著者
福島 正也 藤井 亮輔 近藤 宏 矢野 忠
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.176-184, 2019 (Released:2020-07-13)
参考文献数
9

【緒言】平成28年までの10年間で、 はり及びきゅうを行う施術所が59%増加している。 これまでに全国規模のあん摩マッサージ指圧・はり・きゅう業に関する業態調査が実施されているが、 はり・きゅう業を中心に業態を分析した報告はみられない。 今後のはり・きゅう業の在り方を検討するためには、 はり・きゅう業の経営実態に関する調査が必要である。 そこで、 今回我々が実施した全国規模のあん摩マッサージ指圧・はり・きゅう業の業態調査から、 はり・きゅう業者の患者数、 施術料金、 年収に焦点を当てて報告する。 【方法】全国のあん摩マッサージ指圧・はり・きゅう業者を対象に、 層化系統抽出法による、 個人施術所15,000件、 法人施術所2,000件、 出張専門業者3,000件の計20,000件を抽出標本とする調査を実施した。 調査は郵送法で、 平成28年10月末に発送し同年11月18日までの投函を依頼した。 回収した調査票から、 営業中かつはり師・きゅう師免許を所持する業者を集計対象とし、 月間患者数、 施術料金、 年収について、 全体の集計と営業形態、 所持免許 (はり師・きゅう師免許、 あん摩マッサージ指圧師免許、 柔道整復師免許)、 性別、 年代の別による集計を行った。 集計値は、 実数値とパーセンタイル、 または、 中央値と四分位範囲で表記した。 【主な結果と考察】回収した調査票4,605票の内、 3,117票が集計対象であった。 はり・きゅう業者の標準的な経営実態として、 月間患者数98人、 施術料金3,000円、 年収324万円という数値が示された。 月間患者数、 施術料金、 年収の分布には大きなばらつきがみられ、 年収では低額層と高額層の極端な二極分化が認められた。 主な背景として、 はり・きゅう業の受療率の低さ及び柔道整復療養費の支給対象外疾患への支出が影響していると推測された。 はり・きゅう業の経営実態を明らかにするためには、 さらなるデータの解析が必要である。
著者
福島 正也 砂川 正隆 片平 治人 渡辺 大士 草柳 肇 小林 喜之 樋口 毅史 久光 直子 久光 正
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.312-319, 2015 (Released:2015-11-21)
参考文献数
30
被引用文献数
2

円皮鍼は鍼治療に用いられる鍼の一種で,1mm前後の極めて短い鍼を絆創膏で皮膚に留置することによって,種々の生体の反応を引き出す.本研究では,ラット社会的孤立ストレスモデルを用い,ストレスに対する円皮鍼の効果を調べ,作用機序の検討としてオレキシン神経系の関与を検討した.8週齢Wistar系雄性ラットを使用し,コントロール群(Con群),ストレスモデルにシャム鍼を貼付した群(Sham群),ストレスモデルに円皮鍼を貼付した群(PTN群)の3群に分けた.社会的孤立ストレスモデルは8日間単独で飼育することで作製した.Con群は1ケージに3~4匹で飼育した.ストレス負荷7日目,PTN群とSham群には百会穴相当部への円皮鍼(パイオネックス®,セイリン社製)またはシャム鍼を貼付した.ストレス評価として,噛みつき行動時間の測定(7日目と8日目)と,EIA法にて血漿コルチコステロンの測定を行った.また,オレキシン神経系の関与を検討するために,EIA法にて血漿オレキシンA濃度を測定し,外側視床下部におけるオレキシンニューロンの変化を組織学的に検討した.ストレス負荷8日目,10分間の噛みつき行動時間は,Sham群(460.2±24.2秒)に対し,PTN群(263.3±53.7秒)で有意に抑制された(p<0.01).血漿コルチコステロン濃度は,Con群(44.0±8.2ng/ml)に対しSham群(128.6±26.4ng/ml)では有意に増加したが,PTN群(73.5±8.9ng/ml)ではその増加が有意に抑制された(P<0.05).血漿オレキシンA濃度は,Con群(0.17±0.01ng/ml)に対しSham群(0.36±0.04ng/ml)では有意に増加したが,PTN群(0.23±0.03ng/ml)ではその増加が有意に抑制された(P<0.05).外側視床下部におけるオレキシンAの発現もCon群(26.88±3.03 Optical Density:OD)に対しSham群(80.89±6.03 OD)では有意に上昇したが,PTN群(49.87±1.84 OD)ではその上昇が有意に抑制された.百会穴への円皮鍼治療は,ラット社会的孤立ストレスモデルにおけるストレス反応を抑制し,視床下部オレキシンニューロンの活性を抑制した.ストレスによる交感神経系や内分泌系の興奮に視床下部オレキシン神経系が関与することが報告されている.円皮鍼治療はオレキシン神経系を抑制することにより,ストレス反応を抑制したと考えられる.
著者
福島 正義
出版者
日本武道学会
雑誌
武道学研究 (ISSN:02879700)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.7-13, 1978-03-05 (Released:2012-11-27)
参考文献数
10
被引用文献数
1

