著者
菊沢 喜八郎
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.359-368, 1980-12-30
被引用文献数
4

Leaf-fall pattern of six alder species (subgenus Gymnothyrsus : Alnus hirsuta, A. inokumae, A. glutinosa, A. japonica ; subgen. Alnaster : A. maximowiczii, A. pendula) was investigated from 1976 to 1979. A large quantity of leaves of the species belonging to the subgen. Gymnothyrsus fell in summer, which reached 30-50% of the yearly leaf fall. The first, second and/or the third leaves counted from the shoot base of these species almost fell in summer. These two or three leaves near the shoot base are small-sized, which indicates that these leaves are in course of reduction, and they fall early in summer after they have played a role as early leaves. In the subgen. Alnaster, the lamina of the first node is reduced and disappeared, and the remaining two stipules are connate in a bud scale which fall in late spring or early summer after it has played a role of the bud protection, while the leaves did not fall until autumn. Thus the extraordinary leaf fall in summer was not observed on the species of this group, and it was less than 10% of the total fall.
著者
高橋 佑磨
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.167-175, 2014-11-30 (Released:2017-05-20)
参考文献数
51
被引用文献数
2

種内の遺伝的多型は、種分化の初期過程の例、あるいは遺伝的多様性のもっとも単純な例であることから、古くから理論的にも実証的にも研究が盛んに行なわれてきた。結果として、遺伝的多型に関する研究は、種分化や多様性の維持機構というような進化学や生態学において中核をなす重要なプロセスの理解に大きく貢献している。しかしながら、遺伝的多型の維持機構は実証的には検証が充分であるとはいいがたい。その理由の一つには、生態学者の中で多型の維持機構について正しい共通見解がないことが挙げられる。もう一つの大きな理由は、これまでに示されてきた多型の維持機構に関する証拠は状況証拠に過ぎない点である。選択の存在やその機構との因果性を担保できない断片的な状況証拠では多型の維持機構を包括的に理解することにはならないのである。そこで本稿では、まず、遺伝的多型の維持機構に関してこれまでに提唱された主な説を概説するとともに、それらの関連を体系的に捉えるための"頻度依存性"という軸を紹介する。ついで、負の頻度依存選択を例に、これまでに行なわれた多型の維持機構に関する実証研究の問題点を明確にしていく。そのうえで、選択のプロセスの複数の段階で選択の証拠を得、それらの因果性をできるかぎり裏付けていくという研究アプローチの重要性を述べたい。個体相互作用の引き金となる行動的・生理的基盤からその生態的・進化的帰結を丁寧に結びつけるこのような多角的アプローチは生態学や進化学が扱うあらゆる現象に適用可能な手法であると思われる。
著者
入江 貴博
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.169-181, 2010-07-31 (Released:2017-04-21)
参考文献数
74
被引用文献数
1

温室効果ガスに起因する地球温暖化への懸念を背景として、欧米では外温生物の温度適応に関する研究集会が近年頻繁に開催されている。決定成長の生活史を伴う分類群を対象とした研究者の間では、低い温度環境で育った外温動物が長い発育期間を経て、より大きな体サイズで成熟するという反応基準の適応的意義が古くから議論の対象となってきた。この温度反応基準は、分類群の壁を越えて広く観察されることから「温度-サイズ則」と呼ばれている。温度-サイズ則が制約の産物であって、自然淘汰の産物ではないのだという可能性は、主に昆虫を対象とした実証研究によって繰り返し否定されてきた。その一方で、この普遍的な反応基準を進化的に支える適応的意義を説明する数多くの(相互に背反しない)仮説が提唱されている。この数年で温度-サイズ則の適応的意義を説明するための理論的基礎は整いつつあり、現在はそれらの妥当性を検証するための実証研究に対する需要が高まっている。しかしながら、多くの仮説は生活史進化の分野で理論研究の一翼を担ってきた最適性モデルに基づくものであり、数式を用いた表現に慣れていない者にとっては、その論理を直感的に理解することが容易でない。従って、本稿ではまず生活史形質の温度反応基準に関する過去の研究を幅広く紹介することで、この分野での基礎となる考え方を紹介する。次に、温度-サイズ則の適応的意義を説明するために提唱されている代表的な仮説をいくつか取り上げ、可能な限りわかりやすく解説する。最後に、この問題を解決するために今後取り組まれるべき課題を述べる。
著者
森本 元 高橋 佑磨 鶴井 香織
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.39-46, 2015-03-30 (Released:2017-05-20)
参考文献数
44
被引用文献数
2

