著者
平野 信一 山田 努 杉原 真司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2016年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100144, 2016 (Released:2016-11-09)

【目的】 東北地方太平洋沖地震の津波から5年余りが経過したが、沿岸域はいまだに東電福島第一原子力発電所事故による放射性物質汚染にさらされている。本研究では、阿武隈川水系などから仙台湾に流入する堆積粒子と原発事故由来の放射性物質の移動・拡散・濃縮を明らかにする。 【方法】 宮城/福島県境沖から仙台港までの仙台湾沿岸域においてこれまで10回(平成24年3月~平成27年9月)にわたり底質試料をエクマンバージ型採泥器、フレーガーコアラ―を使用し採取した。採取試料の堆積物放射能の測定に際しては、九州大学アイソトープ統合安全管理センターのゲルマニウム半導体検出器を使用し、経時変化・深度変化について論じた。 【結果】 試料の137Csの測定結果から、阿武隈川河口沖では、他の海域に比べて放射性セシウムの集積が顕著であることが明らかとなった。この海域においても、より陸地側(水深の浅い)の地点よりも、水深約20 mの地点(B3地点)で集積が進んでいる。これは、阿武隈川集水域で沈着放射性物質の自然除去が継続的に進行しているためと考えられる。集水域で放射性セシウム(134Cs、137Cs)の地表移動過程を経時的に観測した結果から、集中降雨時に大量の放射性物質が河川系を経て流出することが明らかとなっている(Minoura et al., 2014)。沈着放射性セシウムは、細粒物質(フミン、粘土粒子など)に付随している。これら浮遊物が増水時に河川を経て河口から流出し、陸水が海水と混合する過程で凝集し阿武隈河口沖に沈積したと解釈される。セシウム濃度の増大傾向は、集水域における放射性物質が降水により易動的となり、地表流水により効果的に排出されている可能性を示唆している。河口沖で凝集・沈積した細粒堆積物は、再移動作用が波及しない限り、緩やかな生物擾乱を受けながら集積してゆく。この堆積効果により、地表沈着放射性物質は河口沖に埋積される。しかし、強力な底層流を促す沿岸流の発達などは、こうした底質を大規模に侵食する可能性がある。その場合には、埋積された放射性物質の急激な拡散が懸念される。 また、名取川河口沖、特に水深20 m付近のD4地点でも放射性セシウムの中濃度集積が進んでおり、名取川上流域および河口沖でも、それぞれ阿武隈川集水域および河口沖における同様な過程が進行しているとことが予想される。 このように、大河川河口沖では、内陸から流送された放射性物質が水深約20mの海底に堆積しホットスポットを形成していた。
著者
加藤 かおり 沖 裕貴 杉原 真晃 勝野 喜以子
出版者
国立教育政策研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、ビグス(John Biggs)によって提唱された教授学習理論である「教育構成の整合(Constructive Alignmentの仮訳)」の理論に焦点をあて、①その理論の大学教授学/大学教育開発上の意義に関する理論研究、②同理論を踏まえた学習成果基盤型の大学教育の実効化を促すFDプログラム及び教育プログラム検証モデルに関する開発的な実践研究、③これら二つの側面を往還して行う日本の文脈への適合のための課題分析の三つの観点から調査研究を行う。
著者
杉原 真晃
出版者
聖心女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、教養教育におけるサービス・ラーニングの実践研究を通して、①地域社会という学外要件を含み入れたサービス・ラーニングならではの学習共同体の意義と構造を明らかにするとともに、深い学びに関する学習理論を参照しつつ、②学生自身による市民的教養の涵養、多様な学問領域の関連づけ、初等・中等教育と高等教育との関連づけを実現するサービス・ラーニング・プログラムを開発し、③教養教育カリキュラムにおける有効な位置づけを探ることを目的とする。本研究により、教養教育の理論的発展、学生の深い学びの実現、ウェル・ビーイングを追求する社会を創る主体の形成等の成果が期待される。
著者
杉原 真晃
出版者
山形大学
雑誌
山形大学高等教育研究年報 : 山形大学高等教育研究企画センター紀要
巻号頁・発行日
vol.3, pp.13-17, 2009-03-31

はじめに このたび,私は平成20年度「山形大学教養教育ベストティーチャ一新人賞」をいただいた。山形大学に着任して2年の私がこのような名誉ある賞をいただき,喜びと恐縮とが合わさった気持ちになると同時に,私の授業を一緒に作ってきた受講学生 そして私を推薦してくださった山形大学の先生方に心より感謝申し上げたい気持ちでいっぱいである。山形大学教養教育ベストティーチャー賞および新人賞は,大変優れたシステムである。それは,ファカルテイ・ディベロップメント(FD)の一環として授賞制度を設けており,受賞者にはその教員の持つ優れた実践のノウハウを「公開」して学内に「還元」することがセットとなっていることである。もちろん,学内に限らず,学外の人たちが公開されたものにふれることも可能となっている。そして,この賞は非常勤講師も含めたすべての教養教育授業担当教員に開かれている。つまり,このシステムは自由,競争,機会の平等,そして知的格差(不平等)への再分配を実現しているのである。ロールズ(RawIs,J.)が見れば,これを何と評価したであろう。さて,以上のようなシステムのため,私は受賞に際し,自身の授業を公開した。公開した授業は春学期の「春からのキョウヨウ教育必勝法A」(学際・総合領域)と秋学期の「秋からのキョウヨウ教育必勝法A」(教養セミナー)である。本稿では,主として「春からのキョウヨウ教育必勝法A」(以下,「春キョウ」)について紹介する。
著者
森本 喬 小林 良太郎 杉原 真
雑誌
組込みシステムシンポジウム2011論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.12-1-12-10, 2011-10-12

