著者
村田 容常 本間 清一
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

リンゴを切ると褐変することはよく知られた現象で、酵素的褐変の典型例である。これは、リンゴ細胞中のポリフェノール類がポリフェノールオキシダーゼ(PPO)により酸化されキノン体となり、それがさらに重合するためと考えられている。リンゴPPOは、我々により1992年に初めて単離された。抗PPO抗体を調整し、PPOのリンゴ組織内分布を検討したところ、PPOはリンゴ果実の中心付近(種子の回り)に局在することがわかり、これが褐変部位と一致した。このようにリンゴPPOは、リンゴの褐変に中心的役割をはたすが、構造と活性の詳細は未詳であり、また、その発現を制御することにより褐変をコントロールすることも試みられていない。そこで申請者は、まずリンゴPPO遺伝子をクローニングし、その構造を明らかにすることとした。リンゴPPOをコードすると予想されるプライマーを用い、PCR法によりゲノムDNAを増輻した。その結果、PPO遺伝子と思われるバンドが検出された。増輻断片をpBluescriptに組み込み、大腸菌に導入した。得られた十数個のコロニーの遺伝子を調べたところ2個のPPO遺伝子を得ることができた。各々をシークエンスし、全塩基配列を決定し、アミノ酸配列に翻訳した。その結果、リンゴPPO遺伝子にはイントロンがないこと、シグナルシークエンスよりPPOタンパク質はプラスチドへ輸送されること、銅2分子が結合すると予想される保存性の高い2つの活性中心領域(Cu-A、Cu-B)が存在すること等が明らかとなった。さらに本遺伝子の大腸菌中での発現に成功した。発現タンパク質はPPO活性を有し、かつ抗リンゴPPO抗体と反応した。
著者
本間 清一
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.85-98, 2005-04-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
51
被引用文献数
2 4

食品の褐変により生じた色素 (褐色色素) であるメラノイジンの性質と主な前駆物質を食品ごとに明らかにした。褐変の原因として一般性が高いグルコースとアミノ酸から調製したモデルメラノイジンを材料に, 焦点電気泳動パターン, 金属キレート能, レクチン親和性, 酸化・還元, 調製時のpH条件, ラットにおける出納試験を調べた。Streptomyces werraensis TT14, Paecilomyces canadensis NC-1, Coriolus versicolor IFO30340の3種類の菌で褐色色素を含む食品や各種モデル褐色色素と培養したときの脱色率の差異が, 食品メラノイジンの特徴解析に有効であることをみとめた。さらに, 3-デオキシオソン類, 糖その他の成分分析, 金属キレートアフィニティーを併用した。その結果, 魚醤とタマネギのソテーの褐色は糖質系メラノイジンが主体であり, 凍り豆腐の褐変は多価不飽和脂肪酸の酸化で生じたカルボニル化合物がタンパク質と反応して生じるエーテル可溶性の褐色色素であった。コーヒーの褐変はショ糖とアミノ酸・タンパク質とのメイラード反応にクロロゲン酸などのフェノール系酸化重合物を多量に巻き込んだ高分子である。
著者
佐藤 雅彦 中村 豊郎 沼田 正寛 桑原 京子 本間 清一 佐藤 朗好 藤巻 正生
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.274-282, 1995-03-25
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

