著者
宮城 愛美 西田 昌史 堀内 靖雄 市川 熹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.732-741, 2007-03-01
参考文献数
17
被引用文献数
2

本研究では,視覚と聴覚に障害のある盲ろう者が,指点字を使用して参加可能な会議システムについて検討した.盲ろう者が指点字,健常者が文字を使用する会議システムを想定する際,メディアの違いに起因して,盲ろう者の発言と読取りが困難な状況が予想される.指点字による発信・受信を保証するため,発言の伝達情報量と呈示速度を制御する「発言権」という機能を導入した.指点字の入出力を模擬したインタフェースを使用して,32人の被験者によるシミュレーション実験を行い,「発言権」を評価した.提案システムにおいてグループ内の被験者で同程度の発言回数・発言文字数が達成され,機能の有効性が示された.また,盲ろう者が参加したシステム評価実験により,試作した会議システムの実現の可能性が見出せた.
著者
石井 カルロス寿憲 榊原 健一 石黒 浩 萩田 紀博
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.89, no.12, pp.2679-2687, 2006-12-01
参考文献数
20

Vocal fry(フライ)は,声帯振動の様式に起因する声質の一種であり,気分的にテンションが低くリラックスしている場合や,強い感情や態度の表現の際に喉頭を力んだ場合に生じ,バラ言語や非言語情報を伝達する役割をもっている.本論文は,音声信号からフライ区間を自動的に検出することを目的としている.フライは通常発声よりも低い基本周波数の範囲で生じやすい.ゆえに,典型的な固定フレーム長の短時間処理が問題となるが,その解決策として,本論文では声帯パルスに同期した手法を提案した.具体的には,フライの声帯パルスのインパルス的な特性とダンピング特性を考慮し,超短時間処理で求めたパワー軌道から声帯パルスの候補となるパワーピークを検出する.検出されたパワーピークにおいて,周期性とパルス間類似度を用いて,フライであるか,それともインパルス的な雑音であるかを判定する.評価実験として,パワーピーク検出・周期性・パルス間類似度に関連するしきい値パラメータを様々な条件で分析した.その結果,73%の高い検出率と4%の低い挿入誤り率により,自動的にフライ区間が検出可能であることが示された.
著者
河津 宏美 長島 大介 大野 澄雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.89, no.8, pp.1811-1819, 2006-08-01
参考文献数
20
被引用文献数
1

複数の種類及び程度の感情情報を含む音声を対象として,感情が表現された発話の感情の程度と音声の基本周波数パターンとの関係を,その生成過程モデルに基づいて分析した.その結果をもとに,感情制御規則の導出を行った.基底周波数は感情によらず,感情の程度が大きくなるに従って,増加傾向で変化した.フレーズ指令の大きさは,感情によって異なる傾向が見られ,喜びでは,感情の程度の影響を受けずほぼ一定,悲しみでは,感情の程度が大きくなるに従って,減少の変化傾向があった.また,アクセント指令の大きさは感情や文中に現れる位置によって異なる傾向が見られることが分かった.ここで導出した規則を適用した合成音声を作成し,聴取実験により感情の伝達性を評価した.
著者
野本 済央 小橋川 哲 田本 真詞 政瀧 浩和 吉岡 理 高橋 敏
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.96, no.1, pp.15-24, 2013-01-01
参考文献数
38

対話音声に対し怒りの感情を高精度に推定するための新しい特徴量について提案する.怒りの種類は,怒鳴った怒り(hot-anger)と静かな怒り(cold-anger)の二つに分類される.hot-angerの推定には従来研究により韻律的特徴の有効性が示されてきたが,cold-angerの推定はこれまで困難であった.本論文では,2話者による対話を前提とし,韻律的特徴以外に対話特有の特徴も捉えることでcold-angerの推定も可能とする.一方の話者が怒っており,もう一方の話者が怒られている対話状況に現れる顕現的な特徴を捉えるため,各話者の発話区間の時間的関係性から"対話的特徴"(発話時間,相づち回数,発話権交替時間,発話時同比)を提案する.コールセンタ対話音声に対し分析を行い,提案する対話的特徴がhot-anger,cold-angerによらず怒り対話音声の推定に有効であることを明らかにした.更にSVMを用いた実験により,韻律的特徴と併用することでcold-angerにおいてF値で24.4pt,hot-angerにおいて8.8ptの精度向上を確認し,提案する対話的特徴量の有効性を示した.
著者
荒川 貴紀 三川 健太 後藤 正幸
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.96, no.8, pp.1956-1959, 2013-08-01

