- 著者
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西下 智
草野 拳
廣野 哲也
中村 雅俊
梅原 潤
市橋 則明
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.0436, 2017 (Released:2017-04-24)
【目的】肩関節障害の原因の一つとして肩関節後方タイトネス,特に,後方関節包,三角筋後部,棘下筋,小円筋の柔軟性の低下が問題視されている。しかし,これらの組織に対する効果的なストレッチング(ストレッチ)方法についての研究は少ない。新鮮遺体を用いた研究では棘下筋のストレッチには伸展位での内旋が有効であることが示されているが,生体での検証は行われていない。一方で,実際のスポーツ現場や臨床ではcross-body stretchに代表されるような肩関節を回旋中間位で水平内転させる方法やsleeper stretchに代表されるような肩関節を屈曲90°位で最大内旋させる方法が用いられることが多い。我々は棘下筋下部線維に関して「水平内転位や内旋を強調しない伸展位に比べ,伸展位での最大内旋がより効果的なストレッチ肢位である」と報告(第51回日本理学療法学術大会)したが,上部線維に関しては未検証であった。そこで本研究の目的は肩関節下垂位,屈曲90°位,最大伸展位,最大水平内転位のどのストレッチ方法が棘下筋上部線維に効果的か,さらに,回旋による効果の増大が認められるかを明らかにすることとした。【方法】対象は健常成人男性24名(平均年齢24.8±3.8歳)とし,対象筋は棘下筋上部線維とした。棘下筋の弾性率の計測は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用いて行った。弾性率は伸張の程度を表す指標で,弾性率の変化が大きいほど筋が伸張されていると解釈できる。計測肢位は,方向条件が下垂位(Ele0),屈曲90°位(Flex90),最大伸展位(ExtMax),最大水平内転位(HadMax)の4条件,回旋条件が最大外旋位(ER),中間位(NR),最大内旋位(IR)の3条件の計12肢位とした。統計学的検定は各肢位の弾性率について,反復測定二元配置分散分析および多重比較検定を行い,有意水準は5%とした。【結果】12肢位の弾性率を,全対象者の平均±標準偏差(単位:kPa)として,回旋条件をER,NR,IRの順に示す。Ele0が7.7±4.7,7.9±2.1,17.4±8.3,Flex90が9.7±2.9,11.0±3.6,14.9±5.4,ExtMaxが11.7±4.1,16.8±8.0,17.0±6.9,HadMaxが19.6±9.9,22.0±9.8,24.7±10.5であった。統計学的には方向条件,回旋条件の主効果と交互作用があった。方向条件ではHadMaxが,回旋条件ではIRの弾性率が有意に高値を示した。HadMax肢位の回旋条件間比較ではERに比べIRが有意に高値を示したが,NRとERやIRには有意差はなかった。IR肢位の方向条件間比較ではHadMaxIRの弾性率が有意に高値を示した。【結論】棘下筋上部線維のストレッチ方法に関して,最大水平内転と最大内旋が効果的であることが明らかとなった。さらに最大水平内転位においても最大外旋位よりも最大内旋位の弾性率が有意に高値を示したため,最大水平内転位で内旋角度をできるだけ増大させた肢位がより効果的であることが明らかとなった。