近年の集積回路の微細化に伴い,ソフトエラーと呼ばれる現象の発生が増加している.特に SRAM であるキャッシュはソフトエラーに対して脆弱であり,ソフトエラー耐性の向上が必要となる.メモリ回路のソフトエラー耐性向上手法として,誤り訂正符号 (ECC) 技術がしばしば用いられる.ECC の使用はメモリ回路においてアクセスレイテンシの増加を伴う.アクセスレイテンシの増加は,キャッシュを搭載した高い性能が要求される組込みシステムでは許容できない.本研究では,キャッシュのアクセスレイテンシを増加せずに,ECC 技術を適用したスクラッチパッドメモリ (SPM) を用いるソフトエラー耐性向上手法を提案する.計算機実験により,SPM 未実装時と比較して最大 72% のソフトエラー耐性向上を確認した.
著者
丸山 和昭 佐藤 万知 杉原 真晃 立石 慎治 MARUYAMA Kazuaki SATO Machi SUGIHARA Masaaki TATEISHI Shinji
出版者
名古屋大学高等教育研究センター
雑誌
名古屋高等教育研究 (ISSN:13482459)
巻号頁・発行日
no.20, pp.91-110, 2020-03

大学教員における教育と研究の分業が、高等教育政策をめぐる議論のなかで取り上げられている。教育と研究の両立、分業については、大学教員を対象とする調査研究の蓄積があるが、大学外の人々の認識は十分に検討されてこなかった。そこで本研究では、大卒者へのウェブ調査の結果をもとに、教育、研究を行わないタイプの働き方が「大学教員にふさわしい」と判断されるか否かについての分析を行った。分析からは、教育と研究を両立する働き方が「大学教員にふさわしい」と判断される傾向が強いことが明らかとなった。他方、分業を認める立場も一定割合を占めており、特に私大出身者に分業を許容する傾向が見られた。ただし、分業を認める立場にあっても、"教育と研究を両立しつつ、社会貢献や管理運営にも関わる"という従来型の教員像への評価が、分業型の教員像に対する評価を上回る傾向にあった。教育と研究の分業化が先行する英語圏の動向を踏まえても、細分化された役割を担う教員は、不安定な身分に置かれやすい。分業の導入を巡る議論においては、新しいタイプの教員が相対的に評価の低い地位に固定化されることがないよう、格別の配慮が求められる。The division of education and research among university faculty is an issue arising upstream of the debate on higher education policy. Regarding the balance between education and research, and the division of labor, previous studies have been accumulating, which target university teachers, but its recognition by people outside the university has not been fully examined. Therefore, in this study, based on the results of an internet survey of university graduates, we analyzed whether or not the type of work that does not involve education or research was judged to be "suitable for university teachers." Analysis revealed that work styles that balance education and research tend to be judged as "suitable for university teachers." Conversely, the position of allowing a division of labor also occupies a certain percentage, and there was a tendency to allow a division of labor especially for those from private universities. However, even if they are in a position to recognize the division of labor, the evaluation of the traditional teacher image of "being involved in social contribution and management while balancing education and research" tends to exceed the evaluation of the image of research-only professors and teaching-only professors.本研究はJSPS科研費17K04691の助成による。
著者
芹澤 光範 杉原 真
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. CPSY, コンピュータシステム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.474, pp.303-308, 2010-03-19
参考文献数
8

現在のコンピュータシステムにおいて,高速な処理を行うためのキャッシュメモリの導入及び,複数のタスクを切り替えながら実行するマルチタスク処理が必要不可欠なものとなっている.マルチタスク処理においてタスクスイッチ時にダーティラインを主記憶へ退避させる必要がある.本研究では,性能オーバーヘッドを低減することでプロセッサの性能が向上すると考え,性能オーバーヘッドの原因となるキャッシュメモリ中のダーティラインに着目する.タスクスイッチによる性能オーバーヘッドを実験的に知ることで,性能オーバーヘッドを低減させるスケジューリングが開発可能になると考えられる.本稿では,タスクスイッチ実験を行い,タスクスイッチによって追い出されるダーティラインに起因する性能オーバーヘッドの定量的評価を行った.実験の結果,性能オーバーヘッドはプログラム及び,タイムスライスの影響を受け,タスクスイッチを行わなかった場合よりも最大で37%程度の実行サイクルが増加することが分かった.
著者
丸山 和昭 佐藤 万知 杉原 真晃 立石 慎治 MARUYAMA Kazuaki SATO Machi SUGIHARA Masaaki TATEISHI Shinji
出版者
名古屋大学高等教育研究センター
雑誌
名古屋高等教育研究 (ISSN:13482459)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.91-110, 2020-03

