著者
土居 秀幸 岡村 寛
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.3-20, 2011
参考文献数
49

群集生態学では、古くから類似度指数を用いた解析が頻繁に用いられてきた。しかし近年、汎用性の高い新たな類似度や検定手法が提案されているにもかかわらず、それらが十分に普及し利用されているとは言い難い。そこで、本総説では、現在までに発表されている代表的で有用な類似度、それを使ったグラフ表示、統計的検定について解説を行う。各類似度の成り立ち、指数ごとの特性、利用方法について初学者向けの説明を試みる。各種手法の理解の助けのため、統計ソフトRのveganパッケージを用いた分析を取り上げ、例題や付録のRコードを用いてveganによる解析手順を紹介する。利用実態としては、Jaccard指数など古くから提案されている指数が近年でも多く用いられているが、Chaoによって近年開発された指数は希少種を考慮した汎用性の高い類似度指数として優れており、Chao指数の利用が促進されることが望ましい。また、類似度を用いた検定についてもPERMANOVAなどの新しい統計手法の利用が図られるべきである。今後の群集解析において、これらの手法が取り入れられることにより、より適切な生態系の評価が行われ、新たな発見につながることが期待される。
著者
深澤 圭太 石濱 史子 小熊 宏之 武田 知己 田中 信行 竹中 明夫
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.171-186, 2009-07-31
被引用文献数
7

野外の生物の分布パターンは生育に適した環境の分布や限られた移動分散能力などの影響をうけるため、空間的に集中した分布を持つことが多い。データ解析においてはこのような近隣地点間の類似性「空間自己相関」を既知の環境要因だけでは説明できないことが多く、近い地点同士ほど残差が類似する傾向がしばしば発生する。この近隣同士での残差の非独立性を考慮しないと、第一種の過誤や変数の効果の大きさを誤って推定する原因になることが知られているが、これまでの空間自己相関への対処法は不十分なものが多く見られた。近年、ベイズ推定に基づく空間統計学的手法とコンピュータの能力の向上によって、より現実的な仮定に基づいて空間自己相関を扱うモデルが比較的簡単に利用できるようになっている。中でも、条件付き自己回帰モデルの一種であるIntrinsic CARモデルはフリーソフトWinBUGSで計算可能であり、生物の空間分布データの解析に適した特性を備えている。Intrinsic CARモデルは「空間的ランダム効果」を導入することで隣接した地点間の空間的な非独立性を表現することが可能であると共に、推定された空間的ランダム効果のパターンからは対象種の分布パターンに影響を与える未知の要因について推察することができる。空間ランダム効果は隣接した地点間で類似するよう、事前分布によって定義され、類似の度合いは超パラメータによって制御されている。本稿では空間自己相関が生じるメカニズムとその問題点を明らかにした上で、Intrinsic CARモデルがどのように空間自己相関を表現しているのかを解説する。さらに、実例として小笠原諸島における外来木本種アカギと渡良瀬遊水地における絶滅危惧種トネハナヤスリの分布データへの適用例を紹介し、空間構造を考慮しない従来のモデルとの比較からIntrinsic CARモデルの活用の可能性について議論する。
著者
定塚 謙二 安達 博文
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.221-227, 1979-09-30
被引用文献数
1

Survival time of O.latipes exposed to sulphuric acid solutions decreased with a lowering of pH. There was a linear relationship between log survival time and pH value within the range of pH 2.5 to 5.0. The toxicity of strongly dissociating inorganic and organic acids, such as sulphuric, hydrochloric, citric and oxalic acids, was generally low as compared with that of acetic acid. The presence of NaCl, CaCl_2 and MgCl_2 most effectively prolonged the survival of medaka in strongly acidic environments at the concentrations of 100-200 mM, 30 mM and 50mM, respectively. In contrast, the presence of 100-200 mM NaCl reduced survival time at the control pH value (5.5). Oxygen consumption sharply decreased in acidic solutions, but was hardly affected by the presence of NaCl at pH 4.0 except for 150 mM NaCl which is approximately isotonic to fish blood. Free CO_2 more than 30 ppm increased the toxicity of acidic environment. The acidic environment caused coagulation of mucus, but the presence of Ca ions was effective for the suppression of mucous coagulation.
著者
小沼 順二 千葉 聡
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.247-254, 2012-07-30
被引用文献数
1

