著者
吉田 昌幸 小林 重人
出版者
経済社会学会
雑誌
経済社会学会年報 (ISSN:09183116)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.144-160, 2016 (Released:2021-04-01)

This paper presents the results of a gaming simulation study into how people change their consciousness and behavior as a result of using different forms of community currencies. In recent years, some studies have examined the effect of community currency use in promoting the local economy and community. These studies suggest that, in order to promote the use of community currency, it is important to form a positive feedback system between consciousness and behavior. However, these existing studies have not considered the difference of the effects brought about by different forms of community currency. In this study, we consider changes in consciousness and behavior that relate to two forms of community currency: paper currency and LETS (Local Exchange and Trading System) currency. We initiated a Community Currency Game, in which we analyzed subject behavior and subjects completed questionnaires. The results are as follows: Paper currency has a larger amount of flow and participants are encouraged to circulate. However, this type of community currency does not form the value of monetary diversity and community oriented value so much. LETS currency forces participants to create opportunities in order to use community currency and create value based on their regional contribution and monetary diversity. However, this type of community currency tends to lead to a closed circle.
著者
小林 博志
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.123-146, 2018-12-28 (Released:2021-11-24)
参考文献数
11

本稿は、農協婦人部の機関誌的存在であった雑誌『家の光』を通して、農村での家事テクノロジーシステムの成立について考察する。家事テクノロジーシステムとは、工業製品で構成された家事労働のための道具集団を意味する。水道普及率の低さから農村に残存した「水汲み」という家事労働では、戦前からの農事電化を背景に普及した配電システムを前提に、一九五〇年代中頃から導入された電動ポンプが、新たな給水システムを成立させる。この成立を前提に一九六〇年代初めから普及が加速する洗濯機の導入により、新たな洗濯システムが成立する。既存のシステムを前提とした「モノ」の導入が新たなシステムを成立させることで、次の「モノ」の導入を促す。このシステム成立の連鎖により「モノ」が普及していく。規格化された工業製品が、都市と同様に農村にも普及することで、双方の生活者の中に「世間の標準」という共通の生活意識が形成される。それは、都市と農村が共有しうる「人並み」という生活水準意識の形成であり、今日の格差問題を「問題」として認識する原型となる。
著者
神林 博史
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.11-36, 2018-03-28 (Released:2021-12-01)
参考文献数
33

本研究の目的は、現代日本における地位不安、すなわち社会経済的地位についての不安の特徴を計量的に明らかにすることである。地位不安は、不平等が人びとの健康や問題行動に影響する際の媒介変数として社会疫学で近年注目されており、社会学的な応用の価値が高いと考えられる。しかし、地位不安がどのような性質を有しているかについて、日本での実証研究の蓄積は乏しい。本稿では一九九五年と二〇一五年に実施された全国規模の社会調査データを用いて地位不安(地位競争不安、地位喪失不安、現状維持指向)と社会経済的地位の関係を分析した。分析の結果、(一)地位不安の分布は二十年間で大きく変化していない、(二)地位不安と社会経済的地位の関連は総じて弱い、(三)地位不安と社会経済的地位の関連も二十年間で大きく変化していない、の三点が明らかになった。これらの結果は、二〇〇〇年代後半以降の格差・不平等問題への社会的関心の高まりを考えると予想外であり、社会経済的地位と地位不安を結びつけるメカニズムをより詳しく検討することが必要である。
著者
小林 一穂
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.61-82, 2017-09-14 (Released:2021-12-12)
参考文献数
17

現代農村では担い手の問題が重要になっている。本稿では、農業者の主体的な起動力となる行動理念のあり方を模索することによって、現代農村の困難な状況を突破する糸口を見出そうとする。 これまでの農本主義論を再検討して、農業者の日常意識である農本意識の契機として、自然との融和、勤労の重視、家族中心、地域的協同を抽出した。農本意識を体系化させ固定化したイデオロギーである農本主義においては、この諸契機が、自然没入主義、勤労至上主義、家父長主義、「共同体」主義、へと変質させられる。この実例として現代の農本主義者をとりあげて検討した。 農業者の生産と生活に妥当しつつ体系化されて不断に再構成される農本思想は、自然、勤労、家族、協同、という諸契機から構成される。この農本思想が農業者の行動理念として機能することが、現代農村の家族経営と村落社会の立て直しにとって重要である。
著者
小林 博志
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.157-180, 2017-02-28 (Released:2021-12-18)
参考文献数
11

本稿では、高度経済成長期における農家の嫁の意識変化を、JAの家庭総合誌『家の光』から考察する。高度経済成長期には、営農の機械化・施設化による営農経費の増大と都市化による生活費の増大が、農村の消費社会化を進行させ、これにより兼業化が加速する。夫の兼業により、営農の中心的役割を嫁が担うことで営農での地位改善がなされ、農協婦人部と結びついた生活改善運動の展開を背景に、営農での地位改善は家庭生活での地位改善へと連動する。結果として、消費と教育への関心を高める。これは、嫁の意識が近代家族的価値観へと変化した表れである。テレビ普及というメディア環境の変化が、この意識変化を加速させ、テレビが示す「人並み」のモデルを追い求めることで、農村の平準化が進行する。そして、この変化を促す要因の一つが、農村に存在した旧来の気質である。農村の社会的弱者であった嫁の地位改善とそれに伴う意識変化は、近代化の浸透が農村の家庭レベルにまで及ぶことを意味し、このことが本稿を通して明らかとなる。
著者
平林 裕規
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.230-240, 2017-05-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
9