本研究では,学習データ中に全く現れなかった未知のカテゴリー(未観測カテゴリー)の文書が出現するような状況での文書分類問題を対象とし,確率モデルに基づいた新しい分類手法を提案する.
著者
高橋 謙輔 栗原 聡 廣津 登志夫 菅原 俊治
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.92, no.11, pp.1851-1860, 2009-11-01
被引用文献数
2

本論文では,センサの位置情報についての事前知識を用いずに,反応情報のみからセンサ間の隣接関係の推定法を提案する.コンピュータ機器やセンサデバイスの発展とともに様々なセンサネットワークアプリケーションが提案されてきた.これらのアプリケーションにおいて人間の行動に基づいたトポロジー情報は,人間の行動を支援するために必須のものである.しかし,大量のセンサを使用するアプリケーションにとってこの情報を手動で設定し,維持するのは簡単でない.提案手法ではAnt Colony Optimization(ACO)を用いて精度の高いトポロジーの自動推定を行う.本手法では取得したセンサデータの信頼性を推定し,ACOに適用することによって高精度化を実現する.最後に,独立した三つの環境で収集したセンサデータを用いて提案手法を評価し,従来の手法と比べすべての環境について推定誤差率がかなり向上したことを示す.
著者
中川 俊明 林 佳典 畑中 裕司 青山 陽 水草 豊 藤田 明宏 加古川 正勝 原 武史 藤田 広志 山本 哲也
出版者
電子情報通信学会情報・システムソサイエティ
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.89, no.11, pp.2491-2501, 2006-11-01
参考文献数
31
被引用文献数
14

我々は,眼底画像の異常を自動検出することによって眼科医の診断を支援するコンピュータ支援診断(CAD)システムの開発を行っている.本研究では,眼底画像の視神経乳頭を認識するために,血管の抽出及び消去を行う手法を提案する.また,血管消去画像の応用例として,患者説明に利用する擬似立体視画像の作成を行った.血管はカラー眼底画像の緑成分画像に対して,モフォロジー演算の一種であるBlack-top-hat変換を行い抽出した.抽出した血管領域に対して周囲の画素のRGB値を利用した補間を行い血管消去画像を作成した.このように作成した血管消去画像を視神経乳頭の認識に適用した.視神経乳頭は,血管消去画像を用いたP-タイル法によって認識した.78枚の画像を用いて評価実験を行った結果,認識率は94%(73/78)であった.更に,抽出した血管像及び血管消去画像を利用して,擬似立体視画像の作成を試みた.その結果,血管が網膜の硝子体側を走行している様子を表現できた.本手法が眼底CADシステムの精度向上に寄与することを示唆した.
著者
井垣 宏 瀬戸 英晴 福田 将之 [マツ]本 真佑 中村 匡秀
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.95, no.4, pp.778-789, 2012-04-01
参考文献数
20
被引用文献数
1

近年,住宅設備の電化や家電機器の増加・性能向上を要因として,家庭における消費電力量増加が重要課題となっている.家庭内の省エネ実現を目的として,ネットワークに接続された電力センサ等を用いた宅内の消費電力量可視化するサービスが研究・開発されている.実際に消費電力量の可視化によってユーザの省エネ行動を促進することができるという実験結果も現れつつある.一方で,既存サービスのほとんどは宅内の消費電力量のログを可視化するものであり,ユーザの在/不在や室温,照度といった環境状態に基づいた電力の消費結果と消費の原因の因果関係を後から細かく振り返ることを目的としていない.本研究では,HNSにおいて取得可能な様々なログを組み合わせることで,ユーザが日々の電力消費をより細かく振り返ることができる「電力消費振り返りサービス」を提案する.また,提案サービスを実際のホームネットワークシステム上で実装し,有用性を確認するための評価実験を行った.実験により,提案サービスを用いて「電力消費超過」,「サービス提供不能」,「環境状態無視」といった分類でのユーザの電力浪費行動全てを具体的な根拠に基づいて発見することができた.
著者
山根 健 蓮尾 高志 末光 厚夫 森田 昌彦
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.933-944, 2007-03-01
参考文献数
10
被引用文献数
2