General principles of Mitogaku exist in the next phrases.1. Loyalty and filial piety is peerless.2. No distriction between pen and sword,3. Reverence and respect confusianisum.4. Scholarly persuits make efficacy as others.I will state above mentioned phrase No.2 expressly.1) No distriction between pen and sword.What is the “no distriction between pen and sword.” Pen without sword is not signify the pen, sword without pen is not signify the sword.Anybody be materialized of these, main mankind is follows.Mr. Mitsukuni Mito-Feudal clan's lord.Mr. Nariaki Tokugawa-Feudal clan's lord. Mr. Toko Fujita-The scholar is splended one.By Mr. Nariaki's Tokugawa order, Kodokanjutsugi (the greatest book) is compiled.Mitogaku's whole soul into this book is thrown since then Mr. Mitsukuni Mito consistently.The main discourse is into discuss throughly concerning above No.2 subject.1) I will participate in the modern significance lastly an end.
著者
藤井 亮輔 矢野 忠 近藤 宏 福島 正也
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.87-95, 2017 (Released:2020-07-07)
参考文献数
8

【目的】あん摩マッサ-ジ指圧業の実態を需給の現状と業者の年収を中心に考察し当該行政の政策 検討の基礎資料に資する。 【対象】全国から収集した鍼灸マッサージ業者102,831件から抽出した20,000件を調査の客体とし た。 【方法】収集した業者名簿102,831件(施術所76,505件、出張専門業者26,326件)から層化二段 無作為法で抽出した施術所17,000件、出張専門業者3,000件に無記名式質問紙調査票を2016年10 月末に送付し同年11月18日までの回答を依頼した。 【結果】未着票(21.0%)を除く 15,793 通が有効に着信し 4,605 人(29.2%)から回答を得たが、 うち769人(16.7%)は休業中か廃業していた。この未着率、 休業廃業率や取扱患者数等の結果から、 営業中のあん摩マッサージ指圧(以下、あマ指という)業者は44,040件、同業者が2016年10月 に扱った延べ患者総数は3,822,000人(雇用者を含む)、実働あマ指師総数は88,900人が算出され、 同月にあマ指師1人が扱った延べ患者数は43人(営業24日/月換算で1日1.8人)と推計された。 また、前年分年収(中央値)は視覚障害者の128万円に対し晴眼者は400万円で、前者の42%が 100万円以下の階層に集中していた。 【考察】国民一世帯当たりの所得額の中央値を標準とすると2015年の同所得額(4,270,000円)は 月間90~120人分の施術料収入に相当する。この人数を充たすには概算で1日4~5人分の売り 上げが必要となるが、この格差(1.8人との差)は実働あマ指師の供給力余力の大きさを示す目安 と考えられる。一方、接骨院等の急増であマ指市場は供給超過にあり生活難に陥る視覚障害者が 急増している。よって、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(以下、あ はき師法という)の第19条1項による職業選択の自由の制限は必要かつ合理的範囲内であり需給 の現状からも許容されると考える。 【結論】本研究により、あマ指師の供給力の余力幅が十分な規模にある実態と、晴眼者と比べて生 活難に陥る視覚障害業者が急速に増えつつある現状が明らかとなった。
著者
吉川 一樹 鮎澤 聡 福島 正也 櫻庭 陽 石山 すみれ
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.204-209, 2019 (Released:2020-07-13)
参考文献数
13

