著者
阿部 智恵子 若林 芳樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

平成の大合併をめぐって地理学では,その地域的傾向や様々な問題点が検討されてきた(森川, 2012;神谷ほか, 2012)。とくに住民生活に直結する公共サービスへの影響に対して強い関心が向けられ,高齢者福祉を対象とした研究が進められている(畠山, 2007; 杉浦, 2009)。こうした高齢者福祉サービスは,市町村を越えた広域的運営がみられる(杉浦, 2007)のに対し,保育サービスは基礎自治体が担っているため,市町村間の多様性も大きい。しかしながら,市町村合併による保育サービスへの影響を取り上げた地理学的研究はみられない。本研究は,石川県かほく市を対象として,市町村合併に伴う保育サービスの調整過程を明らかにし,合併後の変化について検討することを目的とする。 かほく市は,2004年3月に河北郡の3町(高松町,宇ノ気町,七塚町)が対等合併して成立した。合併の動きが本格化したのは,地方分権一括法が施行された翌年の2001年からで,旧3町による合併協議会は2002年4月に発足した。2003年7月の合併協定書調印および町議会での議決を経て,2004年に平成の合併としては県内最初のケースとなった。合併に伴い,市庁舎を旧宇ノ気町役場に設置した。当初は旧高松町役場,旧七塚町役場にも一部の部署を分散させて支所として利用していたが,その後は宇ノ気の本庁舎に統合され,他の二つの旧庁舎はサービスセンターとして住民への窓口機能のみを担っている。合併前の職員は,新市でも継続して雇用されている。保育を担当する部署は子育て支援課で,保育所のほか,児童手当,子ども医療費助成,学童保育クラブ,児童館,ひとり親助成 などの業務を担当している。 合併協議会では,公共料金決定の基本方針を「住民の負担は軽い町に,サービス水準は高い町に合わせる」としており,保育サービスの水準もこれに基づいて定められている。表1のように,合併前の水準が相対的に高かった旧高松町に合わせてサービス水 準が設定されている。合併協議会においても保育料の設定をめぐる目立った議論はなく,また住民から特段の要望は出されていない。ただし,児童数の減少により定員充足率が低かった旧宇ノ気町では2つの保育所が休園している。 前述のように,保育所の定員充足率は合併前から低下しており,2004年当時は83.3%であった。その後も未就学児は減少が見込まれていたが,0歳及び1歳児の入園数の増加や,土・休日保育,延長保育のニーズの高まりに伴い,保育士を増やす必要性があった。当時市内にあった17箇所の保育所は,定員充足率に大きな差があり,また多くの施設が1970年代以前の老朽化した建物であったことから,効率的な運営のために保育所の統廃合が実施された。統廃合に当たっては,2005年に住民意向調査を実施し,保護者へのアンケート結果に基づいて立地やサービスに対する要望を把握している。これに基づいて統廃合の方針を定め,需要予測と通園圏を加味した上で,必要となる保育所数を高松地区3カ所,七塚地区3カ所,宇ノ気地区4カ所と割り出し,統合計画をたてている(図1)。また,かほく市の認可保育所はいずれも公設公営で,民間に比べて維持コストがかかるため,2014年度中には9カ所に統合されることになっている。
著者
樫田 美雄 岡田 光弘 五十嵐 素子 宮崎 彩子 出口 寛文 真鍋 陸太郎 藤崎 和彦 北村 隆憲 高山 智子 太田 能 玉置 俊晃 寺嶋 吉保 阿部 智恵子 島田 昭仁 小泉 秀樹
出版者
徳島大学
雑誌
大学教育研究ジャーナル (ISSN:18811256)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.93-104, 2008-03