分布の重複する2種が、異所的な個体群間では同様の形質値を示す一方で、同所的な個体群間では異なる形質値を示すことがある。形質のこのような地理的パターン形質置換とよばれ、種間相互作用が形質分化に影響を与えたことを示す重要な証拠となる。形質置換は、「生態的形質置換」と「繁殖的形質置換」の2つに分類される。生態的形質置換とはフィンチのくちばしやトゲウオの体型のように、資源利用に関わる形質の分化パターンのことであり資源競争がその主要因として考えられる。一方、繁殖的形質置換とは体色や鳴き声など繁殖行動に関わる形質の分化パターンのことであり、交配前隔離機構の強化の結果生じる分化パターンをさす。種間交雑によって生じるコスト、すなわち「繁殖干渉」を避けるように、交配相手認識に関わる形質が種間で分化するパターンといえる。これまで多くの生態的形質置換研究事例が報告されてきたが、実際それらにおいて種間競争を示した研究は非常に少ない。そこで我々は「生態的形質置換と思われている形質分化パターンの幾つかは実際には資源競争が要因ではなく繁殖干渉によって生じたのではないか」という仮説を立てた。特に体サイズのように資源利用や繁殖行動両方に関わる形質の分化では、資源競争の効果を考えなくても繁殖干渉が主要因として働き形質分化が生じる可能性を考えた。そこで同所的種分化モデルを拡張したモデルを用い本仮説の理論的検証を行った。その結果、たとえ種間に資源競争が全く存在しないという条件下においても資源利用に関わる形質が隔離強化の結果として2 種間で分化し得ることを示すことができた。この結果は、繁殖干渉が種間の形質差を導く主要因になり得ることを示している。
著者
亀山 慶晃 大原 雅
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.245-250, 2007-07-31 (Released:2016-09-15)
参考文献数
31

クローナル植物の繁殖様式や生活史特性は極めて多様であり、栄養繁殖が集団維持に果たす役割も多岐に渡っている。また、栄養繁殖と有性繁殖のバランスは各種および集団が成立する生態学的要因と遺伝学的要因の双方を反映し、様々な時空間スケールで変化する。従って、クローナル植物集団の維持機構を明らかにするには、繁殖様式を変化させている要因と、各繁殖様式(繁殖器官)が集団維持に果たしている役割を理解する必要がある。著者らは浮遊性の水生植物タヌキモ類における不稔現象に着目し、不稔をもたらす原因、不稔グループの集団維持、潜在的な有性繁殖能力と遺伝子型多様度、体細胞突然変異と遺伝子型多様度について分子生態学的研究を進めてきた。本稿ではこれらの研究結果を紹介し、タヌキモ類の繁殖様式と集団維持について議論したい。
著者
木村 幹子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.281-287, 2009 (Released:2017-04-20)
参考文献数
59
被引用文献数
3

性選択は種分化の重要な原動力である。性選択が単独の選択圧として種分化が生じる状況はまれかもしれないが、生態的な分化を引き起こす自然選択と連動して性選択が働くならば、種分化は起こりやすい。本稿ではまず、性選択単独では種分化が生じにくい理由と、自然選択との連動が種分化を促進する点を整理する。そして、性選択と自然選択との連動をもたらす形質であるマジックトレイトという概念を紹介する。本総説では、マジックトレイトとして、1)自然選択の標的となる形質に基づいて配偶者選択が行われる場合、及び、2)感覚システムが環境に適応進化することに伴って、選好性と交配シグナルが分化する場合(感覚便乗)、について、実証例を挙げながら紹介し、環境適応と関連しながら性選択が種分化を引き起こす(あるいは、促進する)可能性について議論する。
著者
岸田 治 西村 欣也
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.40-47, 2007-03-31 (Released:2016-09-10)
参考文献数
45
被引用文献数
1

