著者
大沼 俊博 渡邊 裕文 蔦谷 星子 三好 裕子 山口 剛司 赤松 圭介 藤本 将志 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0551, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】臨床場面において歩行の立脚期に体幹・骨盤・下肢に不安定性を認める患者の理学療法を経験することがある。この時立脚側の支持性向上を図る目的で、片脚立位にて非支持側股関節を外転させての練習を実施することがある。我々は先行研究にて前方台へのステップ保持が、体幹筋や下肢筋の筋積分値に与える影響について検討してきた。今回我々は片脚立位における非支持側股関節外転角度を変化させた場合の両側外腹斜筋、内腹斜筋および腰背筋群の筋積分値変化について検討し、若干の知見を得たので報告する。【対象と方法】対象は、整形外科、神経学的に問題のない健常男性7名、平均年齢は28.9歳であった。まず被験者に安静立位保持をさせた。この状態で筋電計ニューロパック(日本光電社)を用いて、双極導出法にて両側外腹斜筋、内腹斜筋、腰背筋群の筋積分値を測定した。外腹斜筋の電極は第8肋骨下縁に電極間距離2cmにて配置し、内腹斜筋は両側上前腸骨棘を結ぶ線より2cm下方の平行線と鼠径部との交点、および2cm内方へ電極を配置した。さらに両側腰背筋群の電極は第3腰椎棘突起側方3cmおよび上方2cmの位置へ配置した。測定時間は10秒間とし、3回測定した。次に非支持側の下肢において股関節外転角度を0°、15°、30°、45°、60°と変化させ、同様に筋積分値を測定した。この時の股関節外転角度は非支持側上前腸骨棘を通る床面への垂線を基本軸とし、大腿中央線を移動軸とした。また骨盤の傾斜角度を確認するため、両側の上前腸骨棘にマーカーを貼付し、前方よりビデオ撮影した。【結果および考察】骨盤傾斜角度は、股関節外転角度の増大に伴い増加した。外腹斜筋の筋積分値は両側共に有意な変化を認めなかった。内腹斜筋、腰背筋群については両側共に股関節外転角度の増大に伴い増加した。三浦らによると、外腹斜筋は動作と同期して活動しやすく、体幹回旋時の求心性収縮作用に関与すると述べている。またSnijdors、三浦らは、片脚立位や歩行の立脚期において、仙腸関節へ生じる剪断力に対して内腹斜筋の筋活動はそれを防ぐ効果があると報告している。さらに市橋らは立位での非支持側股関節外転時、支持側の中臀筋に筋活動の増加を認めたと報告し、またCastaingは片脚立位の場合、支持側の中臀筋、大臀筋、大腿筋膜張筋が骨盤の非支持側への傾斜を制御すると報告している。本結果から両側外腹斜筋に関しては、本課題では体幹回旋動作がなく、求心性収縮の要素がなかったため筋積分値に変化を認めなかったと考える。また両側内腹斜筋に関しては、非支持側股関節外転位での片脚立位時に生じる仙腸関節への剪断力の増加に対して筋積分値の増加を認めたと考える。さらに両側腰背筋群に関しては、本課題では支持側中臀筋、大臀筋、大腿筋膜張筋と共に骨盤の非支持側への傾斜に対する制御に関与したと考える。
著者
鈴木 俊明 谷 万喜子 浦上 さゆり 文野 住文 鬼形 周恵子
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-6, 2012 (Released:2012-12-27)
参考文献数
3

We describe the following 3 important points in muscle tone evaluation. (1) It is important to examine the tension of the skin and other soft tissues as well. (2) The results of research into the rectus abdominis indicate that muscle tone in the central belly may not reflect the overall tone of that muscle. (3) Detailed evaluation of the function of all abdominal and back muscles should be performed.
