著者
大田 伊久雄
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.3-14, 2015 (Released:2017-08-28)

我が国の国有林は明治期の創設以来,明確な存在意義が定義されないまま管理経営されてきた。第2次世界大戦までは木材供給と国家財政への寄与が重要な役割であったが,高度経済成長期以降は3大使命(公益的機能の発揮・木材生産・地元貢献)が喧伝されるようになる。経営改善期を経て抜本的改革に至り公益的機能重視を打ち出すが,実態としては独立採算制度破綻の影響により,森林に人も金もかけない消極的で自然任せの環境重視である。海外の事例でも,国有林の存在意義は環境・経済・社会面での国民生活への貢献といえるが,先進諸国においては概して健全な森林管理が行われている。一般会計化された我が国の国有林は,今こそ「国民の森林」としての存在意義を明確化し,人員の拡充と民国連携を進め,国民と地域のニーズに応じた多様性のある森林管理を実現していく好機にある。
著者
柳幸 広登 餅田 治之
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.117-122, 1998-03-20
被引用文献数
1

ニュージーランドの人工造林の展開は,(1)「第1次造林ブーム期」(1925-35年),(2)低調期(1930年代後半〜50年代前半),(3)「第2次造林ブーム期」(1960年代後半〜80年代前半),(4)急落期(1985〜1991年),(5)「第3次造林ブーム期」(1992年以降)の5つに時期区分できる。このうち「第3次造林ブーム期」の大きな特徴は,造林会社による「パートナーシップ造林」が主要な造林方法となっていることである。パートナーシップ造林が急増した背景には,(1)羊放牧業の不振,(2)1991年の税制改正によって造林投資の7割前後が所得税の控除対象になったこと,(3)好調な素材・製品輸出に支えられて立木価格が上昇したこと,(4)1990年代前半の社会保障制度の改革により退職後の備えを自力で準備する必要ができたこと,(5)パートナーシップ造林への投資が比較的少額で行えるため,従来林業に無関係であったさまざまな人々を引きつけていること,などが指摘できる。
著者
箕輪 光博
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.110-115, 1997-03-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
12

本稿は,10年ほど前に劇的な民営化に踏み切ったニュージーランド(以下,略してNZ)の国有林を取り上げ,その背景,内容,現状,評価を素描すると共に,あわせてわが国の国有林の民営化について言及したものである。NZ林業・林産業の特徴は,ラジアータパイン松主体のモノカルチャー型,平地林型,輸出志向型の育成的林業,川上から川下までの一貫した技術主導型の経営,短伐期指向(25〜30年伐期)などにまとめられる。国有林の民営化は,そのようなNZ林業の特質,官業としての国有林経営の非効率さなどに起因しているが,より根本的にはロジャーノミックスと呼ばれる経済変革,成人式と言われる社会変革の一環として断行されたものである。民営化は,林業公社,保全局,林業省への3部門分割(1987年)と国有林のアセットセール(伐採権の売却: 1990年以降)の2段階にわけて行われた。1996年までに,約45万haの国有林・伐採権が売却され政府の林木資産保有割合は10%以下に低下した。生産面と保全面を分離し,かつ人工林経営の徹底した民営化に踏み切った今回のNZの変革は,10年を経た今日賛否両論に晒されてる。我が国の国有林のあり方を考える際には,NZ民営化の功罪とその特殊性,及び我が国の国有林の歴史と使命を十分に考慮する必要があろう。
著者
小菅 良豪 米 康充 伊藤 勝久
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.11-22, 2016 (Released:2017-10-10)
参考文献数
28
被引用文献数
4

森林経営計画制度は,面的まとまりによる効率的・持続的な森林経営と木材供給の実現を掲げ2012年に施行された。しかし森林経営計画は,作成要件のハードルが高く,計画の進捗率は思うように伸びなかった。そこで国は,2014年に森林経営計画制度を改正し,作成要件を緩和した区域計画を新設した。区域計画の狙いは,条件緩和により属地計画の進捗を高め集約化の基盤を形成することであった。本稿では,区域計画の新設による森林経営計画の策定への影響について,意欲ある素材生産業者の計画参入の意義と可能性を3業者の事例を基に明らかにした。森林経営計画の素材生産業者の参入要件として,①計画策定経験者の雇用などによる事務能力が高い,②地元から評価と信頼を得ている,③森林組合との棲み分けが可能であるという3要件を満たすことが挙げられ,参入業者はそれらを満たす者に限定されていることがわかった。また素材生産業者の森林経営計画参入の意義は,森林組合が計画を作成できない空白地を埋める役割など,地域によって異なることが明らかになった。
著者
内山 寛 杉浦 孝蔵
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.27-32, 1998-03-20 (Released:2017-08-28)
参考文献数
15

