著者
木下 涼 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.4, pp.314-329, 2020-04-01

項目反応理論では異なるテストを受検した受検者を同一尺度上で評価することができる.しかし,そのためには受検者の同一母集団からの独立ランダムサンプリングを仮定し,共通項目を含む複数のテストデータをもとにリンケージと呼ばれる処理が必要である.リンケージはテスト実施に膨大な作業を伴うだけでなく,前述の仮定により理論的に最適値を得る保証はない.この問題を解決するため,本研究では深層学習を用い,受検者の母集団と独立性を仮定しないテスト理論としてItem Deep Response Theoryを提案する.提案モデルはリンケージを必要とせず,受検者が単一母集団からのランダムサンプリングでない場合にも精度の低下が抑えられ,複数の母集団からサンプリングされている場合に頑健である.ここではシミュレーション・実データ実験より,提案モデルは未知の項目への反応予測精度が高く,特に受検者が同一の母集団からランダムにサンプリングできない場合に項目反応理論に対して大きく能力推定精度と反応予測精度を向上させることを示す.
著者
渕本 壱真 湊 真一 植野 真臣
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.A-M23_1-11, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
34

Recently, the necessity of“ parallel test forms ”for which each form comprises a different set of items, but which still has equivalent measurement accuracy has been emerging. An important issue for automated test assembly is to assemble as many parallel test forms as possible. Although many automated test assembly methods exist, the maximum clique using the integer programming method is known to assemble the greatest number of tests with the highest measurement accuracy. However, the method requires one month or more to assemble 450,000 tests due to the high time complexity of integer programming. This study proposes a new automated test assembly using Zerosuppressed Binary Decision Diagrams (ZDD). A ZDD is a graphical representation for a set of item combinations. This is derived by reducing a binary decision tree. In the proposed method, each node in the binary decision tree corresponds to an element of an item bank and has two edges if the item (node) is contained in a uniform test. Furthermore, all equivalent nodes (having the same measurement accuracy and the same test length) are shared. Finally, this study provides simulation and actual data experiments to demonstrate the effectiveness of the proposed method. The proposed method can assemble 450,000 tests within 24 hours.
著者
青見 樹 堤 瑛美子 宇都 雅輝 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.11, pp.784-795, 2021-11-01

小論文自動採点は,人間評価者に代わって自動採点モデルが小論文の採点を行う自然言語処理におけるタスクの一つである.近年では多くの自動採点モデルが提案されており,それぞれに異なった特徴を有している.本研究では,評価者特性を考慮した項目反応理論を用いて自動採点モデルのモデル平均を行う新たな手法を提案する.具体的には自動採点モデルを一人の評価者とみなして評価者特性を考慮した項目反応モデルを適用することで,それぞれの自動採点モデルの特徴を考慮した統合を行う.実験を通して,提案手法が単体の自動採点モデルや,単純な予測スコアの平均化手法と比べて予測精度を向上させることを示す.更に,提案手法が統合した自動採点モデルの特徴を捉え,安定したスコアの予測を行うことができることを示す.
著者
植野 真臣
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.e1-e6, 2023-04-15

CBT(Computer Based Testing)は,従来の日本型テストとはまったく異なる考え方に基づいたテスト技術で,単にペーパーテストをコンピュータ上に置き換えたものではない.本稿では,CBTの考え方,最先端技術と問題,について解説する.具体的には,1.CBTの世界標準,2.テストの測定誤差と等質性,3. CBTでしか実現できない能力測定,4. CBTを用いた大学入学者選抜,について述べる.
著者
堤 瑛美子 郭 亦鳴 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.2, pp.72-83, 2023-02-01