著者
池澤 秀起 井尻 朋人 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0386, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】肩関節疾患患者の上肢挙上運動は,肩甲骨挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つに,僧帽筋下部線維の筋力低下が挙げられるが,疼痛や代償運動により患側上肢を用いた運動で僧帽筋下部線維の筋活動を促すことに難渋する。そこで,上肢の運動を伴わずに僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として,腹臥位での患側上肢と対側の下肢空間保持が有効ではないかと考えた。腹臥位での下肢空間保持は股関節伸展筋の活動が必要となる。一方,骨盤の肢位を保持するために空間保持側の骨盤と脊柱などに付着する筋肉の活動が必要となり,同様に脊柱の肢位を保持するために空間保持側と対側の脊柱と肩甲骨などに付着する筋肉の活動が増大するのではないかと考えた。先行研究にて筋活動を検証した結果,腹臥位での下肢空間保持時の対側の僧帽筋下部線維の活動と,腹臥位での肩関節外転145度位保持側の僧帽筋下部線維の筋活動は同程度であった。先行研究では肩関節外転角度などの肢位を変え僧帽筋下部線維の活動を測定したが,全て肘関節屈曲位での測定であった。そこで,肘関節肢位の変化が僧帽筋下部線維の活動に与える影響を明確にし,僧帽筋下部線維の活動を促すためのトレーニングの一助にしたいと考えた。【方法】対象は健常男性14名(年齢24.6歳,身長170.1cm,体重61.9kg)とした。測定課題は,利き腕と反対側の下肢空間保持とした。測定肢位は,腹臥位で両股関節中間位,両膝関節伸展位,両肩関節外転90度,両前腕回内位とし,肘関節伸展0度と肘関節最大屈曲位で測定した。測定筋は,下肢空間保持側と反対の僧帽筋上部・中部・下部線維,三角筋後部線維,棘下筋,両側多裂筋とした。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は,1秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。算出された筋電図積分値相対値は正規分布を認めなかったため,Wilcoxonの符号付順位和検定を用いて比較した。比較は,肘関節屈曲,伸展位条件間で行い,危険率は5%未満とした。【結果】僧帽筋下部線維,三角筋後部線維の筋電図積分値相対値は,肘関節伸展位と比較し屈曲位で有意に増加した。僧帽筋下部線維,三角筋後部線維の中央値は肘関節屈曲位で10.2,28.0,肘関節伸展位で5.2,17.0であった。その他の筋電図積分値相対値は肘関節肢位の変化による有意差を認めなかった。【結論】腹臥位での下肢空間保持課題は,肘関節伸展位と比較し屈曲位で僧帽筋下部線維の筋活動を促せる可能性が高いことが示唆された。また,肘関節伸展位と比較し屈曲位で三角筋後部線維の筋活動も有意に増大した。このことから,肩関節水平外転運動に作用する三角筋後部線維の筋活動の増大に対して,起始部の肩甲骨の安定性を高めるために僧帽筋下部線維の筋活動も有意に増大したのではないかと考える。
著者
池澤 秀起 井尻 朋人 高木 綾一 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab1307, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 肩関節疾患患者の肩関節挙上運動は、肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして、僧帽筋下部線維の筋力低下による肩甲骨内転、上方回旋運動の減少が挙げられる。そのため、患側上肢の運動により僧帽筋下部線維の筋活動を促すが、可動域制限や代償運動により難渋する。そこで、患側上肢を用いない運動として、腹臥位での患側上肢と反対の股関節外転位空間保持が有効と考えた。腹臥位で股関節外転位空間保持は、股関節に加え体幹の安定を得るための筋活動が必要になる。この体幹の安定を得るために、股関節外転位空間保持と反対側の僧帽筋下部線維が作用するのではないかと考えた。そこで、僧帽筋下部線維のトレーニングに有効な股関節外転角度を明確にするため、外転保持が可能な範囲である股関節外転0度、10度、20度位における外転保持時の僧帽筋下部線維の筋活動を比較した。また、各角度での僧帽筋下部線維の活動を、MMTで僧帽筋下部線維の筋力測定に用いる腹臥位での反対側の肩関節外転145度位保持時の筋活動と比較した。これにより、僧帽筋下部線維の活動がどの程度得られるかを検証した。【方法】 対象は上下肢、体幹に現在疾患を有さない健常男性14名(年齢23.1±3.7歳)とした。測定課題は、利き足の股関節外転0度、10度、20度位空間保持と、利き足と反対側の肩関節外転145度位空間保持とした。測定肢位は、ベッドと顎の間に両手を重ねた腹臥位とし、この肢位から股関節屈伸0度位で設定角度まで股関節外転させ、空間保持させた。肩関節外転位空間保持は、MMTでの僧帽筋下部線維の測定肢位である、肩関節145度外転、肘関節伸展、手関節中間位で空間保持させた。測定筋は利き足と反対側の僧帽筋下部線維とした。筋電図測定にはテレメーター筋電計(MQ-8、キッセイコムテック社製)を使用した。また、肩関節、股関節外転角度はゴニオメーター(OG技研社製)で測定した。測定筋の筋活動は、1秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。さらに、股関節外転位空間保持において、股関節外転角度の変化が僧帽筋下部線維の筋活動量に与える影響を調べるために、各外転角度での僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値を比較した。加えて、僧帽筋下部線維の活動量を確認するため、腹臥位での肩関節外転145度位保持時と、股関節外転0度、10度、20度位保持における各々の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値を比較した。比較には一元配置分散分析及び多重比較検定を用い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的及び方法を説明し、同意を得た。【結果】 股関節外転位空間保持での僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、股関節外転0度で14.6±10.9、10度で17.1±12.3、20度19.9±16.6となり、股関節外転角度の増減により有意な差を認めなかった。また、肩関節外転145度位保持時の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は17.6±9.9となった。股関節外転0度、10度、20度位保持時の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値と、肩関節外転145度位保持時では全てにおいて有意な差を認めなかった。【考察】 腹臥位での股関節外転位空間保持で、僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、股関節外転角度の増減により有意な差を認めなかった。この要因として、ベッドによる体幹支持、体幹筋や僧帽筋下部線維を含めた肩甲骨周囲筋の活動など、様々な要素が脊柱や骨盤の固定に作用したためではないかと考える。 一方、腹臥位での肩関節外転145度位保持時と股関節外転0度、10度、20度位保持時の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値を比較した結果、有意な差は認めなかった。つまり、全てにおいて同程度の僧帽筋下部線維の筋活動が生じていたといえる。このことから、腹臥位での股関節外転0度、10度、20度位保持は、上肢の運動を伴わずに反対側の僧帽筋下部線維の活動を促せるため、可動域制限や代償動作により筋活動を促すことに難渋する対象者の治療に活用できる可能性がある。しかし、股関節外転位空間保持による反対側の僧帽筋下部線維の活動は脊柱の固定に作用することが考えられるため、起始部付近の活動が主であることが推察される。そのため、上肢挙上時の僧帽筋下部線維の筋活動に直結するかは検討の余地が残ると考える。【理学療法学研究としての意義】 腹臥位での股関節外転0度、10度、20度位保持は、反対側上肢の僧帽筋下部線維のトレーニングに有効であることが示唆された。これは、可動域制限や代償動作により僧帽筋下部線維の活動を促すことが難しい対象に対して有効であると考えられた。