ビデオエスノグラフィーは、当事者的知識を十分に摂取しながら行うビデオ分析であり、我々はこの方法で、高等教育改革の現場を研究した。生涯学習社会の到来を受けて、日本の高等教育は現在第2 次世界大戦直後以来の改革期にある。すなわち、「知識」より「生涯学習能力」の獲得を志向した、自発性を尊重するような様々な取り組みがなされ始めている。この高等教育の現場に対し、ワークプレース研究を行った。B大学工学部都市工学演習α班を分析対象とした調査の結果、①演習の課題解釈には「従来の指標の相対化の要求の程度」を巡って2つの解釈があり得たこと、②班内にはその2種類の解釈に対応した葛藤・対立的相互行為が存在したこと、③にもかかわらず、班内葛藤を生きる当事者がともに専門性(「都市工学」)を志向していたこと、④したがって、課題理解のいかんにかかわらず、班活動の全体が「都市工学演習」と呼び得るものになっていたこと、⑤その一方で、最終審査会場(ジュリー)ではこの2重性が十分レリバントなものとして浮かび上がって来ていなかったこと、これらのことがわかった。諸結果を総合すると、学生の自主的活動を尊重するタイプの、新しい学習方法の吟味・評価のためには、学生によるその方法の実践状況の分析が有意義であるだろうこと、また、それは、場合によっては教員の評価のパラダイムを変える力を持つだろうことなどが予測された。なお、本報告は、文科省科学研究費補助金「高等教育改革のコミュニケーション分析-現場における文化変容の質的検討-」(基盤研究(B)、 課題番号 18330105、研究代表者:樫田美雄)ほかによる研究成果の一部である。
著者
阿部 智恵子 若林 芳樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

地理学における保育サービスの研究は、主として保育資源の空間的配分や保育ニーズの地域的多様性の面から研究が進められてきた。それらの研究で対象になったのは、主として認可保育所である。しかし、子育て支援は働く母親を主たる対象にした認可保育所だけで充足されるわけではない。政府の子育て支援策でも、近年では全ての家庭を対象に地域のニーズに応じた多様な支援が進められている。その一つが全国に配置された子育て支援センターである。本研究は、従来の研究ではほとんど注目されることがなかった地方都市の子育て支援センターを対象にして、そこでのサービス供給と利用にみられる地域的特徴と課題を明らかにすることを目的とする。<br> 研究対象地域のかほく市は、石川県の中央部に位置し、2004年に河北郡のうち北部の3町(高松町、七塚町、宇ノ気町)が対等合併してできた人口34,659人(2010年国勢調査)の新しい市である。全国的にみて北陸地方は、女性の就業率が高く出生率も全国平均を上回ることから、比較的子育てに恵まれた環境にあるといえるが、かほく市も例外ではない。じっさい、かほく市の認可保育所待機児童数は長年ゼロが続いており、年少人口比率も24.1%と高い。また、3世代同居世帯が18.8%を占めることから、親族からの育児支援も受けやすいと考えられる。<br> 本研究は、質的・量的研究方法を併用した混合研究法を用いた。市内の子育てに関する情報は、かほく市役所での聞き取りと同市のWebページなどから収集した。子育て支援センターの利用実態については、2013年9月に、市内の3カ所のセンターを利用する母親を対象とした質問紙調査を実施し、80名から回答を得た。回答者のうち7名に対しては聞き取り調査を実施した。また、センターの職員7名(全員が女性)への聞き取り調査を通して、支援する側からみた利用実態と課題について検討した。<br> 子育て支援センターは、厚労省の地域子育て支援拠点事業の一環として設置されたもので、育児相談や子育てサークルの支援などを主たる任務としている。市内には公共施設の一部を使って3カ所のセンターが設置され、それぞれ複数の職員が配置されている。認可保育所については、合併後に新たに保育所整備計画が策定され、統廃合が進められた結果、現在10ヵ所ある認可保育所は、2015年には9ヶ所になる予定である。市の方針として、合併前の旧3町の融和と一体化に努めており、地域的バランスに配慮したまちづくりが進められてきた。