著者
森山 英樹 増子 潤 金村 尚彦 木藤 伸宏 小澤 淳也 今北 英高 高栁 清美 伊藤 俊一 磯崎 弘司 出家 正隆
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.1-9, 2011-02-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
63
被引用文献数
5

【目的】本研究の目的は,理学療法分野での運動器疾患ならびに症状を対象としたストレッチング単独の有用性や効果を検証することである。【方法】関連する論文を文献データベースにて検索した。収集した論文の質的評価を行い,メタアナリシスあるいは効果量か95%信頼区間により検討した。【結果】研究選択の適格基準に合致した臨床試験25編が抽出された。足関節背屈制限,肩関節周囲炎,腰痛,変形性膝関節症,ハムストリングス損傷,足底筋膜炎,頸部痛,線維筋痛症に対するストレッチングの有効性が示され,膝関節屈曲拘縮と脳卒中後の上肢障害の改善効果は見出せなかった。【結論】現時点での運動器障害に対するストレッチングの適応のエビデンスを提供した。一方,本結果では理学療法分野でストレッチングの対象となる機能障害が十分に網羅されていない。ストレッチングは普遍的治療であるからこそ,その有用性や効果を今後実証する必要がある。
著者
小平 寛岳 国分 貴徳 瀧谷 春奈 藤嶋 弾 平田 恵介 名字 名前 塙 大樹 小林 章 金村 尚彦
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.22-26, 2018 (Released:2018-04-03)
参考文献数
31

【目的】歩行速度の違いによる立脚初期の股関節伸展筋群活動の変化に着目し,歩行速度が股関節キネマティクスに及ぼす影響について検討した。【方法】整形外科疾患のない成人男性 7 名を対象とし三次元動作解析装置,床反力計付きトレッドミル,表面筋電図を用いて0.9 m/s 歩行と1.8 m/s 歩行を計測した。計測から得られた立脚初期(10% 歩行周期)の筋活動量(大殿筋,大腿二頭筋,半腱様筋),外的股関節屈曲モーメント,股関節屈曲角度,重複歩長を条件間で比較・検討した。【結果】 0.9 m/s 歩行と比較し 1.8 m/s 歩行で外的股関節屈曲モーメント,重複歩長,股関節屈曲角度,半腱様筋活動に有意な増加がみられた。一方で,大殿筋と大腿二頭筋には有意な変化はみられなかった。【結論】歩行速度の増加に対し,立脚初期では股関節屈曲角度,重複歩長の増加による対応が行われ,この対応には半腱様筋の筋活動量増加の関与が示唆された。
著者
国分 貴徳 金村 尚彦 西川 裕一 井原 秀俊 高柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0476, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに】 我々はこれまで,ラットにおいて膝前十字靭帯(以下ACL)完全損傷後に,関節の異常運動を制動することでACL完全損傷でも治癒しうることを報告した.これによりACL損傷後の靱帯治癒能には,損傷後における膝関節キネマティクスが関与していることを明らかにした.一方で,臨床における靱帯損傷からの回復には,靱帯自体の治癒という視点以上に,関節機能が正常化するかどうかという視点が重要でとなる.すなわち,組織学上は断裂した靱帯において連続性が確認されれば「治癒」ということができるが,臨床上ではその治癒した靱帯が,損傷以前に担っていた関節運動上の機能的役割を果たして初めて「治癒した」ということができる.本研究の目的は,我々がこれまで報告してきたACL完全損傷の保存治癒モデルを対象として,治癒したACLの機能的側面を力学的破断試験と免疫組織化学染色法を用いて明らかにすることである.【方法】 Wistar系の雄性ラット(16週齢)39匹をControl(12),Sham(12),実験(15)の3群に分類した.実験群に対して,麻酔下にて右膝関節のACLを外科的に切断し,徒手的に脛骨の前方引き出しを行いACLが完全断裂していることを確認した.続いて膝関節の異常運動を制動するため,脛骨粗面下部に骨トンネルを作製し,同部と大腿骨遠位部顆部後面にナイロン製の糸を通して固定することで大腿骨に対する脛骨の前方引き出しを制動した.術後はゲージ内にて自由飼育とし,水と餌に関しても自由摂取とした.術後8週経過時点で屠殺して膝関節を摘出した. 力学試験群は,採取組織をラットの膝関節構造に合わせて特別に作製したJigを使用して試験機(INSTRON社製)にセットした.Jigが膝関節裂隙の大腿骨・脛骨それぞれに引っかかるように試料を設定後,予備荷重として1.5Nを加えた状態を変位原点として荷重速度5mm/minで上下方向に引っ張り測定した.