和牛がなぜおいしいかを解明する一助のために,銘柄牛とされる5種類の和牛の香気および呈味成分について検討した.理化学的分析の結果は以下のとおりである.<br>(1) 赤肉部の分析では,ペプチドの分子量分布,ヒスチジン関連ジペプチドおよび核酸関連物質に銘柄による顕著な差は認められなかった.全アミノ酸量およびグルタミンは飛騨牛で多く,松阪牛で少なかった.<br>(2) 脂質の分析では,いずれの銘柄牛もほとんどHPLCにおける保持時間(Rt)55分以降にピークが存在し,そのピークパターンは類似していた.脂質の融点は,神戸牛,米沢牛および松阪牛で低く,前沢牛および飛騨牛で高かった.<br>(3) 加熱香気分析では,加熱後の牛肉試料中の脂質含量に差はないが,回収された香気画分の量,香気画分中の窒素化合物において前沢牛が多く,香ばしいことが予想された.また,官能基別分類では,酸類,アルコール類,アルデヒド類,ケトン類に銘柄による相違が認められ,これらは脂質に由来する化合物の差が現れていると考えられた.
著者
本間 清一 大町 睦子 田村 敦子 イシャク エリ 藤巻 正生
出版者
財団法人 学会誌刊行センター
雑誌
Journal of Nutritional Science and Vitaminology (ISSN:03014800)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.375-380, 1983
被引用文献数
2 7

The lipids were extracted from the winged bean (<i>Psophocarpus tetragonolobus</i>) seed with water-saturated <i>n</i>-butanol. Lipids were separated into groups by preparative TLC on silica gel G. The amount of each lipid type was determined by analysis of the fatty acid constituents in each lipid type.<br> Glyceride was the major lipid accounting for 89.6% of the total, followed by an unknown lipid 4%, free fatty acid of 2.3%, 1, 3-diglyceride, 1, 2diglyceride and steryl ester as 1% each and finally a polar lipid as 0.2%. The results show that winged bean oil should be suitable for edible purposes. Triglycerides showed a similar profile of fatty acids to those of whole lipid: the major fatty acids were palmitic (10.9%), stearic (4.5%), oleic (37.1%), linoleic (19.0%), eicosenoic (3.6%), behenic (18.5%) and lignoceric (4.2%) acids. Compared to soybean oil, winged bean oil contained long chain fatty acids and a fairly small amount of linolenic acid which is favorable regarding oil stability against autoxidation.
著者
佐藤 雅彦 中村 豊郎 沼田 正寛 桑原 京子 本間 清一 佐藤 朗好 藤巻 正生
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.274-282, 1995-03-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
9
被引用文献数
3 1

和牛がなぜおいしいかを解明する一助のために,銘柄牛とされる5種類の和牛の香気および呈味成分について検討した.理化学的分析の結果は以下のとおりである.(1) 赤肉部の分析では,ペプチドの分子量分布,ヒスチジン関連ジペプチドおよび核酸関連物質に銘柄による顕著な差は認められなかった.全アミノ酸量およびグルタミンは飛騨牛で多く,松阪牛で少なかった.(2) 脂質の分析では,いずれの銘柄牛もほとんどHPLCにおける保持時間(Rt)55分以降にピークが存在し,そのピークパターンは類似していた.脂質の融点は,神戸牛,米沢牛および松阪牛で低く,前沢牛および飛騨牛で高かった.(3) 加熱香気分析では,加熱後の牛肉試料中の脂質含量に差はないが,回収された香気画分の量,香気画分中の窒素化合物において前沢牛が多く,香ばしいことが予想された.また,官能基別分類では,酸類,アルコール類,アルデヒド類,ケトン類に銘柄による相違が認められ,これらは脂質に由来する化合物の差が現れていると考えられた.
著者
李 榮淳 本間 清一
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.515-519, 1991-06-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
7
被引用文献数
2

アジア諸国の穀醤16種と魚醤4種を電気透析にかけ,非透析性画分のFe(II)キレート能を測定した.方法は0.1mM硫酸鉄(II)を含むpH4酢酸緩衝液によるゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)にかけ,溶出画分の鉄濃度を測定した.その結果,鉄錯体はメラノイジン画分と非着色画分に検出された.醤油のFe(II)キレート能は,穀醤は0.11~1.95mg/ml,魚醤は0.13~0.50mg/mlであり,穀醤は一般に魚醤よりキレート能が大きい.穀醤のキレート能が醤油の色素濃度(450nmにおける吸光度)と相関しなかったことは鉄錯体が非着色画分にも検出されたことと関連があると推定した.
著者
関口 伸子 藤村 理佳 村田 容常 本間 清一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.689-698, 1992-04-01 (Released:2008-11-21)
参考文献数
11