【目的】片頭痛に対し、 後頭部C2末梢神経野鍼通電療法を行い、 頭痛頻度と服薬回数の減少および生活支障度の改善がみられた症例を報告する。 【症例】60代女性。 主訴は頭痛。 [現病歴] X-41年、 幼少期から続く頭痛が悪化し始めた。 X-15年頃から市販薬が無効となり、 近医脳神経外科で片頭痛および薬物乱用頭痛と診断された。 服薬により薬物乱用頭痛は寛解し、 従来からの頭痛も改善した。 X-1年8月に新たに仕事を始めてから、 頭痛頻度と服薬回数が増加傾向にあるため、 X年5月に鍼治療を開始した。 直近の頭痛頻度は8回/月程度で、 その都度服薬していた。 [自覚症状] 拍動性の痛みが主に前頭部、 後頭部に出現し、 悪心・嘔吐、 光・音過敏を伴うこともある。 主な誘因は、 天候の変化である。 [家族歴] 実父、 母方の祖母、 実兄弟に頭痛歴あり。 [診断] 片頭痛。 [評価] 頭痛ダイアリー (頭痛頻度、 服薬回数)、 日本語版 Headache Impact Test (HIT-6)。 【治療】後頭部C2末梢神経野鍼通電療法を週1回から月1回の頻度で実施した。 【結果】頭痛頻度は、 治療開始前が8回/月、 治療12週後が6回/月、 24週後が8回/月、 36週後が3回/月、 48週後が1回/月、 54週後が4回/月であった。 服薬回数は、 治療開始前が8回/月、 治療12週後が2回/月、 24週後が6回/月、 36週後が3回/月、 48週後が1回/月、 54週後が4回/月であった。 HIT-6は初診時が68点、 54週後が57点であった。 台風などの天候の変化による一過性の増悪が認められたものの、 頭痛頻度および服薬回数が満足いく状態まで改善したため、 18診 (54週後) で治療を終了した。 【考察】本症例では主誘因である天候の変化による頭痛発作の誘発が軽減されたことが特徴であり、 後頭部C2末梢神経野鍼通電療法による三叉神経脊髄路核の感作の抑制が関連している可能性がある。
著者
池田 弘 櫻間 教文 黒住 順子 大森 一慶 荒木 俊江 真鍋 康二 福島 正樹
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.115-122, 2019 (Released:2019-02-28)
参考文献数
27
被引用文献数
1

銅欠乏症による種々の血球減少症を併発した透析患者5例を経験した. 男女比は1 : 4, 平均年齢は76歳, 平均透析歴は5.2年, 原疾患は糖尿病2例, 多発性囊胞腎1例, 腎硬化症1例, 不明1例, 併存症は誤嚥性肺炎3例, 脳神経障害2例, アクセス感染2例, 大腸癌術後の低栄養状態1例, 化膿性脊椎炎1例であった. 1例で経腸栄養, 4例で亜鉛製剤投与が行われていた. 診断時の血中銅, セルロプラスミンの平均濃度は26.6μg/dL, 12.6mg/dLで, 汎血球減少症2例, 貧血+血小板減少2例, 貧血のみ1例であった. 3例に硫酸銅, 1例に純ココア, 1例に銅サプリ投与を行い, 全例, 血球減少が改善した. 透析患者ではリン制限に伴う銅摂取量減少, 亜鉛補充による腸管での銅吸収抑制から健常人より銅欠乏をきたしやすいと考えられる. ESA抵抗性の貧血や複数系統にわたる血球減少症をみたときは, 銅欠乏も念頭において診療を行う必要があると考えられた.
著者
中司 敦子 神崎 資子 高木 章乃夫 岩田 康義 池田 弘 福島 正樹
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.163-168, 2004-02-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