大学教員における教育と研究の分業が、高等教育政策をめぐる議論のなかで取り上げられている。教育と研究の両立、分業については、大学教員を対象とする調査研究の蓄積があるが、大学外の人々の認識は十分に検討されてこなかった。そこで本研究では、大卒者へのウェブ調査の結果をもとに、教育、研究を行わないタイプの働き方が「大学教員にふさわしい」と判断されるか否かについての分析を行った。分析からは、教育と研究を両立する働き方が「大学教員にふさわしい」と判断される傾向が強いことが明らかとなった。他方、分業を認める立場も一定割合を占めており、特に私大出身者に分業を許容する傾向が見られた。ただし、分業を認める立場にあっても、“教育と研究を両立しつつ、社会貢献や管理運営にも関わる”という従来型の教員像への評価が、分業型の教員像に対する評価を上回る傾向にあった。教育と研究の分業化が先行する英語圏の動向を踏まえても、細分化された役割を担う教員は、不安定な身分に置かれやすい。分業の導入を巡る議論においては、新しいタイプの教員が相対的に評価の低い地位に固定化されることがないよう、格別の配慮が求められる。The division of education and research among university faculty is an issue arising upstream of the debate on higher education policy. Regarding the balance between education and research, and the division of labor, previous studies have been accumulating, which target university teachers, but its recognition by people outside the university has not been fully examined. Therefore, in this study, based on the results of an internet survey of university graduates, we analyzed whether or not the type of work that does not involve education or research was judged to be “suitable for university teachers.” Analysis revealed that work styles that balance education and research tend to be judged as “suitable for university teachers.” Conversely, the position of allowing a division of labor also occupies a certain percentage, and there was a tendency to allow a division of labor especially for those from private universities. However, even if they are in a position to recognize the division of labor, the evaluation of the traditional teacher image of “being involved in social contribution and management while balancing education and research” tends to exceed the evaluation of the image of research-only professors and teaching-only professors.
著者
杉原 真晃 橋爪 孝夫 時任 隼平 小田 隆治
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.341-349, 2015-03-20 (Released:2016-08-11)

本研究では,大学初年次教養教育科目としてのサービス・ラーニングにおける現地での活動の質の向上という課題に対して,地域住民とともに活動を行う参与型の実践,評価者に地域住民も加わる実践,地域住民と教員が協働で評価基準を開発・活用するケースについて,評価基準の協働作成と学生への提示の有効性を検討した.その結果,現地での活動の目標の意識化・再設定,意義・方法・役割の明確化,現地の人々や他学生との意義の共有・一体感の獲得等に対して,評価基準が有用であることが明らかとなった.学習成果との関連については,評価基準に示された項目の中で,現地にて重要視されており,学生がそれを達成し,評価基準がそれに対して有用であったと感じられた項目が多い結果となり,本授業で活動・学習の質の保証・向上が概ね達成されており,協働作成した評価基準が有効に機能したことが明らかとなった.
著者
田口 真奈 半澤 礼之 杉原 真晃 村上 正行
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.327-337, 2012
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究は,FD(Faculty Development)業務を担当する若手教職員を対象とした調査結果から,担当者が業務上,連携を取る必要のある部局との連携の程度,ならびに担当者のキャリア展望が,FD業務へのやりがいや不安といった感情にどのような影響を与えるのかを明らかにするものである.大学教育センター等に所属する教員,FD委員会に所属する教員,事務職,組織の代表者といったポジションによる違いを検討したところ,センター所属の教員の方が委員会所属の教員よりも,また代表者は,若手教員よりもやりがいが高いことが明らかとなった.次に,こうしたやりがいや不安に影響を与える要因として,委員会所属の教員においては,連携が取れていることと,FD業務を自身のキャリア展望に位置づけられることがやりがいを増すことにつながる可能性が示唆された.センター所属の教員については,キャリア展望と,やりがいにのみ関連がみられた.事務職については関連はみられなかった.
著者
神藤 貴昭 酒井 博之 山田 剛史 村上 正行 杉原 真晃
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.113-116, 2006

本研究では,京都大学教育学部の授業と,鳴門教育大学大学院学校教育研究科の現職小・中・高教員対象の授業を連携させ,教育の理論と実践について議論することを目的とした京鳴バーチャル教育大学(KNV)実践の概要を示し,また,相手大学に現職教員あるいは京大学生という自己とは異なった顔を持つ<他者>がいることによる「フレーム」の変容に関する考察を,インタビュー及び電子掲示板の発言をもとにおこなった.その結果,一部「フレーム」の変容が困難であった受講生もいたが,教育に関する知識に関する「フレーム」変容だけではなく,教育に関する考え方や議論の仕方等,形式に関する一定の「フレーム」の変容が認められた.