著者
河合 憲一 高木 寿人 真鍋 秀明 後藤 新之介 梅本 琢也
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.297-299, 2009

症例は95歳男性.朝7時ごろから繰り返す意識消失を主訴に17時ごろ前医を受診した.造影CTにて左後腹膜に巨大な血腫を伴う腹部大動脈破裂と診断され当院救急搬送となった.前医出発直前に心肺停止(cardiopulmonary arrest[CPA])となり無脈性電気活動(pulseless electrical activity[PEA])の状態で緊急手術を開始した.全腹部正中切開で開腹したところ左総腸骨動脈瘤破裂であった.腹部大動脈中枢側を遮断,自己心拍での循環動態の改善を確認し可及的速やかに人工血管置換術を行った.閉腹の際に腸管の浮腫が著明でありイレウス管を使用して腹腔内の減圧を行った.術後5日目まで人工呼吸管理を要したがその後は経過良好でリハビリ施行により自立歩行も可能な状態となり,術後28日目に他院へ転院した.
著者
内山 光 古川 浩二郎 福田 倫史 平田 雄一郎 恩塚 龍士 田山 栄基 森田 茂樹
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.235-239, 2021

<p>冠動脈大動脈起始異常症は比較的稀な先天性冠動脈異常である.心筋虚血や心室性不整脈が問題となるが,初発症状が心停止である例が約半数との報告もある.しかし,かかる病態に対する手術適応や手術術式に関して不明な点も多い.今回,右冠動脈大動脈起始異常症に対して外科治療を行い良好な結果を得たので報告する.繰り返す胸部圧迫感を主訴とする47歳男性に精査を行ったところ,右冠動脈が左バルサルバ洞より分岐する右冠動脈大動脈起始異常症であった.血液検査,心電図,心臓カテーテル検査を含め客観的な心筋虚血所見を認めなかったものの,右冠動脈の比較的急峻な大動脈からの起始角度,両大血管間に挟まれた走行形態が胸部症状に関与している可能性と,突然死の可能性が否定できなかったため,手術の方針とした.手術は右冠動脈移植術を施行した.画像上良好な結果が得られ,術後一年の現在,胸部症状の再燃なく外来経過観察中である.</p>
著者
鷹羽 浄顕 山里 有男 山田 知行
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.258-261, 2002-07-15 (Released:2009-08-21)
参考文献数
13

1993年4月から1999年12月まで過去7年間に当科で経験した破裂性腹部大動脈瘤緊急手術症例44例を対象とし,手術成績を検討した.病院死亡は8例であり,18.2%と比較的良好な成績であった.麻酔導入時ショックに対する対応策として,消毒およびドレーピングなどの執刀準備を行ったうえで,麻酔導入挿管と同時に執刀を開始した.すべて,腹部正中切開にて行った.術前および術中因子において生存群および死亡群に分けて統計的解析を行ったところ,術前因子としては,術前意識消失の有無(p=0.018),術前心停止の有無(p=0.015),術前ショックの持続時間(h)(p=0.031),麻酔導入時収縮期血圧60mmHg以下(p=0.019),また,術中因子としては,腹腔内破裂(p=0.010),術中輸血量(p=0.043)において統計的有意差を認めた.今回の検討で救命率81.8%と良好な結果が得られたのも,迅速な診断と手術室搬入,手術開始にさいし,執刀準備を行ったうえで,麻酔導入挿管と同時に執刀を開始することにより導入時低血圧回避が可能であったためと考えられ,最も習熟した手段で副損傷なく,手早く大動脈遮断を行い出血を制御することが,重要であると考えられる.
著者
三木 隆久
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.230-233, 2014 (Released:2014-08-09)
参考文献数
8
被引用文献数
3 3