本研究では,手描き地図における描画の詳しさの部分的な違いに着目した新たな分析手法であるバッファ重心法を提案する.実際に,愛知県名古屋市東区に位置する東海中学・高校の在校生(中学3年生~高校3年生)を調査対象とした手描き地図調査を通してその有効性を検討する.手描き地図の分析手法の一つにバッファ法がある.一般に手描き地図では,詳しく描いてある部分とそうでない部分がある.バッファ法にはこの局所的差異をとらえられないという課題があった.空間認知における認知度の局所的差異は重要なテーマであり,その中でもアンカーポイント仮説などの理論が提唱されてきた.そこで,バッファ重心法を提案し,これを実際に適用することで認知地図の局所的差異の客観的な分析において一定の成果を得た.ここで提案するバッファ重心法は空間認知の局所的差異に関わる,今後の空間認知研究に貢献することができる.
著者
小林 文治
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.1-37, 2021 (Released:2022-04-20)

本稿は巴蜀地域と洞庭・蒼梧両郡への遷徙傾向の比較を出発点に、統一秦における洞庭郡遷陵県の開発の状況を検討する。岳麓書院蔵秦簡や里耶秦簡を見ると、巴蜀地域と洞庭・蒼梧両郡への刑徒や「従人」の遷徙例では①遷徙目的、②移動の禁止、③移送方法が共通している。これは洞庭・蒼梧両郡が置かれると、戦国秦において成立した巴蜀地域への遷刑が両地に援用されたことを示す。言い換えれば、新領土に外部から労働力を供給して開発を行うというモデルが巴蜀において完成し、それが洞庭・蒼梧郡に援用されたということになる。 洞庭郡遷陵県の移入人口を見ると、巴郡と南郡からの移入が多数を占める。この傾向は周辺郡がすでに秦の習俗が浸透して久しく、同時に土着の習俗が洞庭郡のそれに近いので、洞庭郡の開発に便利であり、さらに秦による新領土経営の経験が洞庭郡経営に利用できることが反映されていると言える。 刑徒の移入傾向を見ると、その多くが反秦行動に加担した者で、労働力として送られてきた者たちであった。彼らが遷陵県で主に従事していたのが公田の開発である。遷陵県の公田収入は県内で消費されていたが、消費量に対して遷陵県全体の生産量が少なく、他地域からの搬入に多くを頼らざるを得ない状況であった。洞庭郡への刑徒移送と公田経営は秦の六国統一後の「戦後処理」と統一秦の「新領土経営」を結びつける政策であるが、計画に比して実際は効果が上がっていなかった。本稿の検討結果はある地域における秦の統治過程を検討する際、郡を超える広域的な地域を想定し、検討することが重要であること、その時の歴史的事情が地域のさまざまな「活動」に影響を及ぼすことを示唆する。
著者
小林 大州介
出版者
経済学史学会
雑誌
経済学史研究 (ISSN:18803164)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.1-25, 2020 (Released:2021-08-27)

In this paper, the author examines the contents of lectures given by A. C. Haddon, E. Westermarck, and Sydney Webb that Schumpeter attended at the London School of Eco-nomics (LSE) in 1907. This paper uses as references the syllabus of the LSE at that time and written works by the lecturers. Most research on the sources of Schumpeterʼs ideas on economic development and socioeconomics has been conducted based on discussions of Marxist economic thought, the German historical school, and American economists. Little attention has been accorded to the LSE lectures attended by Schumpeter. Consequently, essential parts of Schumpeterʼs history of economic thought have been ignored. This paper addresses that deficit. It has been established that Schumpeter attended lectures at the LSE on ethnology and sociology given by, respectively, Haddon and Westermarck. However, Schumpeter not-ed in a footnote in his posthumous History of Economic Analysis that he also attended Webbʼs lectures on “methods of social investigation.” The present author has previously demonstrated that the LSE lectures delivered by Haddon and Westermarck may have enabled Schumpeter to overcome outmoded ideas of “evolutionism” (which assumed autonomous development and unilineal developmental stages derived from the Enlightenment) and thoughts of “natural law.” Close examination of the lectures delivered at the LSE support the authorʼs previous hypothesis. Further, that examination reveals that Webbʼs lectures delivered in October 1907 could have exerted a defining impact on Schumpeterʼs thoughts on economics. For example, in Webbʼs lecture plans, such items as “The great man as a ferment” and “Possibility of predicting effects of a given social environment on average humans in the immediate future” can be found. Those lectures at the LSE include many key points related to Schumpeterʼs basic as-sumptions about dynamics and economic development. JEL classification numbers: B25, B31, Z13.