著者
岡田 崇 望月 敦史
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.15-20, 2018-01-05 (Released:2018-09-05)
参考文献数
12

細胞内では,生命活動を維持するために,代謝系と呼ばれる膨大な数の生化学反応が起こっている.これらの反応は,互いに生成物や反応物を共有することで,(代謝分子をノード,反応をエッジとする)複雑なネットワーク構造を形成している.代謝系のネットワーク構造の情報はデータベース化されており,その巨大なネットワークの全容が明らかになりつつある.代謝系を調べるための実験のひとつが,酵素の「撹乱実験」である.代謝反応はそれぞれ特定の酵素によって触媒されているが,人為的に酵素量・活性を変化させて,代謝分子たちの濃度がどう応答するかを調べる.撹乱実験は,近年,大規模なネットワークに対して盛んに為されているものの,その計測結果は直観的には理解しがたいことがある.そこで,理論側には,撹乱実験を説明・予測することが求められている.代謝系に限らずシグナル伝達系など,細胞内の複雑な化学反応の理論研究を進めるには,少なくともふたつの困難がある.ひとつ目は,ネットワーク情報自体が不完全である点である.ふたつ目は,近年の生命科学の著しい発展にも関わらず,各反応の速度関数の関数形やパラメータなどの定量的な情報は依然として乏しい点である.上記の困難を克服するために,最近われわれは,Structural Sensitivity Analysis(SSA,ネットワーク構造感度解析)という理論的手法を開発した.SSAは,反応系のネットワーク情報のみから,撹乱実験に対する代謝分子の定性的応答(増減)を決定する手法である.SSAに基づくと,撹乱応答には次のふたつの特徴が存在することがわかる:1)酵素の撹乱に対して,ノンゼロの応答を示す代謝分子はネットワークの一部に限られる.2)これらの応答たちはヒエラルキーを作る.実はこれらの特徴の背後には,SSAから証明される,「限局則(the law of localization)」という数学的な定理が存在する.限局則は,各酵素がネットワークのどの範囲を制御するのかを,ネットワーク構造の言葉で規定する定理である.より具体的には,ある部分ネットワークΓが「分子の数-反応の数+サイクルの数=0」というトポロジカルな条件を満たすとき,Γを触媒する酵素は,Γの内部の分子にしか影響を及ぼさない,という定理である.このような特殊な条件を満たす部分ネットワークを「緩衝構造」と呼ぶ.限局則は,生命システムの頑健性がネットワークのトポロジーから生じている可能性を示唆する.というのは,緩衝構造は,その内部の酵素の発現量の揺らぎの影響が外部へ伝播するのを防ぐ働きをするからである.実際,大腸菌の中心代謝系のネットワークには多数の緩衝構造が存在しており,これらは系に頑健性を与えていると考えられる.SSAおよび限局則は,大きなネットワークの振る舞いを理解したり,データベースのネットワーク情報を検証する際に非常に有用である.これらの理論的手法の実験的な検証・応用はまだ始まったばかりであるが,生命システムをネットワーク構造から理解する基本法則のひとつになると期待する.
著者
今村(滝川) 寿子 望月 敦史
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.221-227, 2008 (Released:2008-07-25)
参考文献数
29

A cyanobacterial clock protein KaiC shows circadian cycling of the phosphorylation level in vitro. We first developed an observation-based model. The KaiC-KaiA complex formation consequently reduces free KaiA molecules, thereby may exert a negative feedback effect toward KaiC phosphorylation. However, this model was shown not to be adequate to generate the KaiC phosphorylation cycle. Then, we analyzed generalized models and determined necessary conditions to generate the cycle. Based on the result, we realized the observed pattern of the KaiC phosphorylation cycle and predicted an unknown state that lies between KaiC phosphorylation and the formation of the KaiC/KaiA complex.
著者
中島 敬二 上田 貴志 植田 美那子 望月 敦史 近藤 洋平 稲見 昌彦 遠藤 求 深城 英弘 河内 孝之 小田 祥久 塚谷 裕一
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-06-28

植物は一生を通じて器官や組織を作り続けながら成長する。このような特性に起因して、植物の形態には固有の周期性が現れる。植物の周期形態は遺伝的プログラムや環境変化といった、内的・外的因子により変化し、植物はこれを積極的に利用することで、器官のかたちや細胞の機能を変化させる。植物の形態や成長に現われるこのような「可塑的な周期性」は、植物個体の内部に潜在する未知の周期性とその変調に起因すると考えられるが、周期の実体やそれが形態へ現れる仕組みは不明である。本新学術領域では、植物科学者・情報科学者・理論生物学者が密接に連携して共同研究を展開し、周期と変調の視点から植物の発生原理を解明する。
著者
長谷部 光泰 倉谷 滋 嶋田 透 藤原 晴彦 川口 正代司 深津 武馬 西山 智明 岡田 典弘 阿形 清和 河田 雅圭 郷 通子 豊田 敦 藤山 秋佐夫 望月 敦史 矢原 徹一
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本領域の目的である、多様な研究から「複合適応形質進化の共通メカニズム」を推定するという総合的研究を展開する、進化生物学とゲノム生物学を融合させる、を実現するため総括班を有機的に組織し、下記の活動を行い、効率的に連携できた。(1)領域会議を年2回、インフォマティクス情報交換会を5年で18回、ニュースレターを5年で63号発行し、領域内での情報共有、共通意識形成を行った。(2)ゲノム支援活動として実験方法のアドバイス、ゲノム配列決定支援、外部委託についてのアドバイス、各班のインフォマティクス担当者などに指導を行った。(3)形質転換実験技術支援を行った。(4)国内、国際シンポジウムをほぼ毎年開催した。