著者
佐藤 夏雄
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.424-458, 1999-11

第34次南極地域観測隊越冬隊は, 越冬隊長佐藤夏雄以下40名で構成され, 1993年2月1日から1994年1月31日までのあいだ, 昭和基地の運営・維持管理を行うとともに, 計画に基づき昭和基地, 沿岸, 内陸で観測および設営活動を行った。越冬期間の主な研究観測計画は, 2年越しの超伝導重力計の設置観測, ドームF(現在ドームふじ観測拠点)までの内陸旅行等であった。超伝導重力計に関しては, 3月に装置が立ち上がり連続長期観測データが得られた。内陸旅行も, 冬開けには中継拠点までの旅行と夏のドームFまでの本旅行も予定どおりに実施できた。その他の宙空系, 地学系, 気水圏系, 生物系の観測も順調に実施できた。定常観測も順調に経過し, 気象部門の観測では, オゾンホールの発達を今回も捕らえる事ができた。設営関係も順調に経過し, 基地の維持・運営及び観測関係のサポートに大きく貢献した。生活面では, 管理棟内の食堂, バーや医務室などの内部設備が完成し, 使用を開始したため, この棟が生活の中心の場となった。なお, 年間の気候は気温が低く, かつブリザードに度々襲来され, かなり厳しい気象条件下での越冬であった。
著者
鮎川 勝
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.229-256, 2001-07

第41次南極地域観測隊は, 鮎川勝隊長以下60名(うち渡邉研太郎副隊長以下越冬隊40名)で構成された。このほか環境庁1名, 報道1名, 大学院学生1名(総合研究大学院大学極域科学専攻), 南極条約に基づく交換科学者としてベルギー王国から1名が同行者して, 夏隊と行動を共にした。1999年11月14日, 東京港を出発した砕氷艦「しらせ」は, 途中オーストラリアのフリマントルに寄港したのち, 12月17日にリュツォ・ホルム湾沖に到着し, 24日に昭和基地に接岸した。1999年12月20日から2000年2月14日までの間に, 昭和基地への物資輸送および基地の廃棄物の積み込み, 同基地での建設作業, 内陸および沿岸地域における野外観測などを行った。昭和基地等への輸送物資量は1117tで, 昭和基地から「しらせ」に積載した廃棄物量は195tであった。輸送物資量および持ち帰り廃棄物量ともにこれまでの最大の輸送量となった。建設作業は, 第1および第2夏期隊員宿舎の増築とその機械設備の設置, 基地電力幹線の移設埋設工事・給排水配管工事, 300kVA発電機オーバーホールなどの基地整備関連作業と, ヘリポートのコンクリート打設工事, 廃棄物保管庫の新築, クリーンエネルギー(太陽光, 風力)発電装置の設置工事などの環境保全関連作業を実施した。夏期の野外観測は, 内陸みずほルート沿い約200kmの測線で人工地震による地殻構造探査を実施したほか, 宗谷海岸露岩域一帯の生物, 地学調査, ラングホブデ地域のペンギン生態調査と氷河末端域の雪氷調査等を行った。また, 測地部門ではピラタス機による宗谷海岸露岩域の航空写真撮影を実施した。2月14日に第41次夏隊と第40次越冬隊の基地残留作業者を昭和基地から「しらせ」に撤収し, 2月15日に北上を開始した。リュツォ・ホルム湾の流氷縁の開水面南限で昼夜観測を含む海洋停船観測を実施した後, プリンスオラフ海岸沖の海底地形測量を実施しつつアムンゼン湾に移動し, この地域で地学, 生物調査を実施した。プリッツ湾の中国中山基地における宙空系の観測装置の保守点検を2月26日に行いヘリコプター支援による夏期観測を終了した。3月1日に南緯61度, 東経80度付近で係留系ブイの揚収と設置および停船観測を行った後帰路についた。3月20日, シドニー入港, 27日空路成田に帰国した。海洋停船観測は往路復路ともに計画通り実施した。
著者
工藤 栄 田邊 優貴子 飯田 高大 辻本 惠 小川 麻里 伊村 智
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.421-436, 2008-11-28

