著者
加藤 弘通 太田 正義 水野 君平
出版者
北海道大学教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-12, 2016

本研究の目的は、通常学級と特別支援学級に分け、いじめ被害の実態と被害者が援助要請行動を生起させる要因を教師の指導と生徒との関係性から検討することであった。公立小中学校41,089名を対象に質問紙調査を行った結果、以下のことが明らかとなった。1つは、過去3ヶ月のいじめ被害の実態は、通常学級の小学校で42.7%、中学校で31.5%、特別支援学級の小学校で45.5%、中学校で30.9%であった。2つは、いじめ被害にあった者のうちで「先生に知らせた」とする者の全体の児童生徒に占める割合を算出したところ、通常学級では小学校で約25%、中学校で約15%であり、特別支援学級では小学校で約50%、中学校で約42%であった。3つは、いじめ被害者の教師への援助要請行動を生起する要因としては、学校種、および通常学級と困難学級では異なる結果が得られた。以上をふまえ、学校種・学級種に応じた対応の必要性を論じた。
著者
水野 君平 唐 音啓
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.311-327, 2019 (Released:2021-03-31)
参考文献数
92

The purpose of this paper was to compare previous research with “school caste,” which is the phenomenon of status hierarchy between informal groups among Japanese classrooms, and to discuss the direction and perspective of research on school caste. In the current study, we reviewed studies on sociometric popularity, perceived popularity, and peer crowds as research knowledge on children’s social status in schools. We then reviewed literature reports on school caste and discussed how school caste would be positioned as studies on social status among schools. After indicating the problems of promoting research on school caste, we discussed the future direction of research. Finally, we discussed the implications and directions of future empirical studies on school caste or interpeer group status, based on the aforementioned review.
著者
飯田 昭人 水野 君平 入江 智也 川崎 直樹 斉藤 美香 西村 貴之
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.92.20339, (Released:2021-11-30)
参考文献数
26
被引用文献数
4

This study examined the relationship between online class environments and the economic burden and mental health among university students at the onset of the COVID-19 pandemic. The survey participants were 909 undergraduate students, and graduate students in Hokkaido who responded to the first wave of the two-wave panel survey. The survey was conducted from July to September 2020. This study used K6 and GAD-7 as indicators of mental health. The results showed that students with both a high economic burden and a high burden of on-demand online classes after the onset of the COVID-19 pandemic had a high probability of exceeding the cutoff points (indicating severe depression and anxiety) for K6 (above 13 points) and GAD-7 (above 10 points). The number of live online classes predicted lower depression. The discussion focused on the characteristics of online classes and discussed why they were associated with mental health and how to reduce the sense of burden in classes. In addition, we pointed out the importance of economic support for university students, since economic burdens were related to mental health.
著者
水野 君平 飯田 昭人
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.83-85, 2021-09-06 (Released:2021-09-06)
参考文献数
8
被引用文献数
1

The current study aims to clarify the mediation effect of classroom adjustment on the relationships between inter-peer group status and school adjustment. Four hundred thirty-nine Japanese public middle school students had participated in this survey and completed self-report questionnaires. The results revealed that inter-group status, classroom adjustment, and school adjustment are related to each other positively. From a mediation analysis, we have established that there is a significant indirect effect of classroom adjustment on the relationships between inter-peer group status and school adjustment. The discussion of this study dealt with the process of understanding the reason for the higher peer group status being more adjusted at schools.
著者
水野 君平
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.115-132, 2022-03-30 (Released:2022-11-11)
参考文献数
109
被引用文献数
1

本稿の目的は2020年7月から2021年6月末までの1年間の教育心理学における学校心理学分野の研究動向をレビューし,その課題を論じることであった。まず,日本教育心理学会第63回総会の「学校心理学(PG)」部門で行われた65件の発表について研究の動向を論じた。後半は,学校心理学にかかわる国内和文雑誌3誌から27編の論文を抜き出して研究動向を整理した。最後にレビューした論文の研究手法についての動向の整理と今後の課題を述べた。
著者
岡田有司 大久保智生 半澤礼之 中井大介 水野君平 林田美咲 齊藤誠一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