シンボルグラウンディング問題やフレーム問題に起因する古典的人工知能の限界を超えるには,もともとパターンで表現される外界の情報をパターンのまま処理するパターンベースの推論が有効だと考えられるが,シンボルやそれに類するものを全く用いる必要のない推論エンジンはこれまでなかった.本論文では,非単調神経回路網が構成する大自由度力学系のダイナミックスを利用して,完全なパターンベースの推論を行うモデルを提案する.このモデルでは,情報はすべてパターンとして分散的に表現され,適切な推論結果を表すパターンへの状態遷移が生じるよう,力学系のある部分空間に軌道アトラクタを形成することが知識の学習に相当する.簡単な推論システムを構築したところ,全く未知の問いに対しても類推によって適切に答え,非単調推論も自然な形で実現できるなど,従来の推論方式にはない特徴が示された.まだ研究の初歩的段階ではあるが,本モデルは推論方式や性質が脳に似ており,大きな可能性をもつと考えられる.
著者
村田 匡輝 大野 誠寛 松原 茂樹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.92, no.9, pp.1621-1631, 2009-09-01
参考文献数
22
被引用文献数
3

リアルタイム字幕生成とは,講演や解説などの音声をテキストで提示するものであり,聴覚障害者や高齢者,外国人らによる講演音声の理解を支援するための技術である.講演では一文が長くなる傾向にあり,多くの文がスクリーン上で複数行にまたがって表示されることになるため,テキストが読みやすくなる位置に改行が挿入されている必要がある.本論文では,読みやすい字幕を生成するための要素技術として,日本語講演文への改行挿入手法を提案する.本手法では,係り受け,節境界やポーズ,行長などの情報に基づき,統計的手法によって改行位置を決定する.日本語講演データの1,714文を使用した実験では,改行挿入の再現率で82.66%,適合率で80.24%を達成し,本手法の有効性を確認した.
著者
市井 誠 松下 誠 井上 克郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.7, pp.1733-1743, 2007-07-01
参考文献数
19
被引用文献数
2

ソフトウェア部品とはモジュールや関数,クラス等のソフトウェアの構成単位であり,参照や呼出しなどの形で互いに利用関係をもつ.ソフトウェア部品を頂点,利用関係を有向辺としたグラフはソフトウェア部品グラフ(部品グラフ)と呼ばれ,ソフトウェアの解析手法に広く用いられている.グラフを特徴づける要素として頂点の次数分布がある.近年,WWW上のページのリンク関係やソーシャルネットワーク等,様々な分野のグラフで次数分布がべき乗則に従うことが明らかになり,活発に研究されている.本論文では,Javaソフトウェアに含まれるクラス間の静的な利用関係に基づく部品グラフの次数分布にべき乗則が成り立つかどうかを調査した.その結果,一つのソフトウェア及び大規模なソフトウェアの集合に関し,入次数の分布がべき乗則に従い,出次数の分布は次数の大きな範囲でのみべき乗則に従うことが明らかになった.また,一部の部分集合においても同様の性質が成り立ち,特に,単語に基づく部分集合は非常に少ない部品数でも全体集合と同様の性質をもつことが明らかになった.
著者
北原 鉄朗 後藤 真孝 駒谷 和範 尾形 哲也 奥乃 博
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.89, no.12, pp.2721-2733, 2006-12-01
参考文献数
25
被引用文献数
2

本論文では,多重奏に対する音源同定において不可避な課題である「音の重なりによる特徴変動」について新たな解決法を提案する.多重奏では複数の楽器が同時に発音するため,各々の周波数成分が重なって干渉し,音響的特徴が変動する.本研究では,混合音から抽出した学習データに対して,各特徴量のクラス内分散・クラス間分散比を求めることで,周波数成分の重なりの影響の大きさを定量的に評価する.そして,線形判別分析を用いることで,これを最小化するように特徴量を重み付けした新たな特徴量軸を生成する.これにより,周波数成分の重なりの影響をできるだけ小さくした特徴空間が得られる.更に,音楽的文脈を利用することで音源同定の更なる高精度化を図る.実楽器音データベースから作成した二重奏〜四重奏の音響信号を用いた実験により,二重奏では50.9%から84.1%へ,三重奏では46.1%から77.6%へ,四重奏では43.1%から72.3%へ認識率の改善を得,本手法の有効性を確認した.
著者
河井 恒 戸田 智基 山岸 順一 平井 俊男 倪 晋富 西澤 信行 津崎 実 徳田 恵一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.89, no.12, pp.2688-2698, 2006-12-01
参考文献数
43
被引用文献数
15