第49次日本南極地域観測隊(第49次)夏隊において,湖沼観測として湖沼環境観測,生物・生態学的研究試料としての湖水と湖底の生物群集採取,及び現場実験を宗谷海岸露岩域にある複数の湖沼で実施した.この湖沼観測報告は南極観測事業第VII期計画の一般プロジェクト研究(P3)「極域環境変動と生態系変動に関する研究」及びモニタリング研究観測(M4)「生態系変動のモニタリング」の両課題にかかわる観測を記録したものである.野外観測は2007年12月22日から2008年2月13日の期間,砕氷船「しらせ」が昭和基地沖近傍に滞在中に実施した.今回は夏季の湖沼環境変動と湖底の生物(藻類群集)の応答を集中的に観測すべく,スカルブスネスの長池にて観測とサンプリング・現場実験を繰り返し実施する一方,きざはし浜生物観測小屋から徒歩日帰り圏内にある周辺の14湖沼,及びヘリコプターを利用した日帰り観測にてスカルブスネス東部の4湖沼,及び他の露岩,スカーレンにあるスカーレン大池,ラングホブデ域の雪鳥池・東雪鳥池,ぬるめ池にて湖沼水質環境観測と試料採集を適宜実施した.このうち,スカルブスネス東部のなまず池 (仮称)では潜水による水中設置ビデオ装置の回収と,湖底のコケ類・藻類が作り上げている「とさか・筍状」の群落の採集,ラングホブデぬるめ池では湖底から小型カイアシ類の定量サンプリングを実施,これらを研究試料として日本に持ち帰ることができた.また,第47次隊により雪の堤防の決壊の発見(第46次越冬期間中に決壊したとみられる)が報告されたラングホブデ南部の平頭氷河末端にあった「氷河池」(仮称)の現状視察も実施,決壊前後での3m以上と思われる大幅な水位変動痕からフィルム状の生物試料を採集し持ち帰った.
著者
原田 美道
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.229-233, 1958-09

第2次観測隊は宇宙線,極光・夜光,電離層,地磁気,気象,海洋,氷河,重力,生物の船上及び基地観測と第1次越冬隊員にかわる20名の越冬隊員を残すことを目的とした。宗谷は1957年10月21日東京港を出港し,12月20日Enderby Land沖64°11'S,53°48'Eで浮氷縁に到達したが,氷状及び気候条件が悪く,1958年1月初めより宗谷は流氷群に全くとじこめられた(第1図参照)。2月6日,宗谷は浮氷域を説し,アメリカ海軍砕氷艦Burton Island号の援助をうけて第1次越冬隊の救出及び第2次越冬隊をのこすための輸送に努力したが,残念ながら第2次越冬隊の輸送には成功せず,第1次越冬隊の救出のみに終った。2月24日を以て南極地域における活動は打ち切られ,宗谷は帰国の途についた。
著者
佐藤 貢 山岸 久雄 加藤 泰男 西野 正徳
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.251-267, 1992-07
被引用文献数
1

高エネルギー粒子の降下による銀河電波雑音の電離層吸収(CNA)を測定するリオメーターは, 粒子降下領域の空間構造を求めるため, 二次元高空間分解能化への試みがなされ, イメージングリオメーターが開発された。これまでのイメージングリオメーターによるCNA観測は, 観測データを大容量MTやディスクに取り込み, ある一定期間観測後, 持ち帰り, 大型計算機処理により背景となる銀河電波雑音の静穏時の日変化曲線(QDC)を求めて, その差から真の吸収量を導き出し画像化している。本論文のイメージングリオメーター吸収画像QLシステムは, データ収集と画像化処理にパーソナルコンピューターを用いて, あらかじめ観測した十数日間のデータから1日分のQDCデータを作成し, 以後の観測では, データ収集と同時にそのQDCデータを恒星時補正して参照し, 観測データとQDCデータの比を演算する処理を行い, 吸収領域の吸収量及び形状の時間的変動の二次元カラーイメージを実時間で表示することが可能である。これにより, 観測現場で, オーロラTV観測による映像と二次元CNA画像を実時間で比較することができる。
著者
芳野 赳夫
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.899-903, 1961-01

1.目的 オーロラが出現したとき,その部分の高層大気中に局部的に電子密度の高い領域があると考えられている.その高電離気体から輻射される電波の性質を知ることはオーロラの発光機構を説明する一つの手ががりとなるので,或る角度に向け固定されたパラボラアンテナと3000MCの受信機によりノイズレベルを連続記録し,他部門のデータと比較研究する.2.結果 今回は記録装置に打点式を使用したこと,基地内部のノイズレベルが予想外に高かったため,必ずしも満足なデータを得られなかったが,オーロラおよび擾乱を受けた高層大気から輻射される3000MC帯の電波の存在が大略実証され,その地磁気,オーロラ強度,E_s電離層の突抜周波数の急変との相互相関もかなり良く,その詳細なる解析を続行中である.
著者
守嶋 圭 小野 高幸 林 幹治
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.205-230, 1993-11