著者
池澤 秀起 高木 綾一 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0690, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】肩関節疾患患者の上肢挙上運動は,肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして,僧帽筋下部線維の筋力低下が挙げられるが,疼痛や代償運動により患側上肢を用いた運動で僧帽筋下部線維の筋活動を促すことに難渋する。そこで,上肢の運動を伴わずに僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として,腹臥位での患側上肢と反対側の下肢空間保持が有効ではないかと考えた。その結果,第47回日本理学療法学術大会において,腹臥位での下肢空間保持と腹臥位での肩関節外転145度位保持は同程度の僧帽筋下部線維の筋活動を認めたと報告した。また,第53回近畿理学療法学術大会において,両側の肩関節外転角度を変化させた際の腹臥位での下肢空間保持における僧帽筋下部線維の筋活動は,0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大したと報告した。一方,先行研究では両側の肩関節外転角度を変化させたため,どちらの肩関節外転が僧帽筋下部線維の筋活動に影響を与えたか明確でない。そこで,一側の肩関節外転角度を一定肢位に保持し,反対側の肩関節外転角度を変化させた際の僧帽筋下部線維の筋活動を明確にする必要があると考えた。これにより,僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促す因子を特定し,トレーニングの一助にしたいと考えた。【方法】対象は上下肢,体幹に現在疾患を有さない健常男性16名(年齢25.6±2.1歳,身長168.5±2.5cm,体重60.4±6.7kg)とした。測定課題は,利き腕と反対側の下肢空間保持とした。測定肢位は,腹臥位でベッドと顎の間に両手を重ねた肢位で,下肢は両股関節中間位,膝関節伸展位とした。また,空間保持側の上肢は肩関節外転0度で固定し,反対側の上肢は肩関節外転角度を0度,30度,60度,90度,120度と変化させた。肩関節外転角度の測定はゴニオメーター(OG技研社製)を用いた。測定筋は,空間保持側と反対の僧帽筋上部,中部,下部線維,広背筋とした。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は,1秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。また,5つの角度における全ての筋電図積分値相対値をそれぞれ比較した。比較には反復測定分散分析及び多重比較検定を用い,危険率は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の目的及び方法を説明し,同意を得た。【結果】僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は,肩関節外転角度が0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大した。広背筋の筋電図積分値相対値は,肩関節外転角度が30度,60度,90度,120度に対して0度で有意に増大した。僧帽筋上部線維,僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は,全ての肢位において有意な差を認めなかった。【考察】先行研究と今回の結果から,腹臥位での下肢空間保持における僧帽筋下部線維の筋活動は,空間保持側と反対の肩関節外転角度の影響が大きいことが判明した。つまり,腹臥位での下肢空間保持は,空間保持側と反対の肩関節外転角度を考慮することで僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことが出来る可能性が高いと考える。まず,腹臥位での下肢空間保持は,下肢を空間保持するために股関節伸展筋の筋活動が増大する。それに伴い骨盤を固定するために空間保持側の腰背筋の筋活動が増大し,さらに,二次的に脊柱を固定するために空間保持側と反対の腰背筋や僧帽筋下部線維の筋活動が増大することが考えられる。このことを踏まえ,僧帽筋下部線維の筋活動が肩関節外転0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大した要因として,肩関節外転角度の変化により脊柱を固定するための筋活動が広背筋から僧帽筋下部線維に変化したのではないかと考える。広背筋の筋活動は肩関節外転30度,60度,90度,120度に対して0度で有意に増大したことから,肩関節外転0度では脊柱の固定に広背筋が作用したことが推察される。一方,肩関節外転角度の増大により広背筋は伸長位となり,力が発揮しにくい肢位となることが推察される。また,広背筋は上腕骨,僧帽筋下部線維は肩甲骨に停止することに加え,肩甲上腕リズムから肩関節外転角度の増大に対して,広背筋は僧帽筋下部線維と比較し伸長される割合が大きいことが推察される。その結果,肩関節外転角度の増大に伴い脊柱を固定するために僧帽筋下部線維の筋活動が増大したのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】腹臥位での下肢空間保持において,僧帽筋下部線維の筋活動は先行研究と同様の結果であったことから,空間保持側と反対の肩関節外転角度が僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促す要因となる可能性が高いことが示唆された。
著者
池澤 秀起 高木 綾一 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100556, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】肩関節疾患患者の肩関節挙上運動は、肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして、僧帽筋下部線維の筋力低下による肩甲骨内転、上方回旋運動の減少が挙げられる。理学療法の場面において、患側上肢の運動により僧帽筋下部線維の筋活動を促すが、可動域制限や代償運動により難渋する。そこで、僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として、腹臥位での患側上肢と反対側の股関節外転位空間保持が有効ではないかと考えた。その結果、第47 回日本理学療法学術大会において、腹臥位での股関節中間位空間保持と腹臥位での肩関節外転145 度位保持は同程度の僧帽筋下部線維の筋活動を認めたと報告した。一方、先行研究では下肢への抵抗負荷を用いない自重負荷であったことから、下肢への抵抗負荷を考慮することで僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促せるのではないかと考えた。