- 著者
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竹熊 尚夫
- 出版者
- 九州大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2003
本研究では、多民族社会における民族教育と多民族共生教育をそれぞれの国・地域と民族学校の事例を通して検討し、民族学校の役割、換言すれば多民族社会の中で持つ機能を明らかにするものである。調査研究を通して次のようなことが明らかとなった。1.民族教育システムがあるレベルまで完結しているマレーシアの中華系独立学校体系では、地域の他の民族系住民との相互関係や政府による教育・支援との補完関係はそれほど強いものではないが、中国語教育という言語教育において、初等段階ではマレーやインド系の生徒を既に受け入れ始め、中等段階では国際的ネットワークの中で華僑移民系の学生をリクルートしている。中華系の民族教育は政府のシラバスの枠中で実施されているが、付加的なアプローチであり、それほど大きなコンフリクトは生じていない。2.認可を受け政府補助も受けているフェイス・スクールの一つである、バーミンガムのムスリム初等・中等学校は、主として地域内の生徒を受け入れている。設置主体の母国との関わりを持ちながら、イスラムネットワークを基盤とした教科書導入が見られる。カリキュラムの中では付加的というより、併存もしくはイスラム的解釈への読替が見られた。3.土曜・日曜の補習校として長年維持されてきたロンドンの中華系補習校は、中華商会の建物の中で、郊外からの子どもを受け入れ、中国語の授業を中心に行っている。中華系コミュニティと地域行政との接点を構成し、公立校の中華系子弟に対する補完的な民族教育を実施している。4.公立学校の敷地を活用しているオーストラリアの中華系補習校は、民族学校として政府補助を受けている。中華系は分散居住であるが、地域の他の民族住民との関わりや中国の大学からの援助も受けている。様々な地域から移住してきた中華系としての集合的記憶の場であり、多民族社会の緩衝装置として機能する可能性が明らかとなった。