クラインは、生物の形質の進化や適応のメカニズムを検討可能な興味深い現象である。この現象には古くから多くの進化学者・生態学者が魅了され、さまざまな経験的一般則が発見されてきた。量的形質である体サイズや体重のクラインを扱ったベルクマンの法則は、その代表例である。ただし、これらの法則は、優れた視点を有すると同時に、その定義に曖昧な部分も多い。クラインとは空間的なパターンのことであるが、それを生み出すメカニズムは一つではない。それゆえ、観察された現象へ与えられる名称と、その現象を説明するメカニズムは、区別して扱われるべきである。しかしながら、現状ではこの点について混乱もある。ベルクマンの法則の適用範囲が拡大していく中で、アレンの法則や温度-サイズ則といった温度勾配を背景とした法則とベルクマンの法則との関連性および相違点を改めて確認し、整合性を与える必要も生じている。そのためには、量的形質のクラインが地理的な環境要因の勾配に応じた可塑的応答と、量的遺伝を基盤とした適応進化の地理的差異によって構成されることを再確認することが第一歩となる。本稿では、量的形質のクラインにおける基礎的な考えと量的形質のクラインに関する法則の問題点を整理することで、マクロな視点から生物の一般則を導く「クライン研究」がさらなる進展をするための基盤整備を目指す。
著者
市岡 孝朗
出版者
日本生態学会暫定事務局
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.429-438, 2016 (Released:2017-01-27)

熱帯雨林は生物多様性の宝庫として数多くの研究者を魅了してきた。その多様性の根幹をなすのは、昆虫類を中心とする節足動物である。なぜ、熱帯雨林では節足動物の種類が極度に多いのか。多様な節足動物の進化を促し、共存を許容する要因の一つとして、熱帯雨林の「大きな」林冠の存在に関心が払われてきた。熱帯雨林の樹木の生産・成長・繁殖活動の中心である林冠には、多様な樹種の梢・葉・花・果実が豊富に産み出されるほか、様々な着生植物、つる植物、絞め殺し植物が繁茂して、微気象的な環境要因が異なる多様な微小空間が集まってできあがった複雑な立体構造が形成されている。こうした林冠の特性が、熱帯雨林における節足動物の高い多様性の創出・維持に大きく貢献しているのではないかと考えられてきた。本論文では、この仮説を実証的に検証することをめざした、今日に至る一連の研究を整理して、今後の研究の展望を示すことを目的とした。仮説を検証する第一歩として、熱帯雨林の林冠には、同地の林床や他のタイプの森林の林冠と比べて、いかに多くの節足動物が生息しているかを示そうとした研究がなされてきた。これらの研究結果から、熱帯雨林ではほとんどの分類群で林冠と林床の両方に共通する種の数はかなり少ないこと、熱帯から温帯に向かって林冠の大きさ・複雑さが減少すると林冠の節足動物種数が減少することなどが示された。仮説のさらなる検証には、林冠のどの部分にどのような節足動物が生息しているのか、林冠のなかにみられる環境勾配に対して種構成がどのように変化するのか、節足動物が関与する生物間相互作用が林冠内の空間異質性に対してどのように反応しているのか、などといったことを具に明らかにする必要が有る。しかし、熱帯雨林の林冠は、あまりに背が高いために研究活動が容易には進展せず、それらの問題を解決するための野外調査が進んで来なかった。高い林冠という障壁を克服するため、近年、林冠観測システムが世界中の熱帯のいくつかの地点に設置され、林冠の節足動物群集についての研究が急速に進展した。筆者らによる林冠のアリ類群集の資源利用様式に関する一連の研究成果を含む、林冠観測システムを用いた研究結果から、熱帯雨林の林冠には多様な微小環境が混在しており、その空間異質性に対応する形で、これまで予想されていた以上に多様で量も豊富な節足動物群集が存在していることが明らかになってきた。
著者
岩崎 貴也 阪口 翔太 横山 良太 高見 泰興 大澤 剛士 池田 紘士 陶山 佳久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.183-199, 2014-11-30 (Released:2017-05-20)
参考文献数
97
被引用文献数
1