腹臥位での股関節中間位空間保持において下肢への抵抗負荷の有無が僧帽筋下部線維や肩甲骨周囲筋の筋活動に与える影響を明確にし、僧帽筋下部線維のトレーニングの一助にしたいと考えた。【方法】対象は上下肢、体幹に現在疾患を有さない健常男性22 名(年齢25.4 ± 2.4 歳、身長168.9 ± 2.2cm、体重60.6 ± 4.0kg)とした。測定課題は、利き腕と反対側の股関節中間位空間保持とした。測定肢位は、ベッドと顎の間に両手を重ねた腹臥位で股関節中間位とした。測定筋は、股関節中間位空間保持側と反対側で利き腕側の僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維、僧帽筋下部線維とした。股関節中間位空間保持側への抵抗負荷量は、対象者の体重の0%、10%、30%、50%の重さを抵抗負荷量として設定し、Isoforce(オージー技研社製)を用いて測定した。抵抗負荷をかける位置は、大腿骨内側上顆と外側上顆を結んだ線の中点と坐骨を結んだ線分の中点とし、鉛直下方向に抵抗を加えた。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は、1 秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。また、抵抗負荷が無い場合(0%)、抵抗負荷が体重の10%、30%、50%とした場合の測定筋の筋電図積分値相対値を算出し、4 群全ての筋電図積分値相対値をそれぞれ比較した。比較には一元配置分散分析及び多重比較検定を用い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者に本研究の目的及び方法を説明し、同意を得た。【結果】僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%に対して、抵抗負荷が30%、50%において有意に増加した。また、僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%、10%、30%に対して、抵抗負荷が50%において有意に増加した。【考察】腹臥位での股関節中間位空間保持において、空間保持側と反対側の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%に対して、抵抗負荷が30%、50%において有意に増加した。この要因として、脊柱の固定には体幹筋や肩甲骨周囲筋の選択的な筋活動ではなく、全ての筋群の協調的な筋活動により脊柱の固定を図るのではないかと推察する。このことから、腹臥位での股関節中間位保持における下肢への抵抗運動において僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことは難しいのではないかと考える。また、僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%、10%、30%に対して、抵抗負荷が50%において有意に増加した。低負荷での股関節中間位空間保持では、骨盤や脊柱を固定するために両側の腰部多裂筋の筋活動が作用したと推察する。一方、高負荷での股関節中間位空間保持では、骨盤や脊柱を固定するためにより大きな力が必要になる。そのため、腰部多裂筋など骨盤と脊柱に付着する筋群に加え、空間保持側と反対側の僧帽筋など脊柱と肩甲骨に付着する筋群の筋活動が増大することで脊柱の固定を図ったのではないかと考える。一方、肩関節挙上時に肩甲骨内転筋の筋緊張低下により肩甲骨外転位を呈する対象者は、高負荷での抵抗運動により僧帽筋上部・中部・下部線維の筋活動を総合的に促すことが可能となるため効果的なトレーニングになるのではないかと推察する。しかし、肩関節挙上時に僧帽筋上部線維の過剰な筋活動を認める対象者は、高負荷での抵抗運動は効果的ではないと考える。【理学療法学研究としての意義】腹臥位での股関節中間位空間保持課題において、抵抗負荷の増減により僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことは難しいが、高負荷での抵抗運動は、肩関節挙上時に肩甲骨の内転運動が乏しい対象者のトレーニングとして効果的であることが示唆された。
著者
三浦 雄一郎 福島 秀晃 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0848, 2006 (Released:2006-04-29)

【はじめに】腹直筋は腹筋群の一つであり、体幹屈曲の主動作筋である。外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋が側壁にて層状の構造を呈しているのに対し腹直筋は単独で縦走している。しかし、その構造は第一に4~5つの腱画にて区分されていること、第2に腹直筋鞘の中に納まっていることなど特徴的である。そのため腹直筋の上部、下部の筋線維に機能の相違があると推察され、筋電図学的分析がなされてきた。しかし、その違いは未だに明確にされていない。そこで今回、胸郭と骨盤の連結が比較的少ない基本肢位での肩関節屈曲運動を運動課題とし、腹直筋の上部と下部の筋機能を筋電図学的に分析したので報告する。【対 象】対象はインフォームド・コンセントの得られた整形外科的、神経学的に問題のない健常者5名、両側10例とし、平均年齢は29.2歳であった。【方 法】測定筋は上部腹直筋、下部腹直筋、外腹斜筋とした。筋電計はmyosystem 1200(Noraxon社製)を用いて測定した。電極部位はNgらによる研究結果を参照とした。座位で体幹の前傾角度を30度に設定し、上肢を下垂させた肢位を基本肢位とした。基本肢位にて肩関節を30°、60°、90°、120°、150°位で保持させた。負荷は体重の3%の錘を肩関節内外旋中間位、前腕回内外中間位にて把持させた。測定時間は5秒間とし、3回施行した。基本肢位における筋積分値を基準値とし、各角度における筋積分値相対値を求めた。3回の平均値をもって個人のデータとした。統計処理は分散分析をおこない、事後検定にはTurkeyの多重比較検定を用い、有意水準を5%以下とした。【結果および考察】肩関節屈曲角度の増加に伴い、外腹斜筋と上部腹直筋は有意な筋活動の増加を認めた。下部腹直筋に関しては肩関節屈曲角度を増加させても筋活動の変動が少なかった。肩関節屈曲角度の増加により前鋸筋の作用で肩甲骨を上方回旋させるが、この時同側の外腹斜筋による胸郭安定化が必要になる。本研究において肩関節屈曲角度の増加に伴い外腹斜筋の筋活動は漸増的に増加した。更に外腹斜筋の強い筋収縮を発揮させるためには腹直筋の収縮によって腹直筋鞘の緊張を高めることが重要と考える。本研究結果は肩関節屈曲運動に必要な胸郭安定化に外腹斜筋と上部腹直筋が関与することを示唆している。Filhoらは体幹屈曲および背臥位での四肢の空間保持を含む7つの運動課題を健常者に実施させたが腹直筋の各部位の相違は明確にならなかったと報告している。これは胸郭と骨盤を連結させる要素が入った運動課題では上部と下部腹直筋が共に参加するため機能に相違が認められなかったと考えることができる。しかし、本研究結果では胸郭と骨盤を連結させる機能を求めない場合、肩関節屈曲に関連する胸郭安定化のために腹直筋の各部位に相違が生じることが確認された。
著者
鈴木 俊明 鬼形 周恵子 文野 住文 谷 万喜子
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.13-19, 2011 (Released:2012-01-06)

