著者
東 修平 森田 雅文 真野 翔 本橋 宜和 吉井 康欣 土田 隆雄
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.52-57, 2020-03-15 (Released:2020-04-03)
参考文献数
6
被引用文献数
1

[目的]Stanford A型急性大動脈解離(AAD(A))において,全弓部人工血管置換術(TAR)の際の左鎖骨下動脈再建(LSCA)については,症例によっては,深い視野での操作になり,剥離や吻合に難渋する症例や左反回神経麻痺や血管損傷を含めた合併症のリスクを伴うことも多い.今回われわれは,AAD(A)に対するTARにOpen Stent法を併施する際に,LSCAを再建せずに,Open Stent Graftのstenting portionにLSCAの入口部に合わせて開窓を作製し,遠位吻合を左総頸動脈(Lt. CCA)とLSCAの間(ZONE 2)に行う当院独自の自作開窓型オープンステント法としてIn Situ Fenestrated Open Stent Technique(FeneOS)を考案し,有用な成績が得られたので報告する.[対象・方法]2008年1月から2019年8月までに当院で施行したAAD(A)に対するTAR 144例(男性64名;女性80名,平均年齢71.9歳±12.3)を対象とし,上記FeneOSを施行した群47例(FeneOS群)と通常の脳血管3分枝の再建を行った97例(non-FeneOS群)の2群に分けて分析した.[結果]早期成績として,手術死亡(FeneOS群/non-FeneOS群=4.3%/5.2%)と有意差は認めず,両群ともに満足のいく結果であった.手術時間,選択的脳灌流時間,人工心肺時間,下半身循環停止時間については,FeneOS群で有意に短かった(p<0.05).FeneOS群全例において,術後遠隔期も含め,LSCAの血流に問題は認めず,術後反回神経麻痺も認めなかった.[結語]FeneOSは,LSCAを剥離して再建する必要がないことから,弓部3分枝再建に要する時間の短縮のみならず,左反回神経麻痺や血管損傷を含めたリスク回避において,AAD(A)におけるTAR時の有用な手術手技として選択肢になり得ると考える.
著者
中野 優 伊庭 裕 山田 陽 三浦 修平 今野 光彦 和田 卓也 丸山 隆史 八田 英一郎 栗本 義彦
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.25-29, 2020-01-15 (Released:2020-02-01)
参考文献数
18

症例は71歳男性.11年前に大動脈弁閉鎖不全症に対して大動脈弁置換術,1年前に急性A型大動脈解離に対して上行大動脈置換術がそれぞれ他院で施行されていた.今回,激しい心窩部痛を自覚し緊急搬送された.来院時の血圧70mmHgで,造影CTにて人工血管の末梢側吻合部の仮性瘤と仮性瘤内から右肺動脈への血流を認めたため,緊急手術となった.右腋窩動脈送血,右大腿静脈脱血で体外循環を確立して全身冷却を開始してから胸骨正中切開を行った.低体温循環停止,選択的脳灌流を確立して観察すると,末梢吻合部小弯側が約3cm離開していた.部分弓部置換術で再建し,また右肺動脈前面に穿通孔を認めたためウシ心膜パッチで閉鎖した.術後経過は良好で,22病日にリハビリ目的に転院となった.仮性瘤の肺動脈穿破による左-右シャントによる急性心不全のため血行動態が破綻し,緊急での再々開胸手術にて救命し得た1例を報告する.
著者
渡辺 卓 柳沼 厳弥 濱崎 安純 河原井 駿一
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.69-73, 2008-03-15 (Released:2009-09-15)
参考文献数
18
被引用文献数
3 5

非閉塞性腸管虚血 (NOMI) は希であるが,早期診断が難しく,腸管壊死をきたし予後不良である.1999年4月から2003年9月まで,開心術後1,040例のうち NOMI は5例であった.全例,発症時に大腿部の大理石紋様と,血中乳酸値の上昇を認めた.上腸間膜動脈 (SMA) 造影を行い, SMA 内に PGE1500μg を30分で持続動注した.腹膜刺激症状を呈した3例に開腹術を施行した.5例中4例を救命した. NOMI の診断では血中乳酸値の上昇とともに皮膚の大理石紋様は臨床的にきわめて有効な指標であった. NOMI が疑われた場合,血管造影による早期診断,早期治療が肝要と考えられた.
著者
柴崎 郁子 碓氷 章彦 森田 茂樹 横山 斉
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-11, 2020-01-15 (Released:2020-02-01)
参考文献数
8
被引用文献数
3