生物地理学は、歴史的側面や生態的側面などの観点から、生物の分布パターンや分布形成プロセスの解明を目指す学問であり、進化生態学や群集生態学、保全生物学などの分野とも強い関連をもつ学際的領域である。1990年代以降、遺伝解析技術の恩恵を受けた系統地理学の隆盛によって、生物地理学は大きな発展を遂げてきた。さらに近年では「地理情報システム(GIS)」や、それを利用した「気候シミュレーション」、「生態ニッチモデリング」といった新たな解析ツールが、生物地理学分野に新しい流れを生み出しつつある。その基礎的な活用例として、現在の生物種の分布情報と気候要因から生態ニッチモデルを構築し、気候シミュレーションから得られた異なる時代の気候レイヤに投影するというアプローチが挙げられる。これにより、過去や現在、未来における生物の分布を予測することが可能となり、時間的な分布変化を推定することができる。さらに、GISを活用して、モデル化された生態ニッチや系統地理学的データを複合的に解析することで、近縁種間でのニッチ分化や、分布変遷史を考慮に入れた種分化要因の検証、群集レベルでの分布変遷史の検証なども可能となる。本総説では、最初に基礎的な解析ツールについて解説した後、実際にこれらのツールを活用した生物地理学とその関連分野における研究例を紹介する。最後に、次世代シークエンシングによって得られる膨大な遺伝情報や古DNAデータの有用性について紹介した後、それらの情報を用いた生物地理学や関連分野における今後の展望について議論し、GIS技術がその中で重要な役割を果たしうることを示す。
著者
西川 潮
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.269-277, 2015-11-30 (Released:2017-05-23)
参考文献数
22
被引用文献数
3

水田は農作物の栽培の場を提供するだけでなく、かつて氾濫原湿地を利用していたさまざまな生物に棲み場や餌場を提供する。近年、水田は、その代替湿地としての重要性が見直され、農業生産と生物多様性再生の両立を念頭に置いた生物共生農法への取り組みが全国各地で進められている。佐渡市では、2008年度より開始されたトキ(Nipponia nippon)の再導入事業に合わせて、水稲農業に水田の生物多様性再生を軸とした「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度が導入された。2013年現在、全島の約24%の水田で認証米栽培への取り組みが進められている。この消費者と一体となった農地の環境保全体制、トキが棲む里地・里山景観、そして金山の影響を受けた固有の文化が認められ、佐渡市は2011年に、国際連合食糧農業機関(FAO)により世界農業遺産(GIAHS)に認定された。本報告では、佐渡市における生物共生農法への取り組みが、トキ、両生類、魚類、および大型底生無脊椎動物(底生動物)といった水田の生物多様性に与える影響について紹介する。生物共生農法の取り組み効果は、分類群によっても、水田内外の環境要因や土地利用によっても、空間スケールによっても異なり、とくに、耕作期および非耕作期の安定した湛水環境創出の取り組みや、減農薬・減化学肥料の取り組み、水田と水路の連結性確保の取り組みが水田の生物多様性向上に効果的であると考えられる。佐渡市では多様な農法への取り組みが水田の生物多様性を向上させていることが示され、今後も農法の多様性を維持向上させ、その成果を認証米の販売に活かしていくことが、里地・里山の自然再生を持続的に推進していくうえで重要と考えられる。
著者
伊澤 雅子 土肥 昭夫 小野 勇一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.373-382, 1982-09-30
被引用文献数
3

IZAWA, Masako, DOI, Teruo & ONO, Yuiti (Dep. Biol., Fac. Sci., Kyushu Univ.). 1982. Grouping patterns of feral cats (Felis catus) living on a small island in Japan. Jap. J. Ecol., 32 : 373-382. Range utilization and social relationship of feral cats (Felis catus) were investigated by direct observation and radio-tracking. The range structure of the feral cat in this study also resembled the pathnetwork systems described by HEDIGER. The range of cat was composed of three characteristic components such as a feeding site, resting sites and paths. Each cat used only one feeding site and did not switch it seasonally. The cats utilizing the same feeding site organized "feeding group". Synchronization of feeding activity and overlapping ranges of the members of the same feeding group were observed. These features of feeding group show the amicable relationship among the members. It was considered to result in the adaptation to clumped distribution of abundant food resource.
著者
馬場 稔 土肥 昭夫 小野 勇一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.189-198, 1982-06-30
被引用文献数
5

