著者
荒川 慎太郎
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.164, pp.39-66, 2023 (Released:2023-08-19)
参考文献数
26

本稿では,西夏文字の「点」はどの位置に,何のために付加されるのかを考察した。本稿の議論に関係する,西夏文字の構造,筆画について術語とともに述べたのち,考察対象となる筆画「点」を定義づけた。筆者は,西夏文字全字形を網羅的に掲載する発音字典『同音』により,点を持つ西夏文字の原文を調査した。結果,西夏文字の「点」について,字形全体ではなく,要素部品の右に付され,文字要素を構成するものと分かった。また点の出現環境を精査すると,点が付される要素部品は,「A類:くノ型を持つ」と「B類:匕型を持つ」に二分されることが分かった。A, B類ともに類似する要素部品(ノメ,ヒ)がある。点の機能は,西夏文字創製時には,類似する部分(ノメとくノ,ヒと匕)の差異を際立たせる「強調符号」だったが,後に点の有無のみが弁別要素と誤認されることになったと筆者は推測する。
著者
佐藤 貴保 荒川 慎太郎 冨田 裕子
出版者
盛岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、13世紀初頭、モンゴル帝国軍が繰り返し侵攻していたころの西夏王国の防衛体制や、仏教信仰事業とモンゴル軍侵攻との関係を明らかにするため、西夏とモンゴルとの国境付近の遺跡から見つかった西夏の行政文書や仏典の奥書を調査、解読した。その結果、1210年時点で西夏は都を守る兵力が不足していたこと、政府が国境付近の兵力を正確に把握していなかったこと等が明らかになった。仏教信仰政策については、13世紀初頭に書かれた仏典群の奥書を見る限り、モンゴル軍侵攻を意識したものは発見できず、特別な仏教事業は行われなかった可能性が明らかになった。
著者
荒川 慎太郎 佐藤 貴保 小野 裕子
出版者
東京外国語大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

荒川(主に仏典担当)・佐藤(主に官文書担当)・小野(主に法律文書担当)は、ロシア科学アカデミー東洋文献研究所所蔵、西夏文字草書体各種資料に関する実見調査と研究を行った。また荒川は敦煌石窟に書かれた草書体西夏文題記なども調査した。各メンバーは各種草書体文献の歴史学的・言語学的研究を発表した。西夏文字草書体字典の雛型を含むいくつかの論文を、研究成果報告書「ロシア所蔵資料の実見調査に基づく西夏文字草書体の体系的研究」にまとめ、これを2016年3月に刊行した。将来的には本研究の成果を活かし、西夏研究に資する字典・資料集の公刊に努めたい。
著者
荒川 慎太郎
出版者
京都大学言語学研究会
雑誌
言語学研究 (ISSN:09156178)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-151, 1997-12-24
著者
荒川 正晴 町田 隆吉 松井 太 舩田 善之 荒川 慎太郎 佐藤 貴保 坂尻 彰宏 赤木 崇敏 高橋 照彦 武内 紹人
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