最大荷重(N),最大荷重時変位量(mm)を測定し,これらの結果から,stiffness(N/mm)を算出した.統計解析はSPSS16.0J for Windowsを用い,測定結果の比較にKruskal Wallis検定を適用し,有意な主効果を認めた場合にShafferの方法を適用して多重比較を行い,2群間の比較を行った.全ての分析において,0.05未満を有意水準とした. 免疫組織化学染色群(各群6匹)はcollagen typeI,II,IIIの一次抗体を用いてovernightで反応させ,その後はABC kit(Vector社,United States)を使用し行い,Dako Envision + kit /HRP(DAB)にて1分間発色し検鏡・撮像を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は,埼玉県立大学動物実験実施倫理委員会の承認を得て行った.【結果】 実験群では15匹全てでACLの連続性が確認された.力学試験の結果は,破断時最大荷重とstiffnessで,実験群が他の2群に比べて有意に低い値となった(p>0.05).最大荷重時変位には群間内に有意差を認めなかった.免疫組織化学染色の結果は,collagen typeIIIは,実験群において他の2群と比較してACL実質部において明確な陽性所見が確認された.【考察】 力学試験結果で実験群の強度が有意に低かったことから,本実験モデルの治癒ACLは関節運動における機能的側面を満たしているとは言えず,現時点では不十分な回復であると言わざるを得ない.また,免疫組織化学染色の結果では,collagen typeIIIは,実験群において他の2群と比較して,ACL実質部で明確な陽性所見が確認された.内側側副靱帯を対象とした先行研究ではcollagen typeIIIは,正常靱帯における含有量は少ないが,治癒靱帯では一時的に増加することが報告され,その後徐々にtypeI線維へ置き換わっていくことで靱帯の力学的強度が回復するとされている.このことから,本研究モデルは,治癒経過の一期間である可能性があり,今後collagen typeI・III含有量の比率が推移していくことで力学的強度も更なる回復が得られる可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 近年の健康志向の高まりにつれ,ACL損傷患者の年齢層も広がってきている.中年以降のACL損傷患者においては,様々な理由から保存療法は重要な治療の選択肢となりうる.しかし現状で行われている保存療法の治療満足度は非常に低く(Strehl.2007),変形性膝関節症のリスクを高める(Spindler .2007)とも言われる.より機能的で効果的な保存療法の確立は,理学療法領域における 重要な課題であり,本研究はこれに寄与するものである.
著者
森山 英樹 増子 潤 金村 尚彦 木藤 伸宏 小澤 淳也 今北 英高 高柳 清美 伊藤 俊一 磯崎 弘司 出家 正隆
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.1-9, 2011-02-20
被引用文献数
1

【目的】本研究の目的は,理学療法分野での運動器疾患ならびに症状を対象としたストレッチング単独の有用性や効果を検証することである。【方法】関連する論文を文献データベースにて検索した。収集した論文の質的評価を行い,メタアナリシスあるいは効果量か95%信頼区間により検討した。【結果】研究選択の適格基準に合致した臨床試験25編が抽出された。足関節背屈制限,肩関節周囲炎,腰痛,変形性膝関節症,ハムストリングス損傷,足底筋膜炎,頸部痛,線維筋痛症に対するストレッチングの有効性が示され,膝関節屈曲拘縮と脳卒中後の上肢障害の改善効果は見出せなかった。【結論】現時点での運動器障害に対するストレッチングの適応のエビデンスを提供した。一方,本結果では理学療法分野でストレッチングの対象となる機能障害が十分に網羅されていない。ストレッチングは普遍的治療であるからこそ,その有用性や効果を今後実証する必要がある。
著者
国分 貴徳 金村 尚彦
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.9-15, 2015 (Released:2015-01-09)
参考文献数
10

