著者
阪口 祐介
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.462-477, 2008-12-31 (Released:2010-04-01)
参考文献数
20
被引用文献数
4 2

本稿は,いかなる社会的属性を持つ人びとが犯罪被害のリスクを感じており,それはなぜなのか,について明らかにする.1960年代から欧米ではじまる犯罪不安の実証研究は,女性,高齢者,低階層の人びとが犯罪被害のリスクを感じやすいことを明らかにしてきた.そしてそれらの研究は,そのような属性を持つ人びとが身体的・社会的に脆弱であるために犯罪被害のリスクを感じやすいという解釈を提示する.本稿では2000年のGSSとJGSSのデータを用いて,犯罪リスク知覚の形成要因の日米比較分析を行い,欧米で示されてきた規定構造は日本においても確認できるのか,そして日本の規定構造は欧米のように身体的・社会的脆弱性によって解釈できるのかを問う.分析の結果,次のことが明らかになった.アメリカでは女性,高齢者,低収入の人びとが犯罪被害のリスクを感じやすく,その規定構造は身体的・社会的脆弱性によって解釈できる.一方,日本では若い女性,男性で幼い子どもを持つ人びと,女性のホワイトカラーおよび高学歴層で犯罪被害のリスクを感じやすく,その規定構造は身体的・社会的脆弱性によって解釈ができない.最後にこのような日本の規定構造について,性的犯罪への不安,重要な他者の脆弱性,GSSとJGSSのワーディングの違い,夜の1人歩きの機会,メディアの役割といった観点から複数の解釈を提示する.
著者
妻木 進吾
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.489-503, 2012-03-31 (Released:2013-11-22)
参考文献数
26
被引用文献数
4 4

本稿の目的は, 大阪市の被差別部落A地区で実施した調査に基づき, この地域の再不安定化プロセスとその要因について検討することを通して, 貧困や社会的排除現象の解明と対応策の構想に, 地域という変数が欠かせないことを示すことである.貧困と社会的排除が極端に集中していたA地区の状況は, 長期にわたる公的な社会的包摂事業によって大きく改善した. しかし, 事業終結後, アファーマティブ・アクションとしての公務員就労ルートが廃止され, その時期が日本社会の雇用不安定化の時期と重なっていたこともあり, 若者の就業状態はふたたび不安定化した. 安定層の地区外流出と不安定層の流入という貧困のポンプ現象がこうした傾向に拍車をかけた.貧困層の集積は, それ自体がさらなる機会の制約となる. 被差別部落では, かねてから貧困が地域的に集積していたことによる履歴効果, そして当事者運動が引き出した公的事業の意図せざる帰結として, 個的な生活向上・維持戦略の定着を阻む生活文化が存在し, 達成モデルも限定されてきた. 地区内の「なんとかやり過ごす」ネットワークは事業終結と担い手の流出によりその機能を弱体化させている. 貧困・社会的排除は地域的に集積し, 地域的に集積したそれらはマクロな社会変動や政策, さらには階層・階級文化などには回収されない固有の機制として, 貧困のさらなる集積や深化をもたらしていく.
著者
玉野 和志
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.537-551, 2003-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
22
被引用文献数
5 2

本稿では, サーベイ調査をめぐる最近20年間の動向を題材に, 日本における社会調査の現状と社会学の課題についてひとつの問題提起を行う.サーベイ調査の回収率は, この20年間で低下する傾向にある.それは主としてとりわけ都市部での拒否と一時不在による.しかしながら, 筆者は必ずしもそのことが社会調査にたいする無関心によるものとは考えていない.むしろ何のために社会調査が行われ, どのような方法で, 誰にとって有用な知識を生み出すものであるかを, 調査対象者がきびしく問うようになっているのである.つまり, 大学の学術研究にたいする素朴な尊重の念は失われ, 社会調査はその科学性と有用性を改めて人々に明快に示して見せる必要に迫られている.そこに社会調査の困難と社会学の課題がある.
著者
森岡 清志
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.19-35,113, 1979-06-30 (Released:2009-11-11)
参考文献数
6
被引用文献数
2