各班における資料調査の成果にもとづき、シルクロード東部地域の民族や文化の交流および政治・社会・経済などの具体的な姿を、各分担者の研究領域から明確にするとともに、「出土史料学」の基盤作りを行った。すなわち当該地域より出土した各文字資料の分類とそれぞれの性格と機能を検討し、このうち公文書については、各文書群の間で相互比較することを通じて、唐~宋~元にいたる公文書の長期間にわたる通時的な展開と、周辺国家・地域への公文書の空間的な波及と受容のあり様を明らかにした。研究成果は、既に国際ワークショップを開催して公表し、今はその成果をまとめた本を準備中である。
著者
荒川 慎太郎
出版者
京都大学言語学研究会
雑誌
言語学研究 (ISSN:09156178)
巻号頁・発行日
vol.17-18, pp.27-44, 1999-12-24
著者
荒川 慎太郎
出版者
東京外国語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度も昨年度に引き続き、ロシア所蔵西夏語文献の調査、マイクロフィッシュで得たデータの分析と入力作業を行い、研究成果の一部を国際学会で発表した。チベット語文献から訳された西夏語仏典が、本研究のテキストデータの基礎となる。ロシア科学アカデミー東方学研究所サンクト・ペテルブルグ支所において西夏語資料の閲覧・調査を行った。本研究の中心対象は、西夏語訳『聖勝慧彼岸到集頒』上・中・下巻である。本年度はチベット語から翻訳された西夏文の言語学的特徴に関して取り纏めを行い、特に「チベット語風」西夏文の文法的特徴を明らかにした。2006年11月、ロシア、サンクト・ペテルブルグ大学で開催された国際西夏学会("Tangut civilization : scientific traditions and perspective of research")において、"On the "Tibetan-style" Tangut sentences in some Buddhist materials"と題して研究成果の一部を発表した。これは本研究の集成となる、西夏語訳『聖勝慧彼岸到集頒』のテキスト・訳注・研究のプレ・ワークの一つである。本研究の課題の一つは、チベット語がどのように西夏語に翻訳されるかを考察することにあり、その目的のための、西夏語-チベット語逐語訳・対照資料の作成作業は公開に向けてデータを整理中である。本年度は、この他、一般向けの雑誌などに西夏語学、西夏史、考古などの視点から寄稿した。
著者
庄垣内 正弘 熊本 裕 吉田 豊 藤代 節 荒川 慎太郎 白井 聡子 間野 英二 梅村 坦 樋口 康一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、ロシア科学アカデミー東方学研究所サンクトペテルブルグ支所に保管されている中央アジア古文献の調査と整理、未解明文献の解明であった。この目的を遂行するために研究代表者あるいは分担者は度々ロシアに出向いて調査し、また、ロシアから専門家を招いて共同研究をおこなった。また中01央アジア古文献研究に携わるロシア以外の国へも出向き、当該国の研究者を招聘して研究の推進に役立てることもした。研究代表者庄垣内はロシア所蔵の未解明ウイグル語断片について研究し、『ロシア所蔵ウイグル語文献の研究』(2003,374p.+LXXVII)を出版した。ロシア科学アカデミー東方学研究所E.クチャーノフ教授は荒川慎太郎の協力を得て、『西夏語辞典(夏露英中語対照)』(2006,800p.)を出版した。語彙を扱った世界初の西夏語辞典である。一方、同研究所上級研究員A.サズィキンは、樋口康一の協力も得て、『モンゴル文「聖妙吉祥真実名経」』(2006,280p.)、『モンゴル語仏典カタログ』(2004,172p.)を出版した。吉田豊と熊本裕はそれぞれソグド文献、コータン語文献研究に従事した。また梅村坦等はロシア所蔵文献カタログ作成に取り組んだ。間野英二はチャガタイ語文献『バーブルナーマ』ロシア所蔵写本を、藤代は同じくシベリア言語資料を、白井聡子はハラホト出土のチベット語仏教仏典をそれぞれ研究し、解説とテキストを出版した。研究成果の詳細についてはメンバーによる論文集CSEL vol.10、及び報告書冊子を参照されたい。古文献の研究には膨大な時間と労力を必要とする。本研究も予定の計画を完遂できたとはいえないが、とりわけロシア人研究者の協力をえて、一般に公開できる程度の質を保持したかなりの量の成果をあげたものと満足している。
著者
荒川 慎太郎
出版者
東京外国語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

西夏語は、11-13世紀に中国西北部の要衝を占めた西夏国で話された言語である。西夏文字・西夏語は話者・使用者が絶えたものの、仏典をはじめとした豊富な言語資料が残る。ロシア科学アカデミー東洋写本研究所は、質量共に一級の西夏語資料を有しており、一部の文献のマイクロは、日本の東洋文庫に保管されている。本研究では、ロシア所蔵の西夏文文献の整理とデータベース化を進展させると共に、ロシア所蔵資料を用いた言語学的研究を行った。