近年,教育現場ではオンラインラーニングシステムで収集された教育ビッグデータをいかに有効に活用するかが課題となっている.人工知能分野では,これらの教育ビッグデータに機械学習手法を適用し,学習者の課題への反応を予測することにより,学習者への適切な支援を行うアダプティブラーニングが注目されている.Tsutsumiら(2021)はアダプティブラーニングのために深層学習手法と項目反応理論を組み合わせ,パラメータの解釈性をもちながら高精度な反応予測を可能とするDeepIRTを開発し,高い予測精度とパラメータの解釈性を実現している.しかし,DeepIRTでは学習者の潜在的な能力値を推定する際に最新の学習データのみを用いるために,過去の学習データを十分に反映できていない可能性がある.本研究では,DeepIRTに新たなHypernetworkを組み合わせ,学習者の過去の学習データと最新の学習データの重要性を推定することで両者のバランスを最適化しながら能力値推定を行う.評価実験では,提案手法が最先端の反応予測手法を上回る反応予測精度を示した.
著者
植野 晶 渕本 壱真 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.8, pp.485-498, 2022-08-01

本論文では,項目露出を考慮した整数計画法による等質テストの自動構成手法を提案する.等質テストとはテストに含まれる項目は異なるが,受験者得点の予測誤差が等質なテスト群である.等質テストでは同一能力の受験者ならば,どのテストを受験しても同一得点となる保証があり,出題可能な項目のデータベース(アイテムバンク)から自動構成される.項目の露出数(出題回数)が大きい項目は受験者間で共有されやすく,経年劣化につながりその項目の信頼性が失われやすいため,露出数の偏りの軽減が重要な課題の一つである.Ishii and Ueno (2015) は構成した等質テストを全て保存し,その中から最も露出率(=露出数の最大値/テスト構成数)が小さい等質テストを出力して,露出率を軽減する手法を提案した.本論文では乱数を用いた整数計画法でテスト構成することで,露出数の偏りが改善されることを示し,整数計画法のみでは解決されなかった項目露出のバイアス問題を露出数上位の項目をアイテムバンクから除外しながらテスト構成することで解決する手法を提案する.評価実験では従来手法とテスト構成数及び露出率を比較し,提案手法の有効性を示す.
著者
植野 真臣 植野 真理 相馬 峰高 甲 圭太 山下 裕行
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.217-229, 2006
被引用文献数
4

長岡技術科学大学においてeラーニング授業を正式授業として配信して4年が経過した.2004年現在では,77の授業を配信し,正規通学生以外のeラーニング履修学生は,年間400人以上を超え,正規通学生に対する比率では国内最大規模となっている.本論では,これまで4年間のeラーニング運営の経験を通じて構築されてきた独自のeラーニング・マネジメント手法を「大学におけるeラーニング運営モデル」のひとつとして提案する.本論でのeラーニング・マネジメントの特徴は,1.知識創造を伴う自律的学習を支援するeラーニング授業モデルの導入,2.膨大な学習履歴データを逐次データ・マイニングし,知的エージェントを介して学習者に逐次(学習方法等について)アドバイスするという学習支援機能を持つLMSの利用,3.学習者の履修受付,LMSへの登録等の事務的手続きが完全にオンラインで行われる受付システムの利用,4.特に専門的で高度な技術を必要とせずに自動的に行えるコンテンツ開発支援システムの利用,5.遠隔地からも複数のスタッフによって設定できる遠隔マネジメント・システムの利用,等が挙げられる.これらにより,学習者の満足度を下げることなく,運営スタッフ,教師の負担を減少させながら,eラーニングの実践規模の拡大を実現できたことを示し,本手法の有効性を示す.
著者
宇都 雅輝 植野 真臣 Masaki UTO Maomi UENO
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18810225)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.5, pp.459-470, 2020-05-01

近年,学習者の実践的かつ高次な能力を測定する手法の一つとしてルーブリック評価が注目されている.ルーブリックは評価者の主観による評価基準をより客観的にするためのツールであるが,それでも評価がパフォーマンス課題や評価者,ルーブリックの評価観点の特性に依存してしまうことが指摘されてきた.この問題を解決する手法の一つとして,これらの特性を考慮して学習者の能力を測定できる項目反応モデルが近年多数提案されている.しかし,既存モデルは学習者・課題・評価者・評価観点で構成される4相の評価データに直接には適用できず,課題・評価者・評価観点の特性を同時に考慮した能力測定は実現できない.また,ルーブリック評価の評点は一般に段階カテゴリーとして与えられ,各カテゴリーに対する評価基準は評価者と評価観点の特性に依存する.しかし,既存モデルでは評価基準は評価者と評価観点のいずれか一方にのみ依存すると仮定している.以上の問題を解決するために,本論文では,評価観点と評価者の評価基準を考慮して,ルーブリック評価の4相データから学習者の能力を測定できる新たな項目反応モデルを提案する.また,シミュレーション実験と実データ実験を通して提案モデルの有効性を示す.
著者
堤 瑛美子 塩野谷 周平 宇都 雅輝 植野 真臣
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第33回全国大会(2019)
巻号頁・発行日
pp.1O3J1201, 2019 (Released:2019-06-01)