情報が溢れ,各個人が思うままに私見を発信することが容易となっている現代においては,発信された情報を精査し知識として取り入れていく能力が求められている。理学療法領域に目を向けても,講習会や書籍,文献等を通じて種々様々な情報が発信されており,理学療法士各個人にはその情報の中から,科学的で再現性の高い情報を取捨選択し,臨床に応用していく能力が求められている。その上で,Peer Reviewを経て学会誌および科学誌等に掲載された論文については,一定以上の科学性および再現性が担保されており,その応用価値は非常に高い。一方でそういった情報を応用する際には,科学的視点,すなわちある程度までの研究に関する知識が必要となるが,この点が現状の理学療法領域における課題となっていると感じている。理学療法の臨床はApplied Scienceであるという観点に立脚し,種々多様な情報を精査し応用していく必要がある。それが可能となる程度までの科学的視点を理学療法士各個人が持つことで,理学療法実践における科学性が担保されるとともに,臨床能力の向上につながると考えている。
著者
村田 健児 金村 尚彦 羽田 侑里子 飯島 弘貴 高栁 清美 森山 英樹
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.61-66, 2011 (Released:2011-03-30)
参考文献数
15

加齢により関節軟骨は退行性変化を呈し,主要構成要素であるプロテオグリカン含量やⅡ型コラーゲンの減少が認められる。この関節軟骨の退行性変化は運動がもたらす関節への機械的刺激によって抑制および修復させることが報告されている。本研究では老齢ラットモデルの距腿関節軟骨を組織学的に分析し,走行運動およびバランス運動が距腿関節軟骨にあたえる影響を検討した。結果,老齢ラット群の関節軟骨は若齢ラット群と比較してⅡ型コラーゲン及び関節軟骨厚が減少し,関節軟骨表層部に亀裂が認められた。一方で,老齢ラット通常飼育群に比較してバランス運動群の軟骨厚が増加していた。このことから加齢によって距腿関節軟骨退行性変化を呈するが,関節運動を伴う機械的刺激によって関節軟骨変性を抑制,改善に作用する可能性があることが示唆された。
著者
金村 尚彦
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.72-77, 2019 (Released:2019-05-24)
参考文献数
6

理学療法研究は,2014年12月に告示された人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に基づき研究を行うが,時代とともに変化する社会情勢に対応するため,この倫理指針も個人情報保護法の改定に伴い,2017年2月に一部改正されている。侵襲と介入や,個人認識符号や要配慮個人情報等の用語の定義,インフォームド・コンセント等の手続きの見直し,利益相反などを考慮し,倫理審査のプロセスを確認し,研究計画を立案することが重要である。
著者
小林 章 国分 貴徳 村木 貴洋 金村 尚彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0560, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】ピアニストは長時間の反復練習により,腕や手に特殊な障害を抱えやすい。近年overuseに加え,身体のmisuseも障害発生の要因と指摘されている。しかし,overuseが前提となっているため,運動療法が処方されることは少ない。強い打鍵や遠位の鍵盤を打鍵するために体幹も大いに用いる。これまで体幹運動は着目されてきたが,手指と全身を同時に計測する難しさから,ピアノ演奏を全身運動として解析されてこなかった。本研究の目的は,ピアノ演奏を全身運動と捉え,強い打鍵時の体幹および上肢の演奏メカニズムを調査し,新たな理学療法領域拡大の基礎データを示すことである。【方法】[対象者]ピアノ未経験者5名[仕様機器]3次元動作解析VICON,YAMAHA Clavinova(CVP-30),DTM制作ソフトGarageband(Apple社)[課題]全て同じ音量(mf)で打鍵した(課題1)。次に3回に1回,fまたはffの強さで打鍵した(課題2,3)。テンポは全て120bpmとした。計測前に十分な練習時間を設けた。[解析方法]体幹傾斜角,上肢関節角度,手指関節角度を計測した。解析区間は中指MCPマーカーが最も高くなった時点から鍵盤マーカーが最も沈み込んだ点。各角度が指先への変位量への寄与度を表すdegree of contribution(以下,DOC)と打鍵の運動力学的効率性を表すkeystroke efficiency(以下,η)を算出した。[統計処理]各関節のDOC,ηに対しFriedman検定を実施し,多重比較にはWilcoxonの符合順位検定を実施した。【結果】[DOC]体幹のDOCにはいずれの課題においても有意な差は認められなかった。