We conducted evaluation and physical therapy for the affected arm function of a patient with cerebrovascular disease. In the evaluation of affected arm function, it is important to understand the relativity of the overall problem using observation not only of the movement of the affected arm but also of the whole body such as in walking. An effect of physical therapy on the problem of the affected arm may be found, but to maintain the effect of physical therapy we need an approach for the whole body together with the affected arm. ASPT (Acupoint Stimulated Physical Therapy) on Ba-geae was very effective for fine movement of the affected finger.
著者
松本 明彦 津江 正樹 赤松 圭介 大沼 俊博 渡邊 裕文 鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.129-136, 2013 (Released:2013-12-28)
参考文献数
4

We report the case of a patient who, after posterior lumbar fixation for lumbar spinal canal stenosis, presented with difficulty in reaching the gluteal cleft with the right upper limb from the dorsal side while wiping after excretion and inevitably used the left upper limb. Through observation of a simulated wiping motion with the right upper limb, a decrease in the ability to perform the following movements was suspected: moving the pelvis from a posterior to an anterior inclination with flexion, internally rotating the left hip joint, extending the trunk, elevating the right pelvis and flexing the trunk to the right side, and rotating the trunk to the right. Examination based on these observations identified decreased tonus of the bilateral internal oblique muscles of the abdomen and multifidus and longissimus muscles, and increased tonus of the bilateral iliocostal muscles to be the primary causes. Therefore, surface electromyography was performed, and electromyographic waveform patterns of the aforementioned trunk muscles during simulated wiping motion with the right upper limb were compared with those of healthy subjects. No activity was detected in the bilateral internal oblique muscles of the abdomen. The patterns of the other muscles were similar, albeit with decreased activity. During physical therapy, the patient retained the physiological curvature of the spine, with the pelvis in the center of the anterior and posterior inclinations and the trunk extended in a sitting position. Furthermore, right pelvic elevation and right rotation of the trunk accompanied by right-sided flexion were promoted while shifting the body weight in the left anterior direction. Satisfactory wiping motion with the right upper limb was acquired through this therapy. This case report suggests that when examining the wiping motion after excretion, it is necessary to evaluate the ability to elevate the pelvis and flex and rotate the trunk to the required side while retaining the physiological curvature of the spine.
著者
鈴木 俊明
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.65, 2005-01-01

アシュワーススケール(Ashworth scale)1)は,1964年にAshworth Bが発表した痙縮の評価法である.当初は,多発性硬化症の痙縮を評価する方法として発表されたが,Bohannonらは脳血管障害片麻痺患者の痙縮を評価する方法としてアシュワーススケール変法(modified Ashworth scale)2)を発表した.現在は,痙縮を呈するすべての疾患の筋緊張評価に用いられている.本項では,アシュワーススケールとアシュワーススケール変法について理学療法臨床での応用も含めて解説する. アシュワーススケールとアシュワーススケール変法 アシュワーススケールとアシュワーススケール変法は,他動運動時の筋緊張の客観的評価法である.患者を背臥位でリラックスさせ,評価する筋を他動的に動かしたときの抵抗感(いわゆる筋伸張時の抵抗感)によって評価する.アシュワーススケールは5段階(グレード0:正常な筋緊張,1:四肢を動かしたときに引っかかるようなわずかの筋緊張亢進,2:グレード1よりも筋緊張は亢進するが四肢は簡単に動かすことができる,3:著明な筋緊張の亢進により四肢の他動運動が困難,4:四肢が固く,屈曲,伸展できない),アシュワーススケール変法はアシュワーススケールのグレード1をさらに細かく,グレード1とグレード1+の2つに分けた6段階に分類される.グレード1(筋緊張は軽度亢進で,関節を伸展あるいは屈曲したときに引っかかるような感じが生じた後にその引っかかりが消失するか,または関節可動域の終わりにわずかな抵抗感を呈する),グレード1+(筋緊張は軽度亢進で,関節可動域の1/2以下の範囲で引っかかるような感じが生じた後にわずかな抵抗感を呈する)は痙縮の特徴であるジャックナイフ現象と廃用症候群による筋・皮膚短縮を反映するものである.