1990年第31次南極地域観測隊により昭和基地において観測された多波長フォトメータデータより, 844.6nm (OI)光, 並びに670.5nm (N_21PG)光強度を用いて推定された降下電子のエネルギーパラメータの関係を, タイプAオーロラ, パルセーティングオーロラ, ブレイクアップ時のオーロラについて調べた。解析の結果, オーロラのタイプ別に, エネルギーパラメータは異なる関係を示すことがわかった。特にディスクリートオーロラでは, 降下電子の全エネルギーフラックス(E_<tot>)は平均エネルギー(E_<av>)の二乗に比例する関係(E_<tot>=K′・E^2_<av>)が多く見られた。この関係はディスクリートオーロラを励起する降下電子が沿磁力線電位差で加速されるという理論的予測と一致する。実際の観測例の中には上記の比例関係が見られないディスクリートオーロラも存在するが, その原因として, (1)通過するオーロラがフォトメータの視野範囲を十分覆っていない場合, 及び(2)磁気圏側の電子密度, 温度が時間的に変動している場合があることが示された。
著者
Khare Neloy
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.110-113, 2009-03-30

北極に氷がなくなる事は,熱帯の気候に影響を与える.北極域の氷の状態は,それゆえ,インドの気候変動を理解する鍵である.北極域で様々な研究に着手するために,2008年7月1日に,インドの基地「ヒマドリ」をニーオルスンに開設した.ニーオルスンには現在,インドを含め10カ国から15の基地が設けられている.この論文では北極域でインドが行っている主要な研究を紹介する.
著者
召田 成美 塚村 浩二 山本 雄次 古謝 三行
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.83-116, 1983-03

この報告は第20次南極地域観測越冬隊気象部門が, 1979年2月1日から1980年1月31日まで, 昭和基地において行った地上および高層気象観測の結果をまとめたものである。観測方法, 設備, 結果の取り扱い等はほぼ19次隊と同じである。越冬期間中特記される気象現象としては, 次のものがあげられる。1) 秋から冬のはじめにかけて, ぐずつき気味の風の強い日が多く, 特に4月の月平均風速は累年平均(1957年-1979年)を3.2m/sも上まわった。2) ブリザードは平年とほぼ同数襲来したが, 長続きするものは少なく, 天気の回復が早かった。3) 6,7月の平均気温が累年平均より2℃以上低く, 年間の変化傾向が「なべ底型」に近かった。4) 成層圏の突然昇温が平年より1ヵ月も早く現れた。5) 9月から12月にかけ長い周期で天気が変化し, 特に9月下旬から10月下旬, 11月下旬から12月下旬にかけては1ヵ月以上好天が持続した。
著者
和田 誠 権田 武彦
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.1-8, 1985-09

1979年3月から1980年1月まで南極みずほ基地で雪結晶の顕微鏡観測を行った。種々の形の雪結晶の中に, 骸晶構造を持つ角柱結晶が, 比較的多く降っていることがわかった。この論文では, この結晶の結晶学的諸特性と成長条件を議論する。
著者
木津 暢彦 金濱 晋 鎌田 浩嗣 上野 圭介 長井 勝栄
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.35-94, 2007-03-28

この報告は,第43次南極地域観測隊気象部門が,2002年2月1日から2003年1月31日まで,昭和基地を中心に行った気象観測結果をまとめたものである.観測方法,測器,統計方法等は,第42次隊とほぼ同様である. 越冬期間中,特記される気象現象として,次のものが挙げられる.1) 地上気象観測では,5月から10月にかけて気温が平年より高く,月平均気温の高い方,日最高気温の月平均の高い方,日最低気温の月平均の高い方の極値の更新があった.また9月中旬にあったA級ブリザードは,最大瞬間風速57.9m/s, 最大10分間平均風速45.4m/sであった.これは9月として1位,通年の統計でも3位の強風であった.2) 高層気象観測では,成層圏突然昇温が例年より早く発現(7月上旬)し,9月末には,南半球では初めて観測された極渦の2分離を伴う成層圏大突然昇温が起こった.3) オゾン全量観測においては,8月上旬から10月中旬にかけてオゾンホールを観測したが,10月下旬以降はこの20年間の平均よりも多い値で推移した.
著者
守田 康太郎 村越 望 西堀 栄三郎
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.823-829, 1961-01

