著者
清水 優子 牛島 廣治 北島 正章 片山 浩之 遠矢 幸伸
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.388-394, 2009 (Released:2010-02-10)
参考文献数
17
被引用文献数
3 3

ヒトノロウイルス(HuNoV)は,未だ細胞培養系が確立されていないため,各種消毒薬のHuNoVに対する有効性について十分な知見が得られていない.そこで,HuNoVに形態学的にも遺伝学的にも類似し細胞培養可能なマウスノロウイルス(MNV)を用い,塩素系およびエタノール系消毒薬の不活化効果をTissue Culture Infectious Dose 50% (TCID50)法を指標に評価した.次亜塩素酸ナトリウムおよびジクロルイソシアヌル酸ナトリウム(塩素系消毒薬)は,200 ppm, 30秒間の接触でMNVは99.998% (4.8 log10)以上不活化して検出限界以下となり,125 ppmの場合でも30秒間で99.99% (4 log10)以上の不活化が認められた.70 v/v%エタノール,0.18 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有72 v/v%エタノールおよび0.18 w/v%ベンザルコニウム塩化物含有75 v/v%エタノールは,30秒間の接触で検出限界以下までウイルス感染価を低下させた.   本研究で対象とした2種類の塩素系消毒薬は,いずれも終濃度125 ppmで高いMNV不活化効果を示した.また,3種類のエタノール系消毒薬については,エタノール濃度70 v/v%以上で使用すれば,いずれも短時間でMNVの不活化が達成できることが分かった.以上の結果から,これらの市販の消毒薬はHuNoVに対しても高い不活化効果を有することが期待され,ノロウイルス感染症の発生制御および拡大防止の感染対策を目的とした環境用消毒薬として有用であると考えられる.
著者
牛島 廣治 沖津 祥子 高梨 さやか 町田 早苗 カムリン パターラ トンプラチュム アクサラ 野村 明子 早川 智
出版者
日本大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

ウイルス性胃腸炎で重要なロタウイルスとノロウイルスの混合ワクチンをめざして、基礎実験を行った。ロタウイルスはワクチン株(Rotarix)と人工的に作製したウイルス蛋白(VP6)を用いた。ノロウイルスはウイルス様粒子を用いた。マウスへの経口接種で相乗効果はなく、それぞれのウイルスとして抗体の上昇を認めた。子マウスにロタウイルスの感染実験(下痢)はできたが、ノロウイルスでは下痢が生じなかったので、ワクチンの予防効果の実験はできなかった。ヒトでのロタウイルスワクチンの使用例と繰り返すノロウイルス胃腸炎の例を参考にし、混合ワクチンの開発を進めることが期待された。
著者
牛島 廣治 沖津 祥子 沖津 祥子
出版者
藍野大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

アジアの小児で、HIV、風疹ウイルス、下痢症ウイルス(11種類)、呼吸器系ウイルス(6種類)の分子疫学を行った。総じて、我が国と同様の分子疫学の結果を得たが、ヒトと動物との組換えウイルスが稀ではあるが見られたことは興味深い。さらに未だ報告のない新しい株を見出した。ブタ、ウシ、環境中にヒトに関係するウイルス汚染が見られた。人獣感染症の危険性が示唆された。風疹ウイルスの疫学調査から風疹ワクチンの必要性が強く認められた。
著者
牛島 廣治 西尾 治
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

(1)現在、社会的に問題となっている下痢症ウイルスのノロウイルスGII主要株に対するイムノクロマト法を世界で初めて開発した。さらにノロウイルスの14 genotypeの中空粒子を遺伝子工学的に作製し、抗体を作りイムノクロマト法に応用する準備ができた。サポウイルスに関しても中空粒子の作製に成功し、ELISAによる検査を可能とした。(2)下痢症に関連する複数のウイルスを同時に検出できるmultiplex PCRを開発した。これはA、B、C群ロタウイルスとアデノウイルスを検出するA set、ノロウイルスG、GII、アストロウイルス、サポウイルスを検出するB set、A、E型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、エンテロウイルスを検出するC setで下痢症ウイルスの遺伝子レベルでのスクリーニングおよび遺伝子解析を可能とした。また、全国の食品(貝)、河川水などからリアルタイムPCRを用いて定量的なノロウイルスの検出を可能とした。この方法は検出法精度、感度とも優れており、わが国の食品安全を評価できる。(3)分子疫学的手法による解析の結果ロタウイルス感染のピークは20年前には12月〜1月であったが、その後次第に遅くなり今では3、4月が中心となった。ノロウイルスは急に寒くなる11、12月に流行が始まった。従って小児の主な下痢症に2つのピークが見られた。ロタウイルスでは15年間優勢であったG1型(80〜90%)に代わり、G3、G4型が2〜3年前から優勢(各30%ずつ)になった。G9型は20%を占めた。(4)モノクローナル抗体を用いた抗原抗体反応、遺伝子解析でロタウイルスの各血清型を検査すると、同一血清型内でも特定の部位に変異があった。C群ロタウイルスの小流行が舞鶴で見られた。ノロウイルスやサポウイルスの遺伝子解析から新しいgenotypeや組換え体を報告した。また、genotype間での組換えも見られた。(5)乳児・高齢者施設で下痢症ウイルスの施設内流行があり、食品を介さないヒト-ヒト感染あるいは空気感染が示唆された。イムノクロマト法が迅速診断として有効であった。(6)脳炎・脳症の症例で、PCRでロタウイルス陽性の髄液があった。(7)ロタウイルスのNSP4が下痢症発症の原因として重要とされている。NSP4と脳炎・脳症との関係を調べる目的で新生ラット神経細胞にNSP4の活性部位の合成ペプチド、およびウイルス蛋白を直接作用させたが、アポトーシスを誘導することはなく、脳炎・脳症の発症メカニズムは明らかとならなかった。(8)siRNAを細胞内に導入し、ロタウイルス感染による細胞のアポトーシスを抑制することにより、アポトーシス誘導経路を明らかとした。(9)酸化チタンによる光触媒が抗ウイルス作用を有することがわかった。
著者
川田 紀美子 牛島 廣治 宮田 潤子 濱田 裕子 野口 ゆかり
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