[目的]政府が働き方改革を推し進めるなか,医師も例外ではない.今回外科系のなかでも特に労働条件が過酷と言われる心臓血管外科領域での労働環境や処遇の現状について調査した.[方法]2018年12月に日本心臓血管外科学会は,心臓血管外科医の働き方改革,処遇改善に向けた基礎データーを得るため,心臓血管外科学会の会員メンバー3,701名にインターネットよるアンケート調査を実施した.[結果]634名の心臓血管外科医から回答を得た(回答率:17%,男性589名,女性38名).回答者は40~50歳代の中堅外科医が中心であった.主な勤務先での労働時間が平均週60時間以上と回答したのが473名(75.5%),週80時間以上の労働と回答したのが176名(28.2%)だった.また,勤務時間外・深夜・休日の呼び出しに対しての手当支給がないと回答したのは249名(40.4%)で,勤務時間外・深夜・休日の手術に対しての手当支給がないと回答したのは345名(56.6%)だった.[結語]心臓血管外科領域では,約75%以上が過剰労働をしており,労働に相応しい収入が得られていないことがわかった.働き方改革が進むなか,心臓血管外科医の労働環境改善は喫緊の課題である.学会を中心に国民の理解を得ながら処遇改善の取組みを進めることが求められている.
著者
大音 俊明 増田 政久 林田 直樹 ピアス 洋子 中谷 充 浮田 英生 志村 仁史 茂木 健司 塚越 芳久 中島 伸之
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.36-39, 2001-01-15 (Released:2009-04-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

Intravenous leiomyomatosis (IVL) は子宮筋腫あるいは子宮内静脈壁から生じた組織学的に良性な平滑筋腫が静脈内に成長進展したものと定義され, まれに右心系へ達することもある疾患である. 症例は43歳の女性で, 右内腸骨静脈から下大静脈を経て右房右室にいたるIVLに対し体外循環を用いた開心・開腹による腫瘤摘出術を行った. 体外循環を開始するさい, 下大静脈への脱血管挿入は腫瘤が障害となり困難であった. 経右房的腫瘤切除を行ったのち, 脱血管を挿入したが予想外に出血が多く血行動態の悪化を招いた. 経右房的腫瘤切除は循環停止下に行ったほうが安全かと思われた. また術後, 腫瘍組織が残存した場合には再発の可能性が高いので本症例では予防的に抗エストロゲン剤の投与を継続している. 術後2年4カ月を経過し静脈内に再侵入する腫瘍像は認めず手術および術後の薬物治療が有効であったと考えられた.
著者
安藤 美月 喜瀬 勇也 前田 達也 稲福 斉 山城 聡 國吉 幸男
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.245-249, 2019
被引用文献数
2

<p>原発性心臓腫瘍は稀な疾患であり,その発症率は剖検例の0.0017~0.33%とされているが,心臓超音波検査の進歩および普及による診断学の発展に伴い,その診断率は年々上昇している.乳頭状線維弾性腫は粘液腫についで多い心臓原発性良性腫瘍で,多くは大動脈弁および僧帽弁に単発で生じることが多い無血管性乳頭腫であり,4弁すべてに発生した症例報告はない.今回われわれは意識消失を契機に発見された,若年女性の4弁すべてに発生した乳頭状線維弾性腫の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.</p>
著者
黄 義浩 大久保 正 星野 良平 神垣 佳幸
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.51-54, 2001