近年,教育の現場では学習者の発達を促すために個々の特性や理解度を把握することが課題となっている.これまで,学習過程の学習者の理解度やある知識の習得状態を推定する手法として Bayesian Knowledge Tracing(BKT)開発されてきた.しかし,BKTモデルでは知識の習得状態が二値または多値で表されるが,実際には知識の習得状態は連続値であるため,知識の習得状態を段階的に表現することで習得状態の正確な評価をすることは難しい.本研究では,学習者の知識の習得状態の推定精度向上のために,堤ら(2019)で提案した学習過程において知識の習得状態が隠れマルコフ過程に従って変化する項目反応モデルをBKTの一般化モデルとして提案する.提案モデルは知識の習得状態を連続値で表現し,さらに学習データから知識状態の遷移確率を最適化するため,様々な学習過程に適応させることができる.従来のBKTと提案モデルを用いて学習過程での学習者の知識の習得状態を推定し,推定精度を比較する実験から,提案モデルを用いることで推定精度が向上することが示された.
著者
木下 涼 植野 真臣
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第34回全国大会(2020)
巻号頁・発行日
pp.3Rin482, 2020 (Released:2020-06-19)

近年,人工知能分野において学習者の知識状態を動的に推定するKnowledge Tracingが注目を集めている.特に項目反応理論(IRT)と深層学習を組み合わせたDeep-IRTが提案され,高精度に学習者の反応予測が可能であることが報告されている.さらにDeep-IRTはIRTと同様に解釈可能な能力パラメータと困難度パラメータを持つ.しかし,Deep-IRTは得られる能力パラメータが解答する項目に依存しており,IRTと比較して解釈性に劣るため,適応型テストなど教育分野への応用は限られている.この問題を解決するため,本研究では測定モデルとKnowledge Tracing Modelを両立するItem Deep Response Model(IDRM)を提案する.IDRMでは,独立した学習者ネットワークと項目ネットワークから能力パラメータと困難度パラメータを推定するため,Deep-IRTよりも解釈性の高いパラメータが得られ,学習者の能力測定モデルとみなせる.さらに,実データ実験によりIDRMは既存モデルよりも高度に学習者の反応予測が可能であることが示された.
著者
福島 綾一 植野 真臣
出版者
日本情報経営学会
雑誌
日本情報経営学会誌 (ISSN:18822614)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.18-28, 2016 (Released:2016-12-07)

This article introduces and reviews recent analyses methods on big data. We first introduce several kinds of definitions of big data based on Volume,Variety,Velocity, and Value extracted from data. Next, we describe that big data can be classified into three types – 1. various kinds of data with very large volume or producing very fast, 2. sparse data and 3. universal data –. Then we derive three important factors for utilizing big data – big data technologies, visualization and techniques for analyzing big data – and introduce the details of each factor corresponding to that three types of big data.
著者
宇都 雅輝 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.5, pp.459-470, 2020-05-01

近年,学習者の実践的かつ高次な能力を測定する手法の一つとしてルーブリック評価が注目されている.ルーブリックは評価者の主観による評価基準をより客観的にするためのツールであるが,それでも評価がパフォーマンス課題や評価者,ルーブリックの評価観点の特性に依存してしまうことが指摘されてきた.この問題を解決する手法の一つとして,これらの特性を考慮して学習者の能力を測定できる項目反応モデルが近年多数提案されている.しかし,既存モデルは学習者・課題・評価者・評価観点で構成される4相の評価データに直接には適用できず,課題・評価者・評価観点の特性を同時に考慮した能力測定は実現できない.また,ルーブリック評価の評点は一般に段階カテゴリーとして与えられ,各カテゴリーに対する評価基準は評価者と評価観点の特性に依存する.しかし,既存モデルでは評価基準は評価者と評価観点のいずれか一方にのみ依存すると仮定している.以上の問題を解決するために,本論文では,評価観点と評価者の評価基準を考慮して,ルーブリック評価の4相データから学習者の能力を測定できる新たな項目反応モデルを提案する.また,シミュレーション実験と実データ実験を通して提案モデルの有効性を示す.
著者
植野 真臣 宇都 雅輝
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.169-182, 2011-12-20 (Released:2016-08-08)
参考文献数
29
被引用文献数
7

