著者
合谷木 徹
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.392-403, 2013 (Released:2013-07-13)
参考文献数
19

デクスメデトミジンはin vitro,in vivoの研究で神経保護効果を有しているという多数の報告がある.動物実験では,前脳虚血,局所脳虚血,および不完全前脳虚血において脳保護効果を有し,これにはα2Aサブタイプを介して,Bcl-2の増加,Baxの低下,カスパーゼ3の減少などの抗アポトーシス効果が関与している.われわれは,デクスメデトミジンと局所麻酔薬であるリドカインの併用,およびデクスメデトミジンと低体温の併用による脳保護効果を報告してきた.近年,生後間もないラットを吸入麻酔薬に暴露させると,幼若脳ではアポトーシスが進行してしまうという報告があり,デクスメデトミジンはこの幼若脳に対しての保護効果を有しているとのin vitro,in vivoの研究報告がある.しかし,人においてはデクスメデトミジンの神経保護効果はいまだ実証されてはいない.鎮静効果を有するデクスメデトミジンは臨床でも使用されているため,臨床使用により動物実験で得られた神経保護効果を期待できると推測され,今後の臨床でのデクスメデトミジンの有用性が増加すると考えられる.
著者
尾前 毅
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.461-467, 2012 (Released:2012-07-05)
参考文献数
29

期外収縮(心房性期外収縮・心室性期外収縮)は,周術期に最も発症する不整脈の一つであるが,大部分の症例において緊急的な治療は必要ない.一方,周術期に観察される心房性期外収縮は周術期心房細動の発症と深い関連がある.この周術期心房細動を発症すると生命予後は悪化するとされるため注意を要する.心室性期外収縮は基礎疾患がない症例では経過は良好であるが,器質的疾患,特に心筋虚血に伴う症例では生命予後が悪化する.このため心室性期外収縮発症の際には基礎疾患の有無を確認することが重要である.周術期に期外収縮に遭遇した場合にはこれらのことを念頭に管理することが望ましい.
著者
中尾 慎一 冬田 昌樹 塩川 泰啓
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.001-010, 2014 (Released:2014-02-26)
参考文献数
14

全身麻酔中には,循環変動や電解質異常など明らかな原因がない場合でも,予期せぬ致死的不整脈に遭遇することがある.心室細動や高度の房室ブロック等に対する対処は同じであるが,致死的不整脈発現の予防や再度致死的不整脈を起こさないための管理は個々の疾患によって異なる場合がある.ここでは,われわれが経験したブルガダ症候群,二次性QT延長症候群と冠動脈攣縮による致死的不整脈を中心に,それらの疾患の特徴および致死的不整脈の予防と対処について概説したい.
著者
小西 敏郎
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 = The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.418-426, 2009-07-15

いま全国の多くの地域基幹病院やセンター病院などの急性期病院には手術患者が集中しつつあり, 麻酔体制や手術室の整備が必要とされている. しかし手術室数が限られたまま, 増員することの不可能な麻酔科や外科の医師, 手術室看護師の自己犠牲的な粉骨砕身の努力で, ようやく急増する手術をこなしているのが実情である. 医療安全の面からは, 手術室での安全性の確保はきわめて重要である. ミスが少なく安全に効率よく手術室を運営するには, 多職種の医療者が協力してチーム医療を推進することが重要であるが, そのためにも手術室においては麻酔科医が強力なリーダーシップを発揮することが必要であると外科医として実感している. そこでNTT東日本関東病院における手術室の運営の実際, 電子カルテやパスの普及による麻酔科医と外科医および手術室看護師とのチーム医療の展開の現況を紹介し, 安全で効率的な手術室運営を行うにあたっての麻酔科医の役割の重要性について, 外科医の立場から述べた.
著者
大浦 由香子 田中 基 清水 昌宏 武井 秀樹 照井 克生 小山 薫
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.90-94, 2014
被引用文献数
1

27歳,一絨毛膜二羊膜性双胎の初産婦.妊娠31週より切迫早産および妊娠高血圧腎症のため当院に入院中であった.妊娠32週に肺水腫による呼吸不全および低酸素血症が出現し,緊急帝王切開術が予定された.手術台に移動させた直後に心肺停止となり,直ちに心肺蘇生を開始するとともに産科医に帝王切開を開始するよう促した.心停止4分後に手術開始し,同時に心拍再開を確認,1分後に2児とも娩出した.児娩出後の母体呼吸循環状態は安定し,母・2児とも後遺症なく退院した.妊婦の心肺蘇生法とともに「死戦期帝王切開術(perimortem cesarean section:PCS)」の知識の普及およびトレーニングが望まれる.
著者
安心院 純子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.919-923, 2014 (Released:2014-12-27)
参考文献数
5

