- 著者
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氏原 真弓
石黒 洋明
小玉 肇
西谷 皓次
池田 政身
北村 嘉男
- 出版者
- 公益社団法人 日本皮膚科学会
- 雑誌
- 日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
- 巻号頁・発行日
- vol.112, no.9, pp.1229-1240, 2002-08-20 (Released:2014-12-27)
症例は48歳,女性.約13年間.甲状腺機能亢進症のためプロピルチオウラシル(PTU)を服用していた.300mg/日にて開始して4年後の冬に,感冒様症状に続いて喀血を伴う呼吸困難と高度の貧血を来し,次いで突発性難聴も生じた.尿潜血,便潜血,RA-test陽性,抗核抗体陽性を認めた.甲状腺機能が正常化してPTUの投与が中止されたところ,これらの症状は消失した.その後甲状腺機能亢進症状が再燃しPTUの投与が再開されたが,150mg/日以上服用すると,上強膜炎あるいは強膜炎が出現した.数年前から紫斑が下腿に出没し,嗄声も出現した.1.5年前より300mg/日に増量されたところ,貧血が次第に進行し,不明熱,多関節痛および小腸出血を来した.下肢には環状およびび漫性の紫斑,打ち傷様紫斑が生じた.病理組織像で真皮全層の細動静脈,毛細血管および真皮深層の小動脈にleukocytoclastic vasculitisを認めた.プレドニゾロン30mg/日よりの漸減療法にて,紫斑の新生はなくなり,多関節痛,筋痛も激減したが,尿潜血は続き,15mg/日で経過観察中に血痰が出現した.Myeloperoxidaseに対する抗好中球細胞質抗体(MPO-ANCA)は406EU/mlの高値を示した.PTUの投与の中止により全ての症状が消失し,MPO-ANCAが低下したことより,PTUによるANCA関連血管炎と診断した.これまでに報告された抗甲状腺薬によるANCA関連血管炎45例を検討したところ,皮疹は44%で見られ,手指や下肢の有痛性紅斑,丘疹,潰瘍および下肢の広範な紫斑が主な皮膚症状であった.半月体形成性糸球体腎炎や肺出血を伴うことが多く,microscopic polyangiitisと同様の病像を呈した.PTU等抗甲状腺薬による血管炎には,全身性のANCA関連血管炎とIII型アレルギーが推測される皮膚のleukocytoclastic vasculitisがある.PTUは選択的に好中球に集積され,好中球のMPOにより非常に反応性の高い物質に代謝されるため,それが好中球の核や細胞質の構成成分の構造に変化をもたらし,抗核抗体やANCAが産生されるようになると推察した.