著者
山田 大輔
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.347, 2016 (Released:2016-04-01)
参考文献数
3

恐怖と食欲はともに生存に必須な本能である.動物が餌を探すなか天敵に遭遇した場合,恐怖を感じて危機回避行動が生じなければ捕食されてしまう.そして,この恐怖は記憶しておく必要がある(恐怖記憶).しかし,恐怖が強すぎて餌にありつけなければ餓死してしまう.つまり,動物の生存には恐怖と食欲のバランスを保つことが必要であり,それを実現するような神経機構が存在する可能性が考えられていた.この点についてVermaらは,空腹感が恐怖を司る神経回路をシナプス伝達レベルで修飾し,恐怖記憶を変化させること,その変化に摂食制御ペプチド受容体が関与することを報告したので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Verma D. et al., Neuropsychopharmacology, 41, 431-439 (2016).2) Holzer P. et al., Neuropeptides, 46, 261-274 (2012).3) Pape H. C., Pare D., Physiol. Rev., 90, 419-463 (2010).
著者
石渡 小百合
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.823, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
4

自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)は,社会性や言語コミュニケーションの障害,反復行動を特徴とする多表現型の疾患である.これまでの双性児研究や家族間一致率の研究等から,ASDの発症には遺伝的要因が関与していると考えられている.一方,末梢から供給される分岐鎖アミノ酸(BCAA)は脳の活動に重要である.Novarinoらは,ASD,知的障害そして癲癇患者の中に,BCAAの分解を抑制的に制御するbranched chain keto-acid dehydrogenase kinase(BCKDK)遺伝子の変異を持っている患者がいること,彼らの末梢中BCAA濃度は低下していることを明らかにした.本稿では,BCAAを脳内に輸送するトランスポーターの変異が,ある種のASD病態に関与し,さらにBCAAの投与がそうした病態を改善する可能性があることを示したTarlungeanuらの報告を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Bailey A. et al., Psychol. Med., 25, 63–77(1995).2) Zhao Z. et al., Cell, 163, 1064–1078(2015).3) Novarino G. et al., Science, 338, 394–397(2012).4) Tarlungeanu D. et al., Cell, 167, 1481–1494(2016).
著者
岡本 芳晴 菅波 晃子 田村 裕
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.1042-1046, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
4

我々は,患者(ヒト,コンパニオンアニマル等)に安全・安心な医療技術として,ナノテクノロジーによる高機能性医薬品と光テクノロジーによる医療機器を融合した非侵襲性医療システムを構築すべく研究開発を進めている.具体的には,インドシアニングリーン(ICG)の基本骨格にアルキル鎖またはリン脂質を修飾したICG誘導体を脂質二重膜に組み込んだリポソーム製剤,インドシアニングリーン修飾リポソーム(ICG-Lipo)を開発するとともに,ICG-Lipoによるドラッグデリバリーシステム(DDS)と近赤外線診断治療装置を併用することにより,乳がんの早期発見を可能にする「非侵襲性同定法」,外科手術が不可能な症例に対する「非侵襲性治療法」,末期がん患者に対する「質の高い緩和医療」等の創生に取り組んでいる.ICGを用いたがん治療に関しては,獣医領域において,鳥取大・岡本らによる先駆的な試みがある.具体的には,表在性がんを対象にがん組織に少量の抗がん剤を含有するICG溶液を局注後,光照射(光線温熱化学療法)を行ってきた.一方ICGを血管内に投与した場合,血漿タンパク質と速やかに結合し,肝実質細胞に取り込まれて胆汁に排泄される.そのため,センチネルリンパ節や腫瘍組織を特異的かつ長時間にわたって同定することが困難であり,深部のがんに対しては有効な診断・治療法には至らなかった.千葉大・田村らは,ICGの血中半減期を改善するとともに,センチネルリンパ節や腫瘍組織への特異的集積と長期間繋留を可能とするリポソーム製剤としてICG-Lipoを開発した.さらに,医薬品としてのICG-Lipoと医療機器としての近赤外線診断治療装置を併用した非侵襲性医療システムとして,非侵襲性同定法ならびに光線力学温熱療法を構築してきた.しかしながら,ヒト医療への承認段階において高い壁に行く手を阻まれていた.その後,鳥取大・岡本らは,千葉大・田村らからICG-Lipoの供給を受けることにより,近赤外線治療装置を併用したがん治療に関する検討を実験動物を用いて2011年1月より開始し,その安全性と有効性を確認した.また,「産学連携コンソーシアム:鳥取大・千葉大・民間動物病院・飛鳥メディカル・東京医研・立山マシン」を2013年9月に形成し,コンパニオンアニマルを対象とした獣医師主導型臨床試験による診断・治療を実施するに至っている.
著者
荒木 良太
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.61, 2021 (Released:2021-01-01)
参考文献数
1