近年,女性医師数の増加により,国や各施設では「仕事と家事・育児の両立」「管理者,指導的役割としての将来」を勘案した制度改革や環境改善の検討がなされている.病院内の併設保育施設や育児のための短時間勤務制度の導入が進み,女性医師が働きやすい環境になりつつある.今後,われわれ女性医師はワークライフバランスを考慮した新しい働き方を視野に入れ,一人一人がキャリアデザインを明確にできるよう,支援環境の整備をより広めていく必要がある.その一方で女性医師はこのような環境を当然のものと思わず,周囲の理解や援助を得ているからこそ今の自分があるということを自覚し,努力する必要がある.
著者
池崎 弘之 川村 豪嗣
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.067-073, 2011 (Released:2011-03-11)
参考文献数
8

スワンガンツカテーテル(PAC)は手術室,ICUで使用される侵襲モニターの代表的なものである.しかしPACの患者予後改善に対する明確なエビデンスは得られていない.PACの一番の目的は連続的に患者の血行動態を監視することであり,またその変化に対しわれわれはいち早く対応することが可能である.経食道心エコー(TEE)は比較的低侵襲に血行動態測定が可能であり,また血行動態の変化の原因も教えてくれる優れた測定器であるが,ICUなどでは連続モニターとはならない.PAC使用者がPACの扱い,データ解釈に精通していることを前提とするなら,PACで患者をモニターしTEEで原因を探索することは患者予後の向上に役立つものと考える.
著者
嶋田 文彦 野坂 修一
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.7, pp.993-999, 2008-11-14 (Released:2008-12-13)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

今回われわれは麻酔への同意における麻酔関連説明文書の重要性に着目し, 日独3病院の比較を試みた. 文書の構成形式に大差はなかった. しかし麻酔関連死亡率の表示の有無や患者との特別合意事項表記の有無といった点に, 差異がみられた. これらは, 彼我の医療をめぐる状況の違いによるとも考えられる. だが近年のわが国の医事紛争判例基準は, 一般的合理的医療水準から個別的具体的事象へと向かっており, 特別合意事項記載はこの点を重視しているため, 参考とすべきと考えられた.
著者
山下 和範 福崎 誠 寺尾 嘉彰
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.693-695, 2005 (Released:2005-11-29)
参考文献数
2
被引用文献数
1

症例は47歳, 男性. 頸椎神経根性疼痛の治療目的で星状神経節ブロック (stellate ganglion block ; SGB) を行った. 患者にSGBに関する説明を行い承諾を得た後, 血液凝固能検査で異常のないことを確認した. SGB施行1時間後までは問題なく経過し帰宅したが, その後に呼吸困難を訴えたため緊急入院となった. 頸部血腫の診断のもと, 緊急止血・血腫除去術が施行された. その後の経過は良好であったが, SGBによる一連の経過に対してクレームが発生した. 1年半にわたる話し合いの末, 示談となった.
著者
加藤 隆文 米良 仁志 前田 岳 細山田 明義
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.217-222, 2002-07-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

Electroconvulsive Therapy(以下ECT)においてプロポフォールまたはチオペンタールにて麻酔し,投与量の増減によってそれぞれを2群に分け,ECTによる痙攣時間と循環動態の変動を検討した.両薬剤ともに投与量が増すと循環動態は安定したが,投与量が少ないとチオペンタール群で変動が大きかった.プロポフォールは投与量を増すと痙攣時間が有意に短くなったが,チオペンタールは投与の増量による痙攣時間の短縮幅が小さかった.痙攣時間の観点からはプロポフォールの投与量は1.4mg・kg-1までにとどめるべきである.プロポフォールは,循環制御のため投与量をそれ以上増すと肉眼的観察をする限りECTの痙攣時間が短縮してしまう点でECTの麻酔として望ましくない.
著者
木内 淳子 江原 一雅 佐久間 正和
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.753-757, 2019-11-15 (Released:2019-12-17)
参考文献数
9
被引用文献数
1

民事裁判と異なり,医療における刑事裁判の全貌は公表されていない.しかし公刊資料で収集すると業務上過失に関する医療刑事裁判では,1950年から2017年末までの被告人数は444名で,そのうち127名が公判請求され23名が無罪となった.一般的な刑事裁判では検察庁に送付された中で,8.3%が公判請求され,99.8%が有罪となっている.最近医療水準が問題となった事件では無罪判決が続いた.しかし年代別の無罪の比率には大きな変化は見られなかった.2015年以降医療機関からの警察届出件数は減少したが,司法解剖に至った事例が58件あり,刑事裁判になる可能性は依然として残る.事故発生後の医療機関としての対応についても検討を行った.
著者
中村 達雄
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.507-512, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
14

人工神経管(PGA-C tube)を用いた再生医学の臨床応用が2002年より始まっている.この再生医療を支えるのがin situ Tissue Engineering(生体内再生)の概念である.in situ Tissue Engineeringは欠損した組織を生体内のその部位(in situ)で再生させる手法で世界に先駆けて本邦で提唱された.末梢神経は再生能力を有するが,人工神経PGA-C tubeは神経再生の「場」をPGAチューブの内腔に有する医療器具である.これまでに再建した末梢神経は合計300本を超え,また神経因性疼痛に対しても効果があることが判明し,新たな治療法として期待が高まっている.
著者
渡辺 泰彦 公文 啓二 矢作 直樹 春名 優樹 林 英明 松井 淳〓
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.181-187, 1997-05-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
11