同音量での打鍵動作の繰り返し(課題1)と比較して,強い打鍵が求められると(課題2・3),肩および肘関節のDOCは有意に低下したが(p<.01),その前後の打鍵では有意に増加した(p<.01)。一方で,手関節より遠位関節のDOCは有意に増加したが(p<.01),その前後の打鍵では有意に低下した(p<.01)。[η]課題1と比較して,課題2・3のηは有意に増加したが(p<.01),その前後の打鍵では有意に低下した(p<.01)。【結論】ピアノ未経験者は上肢を主体とした打鍵であり,体幹運動の寄与は少なかった。しかし,ピアノ未経験者は肩・肘関節による手の上下運動を手・手指関節伸展運動によって代償する戦略と手指と鍵盤接触角度を大きくつけた打鍵戦略の2つを使い分けて打鍵することが明らかになった。また,強い打鍵の前後では前者の戦略がより顕著になり,打鍵効率性が低下した。このことからピアノ未経験者は2つの打鍵戦略間の移行がスムーズでなかったことが示唆された。特に打鍵中のDIP関節の過剰な伸展はbreaking-in of the nail joinと呼ばれる。これは音量やテンポの制御に有害であるとされ,手指への機械的ストレスが増大した可能性がある。今後,ピアニストの演奏を全身動作として捉えた研究により演奏メカニズムが解明されていけば,音楽家の治療に応用でき,新たな理学療法分野を広げる可能性がある。
著者
渡邉 誠 金村 尚彦 今北 英高 森山 英樹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.675-678, 2005-07-10

はじめに 末梢神経障害に対するリハビリテーションは,末梢神経損傷後の再生時にmisdirectionの問題が存在するために,知覚再教育としての知覚のリハビリテーションが必要となる. 末梢神経損傷後の知覚再教育は30 cpsと256 cps音叉の振動刺激および動的触覚のある部分が手掌まで回復してきた段階で開始するのが一般的である.Dellon1)は,末梢神経損傷後の知覚回復に関して,痛覚,動的触覚,静的触覚,振動覚の順に回復が認められたと報告している.この初期の回復段階,30 cpsや動的触覚は,皮膚機械受容器の一つであるマイスナー小体によるものとされる.マイスナー小体が初期に回復する理由として,複数の神経線維により神経支配されるため,神経再支配が起こりやすいと考えられている.機械受容器に関しては,立川ら2)は,日本ザルの前肢を用いた両側固有指神経切除後のマイスナー小体の形態的変化について,Navarroら3)は,坐骨神経の挫滅または切断後1~7週でのマウスfoot padへの感覚と神経再生の時間的順序を報告している.知覚障害に対するリハビリテーションの観点から,末梢神経と機械受容器の変性および再生過程の解明が進みつつある. 本研究の目的は,機械受容器の一つであるマイスナー小体に焦点を当て,ラット前肢の神経切断直後からのマイスナー小体の変性過程を形態および組織学的に検討することにある.とくに,このマイスナー小体の層板細胞より産生される非特異的コリンエステラーゼの分布域を調べることで,神経切断によるマイスナー小体の酵素活性領域の経時的変化を検討した.
著者
吉村 理 前島 洋 小林 隆司 峯松 亮 佐々木 久登 田中 幸子 金村 尚彦 白濱 勲二 上田 健人 上田 千絵 渡辺 誠 矢田 かおり 宮本 英高 森山 英樹 加藤 浩 河元 岩男
出版者
広島大学大学院保健学研究科
雑誌
広島大学保健学ジャーナル (ISSN:13477323)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.73-77, 2001

頚髄損傷の評価では,頚髄の損傷の程度と損傷高位が重要である.米国脊髄損傷協会は,脊髄損傷の障害の評価法を発表し,脊髄損傷の神経学的および機能的分類のための国際基準として現在国際的に使用されている.しかし可能性に挑戦するリハビリテーションとしては,より詳細な高位分類が必要である.Zancolli分類は頚髄損傷四肢麻痺の上肢機能を細かく分類し,リハビリテーションからみても車椅子ADLが自立する可能性のあるC6を細かく分けているのは有用である.しかしマット上基本動作,移乗・移動などの動作が自立するか否かの判断に重要な肩甲帯筋群の評価がない.従来肘伸展筋である上腕三頭筋はC7髄節筋であるが,Zancolli分類ではC6髄節残存群のサブグループとしているのは混乱をまねく.そこでZancolli分類を改良し,損傷高位別の機能到達目標を決定するための評価表を作成し,ADLが自立する可能性について検討した.改良Zancolli分類でみるとC6BⅡが車椅子ADL自立の境界レベルである.