企画趣旨 学校適応に関する研究は近年ますます活発になり,小学校・中学校・高校・大学と各学校段階における学校適応研究が蓄積されてきている。学校段階によって学校環境や児童・青年の発達の様相は異なるといえ,学校適応研究においても学校段階を意識することが重要だといえる。こうした問題意識から,企画者らは2017年度は小学校段階に焦点をあてて学校適応について検討を行った(大久保・半澤・岡田,2017)。本シンポジウムでは,中学校段階に注目し,主に友人関係の観点から学校適応にアプローチする。 先行研究では中学生の学校適応に影響を与える様々な要因について検討されてきたが,その中でも友人やクラスメイトとの関係は学校への適応に大きなインパクトがあることが示されてきた(岡田,2008;大久保,2005など)。 中学校段階は心理的離乳を背景に友人関係の重要度が増すとともに,同性で比較的少人数の親密な友人関係である,チャムグループを形成する時期であるとされる(保坂・岡村,1986)。そして,この時期の友人関係では,内面的な類似性が重視され,排他性や同調圧力が強くなるといった特徴のあることが指摘されている。このような友人関係を形成することは発達的に重要な意味がある一方で,中学校段階において顕在化しやすい学校適応上の諸問題と密接に関連していると考えられる。 以上の問題意識から,本シンポジウムでは友人という観点を含めながら中学生の学校適応について研究をされてきた登壇者の話題提供をもとに,この問題について理解を深めてゆきたい。中学生の「親密な友人関係」から捉える青年期の学校適応中井大介 近年,青年期の友人関係に関する研究では青年が親密な関係を求めつつも表面的で希薄な関係をとることや状況に応じた切替を行うといった複雑な様相が指摘されている(藤井,2001;大谷,2007)。その中で,依然として「親友」と呼ばれるような「親密な友人関係」が青年期の学校適応や精神的健康に影響することも指摘されている(岡田,2008;Wentzel, Barry, & Caldwell, 2004)。 一方で,このように重要とされている青年期の親密な友人関係であるが,そもそも青年にとって,このような親密な友人関係がどのようなものであるかを検討した研究は少ない(池田・葉山・高坂・佐藤,2013;水野,2004)。その中でこのような青年期の親密な友人関係をとらえる枠組みの一つとして,近年,青年期の友人に対する「信頼感」の重要性が指摘されている。 しかし,この青年期の友人に対する「信頼感」については,質的研究は行われているものの量的研究が少ないため未だ抽象的な概念である。この点を踏まえれば青年期の親密な友人関係について主体としての青年自身が信頼できる友人との関係をどのように捉えているのかを量的研究によって検討する必要があると考えられる。 加えて上記のように中学生にとって親密な友人関係が学校適応や精神的健康に影響を及ぼすことを踏まえれば,友人に対する信頼感と学校適応の関連を詳細に検討する必要性があると考えられる。しかし,これまで友人に対する信頼感が学校適応とどのような関連を示すかその詳細は検討されていない。そのため生徒の学年差や性差などによる相違についても検討する必要がある。 そこで本発表では中井(2016)の結果をもとに,第一に,「生徒の友人に対する信頼感尺度」の因子構造と学年別,性別の特徴を検討し,第二に,友人に対する信頼感と学校適応との関連を学年別,性別に検討する。これにより中学生の学校適応にとって「親密な友人関係」がどのような意味を持つかについて今後の研究課題も含め検討したい。スクールカーストと学校適応感の心理的メカニズムと学級間差水野君平 思春期の友人関係では,「グループ」と呼ばれるような同性で,凝集性の高いインフォーマルな小集団が形成されるだけでなく(e.g., 石田・小島, 2009),グループ間にはしばしば「スクールカースト」という階層関係が形成されることが指摘されている(鈴木, 2012)。