重症胸部外傷に対する止血術では,左右いずれかの開胸では十分な視野が得られないことも多く,また両側の胸腔内損傷の修復や心停止回避のための大動脈遮断が必要となる場合もある.このような状況では,Clamshell thoracotomyを選択しなければならないこともしばしば経験する.症例1は41歳男性.バイク運転中にトラックと衝突し受傷した.ショック状態で救急搬送された.FAST(focused assessment with sonography for trauma)にて脾周囲に液体貯留所見を認め,緊急開腹術を施行した.脾摘出とガーゼパッキングによるDamage Control Surgery(DCS)を行ったが,右大量血胸によりショック状態が遷延するため右前側方開胸となった.右縦隔胸膜からの出血と切迫する心停止状態となったため,Clamshell thoracotomyを決断した.右心耳に4 cmの裂傷と右肺上葉に2カ所の裂傷を認めたため,それぞれ縫合修復を行った.術後経過良好で,受傷57日目に転院となった.症例2は75歳女性.バイク運転中に縁石と接触後に転倒し受傷した.ショック状態で救急搬送された.右大量血胸によるショック状態であり,右前側方開胸となった.右縦隔胸膜からの出血と切迫する心停止状態となったため,Clamshell thoracotomyを決断した.左心耳に2 cmの裂傷を認め,縫合修復を行った.術後経過良好で,受傷37日目に転院となった.Clamshell thoracotomyは,重症胸部外傷の出血制御には有効なアプローチ法であり,その適応,手術手技,タイミングを熟知しておかねばならない.
著者
渡辺 航 寺田 康 榊原 謙 軸屋 智昭 厚美 直孝 重田 治 三井 利夫
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.285-288, 1999-07-15 (Released:2009-04-28)
参考文献数
10
被引用文献数
1

Subepicardial aneurysm は「心破裂の直前の状態で, 血腫が心外膜まで完全に穿破せずに梗塞部で留まり, その後左室圧により梗塞部が伸展したために生じた瘤」として考えられている. そのため病理所見では, 瘤壁には心外膜, 心筋細胞, 血管が認められ, 心内膜は認めず血栓が存在する. 今回われわれは, この概念と合致する症例を経験したので報告する. 症例は69歳の男性. 下壁の急性心筋梗塞に対し血栓溶解療法を施行後, 心室頻拍と心室細動を認め, 心肺蘇生を受けた. 心臓カテーテル検査では, 低左心機能, 左主幹部病変と三枝病変, 下壁に突出する左室瘤を認めた. 手術は, 瘤を切除後, テフロンフェルトで補強し縫合閉鎖, 左前下行枝にバイパス術を施行した. 病理所見では瘤壁は菲薄化しており, わずかな心筋細胞を含む線維組織血管, 心外膜, 血栓を認め, subepicardial aneurysm と診断した.
著者
阿久津 博美 末定 弘行 河内 賢二 清水 剛 平山 哲三 石丸 新 古川 欽一
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.20, no.9, pp.1533-1535, 1991-12-15 (Released:2009-04-28)
参考文献数
11

術前高ビリルビン血症を伴った42歳男性の大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症に対し人工弁置換術とHaemonetics社製Cell Saver 4®を用いた術中血漿交換療法を施行した.人工心肺の回路残血と術野吸引血11,300mlを洗浄処理し210mgのビリルビン除去が可能であった.術中輸血量は同種赤血球濃厚が2単位,血漿交換に要した同種FFPは36単位であった.ビリルビン値は9.9mg/dlから術直後4.5mg/dlに減少,その後一過性の上昇(9.0mg/dl)を認めたが徐々に正常化し退院した.高ビリルビン血症に対する術中の血漿交換は安全かつ有用な手段と考えられた.
著者
安東 悟央 橘 剛 加藤 伸康 有村 聡士 浅井 英嗣 新宮 康栄 若狭 哲 加藤 裕貴 大岡 智学 松居 喜郎
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.13-17, 2018-01-15 (Released:2018-02-16)
参考文献数
8