総排泄腔遺残症は、女児にのみ発生する、胎生期に尿道・膣・直腸が分離不全を来し、排泄孔を一つしか持たない先天的難治性稀少泌尿生殖器疾患である。出生直後からの複数回の手術により生殖器に後遺症状を伴うため、思春期には恋愛や性交、妊娠等に支障を来す場合が多い。そのため患者には性に関する特別な配慮が必要であるが、セクシャルヘルスへの支援には母親の役割が不可欠であり、本研究結果より母親を含めた支援システムの構築を目指す。具体的には、国内複数の病院で通院治療を受けている総排泄腔遺残症患者とその母親を対象に調査を行い、母親による患者への家庭内性教育の実情と母子関係の特徴、およびそれらの関連について検討する。
著者
井上 千尋 松井 三明 李 節子 中村 安秀 箕浦 茂樹 牛島 廣治
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.25-32, 2006 (Released:2006-06-09)
参考文献数
17

本研究は、東京都心の医療機関における、1990年から2001年まで12年間の外国人分娩事例のうち、日本語によるコミュニケーションが困難な事例について検討することにより、言語の問題に伴う在日外国人の周産期医療上の課題を明らかにし、その対策について考察した。日本語によるコミュニケーションが困難なことにより、医療従事者と妊産婦との適切な意思伝達の阻害、保健・医療・福祉に関する情報不足、の2点が特有の問題として挙げられた。特に意思伝達の阻害は、病歴や自覚症状の確認困難、相互信頼関係形成と精神的支援の阻害、医療従事者の負担の増大を引き起こし、さらにインフォームドコンセントに基づく医療サービス提供の妨げになっていた。外国人妊産婦に対して、日本人と同じようにインフォームドコンセントに基づいた医療を提供するには、医療通訳制度を整えることが急務の課題であると考えられた。
著者
牛島 廣治
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.75-90, 2009
被引用文献数
3 4

ウイルス性胃腸炎の研究の流れ,概要,診断法,分子疫学について述べた.ロタウイルス,アデノウイルス,ノロウイルス,サポウイルス,アストロウイルス,ヒトパレコウイルス,アイチウイルス,ヒトボカウイルスを取り上げた.それぞれに遺伝子群(genogroup),遺伝子型(genotype),亜型(subgenotype)/クラスター(cluster)/リニージ(lineage)などがあり,地域・年によって変異が起きていることがわかった.これらの変異には点変異のみならず,ヒト-ヒトおよびヒト-動物ウイルス間の組み換えもみられた.ウイルス性胃腸炎は食物だけではなく,ヒト-ヒト感染が重要であり,また環境との関係も注目される.研究の進歩で少しずつ自然生態系の中での各ウイルスの有り様がわかってきた.すでに究明されたウイルスに対しては免疫学的方法あるいは遺伝子学的方法で検査が可能となった.しかし更なる検査法の開発および未知のウイルスの発見が今後期待される.疫学は長く行ってはじめて現象が理解されることが多く地道な努力が必要である.新しい技術を用いながら研究を進めるとともに,流行時など社会の要求に対処する必要がある.
著者
清水 優子 牛島 廣治 北島 正章 片山 浩之 遠矢 幸伸
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.388-394, 2009-11-25
被引用文献数
3 3