本研究は,他者からの学びを誘発するeポートフォリオ・システムの開発を目的とする.本システムの特徴は,(1)個人のeポートフォリオを構造化し,ハイパーリンクでつなぐことにより,多様なパスで有用な他者情報の発見を支援する,(2)高度な検索機能により,キーワード検索,過去の優秀なレポートやテスト成績の良い学習者,相互評価の高い学習者などを容易に検索できる,(3)すべての階層でのアセスメント機能として,テスト,ピア・アセスメント,セルフ・アセスメント,教師推薦によるベストプラクティス,他者からのコメント入力やリンク付けなど多様な手法が用意されており,自己のリフレクションを誘発するだけでなく,優秀な他の学習者の発見に利用できる,などが挙げられる.実データより,本システムが他者からの学びを誘発し,持続学習への動機向上と深い知識の獲得を支援できることを示す.
著者
グエン ドク ティエン 宇都 雅輝 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J101-D, no.2, pp.431-445, 2018-02-01

近年,社会構成主義に基づく学習評価法としてピアアセスメントが注目されている.一般に,MOOCsのように学習者数が多い場合のピアアセスメントは,評価の負担を軽減するために学習者を複数のグループに分割してグループ内のメンバ同士で行うことが多い.しかし,この場合,学習者の能力測定精度がグループ構成の仕方に依存する問題が残る.この問題を解決するために,本研究では,項目反応理論を用いて,学習者の能力測定精度を最大化するようにグループを構成する手法を提案する.しかし,実験の結果,ランダムにグループを構成した場合と比べ,提案手法が必ずしも高い能力測定精度を示すとは限らないことが明らかとなった.そこで,本研究では,グループ内の学習者同士でのみ評価を行うという制約を緩和し,各学習者に対して少数のグループ外評価者を割り当てる外部評価者選択手法を提案する.シミュレーションと被験者実験から,提案手法を用いて数名の外部評価者を追加することで,グループ内の学習者のみによる評価に比べ,能力測定精度が改善されることが確認された.
著者
宇都 雅輝 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J101-D, no.1, pp.211-224, 2018-01-01

近年,MOOCsに代表される大規模eラーニングの普及に伴い,ピアアセスメントを学習者の能力測定に用いるニーズが高まっている.一方で,ピアアセスメントによる能力測定の課題として,その測定精度が評価者の特性に強く依存する問題が指摘されてきた.この問題を解決する手法の一つとして,評価者特性パラメータを付与した項目反応モデルが近年多数提案されている.しかし,既存モデルでは,評価基準が他の評価者と極端に異なる“異質評価者”の特性を必ずしも表現できないため,異質評価者が存在する可能性があるピアアセスメントに適用したとき能力測定精度が低下する問題が残る.この問題を解決するために,本論文では,1)評価の厳しさ,2)一貫性,3)尺度範囲の制限,に対応する評価者特性パラメータを付与した新たな項目反応モデルを提案する.提案モデルの利点は次のとおりである.1)評価者の特性を柔軟に表現できるため,異質評価者の採点データに対するモデルのあてはまりを改善できる.2)異質評価者の影響を正確に能力測定値に反映できるため,異質評価者が存在するピアアセスメントにおいて,既存モデルより高精度な能力測定が期待できる.本論文では,シミュレーション実験と実データ実験から提案モデルの有効性を示す.
著者
植野 真臣
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.40-51, 2007-01-01
参考文献数
17
被引用文献数
8

