- 著者
-
野口 俊之
郷 通子
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1994
タンパク球状ドメインは、10-40残基ほどの長さのフラグメントがつくるコンパクトなサブ構造=モジュールの組み合わせにより構成されている。モジュールの境界と遺伝子上のイントロン位置の対応から、モジュールが固有な構造を持つビルディングブロックとして組合わさることによりタンパク質は進化してきたと考えられている。モジュールがビルディング・ブロックとして固有な構造を持ち得るためには、モジュール内の相互作用がバランスしていること、すなわち、その構造は力学的に安定であることが必要である。本研究では次の問題:1)モジュールの構造の力学的な安定性は多くのタンパク質でも成り立つのか? 2)モジュールの構造の力学的安定性の要因は何か? を明らかにするために、つぎの2段階の計算機実験を行った。1)4つの折りたたみの型:α型、β型、α/β型、α+β型のタンパク質の代表として、ミオヘムエリスリン、免疫グロブリン、フラボドキシン、リゾチームおよびバルナーゼのモジュールの力学的安定性の分子動力学計算。2)原子間相互作用である静電相互作用、水素結合を仮想的に除いた計算機シミュレーションにより、モジュールの力学安定性への各相互作用の寄与を調べた。その結果、上記のタンパク質のモジュールの7割は1ナノ秒の間ネイティブ構造に近い構造を保持した。このことから、モジュールの力学的な安定性は一般的に成立すると考えてよいことが判った。次に、力学的に安定なモジュールの酸性、塩基性アミノ酸の電荷を中和し、さらに、水素結合も除いた、仮想定な状態においても、それらのモジュールの約7割は、安定であった。このことは、一つ一つは弱いファンデルワールス相互作用によって、モジュールの力学的安定性の大半が担われていることを示している。モジュールはコンパクトな構造単位として定義されたが、コンパクトであることは、それが、タンパク質進化の単位としてのビルディングブロックであるための物理化学的要請であったことを、この結果は示している。