こうした方針は、ゾーニングによる保育所配置計画や、旧町単位での子育て支援センターの設置にも反映されている。他の自治体では公設民営が多い中、かほく市の認可保育所や子育て支援センターはすべて公設公営という点に特徴がある。<br> 子育て支援センターを利用する母親の年齢は20~30代で、利用頻度は週3~4回と月1~2回が大部分を占め、複数のセンターを利用する人もいる。利用する理由の上位は、閉じこもり予防、親子の友達づくり、ストレス解消であった。当該施設を選んだ理由は、家が近い、雰囲気、スタッフの順に多く、9割以上の回答者がセンターのサービスに満足している。結婚や出産を機に退職した母親の割合は約半数にのぼるが、再就職や復職をめざしている人も少なくない。自由回答で挙げられた要望には、日曜日のセンターの開所、職場復帰後の病時保育、ベビーマッサージなど乳幼児でも参加できる行事、園庭の設置などであった。聞き取り調査からは、専業主婦は子どもの世話に専念できるとはいえ、地域の人の目や世の中から取り残されることへの不安がセンターの利用につながっていることも明らかになった。6.支援する側からみた子育て支援の課題子育て支援センターの職員は、親子の居場所、特に母親がリラックスできるような関わりに配慮しており、子どもの成長や発達を身近に感じられることが仕事のやりがいになっている。子育て情報の提供や育児相談にも丁寧に対応し、それらが利用者の満足度の高さにつながっていると考えられる。また、市外からの利用者も受け入れており、近隣の市町のほか、実家に帰省中の母親が利用することもあるという。一方、職員の大半は保育士の経験があるため、保育所との違いからくる自分の立ち位置や、親子との距離感に戸惑いを覚えていることがわかった。そこにはセンターの職員に資格の厳格な定めがなく、職務の専門性が不明確であることも影響している可能性がある。施設のハード面でも、別の公共施設を転用したセンターでは、設備とサービスが適合していないところがあるという。また、育児サークルの支援を行っているものの、親同士の人間関係の煩わしさから、サークルが拡大しにくい実態が示唆された。
著者
副田 義也 樽川 典子 加藤 朋江 遠藤 惠子 阿部 智恵子 株本 千鶴 嶋根 克己 牧園 清子 鍾 家新 藤村 正之 樫田 美雄 阿部 俊彦 時岡 新 村上 貴美子 藤崎 宏子 小高 良友 野上 元 玉川 貴子 坂田 勝彦 柏谷 至
出版者
金城学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

戦後内政の主要分野を、戦前期に内務省が専管した行政の諸分野に注目して、ひとつの統一的性格をもつものとして研究した。旧来、1947年の内務省解体は、連合国総司令部が強行した、否定的に評価されるべき事態として語られがちであった。しかし、その分割があったからこそ、その後の半世紀以上にわたる日本の福祉国家としての歩みが可能になったのである。すなわち、厚生行政、警察行政、建設行政、自治行政を担当する省庁の分立と発展、政策の複合による内政構造の拡大、深化である。
著者
樫田 美雄 寺嶋 吉保 玉置 俊晃 藤崎 和彦 出口 寛文 宮崎 彩子 高山 智子 太田 能 真鍋 陸太郎 五十嵐 素子 北村 隆憲 阿部 智恵子 岡田 光弘
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ビデオエスノグラフィーという新しい研究手法を開発しつつ、実際的な分析にも成果をあげた。即ち、大学生が専門技能を学ぶ実践の状況を相互行為の観点から明らかにした。例えば、医学部PBLチュートリアルにおいて、レントゲン写真をみる'専門的'方法としての「離して見る」という技法が、教師から学ばれ、学生集団のなかで模倣的に獲得されていく状況が確認できた。教育を結果から評価するのではなく、プロセスとして分析していくことへの展望が得られた。ISCAR第2回サンジエゴ大会等で報告を行った。