結合組織代謝異常症を伴う慢性A型解離性大動脈瘤3症例に対して, 一期的に Bentall 変法+上行弓部大動脈置換術を施行した. 症例は男性2人, 女性1人で, 年齢は37~48歳, Marfan 症候群が2例, cystic medial necrosis が1例であった. 全例大動脈弁輪拡張症 (AAE) と高度な大動脈弁閉鎖不全症 (AR) を有し, 大動脈基部および弓部の著明な拡大と広範な解離病変を認めた. とくに結合組織代謝異常を伴う解離性大動脈瘤では, 血管病変が広範で進行性であることが多く, 術後に新たな血管病変や弁疾患をきたす可能性も高いため, 早期拡大手術の考慮, 再手術の可能性をふまえた術式選択とともに術後の慎重な経過観察が重要であると思われる.
著者
早川 真人 赤崎 満 西島 功 永野 貴昭 新里 建人 池村 綾 宮城 和史 伊波 潔 瀬名波 栄信 下地 光好
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.202-205, 2019
被引用文献数
1

<p>症例は78歳の女性.胸部異常陰影を指摘され,CTにて右大動脈弓,左鎖骨下動脈起始異常(ALSA)を伴うKommerell憩室(KD)を指摘された.自覚症状は認めなかったが,動脈瘤の最大径が63 mmであったことから手術の方針とした.手術は胸骨正中切開でアプローチし,側枝を作製した4分枝管人工血管を上行大動脈に端側吻合した.次に頸部分枝の再建を行った後,側枝よりConformable GORE<sup>®</sup> TAG<sup>®</sup>(W.L. Gore and Associates,34 mm×200 mm)をZone 0からTh 7の範囲に展開した.最後にALSAのコイル塞栓術を行い,最終確認造影ではエンドリークを認めなかった.術後36日目に独歩退院となり,術後2年目のフォローでは瘤径の縮小を認め経過は順調であった.</p>
著者
青木 正哉 向原 伸彦 吉田 正人 村上 博久 邉見 宗一郎 松島 峻介 西岡 成知 森本 直人 本多 祐 中桐 啓太郎
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.391-394, 2013

症例は71歳男性,201&times;年2月22日に他院にて腹部大動脈瘤破裂に対し人工血管置換術が施行された.術後3カ月目,外来の採血検査でHb 7.0 g/dlの貧血を認めたため,再入院となった.CTならびに上部消化管内視鏡検査にて,Aortoenteric Fistula(以下AEF)と診断され,手術目的にて当科転院となった.手術待機中に,吐・下血後,出血性ショックとなり,緊急でステントグラフトによる血管内治療(Endovascular aneurysm repair : EVAR)を施行した.術後,感染の再燃や消化管出血も認めず,術後58日目に軽快退院した.現在術後1年が経過しているが,再感染の兆候なく,外来にて厳重に経過観察中である.二次性AEFは予後不良であり,外科的根治術が原則である.しかし,出血からショックに陥った症例では,血管内治療はその低侵襲性と迅速性を活かしてbridge to open surgeryとして治療のオプションとなりうる.また,再感染がなく,消化管出血を認めないなどの条件が整っていれば,最終的な治療にもなりうるが,再感染および再出血のリスクを念頭に置いた観察が必要である.
著者
河内 寛治 中田 達広 浜田 良宏 高野 信二 角岡 信男 中村 喜次 堀内 淳 宮内 勝敏 渡部 祐司
出版者
特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.344-346, 2002-09-15
被引用文献数
1

上行大動脈がporcelain aortaを呈したAVR,CABG,腹部大動脈瘤手術の心臓・大血管系の3同時手術を施行した.73歳女性で,左室-大動脈圧較差60mmHgを示し,RCAの4A-V枝に90%の狭窄を認めた.大動脈弁および上行大動脈の著しい石灰化を認め,腹部に5cmの壁在血栓を伴うAAAを認めた.手術はAVR,CABG,AAAの3同時手術を施行した.CABGのグラフトは大動脈での吻合のない右胃大網動脈を用いた.送血管は上行大動脈より行い,右房脱血にて体外循環を開始した.石灰化のない大動脈より心筋保護(CP)液を注入,大動脈遮断して,AVR施行した.冠動脈入口部の石灰化のために,選択的にCP液を注入することは難しく,大動脈切開部の石灰を除去し縫合閉鎖してから大動脈より注入した.ついでRGEAとRCAの吻合を行い,大動脈遮断解除し体外循環を終了し,AAAの人工血管置換術を行った.翌日抜管でき,現在NYHA1度で経過している.
著者
梅末 正芳 松崎 浩史 園田 拓道 松井 完治 塩見 哲也 芦原 俊昭
出版者
特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.157-161, 2007-05-15
被引用文献数
1

