著者
石黒 智恵子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.772-776, 2022 (Released:2022-08-01)
参考文献数
19

COVID-19ワクチンは、これまでのワクチン開発に比べると非常に短期間で開発・承認され、世界中で接種が開始された。その開発スピードに合わせるかのように、承認後ワクチンの安全性・有効性に関する新しい知見について、既存のデータベースを活用した疫学研究が一流雑誌の紙面を賑わしている。本稿は世界各国のCOVID-19ワクチンの有効性や安全性に関する疫学研究を事例に、最近のワクチン疫学の動向を紹介する。
著者
牧野 利明
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.109-113, 2021 (Released:2021-02-01)
参考文献数
6

ブシは、トリカブト属植物の根を加熱等により減毒化した生薬であり、鎮痛の効能をもつ。ブシの漢方医学での薬能である散寒止痛から、オキサリプラチンの副作用、冷痛覚過敏に対する作用を検討し、その有効成分としてネオリンを同定した。ブシおよびネオリンは、パクリタキセルまたは坐骨神経結紮によるマウス神経障害性疼痛モデルでも有効であった。ネオリンは加熱により分解せず、減毒化してもブシが鎮痛薬として有用な背景を明らかに出来た。
著者
北島 智也
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.24-28, 2022 (Released:2022-01-01)
参考文献数
16

卵子の染色体数異常は、卵母細胞の減数分裂における染色体分配エラーによってもたらされ、不妊、流産、ダウン症などの先天性疾患の原因となる。重要なことに、このエラーの頻度は加齢とともに上昇する。本稿では、マウス卵母細胞およびヒト卵母細胞を用いた研究から得られた知見を紹介しながら、染色体分配エラーの原因を細胞生物学的な視点から考察する。
著者
横川 貴美 北村 雅史
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.1034-1035, 2023 (Released:2023-11-01)

城西大学薬用植物園は西に秩父の山並がそびえ、南には高麗川がゆったりと流れている場所に位置しており、薬学教育のみならず、文系・理系学部を問わず幅広く利用されている。また、在学生・教職員はもとより、卒業生や地域の皆様にも開放し、「憩いの空間」としての環境づくりを心掛けている。今回は城西大学薬用植物園の講義や研究、委員会活動を通じた利活用やSNSを通じた情報公開について紹介している。
著者
秋篠 邦治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.525-529, 2018 (Released:2018-06-01)
参考文献数
2

医療用麻薬の使用には,「必要な患者に適切に使用し痛みを緩和する」「乱用されないように医療関係者等に厳格な取扱いを求める」という2つのポイントがある.このことを踏まえて規制の仕組み,我が国の使用状況,適正使用推進のための施策を紹介するとともに,国外の状況(特に米国における乱用状況)や日本における医療関係者等による医療用麻薬の乱用事例などを紹介する.
著者
山本 貴史
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.205-209, 2016 (Released:2016-03-01)
被引用文献数
1

国立大学が法人化されて11年が経過した.近年の科学技術政策では,度々基礎研究の重点化に加え,イノベーションの実現が大きなテーマとして取り上げられる.では,イノベーションとは何か? イノベーションの定義には,シュンペーターの創造的破壊,技術革新,経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development:OECD)による定義など様々な見解があるが,マサチューセッツ工科大学のWilliam Aulet教授は,シンプルにイノベーション=インベンション(発明)ではなく,イノベーション=インベンション×コマーシャライゼーションであると定義しており,つまりイノベーションは「価値」であると言及している.このように考えると,とてもシンプルである.つまり,イノベーション立国を実現するには,質の高いインベンション(発明)を数多く生み出し,これを事業化できる環境を整備すれば良いということである.我が国における産学連携活動は,1998年の技術移転機関(Technology Licensing Organization:TLO)法案,2003年知財本部整備事業,2004年の国立大学法人化と様々な施策が講じられ活発化しつつあるが,今回は,発明が生まれて事業化されるまでの一連の流れを示し,我が国がイノベーション立国になるために求められる様々な施策について言及したい.
著者
坂本 将俊
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.663-667, 2017 (Released:2017-07-01)

我が国での抗うつ剤の歴史は1958年に世界初の抗うつ剤であるイミプラミン(商品名:トフラニール)が発売されたところから始まった。イミプラミンが発売されてから50年以上が経ち、抗うつ剤も少しずつ進化してきた。初期の抗うつ剤は副作用に大きな問題があったが、現在の抗うつ剤は安全性に優れるものが多くなってきた。しかし現在においても抗うつ剤の基本的な原理はいまだ変わっていない。このコラムでは、現在使われている抗うつ剤について、その効果・副作用と限界について、抗うつ剤の歴史をみながら照会する。
著者
告 恭史郎
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1168, 2019 (Released:2019-12-01)
参考文献数
2