スクールカーストは,生徒の学校適応やいじめに関係することが指摘されている(森口, 2007;鈴木, 2012)。中学生を対象にした水野・太田(2017)では学級内での自身の所属グループの地位が高いと質問紙で回答した生徒ほど,集団支配志向性という集団間の格差関係を肯定する価値観(Ho et al., 2012;杉浦他, 2015)を通して学校適応感に関連することを明らかにした。このように,スクールカーストに関する心理学的・実証的な知見は未だに少ないことが指摘されているが(高坂, 2017),スクールカーストと学校適応の心理的プロセスが少しずつ示されてきている。 また,個人内の心理的プロセスだけでなく,学級レベルの視点を取り入れた研究も必要であると考えられる。なぜなら,学校適応とは「個人と環境のマッチング」(近藤, 1994;大久保・加藤, 2005)と言われるように,個人(児童や生徒)と環境(学級や学校)の相性や相互作用によって捉える議論も存在するからである。さらに,近年のマルチレベル分析を取り入れた研究から,学級レベルの要因が個人レベルの適応感を予測することや(利根川,2016),学級レベルの要因が学習方略に対する個人レベルの効果を調整すること(e.g., 大谷他,2012)のように,日本においても学級の役割が実証的に示されてきているからである。 本発表では中学生のスクールカーストと学校適応の関連について,スクールカーストと学校適応の関連にはどのような心理的メカニズムが働いているのか,またどのような学級ではスクールカーストと学校適応の関係が強まってしまう(反対に弱まってしまう)のかを質問紙調査に基づいた研究を紹介して議論をすすめたい。友人・教師関係および親子関係と学校適応感林田美咲 従来の学校適応感に関する多くの研究では,友人や教師との関係が良好であり,学業に積極的に取り組む生徒が最も学校に適応していると考えられてきた。しかし,学業が出来ていない生徒や教師との関係がうまくいっていない生徒が必ずしも不適応に陥っているとは限らない。そこで,今回は学校適応感を「学校環境の中でうまく生活しているという生徒の個人的かつ主観的な感覚(中井・庄司,2008)」として捉え,検討していく。 友人関係や教師との関係が学校適応感に及ぼす影響については,これまでも検討されてきている (例えば,大久保,2005;小林・仲田,1997)。さらに,家族関係も学校適応感と関連することが示されており,学校適応について検討する際には家族関係やクラス内にとどまらない友人関係も考慮するという視点が必要であると指摘されている (石本,2010)。人生の初期に形成される親子関係は,後の対人関係を形成する上での基盤となることが考えられる。そこで,親への愛着を家族関係の指標とし,友人関係,教師との関係と合わせて,学校適応感にどのような影響を及ぼすのかについて検討した(林田,2018)。 その結果,愛着と学校内の対人関係はそれぞれに学校適応感に影響を及ぼすだけでなく,組み合わせの効果があることが示唆された。親子関係が不安定なまま育ってきた生徒であっても,友人関係や教師との関係に満足していることが補償的に働き,学校適応感が高められることや,友人関係や教師との関係に満足できていない場合,親への愛着の良好さに関わらず,高い学校適応感が得られにくいことが示唆された。つまり,学校適応感を高めるためには,友人関係や教師との関係が満足できるものであることが特に重要であると考えられる。 本発表では,親への愛着や友人関係,教師との関係といった中学生を取り巻くさまざまな対人関係が学校適応感にどのような影響を及ぼしているのかについて,研究結果を紹介しながら考えていきたい。
著者
水野 君平 太田 正義
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.501-511, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
28
被引用文献数
7 7

