著者
藤生 慎 大原 美保 目黒 公郎
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.453-457, 2013

我が国では近い将来,大規模地震の発生が懸念されており,莫大な数の建物被害が想定されている.これらの建物被害に対して迅速に被害認定を行い生活再建のための罹災証明書を発行するためには,莫大な数の人材が必要となる.しかし,危険かつライフラインが途絶した環境の被災地内に多くの調査員を派遣するには,調査員の安全や衣食住の確保に関する問題など,多くの困難を伴う.そこで筆者らは,地震後の迅速な被害認定・罹災証明書発行のために,ITを用いて被災地内と被災地外を有機的に結び付け,被災地外の人材を有効活用することを可能とする遠隔建物被害認定システムを提案した<sup>1), 2)</sup>.本稿では,提案システムのうち被災地内の要員が被災建物の写真撮影を行うプロトタイプシステムの開発,要素技術の検討,被災地内からの写真アップロードシステムを用いた実証実験について述べる.
著者
沼田 宗純 高津 諭 山内 康英 中井 佳絵 目黒 公郎 伊藤 哲朗 平松 進 伊妻 伸之 赤津 善正 佐藤 勝治 二上 洋介 大関 将広 土井 祐司 田中 朝子
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.471-480, 2016-11-01 (Released:2016-11-29)
参考文献数
3

本研究は,石巻市における避難訓練の結果を報告するものである.2015 年11 月15 日(日曜日,天候:雨)に石巻市総合防災訓練において,各避難所と災害対策本部の情報共有を支援し,効率的な避難所運営を実施することを目的として避難所情報共有システムCOCOA を用いた検証を行った.COCOA は沼田研究室が開発している避難所情報共有システムである.本訓練により,各避難所における避難者数をリアルタイムに把握でき,効率的に避難者名簿も作成されるため要配慮者の把握も容易にできるなど,時系列的な状況変化に応じた効率的な避難所運営が実施できることが確認できた.
著者
目黒 公郎 芳賀 保則 山崎 文雄 片山 恒雄
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.1997, no.556, pp.197-207, 1997-01-21 (Released:2010-08-24)
参考文献数
21
被引用文献数
9 4

本報では, 避難行動の新しい解析手法として, バーチャルリアリティ (VR) を応用した解析システムを開発し, これを用いた避難行動解析を行った. すなわち, 同じ構造を持つ実際の迷路とVR迷路を用いた避難行動実験を行い, 両者の結果を比較・検討することにより, VRによる疑似避難体験が実際の避難行動において訓練効果として現われること, VRを用いて避難時の行動特性を再現し得ることを確認した.避難訓練のマンネリ化による参加者の減少と意識の低下, 危険性のある訓練の実施が難しいことなどを考えると, 防災教育や避難訓練等へのVRの利用価値は高い. さらに, 実際に建設する前の計画や設計段階で, 対象となる施設や構造物の安全性を評価できるなどの点で, VR避難解析システムは大きな可能性を持つ.
著者
井原 毅 沼田 宗純 目黒 公郎
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.367-370, 2010-07-01 (Released:2010-11-25)
参考文献数
3

近年,大きな地震により列車の脱線,高架橋の損壊,軌道変状,盛土の崩壊などの被害が報告されている.幸い鉄道利用者に被害は出ていないが,ダイヤが混み合う時間帯に大地震が発生した場合,鉄道利用者に甚大な被害が出る可能性がある.本研究では,通勤ラッシュ時に走行する列車に衝撃が加わった状況を想定し,楕円形個別要素法による群衆行動解析モデルを用いて満員電車内の乗客の挙動を追跡し,人体に作用する力を考察した.解析の結果,車両が傾くことで乗客に大きな被害が出る可能性があることが示された.また,つり革を増設することで車両の傾きが20度の場合には乗客に作用する力を軽減できることがわかった.[本要旨はPDFには含まれない]
著者
山本 憲二郎 沼田 宗純 目黒 公郎
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.561-564, 2014-11-01 (Released:2015-01-15)
参考文献数
2

世界の約6割もの人々が組積造構造物を住宅として使用している.組積造構造物の問題点は,地震に対する脆弱性が非常に高い点にあり,これまでに発生した地震による組積造構造物の崩壊で,世界中で多くの人的被害が出ている.組積造構造物の耐震性能を向上させるために,多くの技術的方法が開発されてきた.しかし,それらの方法は,実際の組積造構造物に適用する際,多くの時間と労力を必要とし,更に,多くの方法は新築の組積造構造物に対してのみ適用できる技術である.これらの問題は,技術を普及する上での妨げとなっている.そこで本研究では,既存・新築の組積造構造物の両方に適用でき,更にこれまでの方法と比較して,圧倒的に施工が簡単な耐震補強方法を提案する.この方法に使用する材料は,「SG-2000」というガラス繊維を混ぜ込むことにより強化された特殊繊維塗料である.本稿では,この材料の組積造構造物の耐震補強への適用可能性と効率的な塗布方法に関する実験的な検証結果を紹介する.
著者
大原 美保 地引 泰人 関谷 直也 須見 徹太郎 目黒 公郎 田中 淳
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.1055-1060, 2009 (Released:2010-02-23)
参考文献数
6