慢性腎不全患者の意識障害として尿毒症性脳症が知られているが, 透析療法が普及した昨今ではこの病態を経験することはまれである. 今回われわれは緩下剤の連用中に高マグネシウム (Mg) 血症による意識障害をきたした慢性腎不全の2症例を経験したので報告する.症例1は77歳, 男性. 糖尿病性腎症による慢性腎不全で加療中, 食欲不振と意識混濁が出現し入院. 血清Cr 4.31mg/dL, BUN 64mg/dL, 血清Mg 7.3mg/dLと上昇. 血清カルシウム値は5.8mg/dLと低下. 皮膚の潮紅, 肺炎および呼吸抑制による呼吸不全を認めた. 血液透析で血清Mg値は低下したが, 翌日再分布によると考えられる再上昇をきたしたため血液透析を再度行い軽快した.症例2は78歳, 女性. 慢性関節リウマチ, 腎機能低下で加療中に尿路感染症により腎機能が増悪し, 全身倦怠感, 見当識障害が出現したため入院. 血清Cr 6.56mg/dL, BUN 96mg/dL, 血清Mg 7.1mg/dLと上昇. 血液透析を3日間連続して行い軽快した.いずれの症例もMg製剤の服用歴を有し, 高度な高窒素血症が存在しないにもかかわらず意識障害を呈した. 当院で2年間に血液透析導入時に血清Mgを測定した78例中, 中毒域の高Mg血症をきたしたのは今回提示した2例のみであった. その他に, 意識障害をきたした症例は低血糖の1例のみで, 尿毒症性脳症による意識障害はなかった. 今回の症例では緩下剤の連用および感染による慢性腎不全の急性増悪が重篤な高Mg血症の原因と考えられた. 治療として血液透析が有効であったが, 再分布による血清Mg値の再上昇に注意が必要である.
著者
近藤 宏 藤井 亮輔 矢野 忠 福島 正也
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.49-55, 2019 (Released:2020-05-20)
参考文献数
26

【緒言】視覚障害のあるあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師がその技術を活かし、ヘルス キーパーとして企業に雇用されている。しかし、企業内に開設された施術所の状況、ヘルスキー パーの正確な人数や業務の詳細について全体を網羅した基礎的資料はみられない。本研究の目的 は、全国の保健所に登録された施術所情報から企業内に開設された施術所の所在地等を明らかす ることである。 【方法】全国の保健所から収集されたあはき業に係る都道府県ごとの施術所名簿データ(76,505 件) から名称、所在地、業務の種類を抽出し、データベースを作成した。データベースから法人企業 のみをスクリーニングした。さらにWeb 検索エンジンを用いて当該企業を照合し、企業内に開設 された施術所を有する企業名と産業分類を特定した。集計は、届出施術所数、企業数、都道府県 別数、企業の産業分類、業務の種類について行った。 【結果】届出された施術所数は、282 件であった。その内、53 件が異なる所在地で複数の届出をし ていた。そのため企業数は200 件であった。届出をした業務の種類は、あん摩マッサージ指圧の み135 件(47.9%)が最も多かった。都道府県別での所在地では、東京都147 件(52.1%)が最も 多く、次いで、大阪府48 件(17.0%)であった。産業分類別では、情報通信業92 件(32.6%)が 最も多く、次いで製造業19.1%であった。 【考察】大企業の本社が多い都道府県は東京都と大阪府である。大企業の本社数が多いために、企 業内に開設された施術所が大都市に集中しているのではないかと考える。 【結語】全国の保健所に登録されている施術所情報から、企業内に開設されたあん摩マッサージ指 圧・はり・きゅう施術所の開設数、所在地、企業の産業分類、業務の種類を明らかにし、基礎的 資料を資することができた。
著者
韓 臨麟 福島 正義
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.228-235, 2016 (Released:2016-05-06)
参考文献数
36