本稿はネットワークを、自己が他者ととり結ぶ関係性の総体ととらえ、この関係性理解によって諸個人の行動を把握する理論仮説の提示をめざしている。社会的ネットワークに関する諸業績の検討の後に、個人ネットワークにおける関係的資源活性化の効率上昇をめざして、ネットワークの構造化過程が進行する諸側面を分析する。この過程を関係核の設定と関係連合の形成として具体化し、その主体を「社会の事業家」と位置づける。ここに典型化されるネットワークに対比して、関係の固有性に依拠する諸個人のネットワークをコミットメントの連鎖ととらえ、その主体を対自的存在と定位する。この両ネットワークを両極として、さまざまな変異の様相を帯びる現実的実践的諸関係性を、実証科学の武器によって切開しうる方法の構築を志向して、次にネットワーク分析の規準群を設定する。本稿は、関係しあう諸個人がこの関係性のただ中で相互に固有の人間として所有されあうという認識、および、この関係創造のあり方に刻印づけられる歴史性こそ、当該社会の存立の形態そのものであるという理解を論理の基底に位置づけている。
著者
佐藤 哲彦
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.87-101, 2017 (Released:2018-06-30)
参考文献数
36
被引用文献数
2

本論文は逸脱研究における社会構築主義的分析の意義について2つの問いを経由して論じ, とくにディスコース分析を用いることで, 逸脱とそれを一部とするより大きな社会過程の記述が可能であるということを示したものである.問いの1つは, 逸脱の社会学の退潮という現状から, こんにちどのような形で社会学的な逸脱研究が可能かということである. この点についてはとくに1980年代以降の犯罪コントロールや刑罰と社会との関係の変化を踏まえ, 新刑罰学などで中心的に議論されている論点を参考にしつつ, 新たな社会状況とそれに巻き込まれる人びとの姿を記述する方法の必要性を論じた. もう1つの問いは, そのための記述方法として社会構築主義的方法がどのような意義をもつかということである. この点について本論文は, ‹語られたこと/語られなかったこと›の分割をどのように処理するかという最近の構築主義批判に応える形で, とくに語りの遂行性に着目した社会構築主義的な分析方法としてのディスコース分析の意義を, 覚醒剤使用者の告白を題材に論じた. そしてその告白が覚醒剤をめぐる社会状況と結びつけて理解可能であることを示した. 併せてディスコース分析の代表的な技法であるレパトワール分析の意義として, 個別性を超えた記述に接続可能であることを論じ, それを具体的に示すために企業逸脱とされる薬害問題を対象にディスコース分析を行うことで, その意義を明らかにした.
著者
園田 薫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.91-108, 2019 (Released:2020-11-13)
参考文献数
32

日本企業で働く外国人が数年で離職してしまうのは,今なお残る日本的な雇用慣行に原因があると指摘されてきた.そうした既存研究では,外国人のキャリア選択を十分に検討していないだけでなく,日本企業で働く〈企業〉の選択と日本という場所で働く〈国家〉の選択が混同して扱われていた.そこで本稿では〈企業選択〉と〈国家選択〉という分析概念を用い,外国人が日本企業での就労を決定した主観的なキャリア選択の過程に着目することで,外国人の離職が生じる構造的要因について検討し,外国人の雇用をめぐる日本企業の現状と展望を産業社会学的に考察する.日本の大企業で働く新卒外国人へのインタビュー調査から,特に留学生において国家選択が企業選択に先立ち,日本企業で働く直接的な原因になっていることが明らかになった.そのなかにはさまざまな制約で日本以外の国で働く選択ができず,また日本企業以外で働く選択肢も失ったと感じ,「次善の策」として日本企業へ就職したと考えるものが多い.以上の結果は,日本企業と外国人の軋轢を生むのは日本企業の雇用慣行への不満や魅力の少なさではなく,必ずしも日本企業に関心のない外国人がキャリア選択の過程で日本企業への就職を選択しているためであるということを示唆する.外国人と日本企業の相互理解を深めつつ,意図せずとも日本の労働市場に留まる傾向がある留学生の企業とのマッチングを制度的に支えることが重要だと考えられる.
著者
三隅 一人
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.134-144, 2015 (Released:2016-06-30)
参考文献数
42

3 0 0 0 OA 声の規範

著者
澁谷 智子
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.435-451, 2005-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
38
被引用文献数
3