本論文では,ATR音声言語コミュニケーション研究所が開発した新しい音声合成システムXIMERAについて述べる.XIMERAは,これまでATRで開発された音声合成システムυ-Talk及びCHATRと同様,コーパスベース方式を採用している.XIMERAの特長は,(1)大規模な音声コーパス(日本語男声110時間,日本語女声59時間,中国語女声20時間,それぞれ単一話者),(2)HMMを用いた韻律パラメータのモデル化及び生成,(3)知覚実験に基づく素片選択コスト関数の最適化,である.XIMERAの性能を評価するため,市販の音声合成システム10製品と合成音声の自然性を比較したところ,XIMERAが他のシステムより優れていることが示された.
著者
西浦 朋史 中島 真人
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.89, no.5, pp.1001-1010, 2006-05-01
参考文献数
9
被引用文献数
7

近年,入浴中の突然死が社会問題となっている.本論文では,浴槽内における溺水状態(浴室事故の大半を占める)と洗い場における転倒状態の両者を検出可能とするため,カラー撮像素子内臓型FG視覚センサを利用したバスルーム監視システムを提案する.このシステムは,先に提案したバスルーム監視システム(非接触呼吸モニタリング法に基づく浴槽内での呼吸停止検出機能を搭載)に,入浴者の洗い場での転倒検知,湯気の充満による視認性低下の検知の機能を追加したものとなっている.一般的なユニットバスに開発したシステムを適用した模擬実験を行い,機能追加の有意性を確認した.
著者
山根 克 谷江 博昭 中村 仁彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.8, pp.1938-1947, 2007-08-01
参考文献数
13
被引用文献数
1

本論文では,再帰反射性のテープをメッシュ状に組み合わせたものを複数のカメラから観測した画像を用いて,三次元形状データを再構成する方法を提案する.メッシュの各交点をマーカとみなすと,従来の球状マーカと比べて計測点数を10倍以上に増やすことが可能となる.受動光学式モーションキャプチャではマーカの密度が高くなると三次元再構成が困難になるが,本研究ではマーカ間の結合情報を利用することにより三次元再構城のための計算を高速化し,誤認識を減らす.実験により,メッシュマーカを使うと計測点数が約400個あるときにも15fpsでのリアルタイム計測が可能であることを示す.この技術により,人間の運動中の身体や衣服の形状変化が計測できるようになる.また,マーカが突起物とならないため運動に対する拘束がなく,転倒時における安全性も高い.
著者
藤原 敬記 伊藤 敏彦 荒木 健治 甲斐 充彦 小西 達裕 伊東 幸宏
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.89, no.7, pp.1493-1503, 2006-07-01
参考文献数
24
被引用文献数
9

実環境での音声対話システムの使用において,誤認識を回避することは難しい.誤認識が起きると,システムはユーザの期待する応答とかけ離れた応答を行い,対話がスムーズに進まなくなることも多い.そこで本研究では,音声認識器が誤認識した場合でも,認識信頼度と対話履歴を用いることで正しくユーザの意図を推定することができる音声言語理解手法を提案する.これは,音声認識器が誤認識した場合でも多くの場合,複数候補(N-best)中に正解が含まれていること,システムが誤認識した場合にはユーザは大体訂正反応を示すこと,タスク指向対話には強い一貫性がありユーザは基本的に意味的・文脈的に関係した内容以外を発話しないことを利用する.また,提案手法ではあらかじめすべての認識可能単語を理解候補として保持し,言語理解部の対話戦略において音声認識結果中の単語との意味的関連性などを考慮している.これにより音声認識結果のN-best中に正解の一部が含まれていない場合でも,複数のユーザ発話の認識結果に基づくことで正しい意図を推定することが可能となっている.評価データにおいて,提案手法における対話単位での理解率は72.2%(21,430/29,670対話),単語単位での理解率は87.1%(77,544/89,010単語)であり,従来手法の最新認識結果の上位候補を優先するシステムの57.9% (17,178/29,670対話),75.4%(67,084/89,010単語)と比較しても有効である.
著者
野村 恵里 木竜 徹 中村 亨弥 飯島 淳彦 板東 武彦
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.576-583, 2006-03-01
参考文献数
17
被引用文献数
14