成人心臓血管術後の患者22名を対象にNO吸入療法を施行した.適応疾患は低酸素血症型呼吸不全,肺高血圧症,右心不全であった.低酸素血症型呼吸不全の患者において10ppm以下の濃度で酸素化能は著明に改善した.肺高血圧症例では有意の肺動脈圧の低下がみられたが,反応の程度は一様でなく,肺動脈組織の器質的変化の程度によると推察された.右心不全症例は左心補助心臓が装着され,左心拍出量に追従できない右心に対し右室の後負荷軽減目的に,また周術期に右室梗塞症を起こした症例に対しNO吸入療法を行なったが,混合静脈血酸素飽和度は有意に上昇し,右心房圧および肺動脈圧は有意に低下した.以上より心臓血管術後の上記病態に対するNO吸入療法は有用と思われる.
著者
鈴木 孝浩
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.7, pp.631-638, 2007 (Released:2007-12-07)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

スガマデクスは臨床麻酔において“革新的”な薬物となることは間違いない. ロクロニウム分子との間に1: 1のホスト-ゲスト複合体を形成し, 筋弛緩に拮抗するという点で本来の特異的拮抗薬といえる. その拮抗作用は迅速かつ確実で, ロクロニウム投与直後の深部遮断時にも1~2分で完全拮抗が可能である. 副作用がないため, 投与禁忌となる症例もない. 本薬の臨床使用が可能になれば, 挿管困難時の対処が容易になるとともに, 術後筋弛緩遷延に基づく呼吸器合併症の発生率は減少するはずである. 近い将来, ロクロニウムとスガマデクスのコンビネーションは, 患者の安全に確実に貢献するであろう.
著者
中川 雅史
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.780-787, 2009-11-13 (Released:2009-12-17)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

ASAでは, 1992年にDifficult Airway Management (以下, DAM) にかかわるガイドラインを発表し, 2003年に改定した. このガイドラインの大部分は, 麻酔後挿管をする場合の対応に言及している. 英国Difficult Airway Society (以下, DAS) のガイドラインも同様である. 通常の喉頭鏡で挿管できなかった場合の標準的代替挿管法は, ガムエラスティックブジーを用いた挿管で, それも困難な場合, ファーストラックラリンジアルマスクを用いた挿管である. この2種類の代替挿管法を身につけ, 麻酔後挿管困難に適切に対応することがDAMスタンダードではないかと考える.
著者
天谷 文昌
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.39-43, 2020-01-15 (Released:2020-02-19)
参考文献数
11

手術はがんに対する有効な治療法の一つであるが,根治的手術であっても再発のリスクはなくなっていない.周術期の免疫機能は手術侵襲によるストレスや疼痛,術中術後に使用する薬剤の影響を受け,術後の免疫機能低下はがん再発のリスクを上昇させる.区域麻酔はオピオイド使用量を減少させ,良質な疼痛コントロールを提供するとともに局所麻酔薬の抗腫瘍効果などによりがん再発のリスクを低下させるのではないかといわれている.一部の疫学調査はその有効性を示しているが,より確実なエビデンスが求められる状況である.
著者
菊池 幸恵 樋口 比登実 増田 豊 橋本 誠 岡本 健一郎 八代 亮 細山田 明義
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.19, no.10, pp.609-612, 1999-12-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
10

要旨 レーベル遺伝性視神経症(以下Leber病)の診断にて眼科的治療を受けるも回復せず,星状神経節ブロック(以下SGB)を施行し,両眼視力回復が認められた症例を経験した.症例は20歳男性.当科初診時視力(以下すべて矯正視力)は右眼0.07,左眼0.02,視野上大きな中心暗点を認めた.急性期の右眼に対し,1日2回のSGBによる治療を開始し,治療開始7ヵ月後(左右SGB合計約200回),視力右0.6,左0.2,視野上も中心暗点が縮小し,中心視力も出現,週1回の外来通院となっている.眼疾患に対するSGBの作用機序は未知の部分も多いが,副作用なく長期にわたって治療可能なSGBは,治療法の一つとして選択されうると考えられた
著者
三宅 京子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.101-104, 2020-01-15 (Released:2020-02-19)
参考文献数
2

弁護士は医師と敵対する立場にあると考えていませんか.弁護士を病院に常駐させることは,病院やスタッフにとって多くのメリットがあります.発展を続ける医療分野では,医療従事者は新たな知識や技術を身に着け実践することに労力を費やすため,その他の急激な社会変化や院内外の事情変化への対応を負担と感じる人も多い現状があると考えます.そのような現状に対して,病院内に病院運営や経営に関わる弁護士を常駐させ,院内外の調整役として活用すれば,コミュニケーションや交渉がスムーズに進みます.