本論文では, 耳の聞こえないろう者が出す発音の不明瞭な「ろうの声」が, 聞こえる人に「逸脱」として認識され, スティグマ化される現象を取り上げる.「ろうの声」は動物や怪獣といった「原始性」と結び付けられる一方で, 表象空間においては美化され, 感動の演出に使われてきた.しかし, こうした扱いと, かつて手話に向けられていたまなざしには, 類似点が認められる.今日, 手話が社会で肯定的に受け入れられている事実からは, スティグマ化の過程が社会の解釈によって大きく左右されることが示唆される.論文の後半では, ろうの親をもつ聞こえる人々の語りに焦点をあてる.この人々は, 親の印象操作を行う一方で, 親の声に対する自らの愛着も強調している.「ろうの声」に対する否定的な見方は必ずしも普遍的なものではなく, 聴者社会の規範を学ぶことで獲得されるのである.しかし, 「ろうの声」に対する聴者側の違和感は, 異なる文化や言語に対する違和感と違って, あまり表立って語られることがない「障害者を差別してはいけない」という道徳意識のためか, その違いはまるで存在しないかのように扱われやすい.しかし, 潜在的に生じる緊張感は, 聴者がろう者に深く関わるのを避ける要因の1つにもなっている.この違いを認識し, 聴者社会があたりまえに捉えている思考を見直すことは, 「文化」と「障害」の構造を考えるうえで有意義な視点を与えてくれるであろう.
著者
桜井 厚
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.452-470, 2003-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
40
被引用文献数
1

社会調査は, 現代社会で認知され定着してきた一方で, さまざまな問題や困難な状況に直面している.それらの問題を大きくわければ, ひとつは社会調査の方法論に関する社会学の問題, もうひとつは調査の対象とされる社会の側から要請される問題があげられる.本稿では, 方法論の混乱と対立がおもに伝統的な実証主義的立場とあたらしく台頭した構築主義的立場の認識枠組みの違いにあり, 社会における困難とは調査者と被調査者の関係を軸にしたポリティクスと倫理の問題であると考え, それらの実情と論点について述べた.実証主義と構築主義の認識枠組みは, 何を現実と考えどのように把握するかで大きく異なる.社会的現実は唯一の事実なのか, それともフィクションなのか.調査過程は, 被調査者から情報を引き出すことなのか, それとも被調査者と相互的に現実を構築することなのか.さらに, 調査者と被調査者の関係が構造と相互性の2つのレベルの非対称性によって構成されていることに注意を促し, それをふまえながらもその変革のさまざまな可能性についてもふれている.また, それにともなう調査倫理の制度化の必要性と制度化にあたっての困難にも言及した.
著者
開内 文乃
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.149-150, 2014 (Released:2015-07-04)
参考文献数
1
著者
兼子 諭
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.453-467, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
38

社会や社会集団の成員が,自然災害や戦争などの歴史的出来事を,直接経験していないにもかかわらず自らの悲劇として感じ語ることがある.だがその一方で,出来事など起きなかったかのように沈黙を貫く場合もある.これらの現象を記述し説明するのに社会学者も用いるのが「トラウマ」概念である.しかし従来の議論は,トラウマを隠喩として用いるだけで,分析のための独自の視点や方法を展開し損なっている.そこで本稿では,J. Alexander らによる「文化的トラウマ(cultural trauma)」論を検討して,国民国家のような「大規模」社会での集合的な「沈黙」や「覚醒」のダイナミズムを探究する際にトラウマ概念を応用する社会学的意義を示す.文化的トラウマ論が明らかにするのは,悲劇的な出来事に対する集合的な沈黙や覚醒は,出来事の客観的な性格から説明できるとは限らないということである.文化的トラウマ論に従えば,むしろそれは,その出来事がどのように解釈され物語られるかに依存する.悲劇的出来事に対する集合的な反応は,それが社会に深刻な苦悩をもたらす傷として語られるのか,それとも,最終的には進歩の機会として語られるのかに左右されるのである.文化的トラウマ論を土台にして本稿は,悲劇的出来事に対する集合的な覚醒や沈黙は文化的に枠づけられる「社会」現象として説明可能であり,個人の心理や精神には還元することはできないことを主張する.
著者
上野 加代子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.70-86, 2017 (Released:2018-06-30)
参考文献数
71
被引用文献数
2