著者
高柳 清美 金村 尚彦 国分 貴徳 西川 裕一 井原 秀俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ca0252, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 ヒトを対象とした臨床研究および動物実験の結果より,膝前十字靭帯(以下ACL)は自己治癒能が低いとされてきた.ACLの治癒能力が低い根拠として,炎症細胞とその関連物質量(Akesonら1990),血行(Brayら19901991),一酸化窒素量(Caoら2000),コラーゲン線維の含有率(Amielら1990Brayら1991),αプロコラーゲンのRNA量(Wiigら1991),生体力学的負荷の相違(Viidikら1990Wooら1990),治療過程でのファイブロネクチン量(Almarzaら2006),マトリクスプロテアーゼの発現量(Zhangら2010),α平滑筋アクチン・トランスフォーミング成長因子の発現量(Menetreyら2010),幹細胞の治癒能力(Zhangら2011)などの報告がある.ラット,ウサギ,イヌのACLを切断し自由飼育すると,ACLの自然治癒は起こらず,切断後数日(5~7日)で靭帯の退縮と変形性膝関節症が発生する. しかし,完全断裂であっても関節運動を制動する特殊装具と早期からの運動療法によって,破断したACLは治癒する(井原ら1991,2006).我々はこれまでに,ACL損傷後に生じる膝関節の異常運動を制動する動物モデルを作製し,関節の制動と自然飼育により,完全切断したACLが自然治癒することを明らかにした. 本研究の目的は関節包外関節制動モデルを用いて,治癒したACLを組織学的に観察し,経時的に治癒靱帯の強度を検討することである.【方法】 Wistar系雄性ラット24匹の両後肢の膝関節を使用した.ラットの右膝関節に対してACL切断術を行い,8週間飼育後に12匹(8週群),40週間飼育後に12匹(40週群)屠殺した.手術側(右膝関節)を実験肢とし,非手術側(左膝関節)を対照肢とした.外科的手順は,ACLを切断後,人工靱帯を膝関節外側より大腿骨遠位部後方の,大腿骨頚部後面の弯曲に沿った中枢側の軟部組織に貫通させ,脛骨近位前方に作製した骨トンネルに通し,大腿骨遠位部後方に通して結んで固定した. ACL切断8週,40週経過後のラット3匹ずつを検体に供し,組織標本を作成し,HE染色で染色して組織学的観察を行った.力学的強度はラット9匹ずつの両下肢を採取,ACL以外の筋軟部組織を切除し,INSTRON社製の材料試験システム5567A型(ツインコラム卓上モデル)で,試験速度5mm/min,試験機容量100N,初期張力1.5Nで計測した.力学強度の統計処理には繰り返しのある二元配置分散分析,多重比較としてScheffe法を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は埼玉県立大学動物実験委員会の承認に基づいて行った.【結果】 (1) 肉眼的観察 力学的評価を行った8週群,40週群全例でACLの連続性を確認した.治癒靱帯の走行は正常に近似していたが,付着部にバラツキがあり,正常のACLに比べ太い線維束であった.関節表面の観察では軟骨面の粗雑化や嚢胞瘢痕組織骨棘などの膝OA的所見は確認されなかった.(2) 組織学的観察 8週群,40週群ともにコラーゲンによる連続性が認められた.治癒ACLは正常ACLに比べ,靱帯が太く関節顆間窩に瘢痕組織が増殖していた.(3) 治癒靱帯の強度 8週群と40週群の治癒した靱帯の強度はそれぞれ,10.2±4.2N,11.2±4.2N(平均±標準偏差)で,対照肢はそれぞれ,22.8±2.9N,24.2±4.0Nであった.切断肢と対照肢間に靱帯強度の差異が認められ(p<0.01),切断肢は対照肢に比べ,約40%から50%の強度で治癒していた.8週群と40週群の治癒靱帯強度に違いは認められなかった.【考察】 実験肢において全例にACLの連続性が認められ,正常靱帯と同等かより太い靱帯を認めた.関節の制動と運動を行わせる動物実験モデルによって,明らかに靱帯治癒が促進されることが証明された. 術後8週および40週後に膝OAの所見が確認されなかったことは,断裂後の継続した異常運動(過度なストレス)に対する関節制動がなされ,正常に近似した運動が維持された結果と考えられる. 8週後と40週後の治癒靱帯の強度に差異が認められなかったことより,靱帯強度に関わる修復は8週前後にほぼ終了していることが示唆された.靱帯強度が半減した要因を解明するには,(1)早期の靱帯治癒過程(炎症期増殖期,リモデリング期)における運動制限と積極的運動の力学的影響と,(2)炎症細胞,幹細胞,線維芽細胞などの靱帯修復に関わる細胞および炎症因子,増殖因子などのサイトカインや細胞外マトリクス,コラーゲンなどのタンパク質を分解する酵素の発現の生化学的解明,が今後の課題となった.【理学療法学研究としての意義】 関節制動と運動療法により,損傷ACLが充分な力学的強度と粘弾性を有するまで治癒すると,レクレーションレベルのスポーツ愛好家,骨成長が認められる青少年,高齢者あるいは外科的治療を望まないスポーツ選手に対する主たる治療法となることが期待でき,社会的・経済的・身体保護的に多大に益すると考えられる.