インスタントコーヒー中のFe(II)と結合する成分を検索する目的で,0.1mMのFeSO4を含む0.01M酢酸緩衝液(pH4)を溶出液とするゲル濾過HPLC(カラム平衡法)を用いて実験を行った. (1) EDTAをHPLCにかけると,溶離液中のFeの濃度の平衡がくずれ,EDTAの濃度に比例したFe濃度の山と谷ができた. (2) コーヒー,モデルメラノイジン,フィチン酸,カフェイン,クロロゲン酸の鉄結合性をカラム平衡法で検討したところ,コ一ヒー,モデルメラノイジン,フィチン酸にはFe(II)との相互作用があることがわかった.カフェイン,クロロゲン酸のFe(II)との相互作用は本法ではなかった. (3) イソプロピルアルコールを用いてコーヒー成分の分画をこころみた.70%イソプロピルアルコールが可溶性成分と不溶性成分の分離に一番有効であることがわかった. (4) コーヒーの70%イソプロピルアルコール不溶性成分を水抽出し,トヨパールHW-40 (coarse)で分画したところ,中間に溶離する可視部の吸光度の低い画分と,最後に溶離する赤褐色のクロロゲン酸残基を含む画分はFe(II)との相互作用があった. (5) コーヒーの70%イソプロピルアルコール可溶性成分をトヨパールHW-40 (coarse)で分画したところ,最初に溶離する褐変色素の画分はFe(II)との相互作用があった. (6) コーヒーの70%イソプロピルアルコール不溶性成分を水抽出したあとの繊維状の不溶性物質にもFe(II)との相互作用があった. 終わりにインスタントコーヒーを提供していただいたネッスル株式会社に感謝いたします.
著者
玉木 雅子 鵜飼 光子 村田 容常 本間 清一
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.670-678, 2002-10-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

北海道産タマネギ6種について,貯蔵による品種特性の変化を調べた.(1) 貯蔵中にいずれの品種でも固形分,糖度,平均一球重の変動が認められたが,「蘭太郎」,「さらり」では貯蔵による変動が少なかった.これら2種はピルビン酸生成量あるいはその貯蔵中の増加量が少なく,従来のF1種とは異なる性質を示した.最多に栽培されている「スーパー北もみじ」は,冷蔵貯蔵前の11月はピルビン酸生成量,硬度ともに低値を示したが,12月以降は両者とも急激に上昇した.(2) ほとんど全てのタマネギは,長期保存中もソテー加工に適する固形分量およびパウダー加工に適する還元糖量を示した.(3) タマネギの硬度を品種間で比較したが,測定時期(貯蔵期間)により変動し,品種による硬さの位置づけはできなかった.(4) 鱗茎部分の色彩および遊離糖の組成は貯蔵により変動し,その傾向は淡路産タマネギと類似していた.本研究を行うにあたり,北海道産タマネギの品種についてご指導いただいた北海道立北見農業試験場場長宮浦邦晃氏,ならびに試料タマネギの栽培,採取および選定にご協力いただいた同試験場園芸科科長田中静行氏に深く感謝の意を表します.
著者
本間 清一 頼澤 彩 村田 容常
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