多くの動物は、捕食者に出会うと逃げたり隠れたりするが、形さえも変化させ捕食を回避しようとするものもいる。形態の変化による防御戦略は誘導防御形態戦略とよばれ、多様な生物分類群でみられる表現型可塑性として知られる。最近の研究では、捕食者動物は、ただ捕食されにくい形に変わるだけでなく、その変化が柔軟であり、捕食者環境の時間的・空間的な変異によく対応していることが知られている。本稿では、エゾアカガエルのオタマジャクシの捕食者誘導形態の防御機能と、柔軟な形態変化能について紹介する。エゾアカガエルのオタマジャクシは、捕食者のエゾサンショウウオの幼生とオオルリボシヤンマのヤゴに対して、それぞれに特異的な形態を発現する。サンショウウオ幼生によって誘導された膨満型の形態はサンショウウオ幼生による丸のみを妨げ、ヤゴによって誘導された高尾型の形態はヤゴによる捕食を回避するために有効である。これらの形態変化は柔軟性に富んでおり、一度、どちらかの捕食者に対して特異的な防御形態を発現した後でも、捕食者が交替したときには、新たな捕食者に特異的な防御形態へ変化できる。また、捕食の危険が取り除かれたときは元の形態へと戻る。捕食者特異的な形態の互換性は、捕食者種に特異的な防御形態誘導を獲得するうえで重要な役割を果たしたと考えられる。また、形態変化の可逆性は防御にコストがかかることを示唆している。これらの形態変化の時間的な可変性に加えて、オタマジャクシは危険の強度に応じた調整的な防御形態発現を示す。このことはオタマジャクシが捕食強度に応じて費用対効果を最大化するように防御を発現している可能性を示唆している。
著者
岸 茂樹
出版者
日本生態学会暫定事務局
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.61-64, 2015 (Released:2015-07-06)

アレンの法則とは、恒温動物の種内および近縁種間において高緯度ほど体の突出部が小さくなる傾向をいう。アレンは北アメリカのノウサギ属を例にこの仮説を提唱した。しかしこの例を含めてアレンの法則は検証例が少ない。そこで本研究ではアレンの法則が書かれた原典からノウサギ属Lepusのデータを抜き出しアレンの法則がみられるか検証した。その結果、相対耳長と緯度には有意な相関はみられなかった。相対後脚長、および体長と緯度には正の相関がみられた。したがって、アレンが記録した北アメリカのノウサギ属にはアレンの法則はみられず、むしろベルクマンの法則がみられることがわかった。相対耳長と緯度に負の相関がみられなかった主な原因は、低緯度地域にも耳の短い種が生息することである。耳の長さには緯度以外にも生活様式や生息場所が大きく影響するためと考えられる。
著者
佐久間 大輔
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.223-232, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
47

生態学が実学として社会の中で人間活動と生態学的諸問題の衝突の解決を目指す上で、生態学上の基本概念や専門知識を市民の間に広げ、対話を持ち、地域での合意を醸成するアウトリーチ活動と、それら実践の現場から得た課題を政策として立案し、政策決定者と対話を行うアドボカシー活動は重要な両輪である。これらの活動を担う生態学コミュニケーターの養成と、科学技術政策の中での位置づけ、生態学会との関わりや、社会の中で活動するための基礎的な条件を検討した。自然史系博物館は社会と学術界の両者にひらかれた施設として対話の場として、そして人材養成、NPO支援のプラットフォームとなりうる。自然史博物館自体の社会的機能を有効に活用するためにもコミュニケーターは重要である。博物館のみならず、生態学会も社会からのフィードバックを受け自らの知見と合意形成機能の有効活用をはかることにより新たな視座が開けるであろう。
著者
大澤 剛士 上野 裕介
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.257-265, 2017 (Released:2017-08-03)
参考文献数
21

要旨: 研究成果を実際の現場、例えば保全活動や自然再生事業、インフラ整備における環境アセスメント等の実務において活用してもらいたいというのは、応用分野に興味を持つ生態学者の望みである。しかし、現実には研究成果、少なくとも日本生態学会関係者の研究が現場に反映されている例は決して多くない。なぜ、生態学者の思いは片思いになってしまうのだろうか?研究と実務の間にあるギャップは何なのか?本論説は、研究と実務の間にあるギャップ(Research-Implementation Gap)と、その原因、それを埋めるために生態学者ができることについて、筆者らを含む行政、民間、研究者から構成される勉強会のメンバーで議論してきた内容を論じる。さらにはそれらをふまえ、演者ら、生態学に軸足を置きながら実務に近い現場で研究をしている立場から考えた課題解決に向けた鍵と、その実現に向けた今後の展望を議論する。
著者
中村 乙水
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.85, 2022 (Released:2022-04-11)
参考文献数
46