非常に稀で,手術施行例の耐術例はほとんど報告がない,先天性心疾患姑息術後の肺動脈瘤の合併症例を経験した.症例は40代男性.肺動脈閉鎖症兼心室中隔欠損症に対して一歳時にWaterston手術を施行されたが,その後当時としては根治手術が困難と判断され,NYHA class I度のため数十年間近医で経過観察されていた.労作時の呼吸苦増悪を認め他院を受診,肺炎と心不全の疑いで入院加療されたが,胸部CT検査で95 mmの右肺動脈瘤を認め,切迫破裂も疑われたため外科的加療目的に当科紹介となった.入院時,右胸水と右肺の広範な無気肺を認めた.胸水ドレナージを施行(800 ml)した.胸水は漿液性で胸背部痛など認めず血行動態は安定していた.切迫破裂は否定的であったものの95 mmと巨大な瘤径であり,利尿薬および抗生剤治療を数日間先行し,準緊急的に右肺動脈瘤に対して瘤切除および人工血管置換を施行した.術前NYHA I度であったことから,もともとの吻合部径や末梢の肺動脈径にならい24×12 mm Y-graft人工血管を用いてcentral shuntとして肺動脈を再建した.PCPS装着のままICU入室,翌日離脱した.術後4日目に人工呼吸器離脱,術後38日目に退院となった.現在術後一年になるが,NYHA class I度で経過している.Waterston術後約40年後に発症した巨大肺動脈瘤に対し手術を施行し良好な結果を得たので報告する.
著者
久貝 忠男 知花 幹雄
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.260-263, 1999-07-15 (Released:2009-04-28)
参考文献数
16
被引用文献数
2 4

症例は52歳, 男性である. 左内胸動脈瘤を合併した狭心症に対し, 動脈瘤の切除と内胸動脈再建, 前下行枝に右内胸動脈にて一枝バイパスを行った. 瘤は動脈硬化性であった. 内胸動脈瘤の発生はまれで, これまでの7例の文献報告によると von Recklinghausen 病や川崎病などが病因となり, 若年女性に多く発生している. また, 破裂が2例ある. 手術は瘤切除が主体で, 血行再建の報告はない. 本症例は非常に興味あるもので, 症例を呈示するとともに文献を集計して考察する.
著者
池野 友基 山田 章貴 顔 邦男 麻田 達郎
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.130-132, 2015-05-15 (Released:2015-06-19)
参考文献数
8

症例は75歳女性.2年前に経胸壁心エコー図検査で約10 mm大の可動性の左室内腫瘍が認められ手術を勧められていたが拒否し,当科外来通院中だった.1カ月前より目のかすみを訴え,MRIで急性期脳梗塞を指摘され,左室内腫瘍からの塞栓症の疑いで当科紹介となった.左室内腫瘍に対し,経左房アプローチでの腫瘍摘出術を施行した.前乳頭筋に付着する径10 mmの綿毛様の腫瘍を摘出し,病理所見より乳頭状弾性線維腫の確診が得られた.退院後18カ月が経過するが,腫瘍の再発なく良好に経過している.
著者
瀬戸 夕輝 佐戸川 弘之 佐藤 洋一 高瀬 信弥 若松 大樹 黒澤 博之 坪井 栄俊 五十嵐 崇 山本 晃裕 横山 斉
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.140-143, 2011-05-15 (Released:2011-08-24)
参考文献数
9

症例は83歳男性.2006年に,他院にて高度房室ブロックに伴うAdams-Stokes syndromeのため左鎖骨下から経静脈的にペースメーカー(pacemaker : PM)(DDD)を移植された.2008年にPM電池留置部の創部離開を生じた.滲出液の培養は陰性であり,PMの金属によるアレルギー性皮膚潰瘍疑いと診断された.PM電池をpolytetrafluoroethylene(PTFE)シートで被覆し左鎖骨下に移植されたが再び創部の離開を生じ,対側の右鎖骨大胸筋下にPM再移植術を受けた.その後,電池感染のためPM電池を摘出された.高度房室ブロックによる徐脈を認めたため,同年12月10日当院紹介となり救急搬送された.同年12月18日に全身麻酔下に季肋部正中切開による心筋リード植え込み術(VVI)を施行した.感染による縦隔洞炎のリスクも考慮し小切開としたため,心室リードのみの留置とした.また皮膚部分で生じやすいPM金属との免疫反応を予防するためにPM電池とリードの両方をPTFEシートで被覆し,PM電池は腹直筋下に留置した.術後経過は良好で創部離開を認めなかった.また術後4カ月後のパッチテストではニッケルとシリコンに対してのアレルギー反応を認めたため,本症例の皮膚離開がPMの素材に対するアレルギーが原因であったと診断した.PM素材に対するアレルギー患者へのPM電池植え込み術の1例として報告した.
著者
梅野 惟史 迫 秀則 髙山 哲志 森田 雅人 田中 秀幸 岡 敬二 宮本 伸二
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.239-242, 2017-09-15 (Released:2017-09-27)
参考文献数
10
被引用文献数
2