映像技術が目覚しく発展する一方で,映像酔い等,生体への影響が懸念されており,原因の解明と評価手法の確立が望まれている.本研究では生体影響の中でも特に映像酔いに注目し,生体情報と映像情報との関係から生体に影響を与えていると予想される特徴を動きベクトルで定量的に評価することを目的とした.まず生体信号から,設定した条件に当てはまる生体影響区間を定め,影響を受けたと想定されるトリガ時刻を定義した.その後,トリガ時刻近傍における映像の動きベクトルの時間周波数構造を調べ,単純類似度による評価を行った.更に,動きベクトルからシミュレーション映像(ランダムドットパターン)を制作し,実写映像との比較を行った.その結果,トリガ時刻での時間周波数構造は特定の成分をもち,0.3〜2.5Hzの周波数帯域に0.5以上の規格化パワーをもつ動きベクトルが生体に影響を与えている可能性が示唆された.
著者
植野 真臣
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.40-51, 2007-01-01
参考文献数
17
被引用文献数
8

本論文では,eラーニングコンテンツに対する学習所要時間データを用い,オンラインで学習者の異常学習プロセスを検知する手法を提案する.具体的には,学習所要時間データ系列{x_1,x_2,…,x_n}を所与として,新たなデータx_<n+1>の出現する確率分布をベイズ予測分布を用いて導き,新たなデータx_<n+1>の異質性を検定するというもので,以下のような利点をもっている.(1)数学的に導出された異常値検出モデルは,異常値検出のために必要とされるデータ数を理論的に反映しているために,判断材料となるデータが少ない時点では異常値検出の基準を緩め,データ数が増すに応じて基準を厳しくしていく特性をもつ.そのために,データ数が少ない時点で正常値を異常値と判断し,その後の検出に影響することを避けることができる.(2)過去の学習履歴データを用いて,各コンテンツの学習所要時間の平均,標準偏差を逐次計算し,それらを用いて学習者の各コンテンツへの学習時間データを標準化したデータ系列より,異常値検出を行うアルゴリズムを提案している.コンテンッ間で標準化されたデータを対象としたモデルを提案することにより,時系列データに対するコンテンツの特性(平均所要時間,標準偏差)の差の影響を除去できる.(3)事前分布のハイパパラメータを変化させることにより,異常値判定基準が様々な統計検定に変化し,状況に応じた検定法を選択することができる.更に,実際にこれらの原理を組み込んだLMS(Learning Management System)を開発し,本手法について,1.シミュレーション,2.学習者からの異常学習プロセスの自己申告との一致性評価を行い,その有効性を示す.
著者
宇都 雅輝 鈴木 宏昭 植野 真臣
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.96, no.4, pp.998-1011, 2013-04-01
参考文献数
35

本論文では,アカデミックライティングにおける論証の推敲を支援するシステムを開発する.従来の論証推敲支援システムでは,論証の規範モデルとして知られるToulminモデルにユーザの論証を当てはめ可視化する支援を行っていることが多い.しかし,論証の主目的である「主張」の正当化のためには,Toulminモデルへの当てはまりの良さよりも,文章間の因果の強さ,すなわち「論証の強さ」を重視した論証の推敲が重要である.論証の推敲では,論証構成が複雑になったとき,以下の問題が生じると考えられる.1.「論証の強さ」を全ての文章間について評価することが困難である.2.論証中の各文章がどの程度正当化できているかの推定が難しい.3.「主張」の正当化に対して各文章がどのように影響しているかを把握することが困難である.これらの問題を解決するために,本論文では,Toulminモデルのベイジアンネットワーク表現を用いて,1.論証の強さ,2.文章の正当性,3.主張への影響度,という三つの指標を算出し,その値に応じて論証改訂のためのアドバイスをフィードバックする論証推敲支援システムを開発する.