海洋環境は深度によって温度が大きく異なり、水柱内を自由に移動する能力のある魚類は深度を変えることで能動的に体温を調節することができる。また、身体が大きい魚ほど熱慣性が大きくなり、好適温度外の環境中に滞在できる時間が長くなる。本研究では、魚類が好適温度外の環境にいる餌を利用する際の効率的な採餌様式について、深い潜水を行って深海性のクラゲ類を食べるマンボウMola molaを例として、体温調節の観点から考察した。マンボウが潜水を行って餌のいる低水温の深場で採餌した後に高水温の海面付近で体温を回復することを1回の潜水サイクルと定義し、潜水時間を変化させた時に餌場滞在時間、移動時間、海面滞在時間の時間割合がどのように変化するかのシミュレーションを行った。潜水時間が短いと移動時間の割合が増え、潜水時間が長いと体温回復に要する時間の割合が増加し、餌場滞在時間を最大にするような潜水時間が得られた。この潜水時間は、餌場が深くなるほど長くなり、また体サイズが大きくなるほど長くなると推定された。これは餌資源ではなく熱資源を効率的に利用することで採餌に充てられる時間を最大化するという最適採餌理論の一例になると考えられる。
著者
阿部 貴晃
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.73, 2022 (Released:2022-04-11)
参考文献数
43

温度は代謝速度に大きな影響を与え、代謝速度は動物の活動性と密接に関係する。哺乳類や鳥類のような内温動物は熱産生による体温保持機構によって、高い代謝速度と活動性を維持する戦略をとる。一方で、体温が外部の熱源に依存する外温動物では、活動性を上げるために、爬虫類の日光浴にみられるような体温調節をおこなう。つまり、外温動物は、適切な体温、適切な代謝速度を行動によって調節するという戦略をとる。ただ、そのような行動的な代謝調節は、1日規模の時空間スケールでの温度環境の変化に対しては有用であるが、季節変動のように大きな時空間スケールでの変化に対しては意味をなさない。外温動物は季節変動によって1日の平均的な体温が変わっても、代謝速度を変えることで自身の好適な温度を調節する機構を備えている。本論文では魚類にみられる行動的、生理的な応答の例としてサケ科魚類に焦点を当てる。サケ科魚類の多くが母川回帰性を有し、河川や支流単位で集団が分かれる。サケ科魚類は冷水性かつ狭温性であるとされるが、経験する水温環境は集団の違いに応じて多様であり、自然環境下における魚類の温度適応の題材として用いられてきた。本論文では、代謝速度計測によってみえてきた魚類の温度適応の実態を概説し、その生態的意義を議論する。
著者
久保田 康裕 楠本 聞太郎 藤沼 潤一 塩野 貴之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.267-286, 2017 (Released:2017-12-05)
参考文献数
107
被引用文献数
1

システム化保全計画の概念と理論に基づく生物多様性の空間情報の分析は、保全の利害関係者に様々な選択肢を提供し、保全政策の立案・実行における意思決定を支援する。本論では、日本の生物多様性保全研究を推進する一助として、システム化保全計画を概説した。保護区ネットワーク設計の基本概念は“CARの原則”である:包括性(comprehensiveness)、充足性(adequacy)、代表性(representativeness)。全ての地域を保護区にするのは不可能なので、現実の保全計画では、生物多様性のサンプル(抽出標本)を保護区として保全する。CARの原則は、母集団の生物多様性のパターンとプロセスを、抽出標本内で再現するための概念である。システム化保全計画では、生物分布データを利用して保全目標を定義し、保全に関わる社会経済的コスト(土地面積や保全に伴って生じる社会経済的負担)を考慮し、保全優先地域を順位付けする。この分析は、地域間(保全計画のユニット間)の生物多様性パターンの相補性の概念に基づいている。かけがえのなさ(代替不可能度、irreplaceability)は、保全目標の効率的達成における、ある場所や地域の重要度を表す指標概念である。保全優先地域を特定する場合、保全上の緊急性や必要性を組み込む必要があり、代替不可能度と脅威と脆弱性の概念を組み合わせるアプローチがある。これにより、各サイトは、プロアクテイブな事前対策的保全地域とリアクテイブな緊急性の高い保全地域に識別される。保全計画では、様々な保全目標を保全利益に照らして検討することが重要である。Zonationが実装している効用関数は、メタ個体群や種数—面積関係の概念に基づいて空間的な保全優先地域の順位付けを可能にしており、有望である。システム化保全計画の課題の一つは、生物多様性パターンを静的に仮定している点である。生物多様性を永続的に保全するため、マクロ生態学的パターンおよび種分化、分散、絶滅、種の集合プロセスを保護区ネットワーク内部で捕捉するスキームを検討すべきだろう。システム化保全計画は生物多様性条約の学術的基盤で、愛知ターゲット等の保全目標を達成する不可欠な分析枠組みである。今後、日本でも実務的な保全研究の展開が期待される。
著者
岸 茂樹
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.61-64, 2015-03-30 (Released:2017-05-20)
参考文献数
16
被引用文献数
1