緒言 : わが国におけるフッ化物配合歯磨剤の普及率が9割に達している現在, フッ化物の効果をより確実なものにするための研究が進められている. 最近では, 機能化されたリン酸三カルシウム (fTCP) とフッ化物を配合した歯磨剤が販売されている. 本研究は, この歯磨剤の機能的効果を解明するため, 歯質耐酸性, 象牙細管の封鎖性および元素の取り込みなどについて検討を行った. 材料および方法 : フッ化物と機能化されたfTCPを同時配合した歯磨剤 : Clinpro toothpaste (3M ESPE, USA, 以下, クリンプロ歯磨剤) を実験に用いた. また, 口腔環境のシミュレーションとして人工唾液を用いた. 実験にはヒト新鮮抜去歯を用いた. クリンプロ歯磨剤を用いて, 抜去歯のエナメル質面に1, 4週あるいは8週間の処理を行った後, 乳酸脱灰液にて脱灰させ, EDTA滴定法による脱灰中のカルシウム含有量を測定した (n=5). また, ヒト抜去歯の歯根試片を用いて人工象牙質知覚過敏症試片を作製し, クリンプロ歯磨剤による1, 4週あるいは8週間 (n=5) の処理をそれぞれ行った. これら試片について, 走査電子顕微鏡で処理面の微細構造的観察を行った. さらに, 各処理期間の試片について, 開口象牙細管の封鎖率を算出した. 一方, 実験方法の2) に準じて, クリンプロ歯磨剤を1, 4週あるいは8週間処理した根面象牙質試片 (各n=3) について波長分散型マイクロアナライザーを用いて, Ca, F, Pの検索を行った. 結果 : クリンプロ歯磨剤未処理の対照試片と比べて, 1週間処理した試片ではCa2+溶出量の減少を示し, また, 4週間あるいは8週間処理し続けた場合, Ca2+溶出値はさらに低下していた. また, クリンプロ歯磨剤処理1, 4週あるいは8週間後の象牙質面試片では, 処理期間が長いほど封鎖された象牙細管の数が増加していた. さらに, クリンプロ歯磨剤処理の象牙質界面部におけるCa, PおよびFの取り込みは, 処理期間の長い試片ほど深く浸透していたことが認められた. 考察 : クリンプロ歯磨剤の処理により, 象牙細管開口径の狭窄化や封鎖などが観察されたことにより, 本剤の象牙質知覚過敏症の抑制効果が期待できるものと考えられる. また, クリンプロ歯磨剤処理後では, エナメル質脱灰量の減少やF, CaあるいはPが硬組織に取り込まれたことから, 歯質強化効果が示唆され, う蝕進行抑制に寄与することが期待される.
著者
砂川 正隆 池本 英志 福島 正也
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.1-7, 2017 (Released:2020-07-07)
参考文献数
33