2008年岩手・宮城内陸地震は, 主要動の到達の前に緊急地震速報が発表された初めての地震であるとともに, J-ALERT(全国瞬時警報システム)を介して防災行政無線から緊急地震速報が放送された初めての事例でもあった.本研究では, J-ALERTにより緊急地震速報が放送された山形県東田川郡庄内町を対象として, 緊急地震速報放送の効果に関するアンケート調査を行った.防災行政無線放送で緊急地震速報を聞いた人は, テレビで見聞きした人の2倍以上となり, 広く情報を伝えるには防災行政無線が有効であることが確認された.しかし, 放送後に身を守る行動を行った人は少なく, 今後は望ましい行動に関する周知が必要であると考えられた.[本要旨はPDFには含まれない]
著者
大原 美保 目黒 公郎
出版者
Institute of Industrial Science The University of Tokyo
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.517-520, 2011

東京大学生産技術研究所では, 平成22年2月24日から緊急地震速報の高度利用を開始している.高度利用者向けの緊急地震速報(予報)を受信し, キャンパスに震度3以上の揺れが到達すると予想された場合に, An, As, B-F棟の放送設備より館内放送が行われる.2011年3月11日午後14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震の際には, 14時47分2秒に発表された緊急地震速報第九報で予想震度が2.7となり, 主要動到達の約1分前に緊急地震速報放送により警戒を呼びかけることができた.地震後の構成員へのアンケートからは, 放送が役に立ったという意見とともに, 予測震度が低かったことへの戸惑いも見られた.[本要旨はPDFには含まれない]
著者
川崎 昭如 ヘンリー マイケル 目黒 公郎
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.491-495, 2012-07-01 (Released:2013-02-23)
参考文献数
8

東日本大震災後,短期間に大量の外国人が国内外へ退避したことで,日本国内の社会経済活動に広範な影響がでた.本研究では,外国人の退避行動と災害情報収集過程との関係を明らかにすべく,東日本大震災時に関東地域に居住していた外国人を対象としたオンライン・アンケート調査を実施した.75ヶ国860人の災害情報収集過程と退避行動との関係性を分析し,震災後の情報収集過程の違いがその後の退避行動に与えた影響を定量的に示した.[本要旨はPDFには含まれない]
著者
沼田 宗純 近藤 伸也 井上 雅志 目黒 公郎
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.755-763, 2011

本研究では, 広域的災害に対し, 地域防災計画の記述の統一化が広域的応援を円滑かつ効果的に実施に繋がるのではないかとの立場に立ち, 自治体間での地域防災計画の記述の違いについて考察し, 実効性の高い広域連携体制のあり方の方向性を示そうとするものである.そのために, 1995年兵庫県南部地震と2004年新潟県中越地震における支援の実態について既往の研究を参考に, 広域的支援の有り方を検討する際のフレームワークを整理し, 広域的支援における災害対応業務について考察し, 自治体間の地域防災計画を比較することで, その記述の違いについて考察している.[本要旨はPDFには含まれない]
著者
井上 雅志 福岡 淳也 大西 修平 沼田 宗純 目黒 公郎
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.283-288, 2018

<p>地域防災計画の多くは,記載事項が膨大なため,有事の際,職員が災害対応に必要な情報を即座に探し出すことが困難であり,過去の災害においても有効に活用されていないことが多い.本研究では,地域防災計画の記述を可視化すべく,「災害対応フロー図」を作成し災害対応業務を体系的に整理すると共に,熊本県の地域防災計画を標準化した.加えて,これを効率的に運用するために,業務実施上の参考情報をまとめた詳細シートデータベースを構築した.また,作成された災害対応業務フロー図について,部署間の連携関係をネットワークの形で可視化することで,業務における担当部署と,部署間の関係を一目で確認できることを示した.</p>
著者
石川 哲也 近藤 伸也 川崎 昭如 大原 美保 目黒 公郎
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.473-479, 2013

本研究では,2011年台風12号豪雨水害で被災した十津川村を事例として,地方自治体のインタビュー調査から地域での情報伝達の現状と課題を明らかにした.そして被災者を支援する活動を行った十津川村出身者によるツイッターアカウントを対象として,情報発信経路と情報種別の観点からツイッターデータを分析し,情報発信の主体ごとの拡散性の高い情報種別の特定や,時間推移ごとの災害情報の拡散性について定量化するとともに,他の通信手段と比較したソーシャルメディアの効果的利用方法の可能性を検討した.
著者
石川 哲也 近藤 伸也 川崎 昭如 大原 美保 目黒 公郎
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.545-552, 2012