左室内血栓症は,急性心筋梗塞後もしくは心筋症や重症弁膜症などによる低左心機能症例に合併するが,可動性血栓の場合や塞栓症の既往がある場合,さらに心機能が改善傾向にある場合などは積極的外科手術の適応となる.今回,急性心筋梗塞後に左室心尖部血栓を生じた1例と,うっ血性心不全治療中に左室心尖部血栓を生じた1例に対して,右第4肋間から,完全内視鏡下に経左房・経僧帽弁アプローチで外科的血栓除去術を行い,良好な結果を得たので報告する.
著者
冨澤 康子
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-6, 2011

最近,外科を選択する女性医師数は増加しているが,日本において女性医師のおかれている状況は厳しい.日本では夫が家事と育児に参加することが少なく,女性医師の家事と育児の負担が重い.2008年に,日本外科学会女性外科医支援委員会は医学会分科会105学会にアンケート調査を行った(回答率96.2%).外科系11学会のうち4学会には合計16名の女性評議員が,また1学会には女性理事1名が就任していた.創設から100年以上の歴史ある日本外科学会と日本内科学会には,女性理事は未だに就任しておらず,日本心臓血管外科学会では評議員にも女性が就任していなかった.また,2008年の第38回日本心臓血管外科学会学術総会の座長を,女性は1名も担当していなかった.また医学会分科会では専門医更新時の留保条件に妊娠,出産,育児が含まれていることは少ない.日本では処遇改善,外科を専門として選択する場合の継続就労支援,男女共同参画,および育児支援が必要である.
著者
日野 阿斗務 細田 進 勝部 健 椎川 彰
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.47-50, 2019
被引用文献数
1

<p>症例は45歳女性.僧帽弁後尖逸脱による中等度僧帽弁逆流症の診断で,定期的な外来経過観察をされていた.二週間前発症した蜂窩織炎を契機に呼吸苦を認め,来院した.来院時の心電図にてV4,V5,V6にST上昇と血中クレアチニンキナーゼの上昇を認め,胸部レントゲンでは肺うっ血像を,経胸壁心臓超音波検査にて大動脈弁および僧帽弁に高度逆流と両弁尖に複数の可動性を有する疣贅を認め,さらに前壁の壁運動低下を認めた.頭部MRIおよび全身造影CTで右前頭葉脳梗塞像,脾臓梗塞,右腎臓梗塞を認めた.感染性心内膜炎による大動脈弁と僧帽弁の高度逆流による急性心不全および心筋梗塞を含めた全身塞栓症と診断し,緊急手術の方針とした.全身麻酔導入後,カテコラミン不応の著明な血圧低下を認め,持続性心室頻拍へ移行し,ショック状態に陥った.電気的除細動無効のため,胸骨圧迫を開始し,急遽経皮的心肺補助装置を装着した.血行動態安定後,手術を開始した.術中所見では,大動脈弁,僧帽弁および左房壁に疣贅の付着と僧帽弁後尖の広範囲の腱索断裂を認めた.疣贅郭清後,僧帽弁および大動脈弁置換術,および三尖弁形成術を施行し,手術を終了した.術後高度肺水腫と循環不全が長期化したが,徐々に回復傾向を示し,第52病日に独歩にて退院となった.9カ月後の現在も感染再燃を認めずに経過している.冠動脈塞栓を伴う感染性心内膜炎は重篤で死亡率も高いとされるが,その報告は稀で,文献的考察を加えて報告する.</p>
著者
打田 裕明 小西 隼人 本橋 宜和 垣田 真里 禹 英喜 佐々木 智康 三重野 繁敏 大門 雅広 小澤 英樹 勝間田 敬弘
出版者
The Japanese Society for Cardiovascular Surgery
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.120-123, 2013