鍼通電療法は、様々な症状に対して生体の調節機構を介して効果を発揮する。ここでは、鍼 通電療法の生理学的作用を、同じ電気刺激療法であるが鍼を使用しない経皮的電気刺激療法 (transcutaneous electrical nerve stimulation; TENS)ならび通電を行わない置鍼(円皮鍼)と比較した。 TENSとの違いとして、鎮痛作用に関しては、鍼を刺入した局所における変化が起こりうること、 分泌される内因性オピオイドの種類が異なることが報告されている。 置鍼との違いとして、オレキシン分泌に与える影響を検討した。オレキシン神経は、大脳辺縁 系、視床下部、脳幹などからの入力情報を統合し、摂食行動や情動行動、覚醒や睡眠、循環や呼吸、 緊急反応、内分泌系、鎮痛といった種々の行動や自律機能の調節を行っている。術後痛モデルと 脳挫傷モデルにおいては、鍼通電療法はオレキシンAの分泌を促進するが、慢性閉塞性肺疾患モ デルにおいてはオレキシンAの分泌亢進を抑制した。社会的孤立ストレスモデルにおいては、上 昇したオレキシンAの分泌が円皮鍼によって抑制された。無処置の動物に対しては置鍼群と電気 鍼群とで比較した場合、置鍼群でオレキシンAの分泌が有意に増加したことから、通電の有無が オレキシンの分泌に関して異なった反応をもたらす可能性はある。しかし病態モデルでは、必要 な場合には分泌を促し、分泌が過剰な場合には抑制的に作用しており、通電の有無に関係なく中 庸化作用が認められた。 鍼通電療法でも刺入の深さや刺激強度、使用する経穴などを変えることによって得られる効果 はさまざまである。鍼通電療法の作用機序を明らかにするには、更なる研究が必要である。
著者
佐藤 美和 福島 正也
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.91-96, 2019 (Released:2020-05-20)
参考文献数
6

【目的】起立性調節障害(OD)は、思春期に好発する循環系を中心とした自律神経機能不全とされ、 不登校等の原因になることも多い。本稿は、薬物療法の効果が十分に得られなかったOD 患児に 鍼灸治療を行い、改善がみられた症例を報告する。 【症例】14 歳、男性、中学生[主訴]起床困難、入眠困難[現病歴]X-1 年1 月頃から食欲不振、 入眠障害、起床困難を生じ、登校が困難になった。近医小児科でOD の診断を受け、薬物治療を 行うも改善しないため、X 年1 月に鍼灸治療を開始した。[現症]起床困難、午前中の体調不良が みられ、学校は遅刻・欠席が続いている。その他に、四肢の冷え、腹痛、食欲不振等がある。生 理機能検査では、OD テスト:陽性、体位変換負荷サーモグラム(立位、臥位):陽性、24 時間ホ ルター心電図パワースペクトル解析:LF<HF(副交感神経優位)で異常が認められた。[服用薬物] ミドドリン塩酸塩(2㎎ )・3 錠、スボレキサント(20㎎ )・1 錠等。[治療]自律神経機能の調整を目 的に、1 ~ 2 週間に1 回、計16 回の鍼灸治療を行った。1 ~ 5 診目は、頭頂部・四肢・腹部への 置鍼術(10 分、16 号40㎜、刺鍼深度5 ~ 15㎜)、手指・足趾爪甲角部への棒灸を行った。6 診目 以降は、頭頂部・背部への鍼通電療法(50Hz 間欠波、10 分、 20 号40㎜、刺鍼深度5 ~ 15㎜)を 追加した。効果判定のため、2 診目以降のOD 症状、登校状況、3 診目以降の起床時血圧の記録を 依頼した。 【結果】2 ~ 4 診目(21 日間)は、遅刻・欠席が93%、起床困難が67%、腹痛が67%、食欲不振 が24%の日に認められた。13 ~ 16 診目(30 日間)は、遅刻・欠席が0%、起床困難が0%、腹痛 が3%、食欲不振が0%の日に認められた。OD 症状および自律神経機能の改善が認められたため、 16 診で治療を終了した。 【考察】藤原ら(1997)の報告同様に、鍼灸治療は自律神経機能を調整し、OD を改善したと考える。
著者
福島 正也
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.73-77, 2019 (Released:2020-05-20)
参考文献数
9