著者
金村 尚彦 今北 英高 白濱 勲二 森山 英樹 坂 ゆかり 新小田 幸一 木藤 伸宏 吉村 理
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.A0521, 2005

【目的】 <BR>我々が行った先行研究では,荷重除去を行った後に,長期に重力下でラットを自由飼育しても,一度変性した機械受容器は正常な受容器までに回復しないのではないかという結果を得た.本研究では,受容器の変性を防止することはできるのかという観点から,荷重運動による影響を比較検討した.<BR><BR>【方法】 <BR>10週齢のWistar系雄性ラット30匹を実験に供した. 4週間懸垂中のラットに対し,時間は1日に1時間,頻度は週5日懸垂を除去し,ケージ内で自由飼育した群を運動群(EXC4W群),その対照群は自由飼育群,4週間飼育した群(CON4W群),4週間懸垂のみを行った群(SUS4W群)を各々10匹とした.懸垂の方法はMoreyの変法で行った.<BR> 飼育期間が終了した後,ラットにペントバルビタールナトリウムを腹腔内投与し,脱血により安楽死させた.靱帯はZimnyらのGairns塩化金染色変法に従って染色を行った.組織標本は光学顕微鏡にて観察し,機械受容器の種類とその数について検討した.<BR>受容器の総数(靭帯体積比)については,一元配置分散分析,多重比較はFisher's PLSD法,定型受容器と非定型受容器の割合については,χ<SUP>2</SUP>検定および多重比較Ryan法を用いた.有意水準は5%以下とした. <BR> この研究は,広島大学医学部附属動物実験施設倫理委員会の承認のもとに行った.<BR><BR>【結果】 <BR>すべての群において,パチニ小体,ルフィニ終末,ゴルジ様受容器,自由神経終末の4タイプの神経終末を認めた.SUS4W群,EXC4W群では,定型受容器 以外に非定型受容器(パチニ小体,ルフィニ終末)を観察した.総数については,CON4W群に比べSUS4W群,EXC4W群に比べSUS4W群(p<0.01)が有意に減少していた.CON4W群とEXC4W群においては有意な差を認めなかった.定型受容器では, CON4W群よりSUS4W群,EXC4W群よりSUS4W群(p<0.01)において有意に減少していた.非定型受容器では, CON4W群よりSUS4W群,EXC4W群よりSUS4W群,CON4W群よりEXC4W群(p<0.01)が有意に増加していた.<BR><BR>【考察】 <BR>長期の荷重除去において機械受容器は,形態学において正常な個数までは回復せず,回復しても変性した受容器の増加を認めたが,荷重運動を行うことにより,受容器の数の減少を防止し非定型受容器の増加を抑制することが可能であるのではないかと考えられた.しかし運動群においても,非定型受容器が観察されていることから,受容器の変性を防止するには靭帯へのより適切な力学的刺激が必要であると考えられる.廃用性筋萎縮の改善だけではなく,機械受容器の変性の防止を考慮した神経・筋協調システムを考慮した運動療法の必要性が実感される.
著者
前島 洋 金村 尚彦 国分 貴徳 村田 健児 高柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48102020, 2013

【はじめに、目的】今日、中高齢者の健康促進、退行性疾患の予防を目的とする様々な取り組みが盛んに行われている。特に高齢期以降の転倒予防を意識し、バランス機能の向上を目的とする様々な運動は広くヘルスプロモーション事業において取り入れられている。一方、運動は、中枢神経系、特に記憶の中枢である海馬におけるbrain derived neurotrophic factor(BDNF)をはじめとする神経栄養因子の発現を増強し、アルツハイマー病を始めとする退行性疾患発症に対する抑制効果が期待されている。BDNFはその受容体のひとつであるTrkBに作用し、神経細胞の生存、保護、再生といった神経系の維持に関わるシグナルを惹起する。一方、別のBDNFの受容体であり、BDNFの前駆体であるproBDNFに対して高いリガンド結合性をもつp75 受容体への作用は、神経細胞死を誘導するシグナル活性を惹起する傾向を併せ持つ。そこで、本研究の目的は、中高齢者の運動介入において広く取り入れられる低負荷なバランス運動の継続が記憶・学習の中枢である海馬におけるBDNFとその受容体(TrkB,p75)の発現に与える影響について、実験動物を用いて検証することであった。【方法】実験動物として早期より海馬を含む辺縁系の退行と記憶・学習障害を特徴とする老化促進モデルマウス(SAMP10)を用いた。10 週齢の成体雄性SAM 14 匹を対照群と運動群の2 群(各群7 匹)に群分けした。運動介入のバランス運動として、マウスの協調性試験としても用いられるローターロッド運動(25rpm、15 分間)を週3 回の頻度で4 週間課した。運動介入終了後、採取した海馬を破砕してmRNAを精製し、reverse transcription-PCRのサンプルとしてcDNAを作成した。作成したcDNAを用いてリアルタイムPCR法を用いたターゲット遺伝子発現量の定量を行った。