本研究の目的は,スクールカーストと学校適応の関連メカニズムについて,社会的支配志向性(SDO)に着目し,検討することであった。具体的には,自己報告によって生徒が所属する友だちグループ間の地位と,グループ内における生徒自身の地位を測定し,前者の「友だちグループ間の地位格差」を「スクールカースト」と定義した。そして,SDOによるグループ間の地位から学校適応感への間接効果を検討した。中学生1,179名を対象に質問紙調査をおこなった結果,グループ内の地位の効果が統制されても,グループ間の地位はSDOのうちの集団支配志向性を媒介し学校適応感に対して正の間接効果を持った。つまり,中学生において,SDOを介した「スクールカースト」と学校適応の関連メカニズムが示された。考察では,集団間の地位格差を支持する価値観を通して,高地位グループに所属する生徒ほど学校適応が向上する可能性が議論された。
著者
水野 君平 柳岡 開地
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.97-108, 2020-09-25 (Released:2020-09-25)
参考文献数
36
被引用文献数
5 3

本研究の目的は中高生を対象にして「スクールカースト」における友だちグループ間の地位と複数の心理的適応および仮想的有能感の関連性と学校段階間の差を検討することであった。本研究では心理的適応として学校享受感,顕在的自尊心,潜在的自尊心を扱った。中高生408名に対して自己報告式のweb調査を行った。その結果,中高生ともに所属グループの地位が高い生徒ほど学校享受感も高く,グループ内での地位が高い生徒ほど顕在的自尊心も高いことが明らかとなった。また,高校生のみ高地位グループの生徒ほど顕在的自尊心も高いことが明らかとなった。潜在的自尊心と仮想的有能感についての関連はみられず,中高生の間で関連性の差も見られなかった。最後に,以上の結果をもとに,中高生における「スクールカースト」と本研究が用いた複数の指標との関連性について議論した。
著者
水野 君平 日高 茂暢
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1-11, 2019-03-30 (Released:2019-12-14)
参考文献数
41
被引用文献数
7 7

本研究の目的は自己報告によって測定した友だちグループ間の学級内の地位と学校適応感の関連に関して,学級レベルの変数による調整効果を検討することであった。具体的に本研究が扱った学級レベルの変数は,自然な自己開示ができる学級風土と学級内の生徒間の不和を表す学級風土,さらにグループ間の地位におけるヒエラルキーの強さであった。公立中学校3校46学級の生徒1,417名を対象に質問紙調査をおこなった。分析の結果,学級風土はグループ間の地位と学校適応感の関連を調整しなかったが,ヒエラルキーの強さはグループ間の地位と学校適応感の「課題・目標の存在」との関連を調整した。単純傾斜検定の結果,ヒエラルキーが強い学級の場合,高地位グループの生徒ほど「課題・目標の存在」による充実感が高い傾向にあることがわかった。本研究の結果から,グループ間の地位と学校適応感との関連の学級間差やグループ間の地位におけるヒエラルキーの役割を考察した。
著者
加藤 弘通 太田 正義 水野 君平
出版者
北海道大学教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-12, 2016-03-31

本研究の目的は、通常学級と特別支援学級に分け、いじめ被害の実態と被害者が援助要請行動を生起させる要因を教師の指導と生徒との関係性から検討することであった。公立小中学校41,089名を対象に質問紙調査を行った結果、以下のことが明らかとなった。1つは、過去3ヶ月のいじめ被害の実態は、通常学級の小学校で42.7%、中学校で31.5%、特別支援学級の小学校で45.5%、中学校で30.9%であった。2つは、いじめ被害にあった者のうちで「先生に知らせた」とする者の全体の児童生徒に占める割合を算出したところ、通常学級では小学校で約25%、中学校で約15%であり、特別支援学級では小学校で約50%、中学校で約42%であった。3つは、いじめ被害者の教師への援助要請行動を生起する要因としては、学校種、および通常学級と困難学級では異なる結果が得られた。以上をふまえ、学校種・学級種に応じた対応の必要性を論じた。
著者
水野 君平 加藤 弘通 川田 学
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.13-22, 2015-03-25

本研究の目的は中学生のコミュニケーション・スキルと学級内の地位、及び学校適応の関連を明らかにすることである。そのために、公立中学校の生徒780名に対してコミュニケーション・スキル、学校適応感、学級内の地位を尋ねる質問紙調査を行った。その結果、コミュニケーション・スキルは学級内での人気を媒介して生徒の学校適応感に影響を与えることが明らかになった。また、重回帰分析の結果から、男子において、表現を理解するスキルを持ち、良好な人間関係を志向し、他者受容的ではない生徒ほどクラスの中で中心的なグループに属することが示された。
著者
水野 君平 太田 正義
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.501-511, 2017
被引用文献数
7