薬物使用歴のある成人に発症した,三尖弁位感染性心内膜炎に対して,弁形成術を施行した1例を報告する.症例は20歳男性.発熱を主訴に受診し,肺膿瘍を合併した三尖弁位感染性心内膜炎と診断され,抗生剤による加療が行われたが,炎症所見の遷延を認めた.血液培養から,黄色ブドウ球菌を検出,心臓超音波検査では三尖弁に疣贅と三尖弁閉鎖不全を認めた.肘部に多数の注射痕を認め,詳細な問診を行ったところ,覚醒剤の自己注射歴が判明した.抗生剤治療に抵抗性の感染性心内膜炎に対して,三尖弁形成術を行った.経過は良好で,術後2週間で独歩退院したが,予定された外来の受診はなく,術後も覚醒剤所持で逮捕されている.覚醒剤の再使用,術後の投薬管理の点から術式に一考を要した.
著者
内田 徹郎 内野 英明 黒田 吉則 中嶋 和恵 島貫 隆夫
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.12-15, 2012-01-15 (Released:2012-03-14)
参考文献数
9

骨軟骨腫(外骨腫)は最も頻度の高い良性の骨腫瘍であり,若年者の大腿骨遠位部に好発する.骨軟骨腫の血管系の合併症は膝窩動脈領域の報告が散見されるが,仮性動脈瘤形成は比較的稀である.症例は48歳,女性で,右膝窩部の拍動性腫瘤を主訴に紹介された.MD-CTで膝窩動脈の仮性瘤と診断され,疼痛と拡大傾向を認めるため,手術を施行した.仮性瘤内腔に膝窩動脈に通じる約1 mmの交通孔を認め,膝窩動脈に近接して鋭利な骨軟骨種の突起を認めた.交通孔を含む膝窩動脈を部分的に切除した後,端々吻合を行った.仮性瘤の発生機序として,大腿骨の骨軟骨腫が隣接した膝窩動脈に接触し,損傷を受けた結果,出血をきたし,仮性瘤を形成した可能性が示唆された.大腿骨遠位部に骨軟骨腫を指摘されている症例は,膝窩動脈が損傷を受ける可能性ひいては仮性動脈瘤の形成を念頭に置いて経過観察する必要があると考えられた.
著者
中田 弘子 軸屋 智昭 大坂 基男 三井 利夫
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.350-352, 2002-09-15 (Released:2009-08-21)
参考文献数
5
被引用文献数
2

患者は72歳男性.腰痛で発症.CTにて動脈硬化性腹部大動脈瘤にStanford B型急性大動脈解離が合併したものと診断された.腹部大動脈瘤は腎動脈下に存在し,動脈解離は左鎖骨下動脈起始部直下から右総腸骨動脈に及び,腹部分枝はすべて偽腔から分岐していた.胸部最大径4.8cm,腹部最大径6.5cmであった.多発腎梗塞を認め右腎は無機能であった.まず腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術を発症3ヵ月で施行した.瘤壁は動脈硬化が強く解離の及んだ部位は脆弱で腰動脈からの出血のコントロールに難渋,バイタルサインの維持が困難となり,中枢側および末梢側を閉鎖し右腋窩-両大腿動脈バイパス術に術式変更となった.今回われわれは,大動脈解離が腹部大動脈瘤を越えて進展したまれな1例を経験したので報告した.
著者
綾部 貴典 福島 靖典 帖佐 英一 吉岡 誠 鬼塚 敏男
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.61-64, 2002-01-15 (Released:2009-08-21)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