脳と腸は,自律神経系や液性因子(ホルモンやサイトカインなど)を介して密に関連していることが知られている.近年,次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析法の登場により,ヒトの腸内細菌叢の実態が明らかになってきた.このことから,脳と腸だけでなく腸内細菌叢を加えた「脳-腸-腸内細菌叢軸」という概念が提唱され,腸内細菌叢の包括的な解析による中枢神経系疾患の病態メカニズムの解明が期待されている.こうした背景から本稿では,メタゲノム解析とバイオインフォマティクスツールにより,統合失調症患者の腸内細菌叢を包括的に解析したZhuらの論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Zhu F. et al., Nat. Commun., 11, 1612(2020).
著者
佐藤 勇二
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.1006-1008, 2014 (Released:2016-09-30)
参考文献数
10

一般名:イソソルビド薬価収載日:2005年7月8日
著者
石井 輝司
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.6, no.11, 1970-11-15
著者
横谷 馨倫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.708, 2015 (Released:2017-03-22)
参考文献数
3

様々な健康効果をうたったハーブやダイエタリーサプリメント(herb and dietary supplements:HDS)の利用が世界中で広がっており,日本でもその利用が増えている.HDSに添加されているハーブの原材料は,植物の根や茎,葉などであるが,有効成分ならびにその含有量は,利用された植物の部位,生育した産地や収穫時期により異なる.そのためHDSの安全性は,製品としても原材料としても十分に検証されているとは言い難く,近年のHDS利用者の増加に伴い,健康被害の報告も増えている.多くの消費者は「HDSは天然・自然で安心・安全,体によい」との思いから,HDSを安易に利用しているが,実際,誤った植物部位の使用,有害物質,農薬,重金属,医薬品成分の混入などによる健康被害の事例が報告されている.今回は,この10年間でHDS摂取による肝障害が7%から20%に増加したという,安易なHDS摂取に警鐘を鳴らす,最近の研究結果を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Gershwin M. E. et al., Ann. N.Y. Acad. Sci., 1190, 104-117 (2010).2) van Breemen R. B. et al., Am. J. Clin. Nutr., 87, 509S-513S (2008).3) Navarro V. J. et al., Hepatology, 60, 1399-1408 (2014).
著者
F. W. FOONG
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.795-798, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
1
被引用文献数
1

科学的研究において広く使用されるラテン語とギリシャ語およびそれらの使用法を理解し,習得することはとても大切である.ラテン語およびギリシャ語の基本を知ることが,科学的な報告を理解したり,論文原稿を読み書きする際の効率アップにつながるからである.また,冗長で扱いにくい文章も,ラテン語の術語を用いると簡潔に表現できることがある.さらに,研究発表の資料作成の際にも大変有用である.今回は,以下の3項目に焦点を当てて簡潔に説明する.すなわち,1.論文等で汎用されるラテン(略)語,2.ラテン語およびギリシャ語の単数形と複数形,ならびに,3.ラテン語やギリシャ語から造り出された新術語である.なお最近,米語論文誌の中には,特定のラテン(略)語(例えば,i.e.,viz.など)の使用を制限する傾向があるが,英欧系英語論文誌では今後もラテン(略)語が使用されると考えられる.
著者
船山 信次
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.827-831, 2016

アサは古くから人類によって利用され、その繊維は一般に麻と書く。一方、単に麻というと種々の繊維が採れる異なる植物の総称であることから、アサを大麻と称することがある。大麻というと、「大麻取締法」で規制されているドラッグのイメージがあるが、大麻という言葉には本来悪い意味はない。<br>ここではアサの来歴から、アサが大麻取締法にて規制されようになったいきさつ、そして、大麻吸引から派生した危険ドラッグの誕生とその正体について述べる。