福祉の領域における社会構築主義の研究は多様であるが, この領域に特有の姿勢を見て取ることができる. それは, 自分たちがクライエントを抑圧してきたという「自身の加害性の認識」と, 「研究結果の実践への反映」である. 本稿では, 福祉の領域に特有のこれらの姿勢に着目し, それに関連する文献を中心にレビューする. 具体的に, ひとつはソーシャルワーカーとクライエントを拘束しているドミナント・ストーリーをクライエントと共同で脱構築しようとするナラティヴ・アプローチの研究の流れである. 本稿で取り上げるもうひとつの構築主義的研究の流れは, ソーシャルワークが専門職として確立, 再確立される過程で, 「トラブルをもつ個人」がどのように創りあげられてきたのかを, 外在的に分析するものである. なお, 「自身の加害性の認識」という点は, 英語圏の文献には顕著であるが, 日本語の文献では弱い. そこで, 英語圏の文献をレビューした後, 日本における構築主義研究ではどうして「自身の加害性の認識」という観点が乏しいのかについて考察する. そして最後には, 近年の英語圏の文献では自身の加害性のみならず, 「被害者性」についても議論されていることを踏まえ, 自分自身の知識や実践に対する構築主義研究が, 「自分は加害者たることを強制された被害者だ」という自己弁護に陥る危険をはらみつつも, 社会制度変革へのコミットにつながることに触れておきたい.
著者
好井 裕明
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.314-330, 2004-12-31 (Released:2010-04-23)
参考文献数
23

差別を語るということ.これは差別することでもないし, 差別について語ることでもない.本稿では差別することの特徴としてカテゴリー化の暴力と被差別対象の “空洞化” を述べ, 差別について語る社会学の基本として〈受苦者〉の生に限りなく接近することの意義や問題性を論じる.そのうえで差別を語るということを, 自らの差別的経験を自分の言葉で語ることとして捉え, ある啓発講座での実際の語りからその営みを例証する.普段私たちは自らの差別的経験を語ることはない.その意味でこの営みは非日常的である.しかしこれは, 語る本人やその声に耳を傾ける他者が, 差別について抽象的一般的に考えるのでなく, 常に自らが生きる日常生活から遊離することなく等身大の世界で具体的に考えることができる営みなのである.そしてこの非日常的な営みを新たなトピックとすることで差別の社会学の可能性が広がってくる.〈受苦者〉の生, 〈被差別当事者〉の生を原点とすることは差別の社会学の基本である.そのことを認めたうえで〈かつて差別したわたし/差別する可能性があるわたし〉の生を原点とし, 〈わたし〉の普段の営みを見抜き, 自らの生へ限りなく接近することから差別を捉えなおすという営みが, さらに差別の社会学を豊穣なるものにすることを主張したい.
著者
友岡 邦之
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.379-395, 2009-12-31 (Released:2012-03-01)
参考文献数
44
被引用文献数
5 1

文化におけるグローバリゼーションの進展の中で,日本の地方における文化的活動と鑑賞の機会はむしろ取り残された状況にある.社会学の研究動向としても,そうした地域にあって芸術的あるいは文化的とみなされる表現を,身体感覚を伴って経験できる機会を提供するための制度のあり方は十分に検討されてこなかった.このような文化政策論的な問題は,民衆文化や民族文化をめぐる文化政治学的な現象に焦点が当てられがちな文化社会学の枠組みでは重視されてこなかったのである.その一方で,地域づくりの現場では文化的資源を活用した都市計画が注目を浴びている.一部の都市はグローバルなレベルで文化的資源を調達し,創造的階級と呼ばれる人材を引き付け,それをさらなる都市発展に結びつけようとしている.こうした取り組みに成功する都市とそれ以外の地域との文化的環境の格差は,拡大する傾向にある.このような状況を踏まえるなら,いったいグローバリゼーションの時代における文化的多様性とは何なのか.本稿では,これを地域社会の多様性・固有性という問題に焦点を当てて論じる.
著者
村瀬 敬子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.297-313, 2020 (Released:2021-09-30)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