症例は30歳男性.発熱,咳嗽,呼吸困難を主訴に,入院精査した.心室中隔欠損(VSD, subarterial type)と大動脈弁の感染性心内膜炎(IE)を伴う今野分類I型のValsalva洞動脈瘤破裂と診断された.手術所見として,大動脈弁と肺動脈弁の感染性心内膜炎が認められたため,右Valsalva洞動脈瘤切除,大動脈弁,肺動脈弁切除とVSD周囲の右室壁の炎症性脆弱組織の切除術を施行した結果,VSDと右Valsalva洞切除部が連続した欠損孔を生じ,ウマ心膜パッチを用いて閉鎖を行った.大動脈弁置換術は機械弁(ATS18AP)の弁輪の一部をパッチに縫着し,肺動脈弁置換術は機械弁(ATS23A)を用い肺動脈弁位で施行した.術後13ヵ月を経過し,厳重なワーファリン管理下,感染や心不全徴候なく経過良好である.本症例はVSDから大動脈閉鎖不全症をきたし,Valsalva洞動脈瘤の形成と破裂,さらにIEが大動脈弁と肺動脈弁にまで波及し,心不全がより重症化したことが考えられた.重篤な心不全やIEが併発する前の早期にこのような適切な手術が不可避であることが示唆された症例と思われた.
著者
八板 静香 野口 亮 蒲原 啓司 柚木 純二 諸隈 宏之 古賀 秀剛 田中 厚寿 古川 浩二郎 森田 茂樹
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.277-280, 2016-11-15 (Released:2016-12-10)
参考文献数
10

中枢性尿崩症(central diabetes insipidus : CDI)は下垂体後葉からの抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が消失あるいは減少することにより尿量増加をきたす疾患である.一般的にCDIに対しては抗利尿ホルモン(ADH)補充により治療を行うが,手術侵襲により体液量や電解質などが変動する周術期のCDI患者の管理法に関しては報告も少なく確立したものはない.今回,われわれはCDIを合併した弁膜症の手術症例を経験したので報告する.症例は下垂体腫瘍の摘出術後に続発性のCDIを発症していた72歳の女性で,大動脈弁置換術と僧帽弁形成術が施行された.CDIに関しては酢酸デスモプレシン内服で術前の尿崩症のコントロールは良好であった.術直後よりバソプレシンの持続静注を開始し術翌日よりバゾプレシンの内服を再開したが術後3日目頃より急激な尿量増加をきたした.バソプレシンの静注から皮下注射に切り替え,尿量に応じたスライディングスケールで投与量を決めてコントロールを図った.経過中,バゾプレシン過剰による水中毒を認めたが,日々の尿量と電解質バランスを注意深く観察しつつスライディングスケールに従ってバゾプレシンを漸減することで酢酸デスモプレシン内服へ切り替ることができた.尿量に応じたバゾプレシン皮下注のスライディングスケールは開心術後のCDIのコントロールに有効であった.
著者
伊藤 学 古川 浩二郎 岡崎 幸生 大坪 諭 村山 順一 古賀 秀剛 伊藤 翼
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.132-135, 2006-05-15 (Released:2009-08-21)
参考文献数
6

鈍的外傷による心破裂の救命率は低い.救命率の向上のためには診断,治療方針を明確にする必要がある.われわれは鈍的外傷による心破裂例8例を経験した.来院時,全例経胸壁心エコーにより心嚢液貯留を認め,心タンポナーデの状態であった.受傷から来院までの平均時間は186±185分,来院から手術室搬入までの平均時間は82±49分.術前に心嚢ドレナージを行ったのは2例,経皮的心肺補助装置を使用したのは2例であった.破裂部位は,右房3例,右房-下大静脈1例,右室2例,左房1例,左室1例であった.4例に体外循環を用い損傷部位を修復した.8例中6例を救命することができた(救命率75%).診断において経胸壁心エコーが簡便かつ有効であった.多発外傷例が多いが,心タンポナーデによるショック状態を呈している場合,早急に手術室へ搬送すべきである.手術までの循環維持が重要であり,心嚢ドレナージ,PCPSが有効である.