コーヒーの試料として大量に入手でき、保存ができるインスタントコーヒーを選び、コーヒー亜鉛複合体を以下のとおり調製した。pH4.0,10mMのヘキサミン緩衝液(10mM KClを含む)にコーヒーを溶かし、終末濃度20mMになるようZnCl_2を加え、生じた沈殿を集めた。沈殿の1%アンモニア可溶性画分を(Sample AP)した。ApをAmerlite410とAmberlite IR120にかけ、水と1%アンモニアで溶出し、Zn含量の高い画分を塩酸で酸性にして生じた沈殿を遠心分離した。この沈殿物質をセルロースカラムにかけイソプロパノール-1%アンモニア水の系で展開し、混合比3:2で溶出される画分が最もZn-キレート能力の高い(-log kd=8.6×10^<-9>)画分(Ap-V)であった。の分子サイズは48kDで構成成分は30.4%のフェノール、糖とアミノ酸がそれぞれ3%と4%、ケルダール法による窒素含量が10%を越えた。リンが殆ど検出されなかったのでZn-キレート性成分の形成にメイラード反応とフェノール化合物の酸化分解や重合の関与を推定した。高分子のAp-V画分の構成成分を推定するために、アルカリ溶融分解を行い中性と酸性画分に主要な分解物が回収されてくることを確かめた。3D-HPLCとLC-MSによる解析の可能性を見いだした。キレート成分の生成する要因を調べるためコーヒー生豆の熱水抽出液乾燥粉からインスタントコーヒーと同様にキレート成分を精製した。Ap-V全量中の亜鉛含量は生豆よりインスタントコーヒーの方が多かったが、1g当りの亜鉛含量は生豆の方が多く、生豆は多くのZnをキレートすることが示唆された。インスタントコーヒーのAp-Vは、470nm吸光度が高い値を示し、生成に焙煎が関与している可能性が高い。生豆のAp-Vでは280nmの吸収も確認され、また生豆試料をトリプシン処理したもののキレート能を比べるとAp-V全量中の亜鉛含量が極端に減少したことから、生豆の亜鉛キレート性成分は約13,000Dと約10,300Dのタンパク質である可能性が示唆された。コーヒーを飲む時、乳脂肪やタンパク質の多いクリームを加えて飲むことが多い習慣をふまえ、熱いコーヒーにミルクを添加したサンプルからAp画分を調製したところ、コーヒーのみから調製したAp画分より亜鉛含量が低かった。そのため、乳成分はコーヒー成分と複合体をつくることにより、コーヒーのキレート作用を抑制することがあると考えられる。
著者
寺沢 なお子 村田 容常 本間 清一
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

土壌中よりメラノイジン脱色能を有する放線菌Streptomyces werraensis TT 14を、また開封したインスタントコーヒー中よりコーヒーを脱色する糸状菌Paecilomyces canadensis NC-1を得た。これらの微生物と、高いメラノイジン脱色活性を有する担子菌Coriolus versicolor IFO 30340の3株を用い、褐色色素の脱色率を調べた。その結果、モデル褐色色素においてはS.werraensis TT 14はXylとGly、またGlcとLysより調整したメラノイジンをよく脱色した。またフェノールの重合色素は脱色せず、逆に着色した。C.versicolor IFO 30340はすべてのモデルメラノイジンをよく脱色したが、フェノール系の色素は脱色せず、着色した。P.canadensis NC-1はXylとGly、GlcとTrpから調整したメラノイジンを50%以上脱色し、またフェノール系の色素も脱色した。各種食品の褐色色素の脱色率をみると、S.werraensis TT 14は市販のカラメルA、コーラ、ココアを、C.versicolor IFO 30340は糖蜜、醤油、味噌、カラメルA、黒ビール、麦茶、ウスターソースA,B,C、ココア、チョコレートなど、アミノカルボニル反応が主体と考えられる食品を50%以上脱色した。一方P.canadensis NC-1は、インスタントコーヒー、紅茶、ウスターソースC、ココア、チョコレートなど、フェノールの重合反応が関わっていると考えられる食品も50%以上脱色した。これはモデル褐色色素の脱色の結果とよく一致している。このことより、カラメルAはGlyやLysが着色促進剤として加えられ、Xyl-Gly、Glc-Lysメラノイジンのような反応が起こっているのではないか、またコーラにはカラメルAのようなカラメルが添加されているのではないか、ウスターソースCはウスターソースAやBよりもフェノールの関与が強そうであるなど、これらの微生物を用いることにより、食品の褐色色素の識別が可能であることが示唆された。