本論文では,eラーニングコンテンツに対する学習所要時間データを用い,オンラインで学習者の異常学習プロセスを検知する手法を提案する.具体的には,学習所要時間データ系列{x_1,x_2,…,x_n}を所与として,新たなデータx_<n+1>の出現する確率分布をベイズ予測分布を用いて導き,新たなデータx_<n+1>の異質性を検定するというもので,以下のような利点をもっている.(1)数学的に導出された異常値検出モデルは,異常値検出のために必要とされるデータ数を理論的に反映しているために,判断材料となるデータが少ない時点では異常値検出の基準を緩め,データ数が増すに応じて基準を厳しくしていく特性をもつ.そのために,データ数が少ない時点で正常値を異常値と判断し,その後の検出に影響することを避けることができる.(2)過去の学習履歴データを用いて,各コンテンツの学習所要時間の平均,標準偏差を逐次計算し,それらを用いて学習者の各コンテンツへの学習時間データを標準化したデータ系列より,異常値検出を行うアルゴリズムを提案している.コンテンッ間で標準化されたデータを対象としたモデルを提案することにより,時系列データに対するコンテンツの特性(平均所要時間,標準偏差)の差の影響を除去できる.(3)事前分布のハイパパラメータを変化させることにより,異常値判定基準が様々な統計検定に変化し,状況に応じた検定法を選択することができる.更に,実際にこれらの原理を組み込んだLMS(Learning Management System)を開発し,本手法について,1.シミュレーション,2.学習者からの異常学習プロセスの自己申告との一致性評価を行い,その有効性を示す.
著者
大川 淳史 植野 真臣
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.23, 2009

近年、ベイジアン・ネットワーク学習の分野では経験的BDeuが注目されている。しかし、これまで予測分布を最大化するアプローチは提案されてこなかった。本論では、予測分布を最大化する経験的BDeuを提案し、シミュレーションにより有効性を示す。
著者
宇都 雅輝 鈴木 宏昭 植野 真臣
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.96, no.4, pp.998-1011, 2013-04-01
参考文献数
35

本論文では,アカデミックライティングにおける論証の推敲を支援するシステムを開発する.従来の論証推敲支援システムでは,論証の規範モデルとして知られるToulminモデルにユーザの論証を当てはめ可視化する支援を行っていることが多い.しかし,論証の主目的である「主張」の正当化のためには,Toulminモデルへの当てはまりの良さよりも,文章間の因果の強さ,すなわち「論証の強さ」を重視した論証の推敲が重要である.論証の推敲では,論証構成が複雑になったとき,以下の問題が生じると考えられる.1.「論証の強さ」を全ての文章間について評価することが困難である.2.論証中の各文章がどの程度正当化できているかの推定が難しい.3.「主張」の正当化に対して各文章がどのように影響しているかを把握することが困難である.これらの問題を解決するために,本論文では,Toulminモデルのベイジアンネットワーク表現を用いて,1.論証の強さ,2.文章の正当性,3.主張への影響度,という三つの指標を算出し,その値に応じて論証改訂のためのアドバイスをフィードバックする論証推敲支援システムを開発する.
著者
植野 真臣 吉田 富美男 石橋 貴純 樋口 良之 三上 喜貴 根木 昭
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.115-128, 2001-09-20
被引用文献数
8

本論では,多人数の複数クラスにおける遠隔授業の特性を明らかにし,その授業方法論の構築に貢献することを目的とする.具体的には,複数の工業高等専門学校に対する遠隔授業の実施とそれに伴うアンケート結果,客観データを数量化III類法を用いて要因分析を行った.本分析の特徴は,5段階の順序性を持つ授業の好ましさに係わる質問項目とその理由を聞く名義尺度項目を同一尺度上で数量化したことにある.その結果,複数クラスにおける遠隔授業の特性として授業の好ましさに関する項目の重要度は,「遠隔授業という授業方法について」,「教育テレビに比較してよかったか」,「実感が持てたか」,「教師との親近感」,「学校間の違い」「質問ができたか」,「授業回数」,「授業内容の理解」の順であり,評定の理由に関する項目として,「学習者が教師に認識されているかどうか」が主な要因となっていることが示された.すなわち,質問などの顕在的な双方向性以上に,まず認識的な教師との双方向性(相互作用)が重要であり,複数クラスにおける遠隔教育でも,教師-学習者個人の関係が要求されていることが示された.