著者
山口 剛司 渡邊 裕文 蔦谷 星子 大沼 俊博 三好 裕子 赤松 圭介 藤本 将志 若林 志保子 鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.139-144, 2003 (Released:2005-04-12)
参考文献数
2

Lateral shift of the center of gravity for the treatment of cerebral angiopathic paralysis was investigated. These patients show increased tension in the dorsolumbar muscles on the paralyzed side, and have difficulty in shifting their weight toward the paralyzed side. Prior to the restoration of standing and walking motions, it is necessary to improve the sitting posture. In this study, we treated cerebral angiopathic paralysis by 2 lateral methods of shifting the center of gravity by inducing movement of the trunk alone and simultaneous movements of the trunk, pelvis and lower limbs. The effects of the treatment by these methods were evaluated with muscle integration values and observation of the posture of the patients. The muscular activity pattern of the muscles in the trunk became closer to normal, and posture and motion were improved when movements of the trunk, pelvis and lower limbs were simultaneously induced. It was suggested that simultaneous induction of the trunk, pelvis and lower limbs was important for treatment based on lateral shift of the center of gravity.
著者
福島 秀晃 三浦 雄一郎 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0850, 2006

【目的】体幹機能の評価および機能改善の方法に座位での側方移動がある。座位側方移動に関しては、骨盤・胸椎の傾斜角度や腹斜筋群、脊柱起立筋などの筋活動について研究がなされており、その研究成果は臨床で活用されてきている。臨床においては頭頚部筋や肩甲帯周囲筋の過剰努力を呈し、座位バランスを保持している症例を頻繁に経験する。しかし、座位での側方移動における頭頚部筋や肩甲帯周囲筋の機能に関しては明確にされていない。本研究目的は、肩甲帯周囲筋である僧帽筋に着目し、健常者の座位側方移動時の僧帽筋の筋活動について筋電図を用いて検証することである。<BR>【方法】対象は健常男性5名(平均年齢30.2±4.3歳)両側。対象者には事前に本研究の目的・方法を説明し、了解を得た。測定筋は両側の僧帽筋上部、中部、下部線維とし筋電計myosystem1200(Noraxon社製)を用いて測定した。具体的な運動課題は両腕を組み、両下肢を浮かした座位姿勢を開始肢位とした。開始肢位より5cm、10cm、15cm、20cmと前額面での延長上に設置した目標物に対し三角筋外側最大膨隆部を接触させていくよう側方移動を行った。各移動距離における測定時間は5秒間とし、これを3回施行した。なお、被検者には頭部・体幹は前額面上に、両側の肩峰を結んだ線は水平位を保持するよう指示した。分析方法は開始肢位における僧帽筋各線維の筋積分値を基準として各移動距離の筋積分値相対値を算出し、各線維ごとに移動距離間での分散分析(Turkeyの多重比較)を行った。<BR>【結果】非移動側僧帽筋の筋積分値相対値は下部線維のみが移動距離20cmにおいて5cm、10cm、15cmと比較して有意に増加した。<BR>移動側僧帽筋の筋積分値相対値は中部線維のみが移動距離20cmにおいて5cm、10cm、15cmと比較して有意に増加した。<BR>【考察】座位側方移動での体幹機能の特徴には非移動側の腹斜筋群による抗重力的な求心活動によって胸郭と骨盤を連結させること、非移動側骨盤の水平面上での前方回旋に対し体幹上部では反対側の回旋が生じ、カウンタームーブメントによる体幹の安定化が図られるなどがある。本研究での非移動側僧帽筋下部線維の筋活動が有意に増加したことについては、胸郭上を浮遊する肩甲帯を積極的に下制、内転させることで肩甲帯と胸郭の連結を行い、かつ胸郭を垂直に保持することに関与したのではないかと考える。これにより肩甲帯-胸郭-骨盤といった体幹の安定化が図られると考える。一方、移動側僧帽筋中部線維の筋活動が有意に増加したことについては、カウンタームーブメントによる体幹の安定化とは異なり、本研究では前額面上の目標物に到達させる課題であることから、移動側肩甲帯を内転位に保持する必要がある。移動側中部線維の活動は肩甲帯を内転方向へと導いていく方向舵としての機能に関与したのではないかと考える。<BR><BR>
著者
福島 秀晃 三浦 雄一郎 布谷 美樹 近藤 克征 加古原 彩 鈴木 俊明 森原 徹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A1290, 2008