災害時の行政機関のソーシャルメディアによる情報発信について,その重要性が調査等で明らかにされているが,その効果的な運用方法や運用の課題が明らかにされていない.そこで本研究では,東日本大震災もしくは紀伊半島水害時にソーシャルメディア上で情報伝播の要として活躍した4つの組織・個人のアカウント運用者に対してヒアリング調査を行い,ソーシャルメディア運用の特徴や課題を整理した.そして災害時の行政機関アカウントの運用指針の提案,そして課題に対して調査から明らかになった知見を踏まえた解決策の提案を行った.[本要旨はPDFには含まれない]
著者
沼田 宗純 目黒 公郎
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.401-405, 2013

本稿では,福島県矢吹町の防災体制の再構築を目的に,その初めの取り組みとして,東日本大震災における課題を整理するものである.東日本大震災の災害対応の課題を踏まえ,以下が論点となった.(1)見直し範囲は,地域防災計画,災害対策初動マニュアル,避難所マニュアルとして各種マニュアルの一元化を行う.また,(2)見直しの視点は,震災発生時の初動体制の抜本的見直し,災害対策本部体制の抜本的見直し,必要物資の確保,必要資機材の確保(インフラ応急対応等),必要施設設備の確保(給水施設,情報伝達手段,停電時対応設備等),避難所の見直し(耐震化・充実化,設営数,基準,ルールづくり等)等である.
著者
川崎 昭如 ヘンリー マイケル 目黒 公郎
出版者
Institute of Industrial Science The University of Tokyo
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.387-394, 2013

東日本大震災後の海外諸国の対応と各国民の行動にはどのような関係があったか.また,自国から退避が勧告されたにもかかわらず退避しなかった外国人や,その逆の行動をとった外国人の意思決定の理由や信頼をおいた情報は何であったか.本稿では,震災直後の各国政府の対応を整理し,東日本大震災時に関東地方に居住していた外国人を対象としたアンケート調査より,震災後の退避行動とその意思決定の理由,信頼をおいた情報源を,諸外国の勧告レベルごとに分析し,関係性を分析した.
著者
藤生 慎 沼田 宗純 大原 美保 目黒 公郎
出版者
社会技術研究会
雑誌
社会技術研究論文集 (ISSN:13490184)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.96-105, 2013 (Released:2013-06-18)
参考文献数
11
被引用文献数
2

本稿は東北地方太平洋沖地震で被災した住家に対して実施された建物被害認定調査の実施状況をアンケート調査を通じてまとめたものである.アンケート調査では,調査期間,実施体制,支援体制,トレーニング体制などを明らかにした.分析の結果,各自治体とも発災後1か月以内に調査を開始しているが,1ヶ月以降に調査方針の変更などがあり,現場に混乱が生じたことが明らかとなった.また,過去の地震災害で実施された建物被害認定調査で指摘されている問題が解決されることなく今回の調査でも生じていた.特に判定要員のトレーニングは,調査実施前に短時間で実施されており,調査結果に対する影響が少なからず生じている可能性が考えられることも明らかとなった.
著者
村上 友基 沼田 宗純 目黒 公郎
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集A1(構造・地震工学) (ISSN:21854653)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.I_506-I_512, 2014
被引用文献数
2

地震による石垣構造物の崩壊を防ぐためには,事前に耐震性能を把握し,その性能が不十分な場合は,適切な耐震補強を実施することが不可欠である.そこで本研究では,2次元拡張個別要素法を用いて石垣構造物の地震動応答解析を行い,その結果を踏まえて,耐震補強策を検討した.具体的には,道路橋示方書の地震動データを用いて解析し,その時の石垣の挙動を把握した.耐震補強策として,施工範囲の短縮と景観の維持を優先して,石垣に対する耐震補強法としてアンカー補強を選択した.<br> その結果,無補強時とアンカー補強時の比較に加え,アンカー補強の違いによるパターン分けで,石垣構造物に対する耐震補強の必要性と補強パターンによる地震動応答の変化の傾向を示し,アンカー補強の有効性を確認した.
著者
山崎 文雄 副島 紀代 目黒 公郎 片山 恒雄
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.507, pp.265-277, 1995-01-21 (Released:2010-08-24)
参考文献数
23
被引用文献数
1 5

釧路沖地震後の釧路市1,000世帯に対し, 日頃の地震対策, 釧路沖地震による家庭での被害やライフラインの停止状況などを尋ねるアンケート調査を実施した. その結果を見ると, 家屋の構造被害が約半数にも上り, 家具の転倒や照明機器の落下・破損が20%を越えるなど, 被害の大きさが明らかになった. また被害発生の比率は傾斜地, 台地, 平坦地の順に大きく, この地震による揺れと地形が関係深いことが示された. ライフラインの停止は, 停電が約半数, 断水が約1/3, ガスの停止が2割強の家庭で発生し, 電話は輻輳状態となった. しかし住民の困惑度は, 停止の有無より継続時間により影響されることが示された. ライフライン停止の許容時間は半日以内という回答が多く, 許容時間は電力, 電話, 水道, ガスの順に短かった.