わが国におけるシイタケは特用林産物のなかでも,生産量,生産額ともに多く,山村地域振興において重要な役割を果たしている。しかし,近年中小規模原木シイタケ生産者の経営環境は厳しく,優良原木の不足,生産コストの上昇など,厳しさを増している。このような状況の中で,首都圏のシイタケ産地として市場から期待されている福島県におけるシイタケ生産者の動向について調査を行い,既報の神奈川県の生産状況を踏まえて検討したのでその結果を報告する。福島県におけるシイタケ生産者の50.8%が,現在の経営状況を「普通」以上と認識する一方,シイタケ生産の継続については,シイタケの生産を「やめる」が神奈川県のシイタケ生産者より少なく,山村の地域経済におけるシイタケ生産の重要性が示された。また,今後のシイタケ産業の伸びについては,「伸びない」と認識する生産者が68.0%で神奈川県のシイタケ生産者と同様に厳しい認識を持っていた。今後,福島県においても他地域の生産者の状況を踏まえてシイタケ生産に関する問題の解決を図り,各産地間の協力体制を確立し,シイタケ産業の発展を図って行くことが重要であると考える。
著者
田中 求
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.13-24, 2014

コウゾやミツマタなどの国産和紙原料が激減する中で,それを用いた本来の「和紙」そのものも消えつつある。本稿では和紙原料の主要産地であった山村の動態から,和紙原料生産の現状と問題点を明らかにする。対象地域は高知県いの町柳野地区である。柳野地区の和紙原料生産は,生業と作業形態,買い取り価格が変化する中で衰退していた。ミツマタは焼畑で栽培されてきたが,植林によりほぼ消滅した。コウゾも家屋の周囲などでのみ栽培されているに過ぎない。雇用労働への収入源の転換で栽培者が減る中で,作業は労働交換ではなく雇用労働に変わり,コウゾの収入源としての魅力は薄れていった。さらには,台風による被害で輸入コウゾが増加する一方,高齢化で十分な管理が行えないコウゾが増え,買い取り価格は下がり,イノシシのコウゾ食害は農家の栽培意欲を削いだ。そして,土佐コウゾが売りさばけずに余る,という状況に至っていたのである。柳野での和紙原料生産は消滅の危機にあるといえよう。
著者
高橋 卓也
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.35-44, 2009-03-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
38
被引用文献数
2

カナダで見られる分権・参加型の政策形成・実施を日本の間伐対策に適用する意義を検討することを目的とし,カナダの森林・林業政策を概観し,日本の間伐対策と対比を行う。カナダの森林・林業の持続可能性について政府側の見解と環境保護団体側の見解を対置し考察した。統計データへの信頼性,原生林についての価値観および法正林への移行についての意識の差が見方の違いを生み出していることが確認できた。カナダの2003〜2008年国家森林戦略について概観し,分権・参加型の政策形成・実施の実態を明らかにした。日本の森林の持続可能性へ向けた政策の一例として間伐対策を取り上げ,その特徴である集権的政策形成・実施などの特徴について論じた。カナダと日本の比較対照から,日本における間伐対策について分権・参加型の政策形成・実施を行う意義の検討を行った。
著者
濱本 貴章
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.65-75, 2004-03-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
37

本研究は,木材搬出技術の技術的発展を理論的に検討した上で,単軌木馬運材の事例を通して,搬出技術近代化において量的近代化(技術的に在来技術と連続している近代化)が行われる意義とそれが果たした役割を明らかにすることを目的としている。事例とした亀山営林署管内深山国有林の単軌木馬は,木馬の危険性を除去し,作業効率を向上させるために1937年に導入された。深山国有林の傾斜は木馬に適し,さらに大径材が賦存し,かつ地元労働力を雇用しなければならなかった。そのような条件下で,技術者は木馬の量的発展を選択した。戦後,単軌木馬運材は再び注目され,深山国有林でも新技術が考案された。しかし,この頃には機械集材が現実化したことによって,単軌木馬は次善策と考えられるようになり,その積極的意義は失われた。深山国有林の単軌木馬は深山国有林の事業終了と共に廃止され,在来技術と質的近代化(在来技術と技術的に連続しない近代化)との間で,いわばつなぎ役のような役割を果たしたことになる。
著者
大田 伊久雄
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.28-40, 2008-07-01
参考文献数
9
被引用文献数
1