症例は76歳,男性.平成17年5月21日左回旋枝の完全閉塞による急性心筋梗塞(後側壁)に対しシロリムス溶出性ステントを挿入された.残存する左前下行枝近位部の90%狭窄病変にに対し冠動脈バイパス術を施行することとなった.手術1週間前よりチクロピジン,手術2日前よりアスピリンを休薬し,ヘパリンを手術5日前より手術前まで静脈内持続投与し,6月9日に心拍動下に左内胸動脈を左前下行枝へ吻合した.手術当日夜よりヘパリン持続点滴を開始し,手術翌日よりアスピリンおよびチクロピジンを開始したが,術当日に急性心筋梗塞を発症した.緊急心臓カテーテル検査では,バイパスグラフトは良好に開存していたが左回旋枝に留置したステントの完全閉塞を認め,同閉塞に対しカテーテル治療を行い血流再開を得た.薬剤溶出性ステント挿入後はステント血栓症予防のために最低3カ月のチクロピジン投与および無期限のアスピリン投与が推奨されているが,出血性疾患の合併や外科手術のために抗血小板剤の休薬を要する状況も想定される.本報ではそのような患者における抗血小板療法,抗凝固療法につき検討した.
著者
阪口 正則 村上 忠弘 石川 巧 南村 弘佳
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.108-111, 2015 (Released:2015-04-11)
参考文献数
17

症例は69歳,女性.食後の腹痛および血便を認め,下部消化管内視鏡検査で虚血性腸炎が疑われた.腹部造影CT検査で上腸間膜動脈の起始部閉塞による腹部アンギーナと診断された.造影CT検査では,胸腹部大動脈および腹部大動脈に壁在血栓を伴う拡大と高度の大動脈壁石灰化を認め,また,両側の総腸骨動脈にも高度の狭窄を認めた.手術は,大伏在静脈グラフトを用い,腹部の主要な分枝動脈で唯一起始部から末梢まで狭窄を認めなかった右腎動脈から,上腸間膜動脈にバイパス術を行った.術後,食後の腹痛は消失し,良好な経過を得た.
著者
佐藤 愛子 穴井 博文 和田 朋之 濱本 浩嗣 嶋岡 徹 首藤 敬史 坂口 健 後藤 孔郎 吉松 博信 宮本 伸二
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.187-190, 2010-07-15 (Released:2010-10-26)
参考文献数
6

僧帽弁閉鎖不全症,三尖弁閉鎖不全症の術後に著しい低血圧,低血糖を来たし,精査の結果副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone,以下ACTH)単独欠損症が判明した症例を経験した.症例は59歳,男性.下腿浮腫の精査を行ったところ弁膜症を指摘され薬物治療を受けていた.急性心不全を来たしたため僧帽弁形成術,三尖弁弁輪縫縮術およびMAZE術を行った.人工心肺離脱したがその直後より低血圧を呈し,輸液負荷,カテコラミン投与を行うも収縮期血圧が40 mmHgより上昇しなかった.アナフィラキシーショックを考慮しバソプレッシンとヒドロコルチゾン投与行ったところ血圧改善を認めた.術後12日目,低血糖による意識障害を起こし,糖大量持続投与にもかかわらず低血糖発作を繰り返した.精査にてACTH単独欠損症と判明した.ヒドロコルチゾン20 mg内服開始したところ血圧,血糖改善し経過良好である.
著者
久米 悠太 平松 健司 長嶋 光樹 松村 剛毅 山崎 健二
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.154-160, 2016-07-15 (Released:2016-08-19)
参考文献数
23