ターゲット遺伝子として、BDNFとその受容体であるTrkBおよびp75 の発現をβ-actinを内部標準遺伝子とする比較Ct法により定量した。統計解析として対応のあるt検定(p<0.05)を用いて、運動介入の効果を検証した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は埼玉県立大学実験動物委員会の承認のもとで行われ、同委員会の指針に基づき実験動物は取り扱われた。【結果】4 週間のバランス運動介入によるBDNFおよびその受容体TrkBの遺伝子発現に対する有意な介入効果は認められなかった。一方、p75 受容体の発現は運動介入により有意な減少が認められ、運動介入効果が確認された。【考察】BDNFはTrkBへの作用により神経細胞における「生」の方向へのシグナルを強化し、一方、p75 の作用により神経細胞における「死」の方向へのシグナルを増強する。このことから、2 つのBDNF受容体に対する陰陽の作用バランスが神経細胞の可塑性において重要と考えられている。本研究の結果からリガンドであるBDNFの発現およびTrkBへの運動介入効果は認められなかったが、細胞死へのカスケードを増強すると考えられるp75 の発現は運動介入により減少していた。P75 受容体の発現減少により神経細胞の「死」方向へのシグナルカスケードの軽減が期待されることから、本研究で用いた運動介入は海馬における退行に対して抑制効果を示唆する内容であった。以上の所見から、中高齢者の運動介入に広く取り入れられている有酸素的効果を一次的に意図しない低負荷なバランス運動が、海馬における神経系の退行抑制を通して、認知症の予防を始めとする記憶・学習機能の維持に対しても有効に作用する可能性が期待された。【理学療法学研究としての意義】本研究は、理学療法、とりわけ運動療法において重視されているバランス機能の向上を目的とする運動の継続(習慣)が認知機能の維持・向上に対して有効であることを示唆する基礎研究として意義を有している。
著者
白勢 陽子 桑原 希望 中本 幸太 木曽 波音 国分 貴徳 村田 健児 金村 尚彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0624, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】脳由来神経栄養因子(以下BDNF)は,シナプスの可塑性に関与し,記憶や学習の形成において重要な役割を果たす分泌タンパク質である。また,BDNFは,Synaptophysinなどのシナプス関連タンパクの産生を促進し,神経伝達効率を改善すると報告されている。成人期ラットに対する運動介入では,脳内の様々な領域や骨格筋でのBDNFの発現を高めることが報告されている。しかし,老齢・中年齢ラットを対象とした長期的な運動介入が神経栄養因子に与える影響は不明である。そこで,本研究では,老齢・中年齢の2群の異なる週齢のラットに対する長期的な運動介入による運動療法の効果について,脊髄におけるBDNF,Synaptophysinの発現への影響を解明することを目的として行った。【方法】Wistar系雄性ラット20匹(老齢,中年齢各10匹)を対象とし,各群を走行群5匹,非走行群各5匹と無作為に分類した。走行群は小動物用トレッドミルを使用し,60分を1日1回,週5回,4週間の運動を行った。実験終了後,脊髄(L3-5レベル)を採取し,凍結包埋し厚さ16μmで切片作製を行い,一次抗体としてBDNF,Synaptophysin,二次抗体としてDylight488,Alexa546を使用し,蛍光免疫組織化学染色を行った。観察した切片は画像解析ソフトで解析を行い,脊髄横断切片の単位面積当たりの積算輝度を算出した。算出された値を比較するために一元配置分散分析を用い,Tukey法による多重比較を用いた(有意水準5%未満)。【結果】BDNFの単位面積当たりの積算輝度は,老齢群の走行群(8.69),非走行群(9.20),中年齢群の走行群(13.89),非走行群(7.93)であり,老齢群では両群に差はなかったが,中年齢群では,走行群は非走行群と比較して増加傾向であった。Synaptophysinの単位面積当たりの積算輝度は,老齢群の走行群(2.22),非走行群(1.79),中年齢群の走行群(4.26),非走行群(0.84)であり,中年齢群では,走行群が有意に増加した(p<0.01)。老齢群では,走行群が非走行群に比べ増加傾向であった。【結論】老齢群では,運動によるBDNFの増加はみられなかったが,Synaptophysinは増加傾向であった。中年齢群では,運動によってBDNFは増加傾向となり,運動によりSynaptophysinが有意に増加し,神経伝達効率が高まり活性化が図られた。週齢の影響では,加齢に応じて神経活性化の程度が異なり,中年齢群のほうが老齢群に比べて,神経活性化の度合いが高かった。Synaptophysinは神経小胞体の中にあり,神経伝達に関与している。運動により,Synaptophysinが増加することで,神経の伝達効率が高まったと考えられる。しかし,週齢により,運動による神経活性化の度合いの違いが明らかとなり,個別的運動介入の必要性が示唆された。
著者