ポーランドの国有林は,我が国とほぼ同じ約700万haの面積を持つ,ヨーロッパで最大規模の国有林である。これを管理する組織LP(国営企業「国有林」)は,政府からは独立した非営利の経営体であり,森林法に定められた目的に従って国有林の管理を任されている。LPにおける国有林管理は,徹底した現場重視の姿勢に特徴があるが,硬直したピラミッド型組織にも見える職階体制とのギャップが興味深い。本論文では,中央総局・地方局・森林区という3つのレベルにおける国有林管理業務の実態調査を通して,ポーランド国有林における森林管理の全体像の把握を試みた。さらに,LPによる国有林管理の優れた点および成功要因を探り,加えて現在直面する問題点および組織に内在する課題について考察した。近い将来に解決すべき課題を残しつつも,LPは安定した組織体制のもとで国有林を管理経営している,と結論づけることができる。
著者
デュンカ ノエル
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
no.129, pp.87-92, 1996-03
参考文献数
3

この研究は,フィリピンの総合社会林業計画(ISFP)における計画から実行にいたる組織の担当者の役割,農民参加の内実を明らかにすることを目的として,「プロジェクト担当者の農民参加に対する役割」に関するアンケート調査を通じて分析を行った。担当者はプロジェクトへの農民参加の促進を任されているが,コミュニティーを活性化させる組織化の技術の欠如が資源の無駄や損失につながり,農民参加プログラムにおける参加の仕組みが育つのを妨げているということが明らかにされた。一方では,担当者の多くは農民がプロジェクトの企画・運営に参加する能力があることも認めていることが分かった。また,参加型プログラムに従事している担当者は,短期間にプロジェクトの成果を生み出すことよりも,山間地コミュニティーの活性化にとって重要な参加者の組織化のプロセスの改善を図ることに力を注ぐべきである。さらに,ISFPは農民達を含む高地住民の生活を物質的に向上させるだけでなく,高地の土地管理を持続させる社会的組織を構築するという理念の下に行われなくてはならない。
著者
古川 泰
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.39-52, 2004-03-01 (Released:2017-08-28)
参考文献数
21

地球環境時代にはいり,地方自治体から環境を強く意識した林政(森林・林業施策)が打ち出されてきている。本稿では高知県で導入された森林環境税と高知県梼原町で展開されている環境型森林・林業振興策を事例に,これら施策の成立と展開過程で住民参加がどのように行われているかを検証した。県レベルでは住民の参加はアンケート等の行政側の意見聴取という形で行われ新税推進の力となったこと,税制度設計,新税の使途についても影響力があったと言えること。梼原町の事例では住民自治組織を基礎とした意見聴取過程や施策実施における住民の直接的参加が追求され,効果が上がっていることが確認された。今後,地方自治体林政において環境面がより重視される方向に進んでゆく中で,行政もふくめた林業関係者は住民,市民をともに考えるパートナーとして受け入れることが必要である。
著者
堀 靖人 石崎 涼子 久保山 裕史 平野 均一郎
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.45-54, 2013-03
参考文献数
18
被引用文献数
1

ドイツの森林組合は日本の森林組合と同じように,小生産者の経済的不利益を協同によって克服することを目的とする。これに対してイザール・レッヒ森林組合は,中規模の森林所有者を組合員として新たに設立された新しいタイプの森林組合である。本稿は,当森林組合の聞き取り調査を元に,森林組合の活動内容と設立経緯を明らかにし,当森林組合のドイツ林業における意義を考察することを目的とする。当森林組合は1992年に設立された。組合員数は現在43名で,組合員の平均所有面積規模は650haで規模の大きな所有者からなる。当森林組合の最も重要な業務は,木材販売である。当森林組合の組合員数,木材販売量ともに拡大している。当森林組合は,中規模の森林所有者の森林組合であるという特徴の他,バイエルン州全域を対象とした広域の森林組合であるという特徴を持つ。当森林組合の意義として,(1)風害による木材価格の低迷,経営管理費用の増大による中規模森林経営の悪化への処方箋,(2)製材業の生産集中化に対する供給側としての対応,(3)中規模専用の森林組合として既存の森林組合との併存と機能分化があげられる。
著者
薛 佳 藤掛 一郎 大地 俊介
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.108-117, 2015-03

戦後造林資源が成熟期を迎え,素材生産の拡大が課題となっている。民有林での主伐は,主に所有者と事業体が相対交渉を経て立木売買をすることによって実施されている。本研究は,主伐が発生するプロセスとしての立木売買相対交渉に注目し,相対交渉の実態を明らかにすべく,主伐が活発化している宮崎県において,森林組合を含む41林業事業体に聞き取り調査を行った。調査結果の分析から次の諸点が明らかとなった。立木売買の相対交渉は,何らかの既存の人的繋がりを辿って行われていることが多かった。森林組合と民間事業体では,所有者との関係性の違いから,相対交渉の始まり方が異なっていた。また,土地・立木の所在や境界・権利関係の確認,搬出路確保の問題などで資源が成熟していても伐採不可能な場合があることが分かった。今後,このような伐採不可能資源の存在が主伐の制約要因として重要性を増す可能性があると考えられた。
著者
山本 伸幸
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.55-62, 2013-03
参考文献数
43