[背景]小児期の人工弁置換術には術後の脳関連合併症や血栓弁,成長に伴うサイズミスマッチなどの懸念があり可及的に弁形成術を行うことが望ましいが,やむを得ず弁置換術となる症例が存在する.15歳以下の孤立性僧帽弁疾患(孤立性僧帽弁閉鎖不全症,孤立性僧帽弁狭窄症)に対する僧帽弁形成術,僧帽弁置換術の遠隔期成績を検討した.[対象]1981年1月から2010年12月までに当院で僧帽弁形成術を行った30例(P群:男児21例,平均年齢4.6±4.6歳,平均体重13.4±8.9 kg),および機械弁による僧帽弁置換術を行った26例(R群:男児9例,6.2±4.6歳,平均体重16.4±11.2 kg)の計56例を対象とした.平均追跡期間9.3±7.8年,最長27.7年であった.また,孤立性僧帽弁閉鎖不全症(iMR)群と孤立性僧帽弁狭窄症(iMS)群とに分けて追加検討を行った.[結果]P群,R群ともに周術期死亡例はなく,遠隔期にR群で4例を失った.再手術はP群で6例,R群で5例に認めた.脳関連合併症は両群とも遠隔期に1例ずつ認めたのみで,人工弁感染は認めなかった.10年時および20年時での生存率はP群100%,100%,R群88.0%,80.0%であり有意差が見られた(p=0.043).10年時および20年時での再手術回避率はP群77.6%,77.6%,R群77.0%,70.0%,10年時における脳関連合併症回避率はともに100%であり有意差は見られなかった.iMR群とiMS群の10年時における生存率は100%と53.3%であり有意差がみられた(p=0.001).iMR群とiMS群の10年時における再手術回避率は77.1%と64.3%,20年時では72.0%と64.3%であり有意差は見られなかった.[結語]15歳以下の孤立性僧帽弁疾患に対する僧帽弁形成術,僧帽弁置換術の遠隔期成績は,懸念していた機械弁置換術後の脳関連合併症回避率や再手術回避率も僧帽弁形成術と有意差なく,小児期の僧帽弁手術として許容されるものであった.特に孤立性僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁手術の遠隔期成績は良好であった.孤立性僧帽弁狭窄症においては孤立性僧帽弁閉鎖不全症に劣らない再手術回避率であったが生存率には懸念が残る結果となった.
著者
吉田 貞夫 軸屋 智昭 平松 祐司 島田 知則 榊原 謙 厚美 直孝 三井 利夫 堀 原一
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.433-436, 1993-09-15 (Released:2009-04-28)
参考文献数
16

高位腹部大動脈閉塞症は陰萎, 間歇性跛行などの慢性虚血症状を呈する場合が多いとされる疾患である. 今回著者らは, 急速に増悪した両下肢および骨盤内臓器の虚血症状を主訴とした高位腹部大動脈閉塞症例を経験したので報告する. 患者は57歳, 女性. 軽度の間歇性跛行を自覚していたが, 突然両下肢および骨盤内臓器の重症虚血症状が出現し, 血管造影で高位腹部大動脈閉塞症と診断された. 腎動脈上遮断, 血栓摘除, 腎動脈下遮断でY型人工血管置換術を行った. 術中 Laser Doppler 血流計測でS状結腸の重篤な虚血を証明しえた. また, 術前から認められていた右腎動脈狭窄の急速な進行を認め, 術後に経皮経管動脈形成術を必要とした. 高位腹部大動脈閉塞症の急性増悪は主側副血行路の閉塞が原因と考えられた. また, 腎動脈病変を伴う場合, たとえそれが軽症でも同時血行再建等の適応があるものと考えられた.
著者
鷹羽 浄顕 山里 有男 山田 知行
出版者
特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.258-261, 2002-07-15
参考文献数
13
被引用文献数
7