【はじめに】<BR>肩関節疾患症例において肩甲上腕リズムが破綻している症例を頻繁に経験する。Ludewigらは僧帽筋上部線維の過剰収縮が肩甲骨の異常な運動を引き起こすとしており、理学療法では僧帽筋上部線維の過剰収縮を抑制することが重要である。一方、我々は上肢挙上に伴う肩甲骨の安定化と上方回旋機能の役割として僧帽筋下部線維が重要であることを報告してきた。よって上肢挙上時の僧帽筋各線維の協調した肩甲骨の上方回旋機能を改善させていくには過剰収縮している僧帽筋上部線維の抑制と僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促す方法を考慮していく必要性がある。 <BR>そこで、我々は肩甲胸郭関節の安定化に対するアプローチとして運動肢位に着目している。今回、側臥位という運動肢位で肩関節外転保持を行った時の僧帽筋各線維の筋活動を筋電図学的に分析し、肩甲胸郭関節の安定化に対する理学療法アプローチを検討したので報告する。<BR>【対象と方法】<BR>対象は健常男性5名両側10肢(平均年齢29.0±4.2歳、平均身長177±9.3cm、平均体重68.8±7.2kg)である。対象者には事前に本研究の目的・方法を説明し、了解を得た。測定筋は僧帽筋上部線維、中部線維、下部線維とし、筋電計myosystem1200(Noraxon社製)を用いて測定した。電極貼付位置は、Richard(2003、2004)、下野らの方法を参考にした。具体的な運動課題は側臥位において肩関節を30°、60°、90°、120°、150°外転位を5秒間保持させ、それを3回施行した。3回の平均値を個人データとした。分析方法は座位での上肢下垂位の筋電図積分値を求め、これを基準に各角度での筋電図積分値相対値(以下、相対値)を算出した。統計処理には角度間での分散分析(tukey多重比較)を行った。<BR>【結果と考察】<BR>外転角度の増大に伴い僧帽筋上部、中部線維の相対値は漸減傾向を、下部線維の相対値は漸増傾向を示した。上部、中部線維は30°と比較して120°以降有意に減少し、下部線維は30°~90°と比較して150°で有意に増加した。側臥位での肩関節外転保持は90°を境に抗重力下から従重力下へと変化する。このことから90°以降では上肢自重に伴い肩甲骨には挙上方向に対する制動が必要になると考えられる。90°以降では肩甲骨は上方回旋位を呈していることから、鎖骨、肩峰、肩甲棘上縁に停止する上部、中部線維の筋活動は減少し、拮抗作用を有する下部線維が肩甲骨の制動に関与したのではないかと考える。 <BR>臨床上、上肢挙上角度の増大に伴う、僧帽筋上部線維の過剰収縮と僧帽筋下部線維の収縮不全によって肩甲骨の上方回旋不良が生じている症例に対し側臥位での外転120°以降では僧帽筋上部線維の抑制が、外転150°保持では僧帽筋上部線維の抑制及び僧帽筋下部線維の筋活動促通が可能であることが示唆された。<BR><BR><BR>
著者
生田 啓記 谷 万喜子 鈴木 俊明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.257-263, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
16

病変部位上を通る経絡の経穴を用いる循経取穴による鍼治療を筋緊張異常の改善に難渋する運動器疾患へ応用するため,太白穴への鍼刺激が大腿四頭筋の筋活動に与える影響を検討した。 対象は同意を得た健常者10名(平均年齢23.1歳)とし,膝関節伸展運動中に鍼刺激を実施した。運動課題は膝関節屈曲60°で最大随意収縮の40%等尺性収縮を鍼刺激前,直後,5分,10分,15分後に行った。鍼課題は太白穴,公孫穴,無刺激とした。課題中に内側広筋斜頭,内側広筋長頭,大腿直筋,外側広筋の筋電図積分値を求め,刺激前を基準値とした筋電図積分値相対値で比較した。太白穴刺激での内側広筋斜頭の筋電図積分値相対値は,無刺激と比較し15分後に有意に高値を示した(p < 0.05)。太白穴への置鍼15分後に内側広筋斜頭の筋電図積分値相対値が増加したことは目標のトルク発揮を行うために大きな筋活動が必要であったことから内側広筋斜頭の筋緊張を抑制したと考えた。
著者
大工谷 新一 小野 淳子 鈴木 俊明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第49回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.7, 2009 (Released:2009-09-11)

【はじめに】 筆者らはスポーツ外傷後の神経筋機能を評価する目的で,理学療法評価に電気生理学的検査を取り入れている.今回,スポーツ動作中に足関節内反捻挫を受傷したバスケットボール選手に対する電気生理学的検査で特異的な所見を得たので報告する.【対象】 対象は本件に関する説明に同意を得た21歳の男子大学バスケットボール選手であった.診断は左足関節内反捻挫(II度損傷)であった.現症としては,応急処置が奏功した結果,腫脹と疼痛,可動域制限はそれぞれ軽度であった.筋力検査は疼痛のため不可能であった.ADLレベルは,歩行は疼痛自制内で可能であるものの,段差昇降には時間を要し,走行は不可であった.【方法】 電気生理学的検査として,ヒラメ筋からH反射を導出した.具体的には,筋電計Viking Questを用いて,安静腹臥位で足尖をベッド外へ出した状態の被験者の膝窩部脛骨神経に電気刺激を16回加えて,H反射を記録した.電気刺激強度は,振幅感度を500μV/divとした画面上でM波出現が同定できる最小強度とした.H反射の記録後,同部位に最大上刺激を加え,最大M波を記録した.H反射振幅とM波振幅の平均値を求めた後に各々の比(振幅H/M比)を算出して,受傷前,受傷後3日,受傷後1ヶ月の振幅H/M比を比較した.【結果】 受傷前,受傷直後,受傷後1ヶ月の振幅H/M比は,非受傷側で0.17,0.88,0.21,受傷側では0.62,1.23,0.58であり,受傷直後に顕著に増大していた.また,得られた波形の外観上の特徴として,受傷直後の受傷側には長潜時反射様の律動的波形がH反射出現後に記録された.【考察】 振幅H/M比は脊髄神経機能の興奮性を示す指標である.また,下肢における長潜時反射は脳幹または大脳皮質の興奮性を表す指標となる.本症例では,受傷直後に両側についてヒラメ筋に関連する脊髄神経機能の興奮性に著しい増大が認められた.また,通常は安静時には導出されない長潜時反射も受傷直後の受傷側において記録された.これより,本症例においては足関節内反捻挫の受傷によって,一過性の脊髄神経機能の興奮性の増大が両側性に認められ,受傷側においては脳幹より上位の神経機能の興奮性も増大していたことが明らかとなった.この機序としては,受傷そのものによる脊髄神経機能への影響と,受傷した状態でADLに適応する過程で脊髄神経機能に及ぼされる影響の2つの観点から考慮する必要がある.受傷そのものによる脊髄神経機能への影響としては,疼痛を回避するために脊髄反射が亢進していた可能性や腫脹による関節内圧の変化などが考えられ, ADLに適応していく過程で脊髄神経機能に及ぼされた影響としては,受傷直後の不安定感や疼痛を回避するために,ヒラメ筋などの足関節周囲筋群の緊張性収縮を常時亢進させた状態で姿勢保持や動作遂行を繰り返していた影響があった可能性が推察された.