【緒言】2017 年9 月10 日から11 日にかけて、プロ野球投手が鍼治療のミスにより長胸神経麻痺に なった可能性があり、球団側が投手に謝罪したとの報道があった。この報道は、鍼治療と長胸神 経麻痺の因果関係が明らかにされないままに行われており、鍼治療のイメージに対する悪影響が 懸念される。Twitter は代表的なソーシャル・ネットワーキング・サービスで、そのコンテンツで あるツイートの分析は、社会心理学における感情反応の調査等に応用されている。本研究は、ツイー トの分析により、報道内容が鍼治療のイメージに与えた影響を調査することを目的に実施した。 【方法】調査は2017 年12 月に実施した。調査対象は、報道日と、その前後1 週間時点および前後 1 ヶ月時点のツイートとした。検索方法は、“鍼”or“針治療”or“はり治療”or“はりきゅう”or “針灸”を検索語とする掛け合わせ検索とし、日本語でのツイートを抽出した。抽出されたツイー トは、ツイート数の比較、およびKH Coder(Ver. 2.00f)を用いたテキストマイニングによる、頻 出語、コロケーション統計(“鍼”のコンコーダンス検索)、報道日の共起ネットワークの分析を行っ た。 【主な結果】報道日のツイートは、ツイート数が約4.4 倍に増加し、報道内容と関連した語が多く 抽出され、“怖い”“ 酷い”という語が共起していた。 【考察】調査結果から、報道内容は、一定の注目を集め、相応の社会的インパクトをもつものだっ たと考える。また、報道内容にネガティブな感情を抱いた者が多かったことが示唆された。本調 査結果は、報道内容に対する短期的な感情が反映された可能性が高いと考える。今後、報道の長 期的な影響の調査や、高度情報社会に対応した鍼治療のイメージブランディングが求められる。
著者
韓 臨麟 砂田 賢 岡本 明 福島 正義 興地 隆史
出版者
特定非営利法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.614-621, 2008-12-31
被引用文献数
2

エナメル質亀裂(以下:亀裂)は外傷による歯の破折の最も軽度な変化であるとともに,明確な外傷既往のない歯においてもしばしば観察される一方,エナメル質内に限局した歯冠長軸にほぼ平行に走行する複数の微細な亀裂がよく観察される.この種の亀裂は,二次う蝕・歯の審美障害・歯の破折・歯髄疾患などのさまざまな病態の誘因になりうると考えられるものの,その成因や発生頻度の詳細についていまだ不明の点が多い.本研究では,この種の亀裂の発生頻度や随伴する臨床症状について調査を行った.残存歯20本以上の外来患者80名(10代後半から80代までの各年齢層について各10名,ただし,80代の被験者の残存歯は,平均16.5本であった)を調査対象とし,診療用ライトによる照明下で歯鏡,歯科診療用ルーペ,コンポジットレジン重合用光照射器などの器具を用いて,亀裂の程度,修復物の有無と種類,および冷刺激に対する誘発痛の有無を診査した.亀裂の程度については,肉眼で容易に確認できる場合をレベルC,ルーペによる拡大視で確認できた亀裂をレベルB,光照射器で光を当てた状態で拡大視下で確認できた場合をレベルAとした.また,誘発痛に関しては,スリーウェイシリンジを用いて亀裂歯に冷気を当てて診査した.その結果,亀裂の検出率は年齢とともに上昇傾向を示し,50代以後では100%の被験歯に亀裂が確認できた.また,10代〜30代の被験者では,コンポジットレジンあるいはメタルインレー修復歯が非修復歯と比較して高い亀裂検出率を示す傾向がみられた.さらに,若年者では亀裂は主としてレベルAに分類されたが,加齢に伴ってレベルB,次いでレベルCの亀裂の割合が増加した.一方,冷刺激による誘発痛は,20代〜60代の被験者では亀裂歯の13.0〜16.7%に認められたが,その検出率に年齢による明瞭な相違はみられなかった.以上より,エナメル質亀裂が年齢とともに進展を示すことが明確に確認されるとともに,その発生ないし進行要因として修復処置が関連する可能性が示唆された.また,エナメル質亀裂が象牙質知覚過敏症様の症状発現に関連する可能性も推察されたが,この種の症状と亀裂の程度との明瞭な関連はみられなかった.