<p> 本研究の目的は,スクールカーストと学校適応の関連メカニズムについて,社会的支配志向性(SDO)に着目し,検討することであった。具体的には,自己報告によって生徒が所属する友だちグループ間の地位と,グループ内における生徒自身の地位を測定し,前者の「友だちグループ間の地位格差」を「スクールカースト」と定義した。そして,SDOによるグループ間の地位から学校適応感への間接効果を検討した。中学生1,179名を対象に質問紙調査をおこなった結果,グループ内の地位の効果が統制されても,グループ間の地位はSDOのうちの集団支配志向性を媒介し学校適応感に対して正の間接効果を持った。つまり,中学生において,SDOを介した「スクールカースト」と学校適応の関連メカニズムが示された。考察では,集団間の地位格差を支持する価値観を通して,高地位グループに所属する生徒ほど学校適応が向上する可能性が議論された。</p>
著者
飯田昭人 水野君平 加藤弘通
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

問題と目的 本研究では,「子どもの貧困対策に関する大綱」に謳われている「教育の支援」に焦点を当て,保育現場や学校で働いている保育士や教職員等を対象に,子どもの貧困への意識について,(1)子どもの貧困状況の捉え方,(2)貧困状況にある子どもの困難の捉え方の2点について明らかにするために,支援者に向けての質問紙調査を実施した。方 法調査協力者と調査時期 A市内の小学校全18校,中学校全8校(私立中を除く),保育施設(保育園,幼稚園,認定こども園,小規模保育施設,事業所内保育施設,家庭的保育施設)27施設の合計53施設の保育関係者,教職員を対象にした。有効回答数は,小学校15校283件(72.0%),中学校8校188件(82.8%),保育施設18施設213件(56.8%),合計41施設684件(68.7%)であった。調査時期は2017年12月から2018年1月であった。調査内容 「滋賀県『子どもの貧困』対策のための支援者調査」(滋賀県・龍谷大学, 2016)を参考に調査票を作成した。まず「子どもの貧困状況の捉え方」に関する9項目を尋ねた(回答は「まったく深刻ではない;1点」―「非常に深刻である;5点」の5件法)。また,「貧困状況にある子どもの困難についての捉え方」に関する13項目を尋ねた(回答は「まったく当てはまらない;1点」―「とても当てはまる;5点」の5件法に,「子どもの年齢が低くてわからない」も設定した)。その他の質問項目も尋ねたが,本報告では省略する。結 果 「子どもの貧困状況の捉え方」および,「貧困状況にある子どもの困難についての捉え方」(因子負荷量の低さやダブルローディングで5項目を除外)について,因子分析(最尤法・プロマックス回転)の結果と各因子におけるα係数,負荷量,因子間相関はTable 1,Table 2のとおりである。考 察 子どもの貧困の捉え方を,「基本となる生活基盤の不安定さ」と,各種支援費を受給しなければ生活が安定しない,「家庭の経済的困窮」の2点に集約された。貧困状況にある子どもの困難についての捉え方において,主に「子どもの生活面から生じる心身の健康的側面」と,「子どもの学力面」に大別された。 公益財団法人子どもの貧困対策センターあすのば(2016)が,貧困問題を「貧」(低所得などの経済的問題」と「困」(一人ひとりの困りごと)に分け,家庭の「貧」を改善するだけではなく,子どもたちの「困」も支援していくことの必要性を述べている。今回,Table 1では「貧」について,Table 2では「困」についての捉え方を明らかにした。特に,「困」については,保育施設や小中学校というフィールド(現場)で,関係機関と連携しながら対処していくことが求められると考える。
著者
水野 君平
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.126, pp.101-110, 2016-06-30

本論文では,本邦における学校における適応の研究について,学校適応の概要を示した上で,これまでの研究では主眼を置かれてこなかった「学校適応の負の側面」を提示することを目的とした。まず,学校における適応の一指標である学校適応感に注目し,学校適応感はどのような要因によって予測されるのかを整理した。そして,学校適応感を予測する要因として,社会的に望ましいと考えられる要因と社会的に望ましくないと考えられる要因が存在することを示した。そして,社会的に望ましくないと考えられる要因の一例として,「スクールカースト」の問題が存在すること,また「スクールカースト」が学校適応の研究における新たな学術的課題であることを示唆した。