今般の森林・林業再生プランの議論においても同様だが,経営受委託の遙か彼方にあるエル・ドラードとして,森林の信託はしばしば言及される。もちろん周知の通り,森林組合法9条は「組合員の所有する森林の経営を目的とする信託の引受け」を組合事業の1つに掲げており,僅かながら事例もある。また,2006年の信託法全面改正や金融関連企業の森林問題へのコミットメント増加などの要因もあって,森林信託の言葉を耳にする機会も最近多い。しかしながら,森林の信託性に関する考究は少なく,その森林経営・管理に対する意義などの実像は依然として不鮮明なままである。本小論では,これまでの森林の信託性に関する歴史と議論および最近の実例を踏まえ,予備的考察を行うことを課題とした。その結果,1)戦前期に構想された商事信託,2)1987年森林組合法改正時の分収林事業,森林レクリエーション事業普及の政策手法,3)施業集約化手法,4)公有林経営受託,の1つの構想と3つの事例を確認した。
著者
崔 麗華
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.59-64, 1997-10-01

中国は市場経済導入によって,商品の生産・流通構造も大幅変化した。本論においでは,生産と流通が著しく変貌するシイタケを取り上げ,中国最大の産地漸江省慶元県の生産・流通構造の分析を通じて,生産の小規模性,下級品の過剰生産,流通価格の仲買人支配状態及び卸売市場システムの未整備など生産・流通上の諸問題を明らかにするとともに,今後の方向として中国においても,販売ルートの多様化,仲買人にかわる近代的な産地出荷組織の形成などの新たな流通機能を作り出す必要があることを解明した。
著者
高橋 卓也
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.35-44, 2009-03-01
被引用文献数
1

カナダで見られる分権・参加型の政策形成・実施を日本の間伐対策に適用する意義を検討することを目的とし,カナダの森林・林業政策を概観し,日本の間伐対策と対比を行う。カナダの森林・林業の持続可能性について政府側の見解と環境保護団体側の見解を対置し考察した。統計データへの信頼性,原生林についての価値観および法正林への移行についての意識の差が見方の違いを生み出していることが確認できた。カナダの2003〜2008年国家森林戦略について概観し,分権・参加型の政策形成・実施の実態を明らかにした。日本の森林の持続可能性へ向けた政策の一例として間伐対策を取り上げ,その特徴である集権的政策形成・実施などの特徴について論じた。カナダと日本の比較対照から,日本における間伐対策について分権・参加型の政策形成・実施を行う意義の検討を行った。
著者
石崎 涼子 古井戸 宏通
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.25-32, 2001-12-15
被引用文献数
1

近年,地方自治体は,地域ニーズに応じた森林管理施策を展開しうる主体として注目されている。地方自治体による施策の性格と独自性を明らかにするためには,これを強く制約する財政基盤を検討する必要がある。そこで本報告では,1980年代後半以降の財政統計データを用いて,都道府県林業費の特徴と動向およびその地域性を分析した。1980年代後半以降,地方債や交付税措置などの活用により都道府県が公共投資の拡大の担い手となり,林業費の構造は変動した。そのなかで地方単独事業が拡大した点,その増大時期や事業別構成には地域性がみられる点は,都道府県の森林管理施策の独自性に関連して注目される。また,こうした構造変化の結果,財政危機がもたらされ,施策のあり方に見直しを迫っている点にも注意する必要がある。
著者
石崎 涼子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.17-26, 2002-11-01
被引用文献数
2

現在,地方自治体には施策の策定主体としての責務が与えられ,「自治体」としての林政,住民自治を内実化させる施策形成のあり方が問われている。本稿では,近年独自性を強める自治体施策の政治・行財政過程の分析を通じて,自治体林政における施策形成の実態を明らかにした。事例として,大規模かつ積極的に独自の施策を展開してきた神奈川県において1980年代以降,議論を集めた公的管理施策とやまなみ林道整備施策をとりあげた。その結果,両施策の形成過程は,ともに林務施策が都市部,とくに自然保護の視点へと開かれていく過程であり,知事選後の総合計画策定を契機として住民からの一定の支持を受けながら,またその時期の財政状況を反映して,施策が分化・拡大した後,縮小・統合へと転じてきた点,多様な利害の調整にあたっては,利害関係者の代表者による協議・議論と自治体による調査研究とが密接不可分に関わってきた点,国との財政関係による制約の影響は比較的小さかった点,都市部と農村部の関係が質的にも施策形成過程を規定してきた点が明らかとなった。