アセチルサリチル酸(アスピリン)は,1899年に販売が開始された最も古い化学合成医薬品であり,現在も世界中で解熱鎮痛薬として汎用されている.1970年代,アスピリンの薬理作用が,「cyclooxygenase(COX)の酵素活性を阻害し,プロスタグランジンの産生を抑制する」と見いだされたのを皮切りに,数多の非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs)が開発された.しかし,アスピリンは後に開発されたNSAIDsとは異なり,COXの活性中心のセリン残基をアセチル化することで,その酵素活性を不可逆的に阻害するという極めて特異な作用機序を有する化合物である.本稿では,アスピリンの新規標的分子として,cyclic GMP-AMP合成酵素(cGAMP synthase: cGAS)を見いだし,本薬がCOXではなくcGASのアセチル化を介して,自己免疫疾患の治療効果を発揮することを示したDaiらの論文を概説したい.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Dai J. et al., Cell, 176, 1447-1460(2019).2) Dou Z. et al., Nature, 550, 402-406(2017).
著者
中村 直人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.1047, 2021 (Released:2021-11-01)
参考文献数
1
被引用文献数
8

mRNAを医薬品として応用する試みが加速度的に進んでいる.COVID-19ワクチンに留まらず,その短時間の発現を利用してオフターゲットの懸念が大きい遺伝子編集治療への応用も期待されている.生体成分との接触で容易に分解するmRNAを医療応用するには,脂質ナノ粒子(lipid nanoparticle: LNP)に内包する手法がよく用いられる.典型的なLNPでは,細胞外でのmRNAの安定化や細胞内でのエンドソーム脱出を目的に,イオン化脂質,リン脂質,コレステロール,PEG脂質の4成分が使用される.これまでイオン化脂質のpH応答性を最適化しエンドソーム脱出能を付与する研究が多く行われてきたが,本稿では,粒子表面の安定化を担うリン脂質にpH応答性を付与し,活性向上および臓器選択性の付与を検討した報告を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Shuai L. et al., Nat. Mat., 20, 701-710(2021).
著者
鹿山 将
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.869, 2023 (Released:2023-09-01)
参考文献数
2

脳は,末梢神経を介して末梢臓器の活動を感知し,制御している.こうした脳と末梢組織との関連は,近年注目を集めている.例えば,大脳皮質の一部である島皮質は,身体の内部の活動と深く関連する.マウスを用いた知見では,炎症に関連する島皮質の神経細胞を人工的に活性化させることで,腸内の免疫細胞が炎症時と類似した挙動を示すことが報告されている.このことは,島皮質が腸内の炎症状態を記憶し,制御する可能性を示している.一方で,炎症発生時に複数の脳領域の活動が変化することから,こうした機能は島皮質だけでなく,他の脳領域も担っている可能性が考えられてきた.本稿では,海馬の中でも,特に情動記憶と関連する腹側海馬に着目し,末梢組織における炎症性疼痛との関連を明らかにしたShaoらの報告を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Koren T. et al., Cell, 184, 5902‒5915.e17(2021).2) Shao S. et al., Cell. Rep., 41, 112017(2023).
著者
美田 敏宏
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.371-376, 2021 (Released:2021-05-01)
参考文献数
24

マラリアは世界三大感染症のひとつである。アルテミシニンは全ての流行国でマラリアに対する第1選択薬となっている。その導入によってマラリアによる死亡者が減少し、発見者である屠呦呦にはノーベル生理学・医学賞が授与された。しかし10年ほど前からアルテミシニン耐性原虫が出現し、その蔓延が問題となっている。本稿では、アルテミシニン耐性のメカニズムと、耐性遺伝子であるKelch13、そして解明されていなかった両者の間のミッシングリンクについて最新の知見を概説する。
著者
大岡 伸通 内藤 幹彦
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.41-45, 2020 (Released:2020-01-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1

近年、細胞内の狙ったタンパク質を特異的に分解する化合物を創製する技術が開発され、新しい低分子薬の創薬モダリティとして製薬業界やアカデミアを中心に大きな注目を集めている。本稿では、これらの化合物の総称として定着しつつあるPROTAC(Proteolysis-targeting Chimera)の開発経緯、医薬品開発企業の動向、従来の低分子薬とは異なる特徴や将来の展望などについて概説する。
著者
山元 良 本間 康一郎 佐野 元昭 佐々木 淳一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.44-47, 2021 (Released:2021-01-01)
参考文献数
8

水素ガス吸入療法に関する様々な動物および臨床研究が行われており、種々の疾患・病態に対して治療効果を持つことが示唆され、人に対しての安全性が示されている。特に、急性心筋梗塞や心肺停止蘇生後症候群、さらには新型コロナウイルス感染症においての治療研究が進んでおり、心肺停止蘇生後症候群に関しては、二重盲検下ランダム化比較試験が複数の医療機関において現在進行中である。ここでは、水素ガスの将来の新規薬剤としての可能性を紹介する。
著者
二村 隆史
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.696-698, 2017 (Released:2017-07-01)
参考文献数
7

大うつ病性障害(うつ病)は1つの病気として診断されているが,症状に多様性があり,発症の原因も解明されていなことから,未だ明確な治療薬ターゲットを特定できていない.その診断についても,治療方法,時代,社会的環境により変化してきた“曖昧さ”を持った疾患であり,このことも治療薬の開発を困難にしていると考えられる.本稿では,その内容と今後の展望について述べたいと思う.
著者
平崎 誠司
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.894-896, 2018 (Released:2018-09-01)
参考文献数
3

肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor:HGF)は血管新生作用を持つ。アンジェスはHGFによる虚血性疾患を対象とした遺伝子治療薬の開発に取り組んでいる。動脈硬化などを原因とした難治性の疾患で、有効な治療法のない重症虚血肢を対象としたHGF遺伝子治療薬について、2018年1月に国内で製造販売承認の申請を行った。新たな承認制度である条件及び期限付き承認の獲得を目指しており、実現すれば国内初の遺伝子治療の承認となる可能性がある。