著者
栗田 隆志
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.126-131, 2023-07-07 (Released:2023-07-16)
参考文献数
10

ST segment(ST)は心室筋細胞活動電位のPhase 2(プラトー相)に相当する.生理的にはこの時相で多くの細胞が同じ膜電位レベルに脱分極するため,STは基線付近に戻る.J点(ST)上昇は基線(PR)から0.1mV以上の変位が2つ以上の連続する誘導で認められる場合と定義される.虚血心筋では静止膜電位(Phase 4)の脱分極,あるいはPhase 1~2の不完全な脱分極に起因した電流が発生しSTを変位させる.早期再分極症候群では心外側心筋細胞のPhase 1に形成されるnotchがJ波の発生に関与する.Brugada症候群においては再分極の形態異常(Spike and dome)がその特徴的なST変位をよく説明する.左室肥大のST低下は心内膜下心筋の相対的虚血によると考えられている.左脚ブロックやB型WPW症候群による左室の伝導障害は脱分極遅延による再分極の遅れを招来し,ST低下に連動する.
著者
安岡 良文 栗田 隆志 小竹 康仁 赤岩 譲 野並 有紗 元木 康一郎 宮崎 俊一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.SUPPL.3, pp.S3_69-S3_73, 2012 (Released:2013-09-25)
参考文献数
2

症例は動悸を主訴とする46歳,男性.発作時の心電図でnarrow QRS tachycardiaが記録されている.EPSではS1=600ms,S2=330msの心房期外刺激にて心室に2:1伝導する上室性頻拍が誘発された(心室の周期650ms,心房の周期320~350ms).房室伝導のブロック部位はHis束より近位で,心房興奮の最早期はCS入口部であった.2:1伝導の頻拍は連結期440~570msの範囲に限定されたPVCにより心房がリセットされずに1:1房室伝導に変化した.頻拍停止後の右室ペーシングにて頻拍中と同じsequenceで逆伝導を認めた.Para-Hisian pacingはAV nodal patternであった.頻拍はfast-slow型AVNRTであり,房室結節の下位共通路で2:1ブロックされていたものと診断した.PVCによる1:1伝導への変化は適度な連結期を有するPVCが下位共通路に侵入し,同伝導路内で順行性伝導とcollisionすることでERPの短縮が生じたため出現したと考えられた.
著者
栗田 隆志
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.1002-1006, 2016 (Released:2017-09-15)
参考文献数
11
著者
清水 渉 相庭 武司 栗田 隆志 里見 和浩 横川 美樹 岡村 英夫 野田 崇 須山 和弘 相原 直彦 鎌倉 史郎
出版者
Japanese Heart Rhythm Society
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.147-157, 2008-03-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
17

Brugada症候群には一部の患者ではSCN5Aなどの遺伝子変異が同定され, 遺伝性不整脈疾患にもかかわらず, 若年発症はまれで40~50歳にかけて初発することや, 常染色体優性遺伝形式をとるにもかかわらず男性に圧倒的に頻度が高いという性差など, 未解決な点も多い.動脈灌流右室心筋切片に高感度光マツピング法を応用したBrugadaモデルにより, ST上昇や心室細動 (VF) 第1拍目の心室期外収縮には, 心外膜-心内膜細胞間の電位勾配と心外膜細胞間のphase 2 reentryが関与するが, VFが持続するためには, 軽度の伝導 (脱分極) 異常が必要であるとされている, SCN5A陽1生Brugada症候群患者ではSCN5A陰性患者に比べ, 心電図の脱分極指標 (PR, QRS時間) が長く, 平均10年間の経過観察でこれらの延長度も大きいことが報告され, 特にSCN5A陽性例で, 加齢による脱分極異常がVFの晩期発症に関与する可能性が示唆されている.男性優位の性差には, 右室心外膜細胞の第1相notchが雌に比べ雄で大きいことが関与していると動物実験で報告されている, また, Brugada症候群男性患者では, 年齢を一致させた対照男性に比べて, 外向き電流を増加させる男性ホルモン (テストステロン) レベルが有意に高く, 体脂肪率が低いことが報告されており, テストステロンの関与も示唆されている.
著者
栗田 隆志
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.565-566, 2008-12-18 (Released:2010-09-09)
参考文献数
3
著者
栗田 隆志 野田 崇 岡村 英夫 里見 和浩 清水 渉 須山 和弘 相原 直彦 鎌倉 史郎 安田 聡
出版者
The Japanese Society of Electrocardiology
雑誌
心電図 = Electrocardiology (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.10-17, 2009-02-05
参考文献数
23
被引用文献数
1

ニフェカラント静注薬は我が国で開発された唯一の純粋なI<SUB>Kr</SUB>チャネル遮断薬であり,重症心室不整脈に対する高い抑制効果が示されている.特に急性冠症候群など冠動脈疾患に合併した難治性の心室頻拍・心室細動(VT/VF)に対しては,8割を超える患者において有効性が示された.また,拡張型心筋症など慢性的な病変によるVT/VFに対する効果は若干劣るものの,6割を超える効果が確認された.ニフェカラントに残された最大の問題は,過剰なQT延長によるtorsade de pointesの誘発であろう.この合併症を避けるためには推奨されているよりも少ない量(loadingは0.15~0.2mg/kg,維持量は0.2mg/kg/時)から投与を開始し,モニター心電図による継続した監視と12誘導心電図でのQT時間の観察が必須である.同薬剤の中止または減量の目安はQTc時間が550msecを超えた場合と考えられる.また,アミオダロン静注薬との使い分けや,経口薬への移行などについては今後に残された課題である.