証を行った。リーディングにおいては、リーディングのテキスト・タイプ、テキスト困難度、タスクについて検討し、修正をした後、テスト・セットを作成した。リスニングにおいては、リーディングと同様、リスニングのテキスト・タイプ、テキスト困難度、タスクについて検討し、修正をしたが、音声の収録およびテストの実施には至らなかった。ススピーキング(発表)・スピーキング(やりとり)・ライティングにおいては、タスクと採点方法について検討し、修正をした後、テスト・セットを作成した。これらのテストをそれぞれ実施し、採点・統計的な分析・解釈を行った。言語処理班では、リーディングやリスニングのテキスト分析の結果に基づき、テキストのCEFR-Jレベルの判定を可能にするプログラムの開発を行い、公開した。さらに、文法のレベル別基準特性を判定を可能にするCEFR-J Grammar Profileを開発・公開した。音声認識では、スピーキング・テスト解答データを追加することで、音声認識プログラムの精度を向上した。2019年3月23日に「CEFR-J 2019シンポジウム in 京都」を開催し、170名余りの参加者があった。このシンポジウムでは、3年間の研究成果の発表をするとともに、CEFR-Jのリソースの活用ワークショップも行った。さらに、CEFR-Jの利用企業や協力校の発表機会を提供した。これらの活動により、CEFR-Jが広く認知され、日本の英語教育の改善に大きく資することができた。
著者
工藤 洋三 佐野 修
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木史研究 (ISSN:09167293)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.109-116, 1999-05-01 (Released:2010-06-15)
参考文献数
13

Production of cement had declined steadily throughout the Pacific War. The decrease had been slow at first and had quickened its pace since 1942. This study aims to explain the reasons why the cement industry declined during wartime even though Japan had enough raw materials, like limestone and clay. From this angle of study, the records based on questionnaire and interrogation conducted by the United States Strategic Bombing Survey just after the war were used to explain the discrepancies between the required production and the actual production. There are many possible causes for such decline of production, e.g. lack of skilled labor, fuel, transportation to consumers, and bomb damages to plants, etc. Throughout discussion, it is concluded that one of the most important factors of rapid decline of cement production was the failure of machinery which were irreplaceable during the war. Because most cement plants used imported machinery, replacement parts could not be imported after the war had begun, hence many plants had to close down until the end of the war.
著者
内田 諭 内田 聖二 赤野 一郎 Danny Minn 工藤 洋路 石井 康毅 ハズウェル クリストファー
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2018年度の研究計画は和英連語辞書に収録すべき見出し語の選定と連語抽出の試行を主眼とし、次の3段階で実施した。・(1)見出し語の選定:BCCWJやTWCなどの日本語大規模コーパスを用いて、収録すべき見出し語の選定を行った。名詞を中心に選定し、日本の英語教育(特に高等学校レベル)の実情に合ったものになるように心がけた。・(2)連語表現の抽出の試行:(1)で選定した見出し語のうち、頻度の高い最重要名詞について、連語表現の抽出を行った。研究分担者の意見や研究会や学会などでの専門家からの助言、コーパスにおける共起指数等を基に、教育目的で有益な連語表現を選定した。また、次年度以降の研究・執筆作業が円滑に行えるよう、連語抽出に関する全体の方針について議論し、手続きをある程度明確化した。・(3)英訳の試行:(2)で抽出した連語表現について、英訳を予備的に実施した。英語母語話者の意見・助言を基に、特に日本語と英語でずれのある表現について集中的に討議した(例えば、「体」は英語ではbodyであるが、「体が温まる」はbecome warm from inside、「体が覚える」はbecome automaticなどのように必ずしもbodyを使うとは限らず特別な注意が必要となる)。これらの作業に加えて、辞書を公開する際に用いるウェブインタフェースのプロトタイプを作成した。これにより、早い段階から研究の最終成果物のイメージを共有することが可能となった。
著者
工藤 洋 マルホルド K. リホバ J.
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.41-49, 2006
参考文献数
51

Four species of European Cardamine have been considered to occur in Japan. Cardamine impatiens L. and C. ftexuosa With, have been treated as pan-Eurasian species that are also native to Japan. Cardamine hirsuta L. and C. parviflora L. have been listed as introduced species. In this study, we compared material from Japan and Europe to evaluate previous treatments. We confirmed the occurrence of C. impatiens and C. hirsuta in Japan, and consider the latter to be an introduced species, as indicated in previous treatments. The Japanese plants identified as C. flexuosa are likely to be different from the original C. flexuosa of Europe. The eastern border of the natural range of the European C. flexuosa is in European Russia, with a wide geographic disjunction between the European and eastern Asian plants. Cardamine flexuosa in central Europe occurs along the edges of montane forests, but the plants in Japan are most common in ricepaddy fields. We found no specimens from Japan of true C. parviflora in the major herbaria of Japan. Further rigorous systematic and nomenclatural studies are required to determine the status of the plants that have been treated as C. flexuosa in Japan.
著者
工藤 洋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2014-05-30

「生物の同調現象」として植物の応答を研究することにより、それにかかわるメカニズムの機能を自然条件下で理解することが目的である。時系列トランスクリプトーム解析を元に3つの研究課題を実施している。①新規に発見した‘生育終了’同調現象の制御因子を同定し機能を解析する。②複雑な自然状況下での遺伝子ネットワークの機能を理解する。③遺伝子発現の応答をバオイマーカーとして利用し、環境を推定する。①これまで選抜してきたシロイヌナズナ生育終了時期のミュータントラインから選んだ6ラインをリシーケンスし、SNP解析により、変異のある座位のリストを作成した。また、そのうち4ラインについて掛け合わせ実験を行いF1から種子を採取した。30年度にF2を分離させ、Mut-Seq法による責任変異の道程を行う予定である。②自然の複雑な状況における機能に焦点を当て、自然集団の時系列ヒストン修飾解析を実施している。ヒストン修飾(活性修飾H3K4me3と抑制修飾H3K27me3)について、鍵となる花成抑制因子FLCの2年間のデータをもとにモデリングを行い、H3K27me3が過去の転写状況を反映して制御されることを見出した。全ゲノムについては1ヶ月毎に1年間のデータを取得し、抑制型ヒストン修飾H3K27me3が多くの遺伝子で同調的の変化するという現象を発見した。この同調的変化現象は、より高次元のクロマチン構造を介した制御の存在を示唆している。③トランスクリプトームをバイオマーカーとし、植物を「環境測器」として利用する。バイオマーカー利用の対象をウイルス量とし、ウイルス接種・温度操作実験とを実施するとともに自然集団でのトランスクリプトーム解析の結果を分析した。
著者
工藤 洋三 橋本 堅一 佐野 修 中川 浩二
出版者
公益社団法人地盤工学会
雑誌
土と基礎 (ISSN:00413798)
巻号頁・発行日
vol.34, no.8, pp.p47-51, 1986-08
被引用文献数
12