著者
福島 綾子 谷 万喜子 井上 博紀 高田 あや 鈴木 俊明 吉田 宗平
出版者
関西医療大学
雑誌
関西医療大学紀要 (ISSN:18819184)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.103-108, 2008

左第5指の局所性ジストニアと診断されたクラリネット奏者1症例に対して、鍼治療をおこなった。症例は35歳の男性で、クラリネット奏者である。X-2年8月、クラリネットの練習中に左第5指の動きにくさに気づいた。左第5指の局所性ジストニアと診断されて内服薬にて治療を開始したが、症状は軽快しなかった。X年1月、鍼治療目的で関西医療大学附属診療所神経内科を紹介されて受診し、研究への同意を得て鍼治療を開始した。動作分析や表面筋電図評価、触診より、本症例の問題点は左第4虫様筋、左第4掌側骨間筋の筋活動低下、左短小指屈筋、左小指対立筋の過剰な筋活動、左尺側手根屈筋の筋活動低下の3点と判断した。鍼治療は週一回、両側上肢区に置鍼、左第4虫様筋、左第4掌側骨間筋、左小指球、左尺側手根屈筋に集毛鍼をおこなった。その結果、6回という少ない治療回数でクラリネット演奏時の症状に改善傾向を認めた。本症例の治療結果から、楽器演奏者の局所性ジストニアに対して、鍼治療が有効であることが示唆された。
著者
酒井 英謙 谷 万喜子 西村 栄津子 上田 愛 福島 綾子 井上 博紀 高田 あや 鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.103-107, 2006 (Released:2007-01-30)
参考文献数
8
被引用文献数
5

According to acupuncture therapy for dystonia patients practised at the Outpatient Clinic, Kansai College of Oriental Medicine, there is a report that remote acupuncture therapy by the meridian concept is effective. It was reported that dystonia is sensory defect rather than dyskinesia, and we report acupuncture therapy of soft stimulus to normalize the upper central nervous system for stimulated sensory nerve. Based on the meridian theory, we investigated the influence of acupuncture stimulus to the sternocleidomastoid muscle (L14) through which the large intestine meridian (L1) passes on the hand, on the central nervous system and muscles by comparison of surface EMGS among 3 groups: no stimulus, 5 min stimulus, 20 min stimulus. After 20 min stimulus, both PMT and MT were significantly shortened compared with before stimulus. However, in the no stimulus and 5 min stimulus groups there were no differences in PMT and MT compared with before stimulus. This suggests that to excite the central nervous system and muscle function via the sternocleidomastoid muscle, 20 min acupucture is needed.
著者
溝端 直人 西 僚太 大熊 菜央子 山野 晶夫 佐々木 英文 鈴木 俊明
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.47-50, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
18

To study the effect of motor imagery by recording the F-wave, which indicates spinal excitability, in patients with a history of falls because of decreased toe flexor strength. Thirty healthy subjects (22 men and 8 women, mean age: 22.9 ± 6.4 years) participated in this study. The F-wave was recorded with all the subjects in a resting state. The subjects were subsequently instructed to contract the left flexor hallucis brevis with maximum effort. After a 5-min rest period, they were asked to imagine the muscle contraction. F-waves were recorded at 0, 5, 10, and 15 min after completion of the motor imagery exercise. An increasing trend was observed in the persistence of the F/M amplitude ratio during imagery. Although the F/M amplitude ratio was not significantly different between the motor imagery and rest conditions, it was 3.0 ± 1.3% in the rest condition and 3.3 ± 1.4% in the motor imagery condition. The rate of F-wave appearance was not significantly different between the two conditions but showed an increasing trend in both conditions (86.4 ± 16.1% and 87.7 ± 13.4%, respectively). Application of motor imagery to contract the flexor hallucis brevis with maximum effort has potential for fall prevention as part of fall avoidance therapy.