ヒトノロウイルス(HuNoV)は,未だ細胞培養系が確立されていないため,各種消毒薬のHuNoVに対する有効性について十分な知見が得られていない.そこで,HuNoVに形態学的にも遺伝学的にも類似し細胞培養可能なマウスノロウイルス(MNV)を用い,塩素系およびエタノール系消毒薬の不活化効果をTissue Culture Infectious Dose 50% (TCID<sub>50</sub>)法を指標に評価した.次亜塩素酸ナトリウムおよびジクロルイソシアヌル酸ナトリウム(塩素系消毒薬)は,200 ppm, 30秒間の接触でMNVは99.998% (4.8 log<sub>10</sub>)以上不活化して検出限界以下となり,125 ppmの場合でも30秒間で99.99% (4 log<sub>10</sub>)以上の不活化が認められた.70 v/v%エタノール,0.18 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有72 v/v%エタノールおよび0.18 w/v%ベンザルコニウム塩化物含有75 v/v%エタノールは,30秒間の接触で検出限界以下までウイルス感染価を低下させた.<br>   本研究で対象とした2種類の塩素系消毒薬は,いずれも終濃度125 ppmで高いMNV不活化効果を示した.また,3種類のエタノール系消毒薬については,エタノール濃度70 v/v%以上で使用すれば,いずれも短時間でMNVの不活化が達成できることが分かった.以上の結果から,これらの市販の消毒薬はHuNoVに対しても高い不活化効果を有することが期待され,ノロウイルス感染症の発生制御および拡大防止の感染対策を目的とした環境用消毒薬として有用であると考えられる.<br>
著者
牛島 廣治 KHAMRIN Pattara
出版者
藍野大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

1.今まで有していたノロウイルス様粒子の1996年株に加えてGII/4の2006b株(わが国で流行が見られた株)に対しても作製した。さらにサポウイルスI/2,I/5とIVに対してもVLPを作製し、その中でサポウイルスI/2に対するモノクローナル抗体を用いたイムノクロマト(IC)を開発した。このICはサポウイルスI/2に反応の限局性があった。今、広範囲のゲノタイプ、ゲノグループに反応する抗体を得ようとしている。同様な方法でアストロウイルスに対するICを開発したが、これも用いたG1に特異的な反応があった。2.現在市販されているロタウイルスのICが十分に使えるか、またPCRとの比較はどうかを3社のキットで行ったところ、1社では感度が88%であるものの、他は感度,精度で90%を超え、有用と考えた。3.タイ国での2005年の147下痢便から下痢症ウイルスをPCR法で検査し、10がノロウイルス陽性、5がサポウイルス陽性であった。さらにゲノタイプ、サブゲノタイプの解析をし、GII/4-d変異株を見出した。タイ国での継続的なロタウイルスの検査では2002-2003に多かったG9が減少してきたが、1989年のころのG9と比較すると変異が起こっていることがわかった。また、G、P、NS4など分節を比較すると動物由来の分節と思われるものがヒトロタウイルスに見られることがわかった。4.コブウイルス属のなかにヒトに感染するアイチウイルスがあるが、ヒトでの検出に続いて動物、とりわけブタについてコブウイルスをタイ国と日本で調べたところ、糞便中に遺伝子の存在が確認された。今のところヒトへの感染は報告されていないが今後検討する必要がある。
著者
牛島 廣治
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究は、治療的ワクチンを含めたワクチンを植物を利用することで開発しようというものである。ワクチンの投与法については経口、経鼻法といった簡便性、日常性をもった方法の検討も研究の目的とする。平成10年までに既に次のことが可能となった。(1)組み込む遺伝子領域とウイルス株の選定:HIVのエンベロープ(gp120)にはエピトープとなる部位が複数あり、抗原性の高い領域である。このgp120遺伝子を組み込む領域とした。マクロファージ親和性ウイルスの1つの株であるBAL株を選んだ。(2)遺伝子の増幅:プライマーの存謹下でPCRをし、目的遺伝子を増幅した。(3)ベクターへの挿入:目的遺伝子をpUC12-35S-NOSプラスミドBamHI切断部位に挿入した(35SプロモーターとNOSターミネーター間に挿入次に、EcoRI、HindIIIで切断し植物細菌アグロバクテリウムのベクターBin19のT-DNA領域に挿入した。(4)細菌への導入と植物への導入:アグロバクテリウム ツメファンテス細菌は自然界では、根頭癌腫病を引き起こし、独特の共存関係を営む。この現象は、アグロバクテリウムが植物に感染するとベクターBin19のT-DNA領域が植物のゲノムに移入されることによるものである。遺伝子を挿入したベクターBin19をアグロバクテリウムに導入した後、アグロバクテリウムを植物に感染させると、先の原理により目的遺伝子は植物のゲノムに移入された。(5)植物の分化・生育:今回は食用植物としてのレタスにHIVエンベロープ(gp120)遺伝子を導入し、カルスから分化させ形質転換植物を得た。(6)レタスの蛋白を葉から抽出し、ELISA法、ウエスタンブロット法でその発現を調べた。HIV抗体陽性血清と反応する蛋白の分画を認めた。このような粘膜免疫システムを応用したワクチン法は、HIVの感染者が増加している国内はもとより、感染が拡がり続けている開発途上国においても重要な戦略になりえるものと考える。