アレンの法則とは、恒温動物の種内および近縁種間において高緯度ほど体の突出部が小さくなる傾向をいう。アレンは北アメリカのノウサギ属を例にこの仮説を提唱した。しかしこの例を含めてアレンの法則は検証例が少ない。そこで本研究ではアレンの法則が書かれた原典からノウサギ属Lepus のデータを抜き出しアレンの法則がみられるか検証した。その結果、相対耳長と緯度には有意な相関はみられなかった。相対後脚長、および体長と緯度には正の相関がみられた。したがって、アレンが記録した北アメリカのノウサギ属にはアレンの法則はみられず、むしろベルクマンの法則がみられることがわかった。相対耳長と緯度に負の相関がみられなかった主な原因は、低緯度地域にも耳の短い種が生息することである。耳の長さには緯度以外にも生活様式や生息場所が大きく影響するためと考えられる。
著者
奥野 良之助
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.27-34, 1988-04-30

Life histories of 16 males and 3 females and survival records of 9 injured individuals of the Japanese toad, Bufo japonicus japonicus, are described. Sixteen males which lived from 8 to 11 years participated in the breeding ritual an average of 5.1 times, mated females an average of 1.3 times, and reached 119.7mm in snout-vent length throught their lives. Three females which lived from 7 to 9 years spawned 2.7 times and reached 117.0mm. Extensive data was provided by one male without a left hind leg which was recaptred 55 times during his 8 years life. The fact that this male participated in the breeding ritual 4 times, successfully copulated once, and reached 114mm in body length illustrates that intraspecific competition in the Japanese toad is not as severe as in other species.
著者
松浦 健二
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.227-241, 2005-08-31 (Released:2017-05-27)
参考文献数
83

進化生物学においてHamilton(1964)の血縁選択説の登場は、Darwinの自然選択説以降の最も重要な発展の一つである。本論文では、この40年間の真社会性膜翅目とシロアリの研究を対比しながら、昆虫における真社会性の進化と維持に関する我々の理解の進展について議論する。まず、真社会性膜翅目の性比に関する研究により血縁選択説の検証が行われていった過程について概説する。一方、シロアリにおける真社会性の進化に関して、血縁選択の観点からのアプローチを紹介し、その妥当性も含めて議論する。なぜ「性」が進化し、維持されているのか。この間題は古くから、そして現在も最も重要な進化生物学の課題の一つである。実は真社会性の進化と維持の問題は「性」の進化と維持の問題と密接な関係にある。社会性昆虫の社会は血縁者に対する利他行動で成立しており、血縁度の側面から社会進化を考えるならば、コロニー内血縁度の低下を招く有性生殖よりも、いっそ単為生殖の方が有利なはずである。つまり、真社会性の生物では、ほかの生物にも増して単為生殖によって得られる利益が大きく、それを凌ぐだけの有性生殖の利益、あるいは単為生殖のコストが説明されなければならない。現在までに報告されている産雌単為生殖を行う真社会性昆虫に関する研究をレビューし、真社会性昆虫にとっての有性生殖と単為生殖の利益とコストについて議論する。