武藤 智則 谷川 英徳 大熊 一成 金村 尚彦 高柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】変形性膝関節症により人工膝関節全置換術(TKA)を施行した患者の動的バランスの回復は重要でありその経過についての報告は散見されるが,術後早期における動的バランスの指標である姿勢安定度評価指標(IPS)に関連する因子について検討した報告はない。本研究はTKA後3ヶ月におけるIPSに関連する因子を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は当院にて変形性膝関節症により人工膝関節全置換術を施行した患者(男7名,女26名,33膝,年齢72.0±7.3歳,体重63.4±11.0kg)とし,神経疾患及び脊椎疾患,関節リウマチ患者は除外した。すべてのTKAは使用機種をZimmer NexGen LPS-Flex Mobile(PS type)とし,皮切はMidvastus法とした。評価項目は,動的バランスの指標としてIPS,術側への立位重心移動時の前額面上での姿勢戦略(Postural Strategy on frontal plane=PSFP)(画像解析ソフトToMoCo-Liteにて両肩峰・両大転子・両外果の中央点を結ぶ線分のなす角度を算出),膝関節角度の再現誤差としての膝関節固有感覚(KP),膝関節痛(Visual Analog scale=VAS),TUG,10m歩行速度(10mWS),膝関節伸展角度,膝伸展筋力(KES)および膝屈曲筋力(KFS)(Biodex System3を使用しIsokinetics 60deg/secでの体重比トルク(%BW)の最大値)とした。測定時期は術後3ヶ月とした。IPSの評価はAMTI製FORCE PLATFORMを使用し取込周期は60Hzとした。膝関節固有感覚と膝伸展筋力の測定には等速性運動装置(BIODEX system3)を使用した。統計解析はIPSと各項目との関連をSpearmanの順位相関係数による単変量解析で求め,従属変数をIPS,独立変数を単変量解析で有意であった項目とし,ステップワイズ法による重回帰分析にて分析した。有意水準を5%未満とした。データの集計と解析は,Dr. SPSSIIfor Windowsを使用した。【倫理的配慮】本研究はさいたま市立病院の倫理委員会にて承認を受け,十分な説明のもと同意の得られた患者を対象とした。【結果】IPSと各項目の関係性は,PSFP(r=0.596),TUG(r=-0.643),10mWS(r=-0.497),KFS(r=0.577)の間に有意な相関を認めた(p<0.05)。ステップワイズ法による重回帰分析の結果,TUG(p=0.001),PSFP(p=0.007),重相関係数(R=0.71),自由度調整済み重相関係数の二乗(R<sup>2</sup>=0.47)であった。【考察】TUGは歩行という動作に加え,立ち上がる,方向を変える,腰掛けるといった一連の動作能力や動的バランス能力を評価できる指標であり,加えて下肢・体幹の筋力やその協調的な筋活動,スムーズな方向転換に必要な立ち直り反応や下肢支持力の状態を評価することも可能なテストであるとされている。また膝伸展筋力が高いだけでは相関せず,バランスや調整能力などの要素を含む(山本ら:2010)ことが報告されており,動的バランスの指標であるIPSにTUGが関連しているという本研究の結果を支持しているものと考えた。木藤(2008)は運動器疾患患者の立位前額面上での身体重心を側方に動かす動作戦略について,頭部・体幹・上肢(Head・Arm・Trunk:HAT)を安定させ骨盤(Pelvic)を動かす動作戦略(立位Pelvic戦略)から,腹部からHATを大きく揺さぶることで足圧中心(Center of Pressure:COP)と身体重心(Center of Gravity:COG)を安定させ,同時に,股関節外転位で膝の内反を生じさせ,COGを支持基底面内に収める動作戦略(立位HAT戦略)への動作対応の変化が多く観察されるとしている。本研究ではIPSとPSFPは正の相関を認め,PSFPの数値が高くなる,すなわち立位Pelvic戦略に近づく程IPSとの関連が認められることを示唆している。Horakら(1986)は矢状面上の動作戦略において,よいパフォーマンスは股関節戦略より足関節戦略に関連した予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustment)を使用すると報告している。本研究で測定した前額面上での姿勢戦略は,先行研究で報告された矢状面上の姿勢・動作戦略とは相違するもので,本研究の結果である動的立位バランスと前額面上での姿勢戦略(立位Pelvic戦略)の関連について報告したものはなく,本研究結果は新たな知見といえる。【理学療法学研究としての意義】TKA後早期の動的バランスの指標であるIPSに関連する因子を明らかにした報告は見当たらない。本研究ではIPSとTUG,IPSとPSFPに関連を認めた。TKA後早期において,多関節運動連鎖としての前額面上での姿勢戦略に注目した理学療法プログラムの立案などを考慮していく必要性が示唆された。