Home range and activity studies were carried out by radio-tracking and direct observation on nine giant flying squirrels. The radio-tagged animals utilized their home ranges heterogeneously, and heavily used areas corresponed with the patchy distribution of secondary forests which were the major food resources. Home ranges were considerably overlapped with one another especially at a shrine courtyard where nesting sites were clumped. Mature forest providing tree holes suitable for nesting appeared to be indispensable for their settlement. The range size varied from 0.46 to 5.16 ha. The shape and size of the range are considered to depend on the distributional pattern of food and nesting sites. Further, they occasionally shifted their heavily used areas, which suppsed to be caused by the local shifting of food availability. Their gliding ability directly connected patchily distributed resources by one or a few glidings. Thus, their heterogeneous utilization within their home ranges can be more easily investigated than any terrestrial mammals.
著者
米倉 竜次 河村 功一 西川 潮
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.153-158, 2009-07-31 (Released:2017-04-20)
参考文献数
34
被引用文献数
3

外来種の小進化に関する研究は分子遺伝レベルでの解析と表現型レベルでの解析を中心に発展してきた。しかし、分子遺伝マーカーでみられる遺伝変異はおもに遺伝的浮動による影響のみを反映しているのに対し、表現型レベルでの変異には遺伝的浮動に加え自然選択による影響も大きく関与していると考えられる。したがって、分子遺伝レベル、もしくは、表現型レベルのみの解析では、定着成功や侵略性に影響する外来種の性質が遺伝的浮動により影響されているのか、もしくは、自然選択により影響されるのかを区別することは難しい。しかし、外来種の表現型の小進化に対して遺伝的浮動と自然選択のどちらが相対的に重要であるのかを把握しなければ、導入された局所環境への外来種の定着成功や侵略性が小進化によりどう変化(増加、それとも減少)するのかを議論することは困難であろう。この総説では、この問題を解決する方法としてF_<ST>-Q_<ST>法を概観するとともに、外来種の管理対策へのその適用についても考えた。
著者
神保 宇嗣 吉武 啓 伊藤 元己
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.123-130, 2008

DNAバーコーディングによる同定法では、形態や生態のかわりに、同定したいサンプルのDNAバーコードと専門家が同定した証拠標本のそれとを比較し、最も類似するバーコードを持つ種を同定結果とする。この手法には、網羅的なバーコードデータベースとオンライン検索システムから構成される同定支援システムが必要であり、Barcode of LifeプロジェクトではこれらはBarcode of Life Data Systemsとしてオンライン公開されている。我が国ではこの手法に対する関心はまだ高くなく、研究基盤を確立するには研究者や利用者側からの活動の集約が不可欠である。そこで著者らはDNAバーコードに関する活動拠点として「日本バーコードオブライフ・イニシアティブ(JBOLI)」を昨年設立した。この組織は、本手法に関する啓蒙普及と活動支援を目的して、国内向けに情報発信・関連組織との調整・データベース整備・同定支援システム作成を行っている。DNAバーコーディングに基づく同定には明白な限界も存在するので、より正確な同定には各生物種の様々な情報も活用する必要がある。現在、世界的な種情報データベースプロジェクトが立ち上げられている。種情報の集積が進めば、DNAバーコードによる同定支援システムで候補種を絞り込み、その結果をもとに種情報データベースを検索することで、種情報への容易なアクセスと正確な同定が可能になる。
著者
安部 哲人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.17-25, 2014-03-30 (Released:2017-05-19)
参考文献数
73

生物多様性の喪失に伴う生態系機能への影響は生態学の主要な研究課題である。送粉も生態系機能の一つであり人類はその恩恵を受けているが、世界各地で人為的撹乱による送粉系の衰退が報告されている。このため、送粉者の多様性と生態系機能の関連、及びそれらの撹乱による影響を調べる研究も盛んに行われている。本稿では、まずハナバチを中心に送粉者の多様性とその機能について概観し、次いで、小笠原諸島の送粉系を例に交えながら送粉系衰退の現状と、それによる機能やサービスへの影響について知見の現状を紹介する。