本稿は,戦後の『主婦の友』を主な資料として,郷土料理/郷土食の「伝統」が強調されていき,「主婦」をその伝承者とする語りが,どのように構築されていったかを明らかにした.本稿では「伝統」を,昔から続いているとする「継続性」に加え,良いものとして価値づける「美化性」のまなざしによって構成されるとし,1979 年までの「郷土料理/郷土食にかかわる記事」において,これらの語りの分析を行った. 本稿の考察結果は次のようになる.(1)1960 年代半ばまで,従来の郷土料理/郷土食を改良したり,新しく生み出すことが推奨されている記事が登場しており,郷土料理/郷土食の「伝統」は強調されていなかった.(2)著名人の郷土料理/郷土食に関するエッセイが,1950 年代半ばから数多く掲載され,その多くで自らの故郷の郷土料理/郷土食が賛美されていた(美化性).(3)1960 年代半ば以降,「おふくろの味」が賞揚され,「おふくろの味」と郷土料理/郷土食は,長い間,伝承されてきたものだとされ(継続性),女性による伝承が規範化していった.(4)このことは「主婦」に新たな役割を与え,揺らぎはじめたジェンダー秩序の維持に寄与した.
著者
有薗 真代
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.331-348, 2008-09-30

本稿の目的は,1960年代から70年代の国立ハンセン病療養所において,隔離下に置かれた入所者が集団的に営んできた諸実践の生成・展開を,当時の日本における療養所の状況を踏まえながら検討することにある.入所者たちは,自分たちの生を少しでもよりよいものにするために,仲間どうしでさまざまな試みを行っていた.本稿は,明瞭に組織化された政治運動とも療養所当局の公認下で行われた文化活動とも異なった,こうした流動的かつ非組織的な形態をとる仲間集団での実践に焦点を当てるものである.<br>療養所内における仲間集団の実践は,現金収入を得るための場をつくる営みとなって現れた.ただし彼らの実践において獲得されていったのは,単なる対価の獲得や生計の維持といった次元にとどまらず,その実践のプロセスのなかで生み出される多様な生の実現や生の充実化の次元にまで及ぶものであった.彼らの実践は,(1)自分たちで雇用を生み出し,それによって自律的な生活領域を確保すること,(2)「希望」を創出し他者と分有すること,(3)非病者との接点をつくり生活の外延を広げること,といった具体的な様態を帯びていた.構造的制約の多い状況のなかで生を豊穣化しようとする,こうした入所者たちの実践を考察対象とすることで,私たちはハンセン病者の経験世界の新たな領野にふれることができる.
著者
池田 直樹
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.56-71, 2018 (Released:2019-06-30)
参考文献数
40

本稿はP. L. バーガーの社会学論, とりわけ社会学のメタレベルにおける意義に関する彼の議論を取り上げ考察する. バーガーが社会学論を展開した1960年代以降のアメリカにおいては, ‹社会学と政治›の関係をめぐって盛んにこの種の社会学論が論じられていた. バーガーももちろんこういった状況を自覚しながらそれに取り組んでいた. だが同時に彼においては‹社会学と信仰›というもう1つの問題系列も存在した. 時系列的にはこちらの系列に‹社会学と政治›問題が重ねられてくる.これを踏まえて本稿ではバーガーの社会学論を‹社会学と信仰›, ‹社会学と政治›という2つの問題系列の交点において捉える. 本稿はバーガー自身の言葉を借りてこの問題を, 「科学と倫理の問題」として考える. それによって, 従来はともすればバーガーが保守化したのかどうかということのみが焦点化されてきた, 彼における‹社会学と政治›問題に異なる光を当てることができる. それはつまり彼の社会学を‹社会学・政治・宗教›というより包括的な問題連関において捉え直すということである.こうした問題設定によってわれわれは, バーガーの思想全体への概略的見通しを得ることができるだろう. さらに上記の枠組みにおいて彼を捉え直すことは, 意味概念をはじめとする彼の社会学説の再検討のためだけでなく, アメリカ社会学全体の思想的性格を問うための手がかりの1つとなるとも思われる.
著者
鎌田 とし子
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.18-37,125, 1970-01-30 (Released:2009-11-11)

This paper denotes that the concepts of the social stratum greatly diferenciated in the course of researches of poverty by several authors. In our country, the studies of poverty started from the analysis of the house expenditures to the living structures and then to the principles of the social stratum. These authors were eminently influenced by Ernst Engel, Charles Booth and Seebohm Rowntree. For example, prof. Kagoyama and prof. Chubachi are the followers of living structure theory, and prof. Eguchi explains the developmental treatment about the social stratum. By arranging these studies, it may be clarified that these authors above-mentioned greatly emphasized upon the differences about social stratum rather than the relations between social strata. In this connection, it may be seen that these authors greatly resemble those of American socialist's school i. e., the analytical treatment with the compound indices. Hitherto on the poverty studies, it can be said, the approaches of the stratum relations merely explain the existence structures of the relative surplus-population.