雪原からの蒸発量の測定は一般には甚だむつかしい.降雪や飛雪の影響,および蒸発計の影響が大きいからである.西堀は,昭和基地第一次越冬中に,これらの影響から免れて雪面蒸発量を測定する方法を考案し,村越が実際の観測を行った.その方法は,積雪から雪のブロックを正立方形にきりとって空中に吊し,その重量変化を測定するというのである.特殊の条件下においては,その重量変化から,ただちに単位表面からの蒸発量を算出することができる.その条件は,(a)雪ブロックから融雪水の滴下が起らぬこと,(b)雪ブロックに降雪や飛雪が附着しないこと,(c)ブロックの外形が相似を保ったまま変化すること,(d)ブロックの密度変化が無視し得ること等である.昭和基地においてはこれらの条件はほぼ満されており,得られた結果はソビエト隊による推測値と比較しても,大体妥当な値と考えられる.気象要素との関係について,飽差と風の函数としてあらわされることが分った.
著者
白石 和行 金谷 弘
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.30-41, 1983-09

やまと山脈の基盤岩類からのべ63個の試料を選び, Rb, Sr, Th, Uの定量分析を行った。3種の閃長岩類を観察すると, これら元素の存在量や存在比について, 比較的顕著な差異のあることが認められる。特に, 単斜輝石石英モンゾニ岩におけるSrの濃集が著しい。また, 変成岩類相互の差異は必ずしも顕著ではなく, 全体の傾向は, 世界の盾状地での下部グラニュライト相-上部角閃岩相の変成岩の示すこれらの値と大きくかけ離れるものではない。
著者
長井 嗣信 河野 毅
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.23-34, 1980-02

本論文では,磁気圏嵐時の静止衛星軌道における高エネルギー粒子のフラックス変動について報告する.3つの静止衛星の同時観測により,夕方側で粒子の減少がみえる時に,真夜中から朝側にかけては,粒子の増加がみられることを明確に示した.また,地磁気じょう乱が引き続いて起きている時には,比較的大きなしかも孤立して起きた磁気圏嵐の時とやや異なる粒子フラックスの変動がみられることを2日間の例を使い示した.
著者
森脇 喜一
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.300-320, 1998-11-30

第39次南極地域観測隊(第39次隊)は1997年11月14日東京港を出発した。フリマントル寄港中に第38次越冬隊に緊急患者が発生したため昭和基地に直行し12月15日に到着した。患者収容と物資輸送後, 患者を送還するため「しらせ」はケープタウンまで往復した。「しらせ」は1月23日にアムンゼン湾トナー島に地学調査隊を送り込んだ後, 1月27日に昭和基地に戻った。昭和基地での建設等は12月中旬&acd;2月中旬に行われた。昭和基地方面での野外調査は12月下旬&acd;1月上旬と1月末&acd;2月上旬にかけて, ドームふじ観測拠点への旅行は12月下旬&acd;2月上旬になされた。大気採集実験は1月3日に実施された。第39次夏隊と第38次越冬隊は2月15日に昭和基地を離れ, 海底地形測量の後, 2月下旬にアムンゼン湾地域での観測を実施した。3月1日アムンゼン湾発, 同21日シドニー入港, 同28日, 空路成田に帰着した。海洋観測は東京からシドニーまでの「しらせ」航路上で実施した。
著者
本山 秀明 森本 真司 渡辺 興亜
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.101-110, 2003-07

水試料中の水素同位体比を,800度に加熱したクロムによって水試料を水素に還元する方法で測定した.測定精度は1.0‰以内であった.南極氷床上で採取された沿岸から内陸部にかけての表面積雪を測定した.測定範囲は-200‰から-400‰であった.沿岸から内陸へ気温が下がるとともにδDは小さな値となり,この変動はδ^<18>Oと一致した.また過剰重水素が沿岸では10‰以下の小さな値を示すことから,海が近いほど湿潤なところで生成した水蒸気が凝結して降り積もっている雪であると考えられる.地球環境を探るのに有効な水素同位体比の測定法を確立した.
著者
高松 信樹 松本 源喜 中谷 周 鳥居 鉄也
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.103-112, 1988-07