1993年4月から1999年12月まで過去7年間に当科で経験した破裂性腹部大動脈瘤緊急手術症例44例を対象とし,手術成績を検討した.病院死亡は8例であり,18.2%と比較的良好な成績であった.麻酔導入時ショックに対する対応策として,消毒およびドレーピングなどの執刀準備を行ったうえで,麻酔導入挿管と同時に執刀を開始した.すべて,腹部正中切開にて行った.術前および術中因子において生存群および死亡群に分けて統計的解析を行ったところ,術前因子としては,術前意識消失の有無(p=0.018),術前心停止の有無(p=0.015),術前ショックの持続時間(h)(p=0.031),麻酔導入時収縮期血圧60mmHg以下(p=0.019),また,術中因子としては,腹腔内破裂(p=0.010),術中輸血量(p=0.043)において統計的有意差を認めた.今回の検討で救命率81.8%と良好な結果が得られたのも,迅速な診断と手術室搬入,手術開始にさいし,執刀準備を行ったうえで,麻酔導入挿管と同時に執刀を開始することにより導入時低血圧回避が可能であったためと考えられ,最も習熟した手段で副損傷なく,手早く大動脈遮断を行い出血を制御することが,重要であると考えられる.
著者
田村 清 田崎 大 白井 俊純 大島 永久
出版者
特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.363-366, 2006-11-15
参考文献数
9

感染性心内膜炎において,化膿性脊椎炎の合併は比較的まれであるが,致死的な合併症であることが知られている.われわれは,化膿性脊椎炎から感染性心内膜炎を診断し治療した2症例を経験したので報告する.症例1は60歳,男性.症例2は52歳,男性.ともに発熱と激しい背部〜腰部痛を主訴に来院した.MRI検査で腰椎の化膿性脊椎炎と診断された.また,うっ血性心不全と弛張熱から感染性心内膜炎と診断された.2症例とも適切な抗生剤投与にもかかわらず,弁の破壊の進行およぴ10mm以上の大きさの可動性疣贅が認められたため手術を行った.症例1は2弁置換術(大動脈弁および僧帽弁),症例2は大動脈弁置換術を行い,良好な経過を得た.2例とも術後4週間の抗生剤投与により完全にCRPが陰性化したのちに退院したが,化膿性脊椎炎に対しては,その後もさらに1〜2カ月間の経口抗生剤投与を行った.レントゲンによる骨所見の改善とCRP正常化の維持から化膿性脊椎炎の治癒と判断し,3カ月後に抗生剤を中止した.その後,感染性心内膜炎,化膿性脊椎炎の再燃を認めていない.化膿性脊椎炎などの菌血症がある場合,感染性心内膜炎の合併の可能性を考慮すべきである.また,骨所見の改善するまでの長期の適切な抗生剤投与を行うことを推奨する.
著者
柴田 利彦 山田 正 石原 寛治 鈴木 範男 永来 正隆 藤井 弘一 末広 茂文 佐々木 康之 上田 真喜子
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.217-220, 1994-05-15 (Released:2009-04-28)
参考文献数
6
被引用文献数
2 3

Systemic lupus erythematosus (SLE) に合併する血管病変は主に細小動脈の閉塞性病変とされており, 大血管に拡張性病変を合併することは希である. 今回SLEに合併した若年者腹部大動脈瘤を経験したので報告する. 病理所見では大動脈 vasa vasorum の増生・内膜肥厚と炎症性細胞浸潤を認め, 動脈硬化性の動脈瘤とは異なる像を呈していた. 本症例の腹部大動脈瘤は vasa vasorum の増生・内腔狭窄に起因して生じた可能性が示唆された.
著者
織田 禎二 宮本 忠臣 白石 義定 朴 昌禧
出版者
The Japanese Society for Cardiovascular Surgery
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.861-864, 1991

小児の開心術では通常,輸血が不可欠であるが,ときに親の宗教上の事情により輸血が拒否されることがある,われわれは"エホバの証人"のシンパを親にもつ1.4歳の小児の開心術で同様の経験をした.無輸血での心臓手術を希望する親を説得して,母親の血液に限り輸血の許可を得たため,Lilleheiらの"controlled cross circulation"(交差循環)をこの母子間で行い,心室中隔欠損孔パッチ閉鎖,僧帽弁再建術に成功した.この交差循環は母親の総大腿動脈よりroller pumpで脱血して患児の上行大動脈へ送血し,患児の上下大静脈より落差脱血にてreservoirに導いた血液を別のroller pumpで母親の大腿静脈へ送血して行った.交差循環時間は212分であった.術後は母子とも発熱を認めたほかはきわめて順調に経過し,術後2.2年経過した現在もきわめて経過順調である.