南極南ビクトリアランド・ドライバレー地域・ラビリンス(77°33′S, 160°50′E)の池水中の塩起因を明らかにするため, LiとB含量を測定した。また, これらと比較するため, ドライバレー地域のバンダ湖, ドンファン池, フリクセル湖およびボニー湖ならびにベストフォールドヒルズのディープ湖とエース湖についても同様の測定を行った。ラビリンスの淡水および塩水中のLiおよびBの濃度および濃縮係数などより, 池水の化学成分は海水や熱水起源ではなく, おもに風送塩に起因するものであることが明らかになった。これらのことはラビリンスの塩水池が風送塩を含む氷河氷や雪の融水が凍結濃縮を繰り返すことによって形成されたとする考えを支持している。塩化物イオン含量の増加とともにB/Cl比が減少することから, Bは凍結過程で氷に移行し, 蒸発によって徐々に揮発していくと考えられる。
著者
田之畑 一男 石川 三郎
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1481-1485, 1963-01

この報告は,短波帯の夜間における電界強度を測定した結果について述べたもので,若井氏が先に得た結果を再検討したもので,肯定的な結果が得られた.測定は東京からCape Townに至る船上においてなされたもので,結果は10Mc/s帯においては減衰量が少なく,又各周波数帯に規則的な関係は得られなかったが,2.5Mc/sのJJYの受信結果から求めた減衰量は,垂直投射に換算して1.0dbなる値を得た.これは,若井氏によって求められた値1.7dbに対して60%位の値であるが,測定値がばらつき,又往路と復路で若干測定値に差があるので数量的な点ではいずれを採ったらいいかは断定できない.一方2.5Mc/sにおいては,遠距離における観測点が少ないので,測定した周波数帯全部についてこれを2.5Mc/sの垂直投射に換算して,加重平均を求めてみると,2.5dbなる値を得た.得られた値を再び2.5Mc/sの測定値に当てはめてみると,1回反射の限界距離内では極めてよく合うことがわかった.
著者
長井 嗣信 河野 毅
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
no.68, pp.p23-34, 1980-02

本論文では,磁気圏嵐時の静止衛星軌道における高エネルギー粒子のフラックス変動について報告する.3つの静止衛星の同時観測により,夕方側で粒子の減少がみえる時に,真夜中から朝側にかけては,粒子の増加がみられることを明確に示した.また,地磁気じょう乱が引き続いて起きている時には,比較的大きなしかも孤立して起きた磁気圏嵐の時とやや異なる粒子フラックスの変動がみられることを2日間の例を使い示した.
著者
山内 恭
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.58-95, 1999-03

第38次南極地域観測隊昭和基地越冬隊31名は, 1997年2月1日から翌年1月31日まで1年間昭和基地での越冬観測を実施した。今次隊より, 研究観測は, 新しくプロジェクトとモニタリングの2本立てで計画され, 多彩な観測が実施された。プロジェクト研究観測では「東南極のリソスフィアの構造と進化の研究(シール計画)」「南極大気・物質循環観測」が重点的課題であり, 前者は夏期のアムンゼン湾域での調査が, 後者はドームふじ観測拠点での観測が中心となったが, 昭和基地での越冬中も関連観測が多く行われた。また, モニタリング研究観測としては, これまで定常観測として行われていた地震観測の他, オーロラ光学観測, 大気微量成分観測, 生態系モニタリング, 衛星データ受信等, 地球環境の長期的監視が必要な観測を着実に推進した。野外へは, 数多くの沿岸露岩域への生物, 地学調査や, みずほルートでの地球物理観測旅行が行われた他, 航空機観測も精力的に実施した。3年目のドームふじ観測拠点での越冬観測が続いていたため, これを支えるための夏期の人員・物資輸送の旅行に加え, 越冬中も補給旅行を実施した。10月から11月にかけ, 44日間の長期旅行となり, 8名が参加, 燃料補給等を行った。これらの基地, 野外観測を支えるための設営作業も多忙をきわめた。昭和基地整備計画に基づく, 新居住棟の建設が夏期間から続き, 6月に完成, 入居となった。基地施設は着々と整備が進んでいるが, それだけに維持管理の仕事量は増加し, 設備面で追いつかない面も見られた。野外活動のための雪上車類の整備, 旅行準備も大仕事であった。環境保護を目指し, 不用建物の解体, 廃棄物持ち帰りに努めた。大きな障害もなく進んだ越冬と思われたが, 11月末になって急病人が発生した。「しらせ」の昭和基地への急行を要請し, 病気の隊員は「しらせ」により予定を変更して南アフリカ, ケープタウンへ搬送, 帰国させた。